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自室に入り、一息入れると眷属のうちの一体に意識を集中する。そうすることでその眷属の意識を乗っ取ることもできるが、視界を共有する程度に抑えておく。この眷属は昨日オークの集落の討伐依頼のあった場所に向かわせた内の1体で、現場に一番乗りしたという情報が先ほどあったのだ。ただのオークであれば今の俺なら2・3体ならまとめて相手にすることができるが、流石に集落を討伐するほどの力はない。わざわざ危険を冒してまで俺が討伐する必要はない。冒険者たちに頑張ってもらい、その死体を吸収することで経験値の大量獲得が見込めるのだから。
現場にはすでに冒険者の姿は無く、オークたちの死体が死屍累々と横たわっていた。ただ、眷属の中では一番乗りだったこの個体も『スライム』という種の中では一番ではなかったらしく、すでに何体かのスライムが先に来ておりオークの死体を吸収しているのが見えた。
おのれ、俺の獲物を横取りするとは何て太い野郎だ。許せん。…いや、わかっている。彼らに俺に対する敵対心など微塵もなく、ただ本能のままに捕食しているだけだと。それでもこのまま奴らに吸収されるのは非常にもったいない。
俺はこの眷属スライムに意識を向け、本体である俺の魔力をパスを通して大量に送り込む。そうすることでただのスライム程度の力しかなかったこの眷属スライムも、ゴブリン程度なら軽くひねり殺すことができる程度には強化することができるのだ。
思えば今世で同族を殺すのは初めてか。あ、眷属を作るときにも何体か殺してしまっていたか。いや、あれは事故による過失だ。意図して殺すのは今回が初めてなのだ。
スライムに近づき、魔力をふんだんに込めて消化能力を飛躍的に高めた消化液を纏った触手を核に向けて突き刺し、破壊する。核を覆い守るスライム細胞も、この消化液の前にはあまり意味をなさない。尊い犠牲により判明したことの一つだ。抵抗しない相手を一方的に殺すことにあまり良い気がしないが、それでもやってやる。
すべての野良のスライムを倒し終え、ようやくご馳走タイムがやってきた。ざっと見ただけでも、50を下らないだけのオークの死体がある。やはりすべて右耳が切り落とされていた。眷属の取得した経験値の半分が俺に入ってくる仕様になっているので、俺にはオーク25体分の経験値が入ることになっている。不労所得万歳だ。…いや、そういえばさっき俺働いてたわ。残念。
このオークの集落は確か『オーク・リーダー』が治めていたらしいが、それを先に吸収することにする。強く、大量の経験値を保有する長はそれだけ時間の経過とともに失われる経験値の量も他のオークよりも多いからな。この眷属にそう伝えて、この場所に向かっている他の眷属にも急ぐように命じ意識を本体へと戻した。
今日仕入れた討伐依頼の情報の中に、オーガの情報があった。オーガとは人間よりも頭ニつ分大きく、額に大きな角生え、人間よりも遥かに高い腕力があり単騎でも金級冒険者相当の強さを持っている上位の魔物だ。この辺りでオーガの集落があるという情報はなく、よそから流れてきた個体かもしれないと教えてもらった。
この目撃情報をもたらした銀級冒険者達のパーティーと戦闘があり、それなりの傷を負わせることはできたがパーティーメンバーにも多数の負傷者が出てしまったため追撃することができず、取り逃がしてしまったということらしい。その後の調査によると、すでにいくつかの村が襲撃されてこれ以上の被害の拡大を防ぐため、すでに捜索隊を派遣しているがいまだ発見できていないということだ。
運が良ければすでにこと切れているオーガの死体を発見し、吸収できるかもしれない。この情報を得るとすぐに発見場所の近くにいた眷属にオーガの捜索を命じていた。捜索範囲は広いが、目ぼしい場所はすでに冒険者たちが捜索していると思うので、人間が捜索しないような場所を重点的に捜索するように命じておいた。
とりあえず、今できることはこのぐらいか。残りの時間は自身の鍛錬でもしよう。
部屋を出て、冒険者ギルド内にある練武場へと向かう。ここは冒険者なら誰でも利用できる施設となっており、幾人かの冒険者が剣や槍の訓練をしたり、パーティー内での連携の確認などを行っていた。
その中で、剣の訓練をしている人を注意深く観察する。基本的な型の鍛錬をしているのだろう。突きや払いなど同じ動きを確認しながら何度も何度も繰り返している。素人目ではあるが、その動きの一つ一つが洗練されているように感じられた。
よし、この人の真似でもしてみるか。見様見真似ではあったがその人と同じ型の動きをするように、意識しながら剣を振る。自身の思い描くような動きではなかったが、現段階ではこの程度だろう。こういうのは日々の積み重ねが大切なのだと思う。
明日も朝早い時間帯から町の外に出る予定だ。俺に注視している人がいるとは思わないが、睡眠時間が短すぎることを怪しまれないように鍛錬もそこそこで切り上げて自室に戻る。その後物音を立てないよう、自室でイメージトレーニングに勤しんだ。