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獣人達との会談を終え、1週間ぶりにマリスレイブに戻ってきた。もはや住み慣れたといってもいい常宿に向かい部屋へと入る。
「ずいぶんと遅かったわね。原因は貴方と一緒にいる、そこのロルフに関係しているのかしら」
「まぁな。俺がエルフの里にいる時にロルフが義勇軍と合流出来たと念話が入ってな、俺がエルフと協力関係にあることの証明の為に里まで来てもらったんだ。そこから色々と作戦を組み立てていったんだが、思ったより時間がかかってしまって戻るのが遅くなったんだ」
エリーが微妙に非難するような口ぶりでそう問いただしてくる。もしかしたら俺の帰りが遅くて心配してくれたのかもしれない。彼女との関係は短いが、少なくない信頼関係が築けているのが少し嬉しく感じる。
「あら、私があなたと一緒にいるのをロルフは見たんでしょ?それだけじゃダメだったの?」
「ダメ…ではなかったみたいだけど、その証人がつい先日まで人間に奴隷として捕まっていた僕では、頼りなかったみたいなんだ。自分の力の無さが恨めしいよ」
「確かにそれは少し頼りないかもしれないわね。それで、どういった作戦を立てたの?」
「とりあえず、あらゆる事態に対応できるようにマリスレイブの都市内部での情報収集を第一に考えたんだ。それで考え付いたのが、獣人達を都市内部に侵入させて情報収集を手伝ってもらうことになった」
「それが出来たら頼もしいけど…そんなにうまくいくのかしら。城壁の内部に入るための検査は厳重よ?ゼロが奴隷商のふりをして、牢にいれた獣人を連れて入るの?」
「そう頻繁に獣人を大勢連れた奴隷商なんて絶対に目立つ。どのタイミングで獣人を解放するのかも難しいだろうし。まさか都市の真ん中で一気に解放する、なんてわけにもいかないからな」
「じゃあ、1人1人あなたが連れて入るの?時間がいくらあっても足りないわよ?」
「獣人の中には、穴掘りが非常に得意な種族がいるらしいんだが、そいつに城壁の外と内から穴を掘ってもらい、そこから侵入してもらうことになった。上手いこと合流できるように掘り進めていくのは困難なことだが、俺の眷属の念話があればその問題は解決できるはずだってな」
この方法は、義勇軍の参謀が考えていたものだ。城壁の外からのみ掘り進めば城壁内部の様子は分からないので、下手な場所に掘り出てしまうかもしれない。そうなれば作戦以前の話になるので思いついたときはあきらめたらしいが、俺と話し合ったときにそれ思い出して提案してきた。
獣人の、何が得意で何が出来るのか、俺にはその知識があまりない。やはり皆で集まって、腹を割って正面から意見を出し合うと良い意見が出てくるものだと感心した。俺の眷属達も彼らのような頼もしい存在になって欲しいものだ。
「なるほどね。ちなみにどこに穴を掘り進めるのか、もう決めているの?」
「いや。これからロルフと一緒に探しに行こうと思っているけど、どこかいい場所が無いか知っているか?」
「私がロルフに姿を見せた、あの路地裏の奥じゃダメなの?」
「あそこか……確かに廃屋とか結構あったよな。廃屋から掘り進めば周りから見られる心配もないだろうし、城壁からも近く警備兵の多い城門からは遠い…いいかもしれないな。ロルフはどう思う?」
「うん。僕もあそこなら大丈夫だと思う。ただ、やっぱり一度下見に行った方がいいとは思うけど」
「同感だな。俺達はちょっと出てくるけど、エリーはどうするんだ?用事が無いなら俺達と一緒に下見にでも行くか?」
「私もちょうど出ようと思っていたところよ」
「ふーん。目的地は……って聞いてもいいのか?」
「ふふ、そこまで私に気を使う必要はないわよ。というか目的地は貴方たちと同じ場所ね」
「同じ場所……ああ、なるほど。つまりこの都市に侵入していた、他のエルフ達と情報交換をするつもりだったのか」
「そういうこと。定時連絡の日付が今日だったのよ。もしかしたら今後私抜きで直接情報交換する必要もあるかもしれないから、いずれは貴方たちを紹介しようと思っていたけど…ちょうどよかったわね」
聞けばこのエルフの潜入組はかなり前から潜入しているらしい。周りは人間ばかりで、気の休まることのない過酷な任務をやり続けている彼らは本当にすごいと思った。俺も彼らを見習って目的を達成するための努力を怠らないようしなければ。




