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最初に会談をした場所に再び戻ってきた。義勇軍の面々がレオン達の様子を窺うが、特に変化が無さそうだったことに安堵している。手放しで俺のことを信じていないのは自覚しているが、俺の目の前でそういったことをされてしまうのは少々胸に来るものがあるな。
「それじゃ、早速だがマリスレイブに捕らわれた亜人達の開放作戦について話し合おうじゃないか。ちなみに義勇軍では、どういった方法で救い出すつもりだったんだ?」
「襲われた村の住民を他の村に護送するかたわら、現地にて戦力の補充を行います。その戦力をマリスレイブ近郊に配置し、夜間リーダーのように身軽な猫科の獣人達が城壁を超えて城門を開けてもらい、全軍で襲撃をかける予定でした」
レオンではない、狒々の獣人がそう答える。レオンが口を出す様子が無いことから、彼?がこの義勇軍の参謀の様な立ち位置なのだろう。
「なるほど。ちなみに義勇軍のメンバーは総勢何人ぐらいいるんだ?」
「非戦闘員を除けば500名ぐらいでしょうか。時間を頂ければ、もう少し集まると思いますが…」
「その数でマリスレイブを襲撃するのは少し…いや、かなり厳しい戦いになるだろうな。都市の衛兵だけならどうとでもなるが、都市の中で騒ぎを起こせば普段から魔物の相手をして戦いのエキスパートである、冒険者達も出張ってくるだろうからな」
「はい。ですからマリスレイブからほど近い人間の村を襲撃して、冒険者たちの目をそちらに向けさせることが出来ないかと考えてはいたのですが」
「なるほど、戦力の分断か。悪くない手だと思うが、あまりやり過ぎると他の都市から援軍を呼ばれかねないからな。そうなってしまえば厄介なことになるだろう。どの程度なら援軍を呼ばれないのか、こちらにはその線引きができないからな」
「ええ、ですからこちらとしても少々行き詰まってしまいまして。今は何とかマリスレイブ近郊で商人たちを襲撃して、亜人の奴隷を他の人間の都市に移送させないようにしてはいますが、所詮は嫌がらせの域を出ていません。人間達が本気で我々の排除に乗り出してしまえば、奴隷の開放どころではなくなってしまうでしょう」
正直なことを言えば、義勇軍はかなり追い詰められている。時間が無いこともそうだが、戦力が思ったよりも少ないのだ。義勇軍に力を貸さない遠い地にある獣人族の村の住民が悪いのかと言えば、そうも言い切れないだろう。
彼らには彼らの生活があり、そして彼らの住む村の近くにも当然人間の住まう町が存在する。その町の人間達は獣人に対して、悪い感情を持ってはいないのだ。
しかしその村の人間達が、自分たちの近くに住む獣人達がマリスレイブを襲撃したと知ったらどうなるだろうか。今度はその村に住む人間達が獣人と敵対することになってしまうかもしれない。
現状では、義勇軍が護送した村の住民たちを保護してくれただけでも、感謝しなければならない。それは分かっているが…現状が厳しいことには変わりない。少し暗い雰囲気になってしまったが、どうしても聞いておかなければならないことがある。
「ちなみに聞くが、レオン。お前、あの都市に拠点を構えているアダマンタイト級冒険者、ゼノン・パルドクスに勝てるか?」
「……奴の伝え聞く、噂通りの強さを持っていても易々と負けるという事は無い。だが、勝ち切れる自信もない……と言った感じだ」
良くて五分。悪ければ分が悪いといったところか。仮に素の実力が均衡していたとしても、奴は高性能な魔道具を身にまとっている。戦闘力は互角でも、いずれは押し込まれてしまうだろう。
ならばこちらもレオンに魔道具を装備させて戦闘力アップ!と、言いたいが、その魔道具を調達できない。エルフの里にそれなりに高性能な魔道具はあるが、当然使用者をエルフを目的として作られている。魔法を使用できないレオンの魔法攻撃力が上がっても意味は無いのだ。
ならば人間の都市で仕入れればよいのかと言えばそうでもない。資金的には比較的余裕はあるが、高性能な魔道具であればあるほど出所となる場所は限られてくる。
レオンの装備を見て生き残った冒険者いれば、その魔道具の購入者である俺と義勇軍の関係がバレる、ということは無いかもしれないが、出来るだけ身バレのリスクは負いたくない。
「出来るだけ、ゼノン・パルドクスとの戦闘は無い方向で作戦を練るかしかないか…」
「もちろん、こちらとしてもそれは望むところですが…そう上手くいくのでしょうか?」
「あることには、ある。初めは義勇軍の力を借りるつもりは無かったからな。ただ…金がかかる。いや、交渉が上手くいけば思ったほどかからないかもしれんが……」
色々と不確定要素が多いこの方法は、正直言うとあまりとりたくは無かった。しかしこの作戦が上手くいくと、マリスレイブに拠点を構える冒険者を更に何組か削ることも出来る。ハイリターンを望むなら、ハイリスクを負わなければならないのだ。




