117
「うむ、皆そろっておる様じゃな。初めまして、獣人の諸君。儂はこの里の長であるローゼリアという者じゃ。よろしく頼むの」
幼い少女が里の長を自称したことに、獣人達から少なくない驚愕の声が上がる。無理もないことだ。俺も相手の魔力を察知する能力が無ければ、彼女が里の長であることに気が付くことは無かっただろうからな。
「そ、そうか。俺はレオン、この義勇軍のリーダーを任されている。それにしても、ローゼリアという名前、どこかで聞いたような……!すまない、ローゼリア…さん。貴方にローゼンという名のエルフの知り合いはいないか?」
「ローゼン?うむ、儂の大伯父の名じゃな。もしかして、お主の知り合いか?」
「ああ…いや、はい。ローゼンさんは俺達獣人族の村で流行り病が蔓延していたときに、ふらっと現れて薬を調剤をしてくれて、助けられたことがある…んです。まさかあのローゼンさんの親族の方だったとは…」
どうやら共通の知り合いがいる様だ。しかもレオンの話しぶりからすると、獣人達からかなり信用されている人物のようだな。しかしそのローゼンと言う人、どうして獣人族の村と交流があったのか。気になったので、近くにいた警備隊のエルフに事情を聴くことにする。
「すまん、さっきから話に出てくるローゼンと言う人、どういった方なんだ?」
「ローゼン様はこの里の前の里長で、ローゼリア様の祖父のお兄様にあたるお方だ。ハイエルフに進化されていて、ローゼリア様に里長の地位を譲られた後は、かねてより好きだった放浪の旅に出ておられる」
「つまり放浪の旅先で、レオンのいた村にも立ち寄ったという事か。そこでローゼリアの話をしたことがあるから、レオンもローゼリア様の名をどこかで聞いたと思い出したというわけだな。それにしてもエルフという種族は排他的であるって聞いたことがあるが、その人は例外なのかな?」
「いや、別に排他的ではないと思うが…まぁ、我々は自然あふれる森の中などの方が居心地がいいからな。そういったことから、排他的と受け止められているのかもしれないな」
「なるほど…それにしても大丈夫なのか?そのローゼンと言う人。この辺りで最近人間による亜人狩りが流行っているだろ。いくらハイエルフとは言え多勢に無勢では、いずれ魔力がつきてしまい、そうなれば冒険者に捕まってしまうこともあるんじゃないのか?」
「いや、あの方は元々エルフの国の十二ある魔法師団の、その師団長を務められたほどの実力者だ。恐らくはローゼリア様よりも強さは上だと思われる。そんな方が冒険者ごときに後れを取るとは到底思えない。仮にうわさに聞くアダマンタイト級の冒険者が出張ってきたとしても、結果は変わらないだろうな」
「す、すごそうなお方だな。しかし惜しいな。そんなすごい人が今この状況でいてくれれば、どれほど心強いか」
「同感だ。だが長らくこの里の里長として、そしてエルフの国に尽くしてくれたお方だ。そんな方に何度も頼ってしまうというのも、なんとも情けない話だ。だから彼の手を煩わせること無く、我々だけの力で解決したいという気持ちもある」
俺が警備隊のエルフから情報収集していると、共通の知り合いの話題でもりあがっているのだろう、ローゼリア様と獣人族たちから楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「ふはは、実にあの方らしい話だ。だが……くくっ。いや、すまない。最近色々とあったのでな、こんなに笑えたのは本当に久しぶりになんだ。無作法を許して欲しい」
「うむ、構わんぞ。それにしても大伯父上の顔の広さには本当に驚かされる。まさかそんな所にも訪れておったとはな」
「ああ、だがそのおかげで俺達は今こうして生きる。あの人がいなければ、今の俺は間違いなくいないだろう。……さて、話を戻させてもらおうか。ローゼリアさん、そこにいるゼロと言う人物、本当に信用しても大丈夫なんだよな?」
「勿論じゃ、儂と契約の魔法を使ったんじゃからな。それに短い付き合いではあるが、人柄的にも悪くない。安心して手を組むが良い。儂らエルフも表に出ることは出来んが、物資などの面では積極的に協力させてもらうつもりじゃ」
「分かりました……ゼロ、正直に言えば今の段階では、俺はお前を完全には信用することは出来ない。だが、ローゼンさんの親戚であるローゼリアさんを信用することは出来る。そんな彼女が信用しているから、俺はお前と手を組んでいいと思う」
「信用しきることが出来ないのはお互い様だ、そういったものは今後の付き合いに期待しよう。ただ…そうだな。信用の証といえばいいか、せっかくだから俺の能力の一端を明かそうと思う。でも流石に全員に明かすというのも不安が残るから、レオンを含めた何人かにのみ明かそう。人選は任せるから、準備が出来たら別室に移動してくれ。俺は先に移動して待っているから」
そう言って、会談をした部屋から離れ別室へと移動する。
レオン達が来るまでの間、眷属から情報を集めつつ救出作戦の案を練りながら待っていると、ローゼリア様に連れられたレオンとロルフを含めて5人の獣人がやってきた。




