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 「あの、頭をあげてください。私はそんな立派な奴ではありません。死に際の経験からああいった行いをする人間達に対していい感情を持っていなかったことと、エルフの子を助けたのも、自分に利があると判断してのものです。決して善意から来るだけのものではありません」


 「それでも、ですよ。貴方に悪意があるのなら、その時の状況を利用してエリーに不利な条件を飲ませることもできたはずです。しかし貴方はそれをしなかった。そして、そのおかげであの子はすぐに回復することが出来たのですから」


 確かに少女に対する同情のような気持ちはあったし、あの時点ではまだこのようにエルフと協力関係を構築できるという根拠もなかった。そう考えるとあの時の俺は利害関係だけでなく、少なからず善意の心も持ち合わせていたのだろう。


 スライムに生まれ変わって以降、復讐の事ばかり考えてきたが人から感謝されるというのも悪くない気がした。まぁ自分に不利のない範囲でなら、人助けをするというのもいいかもしれない。情けは人の為ならずとも言うからな。もちろん助ける相手は、人間を除くのだが。


 それにしても、こうして正面から礼を言われるというのは少々こそばゆい。話題を変えるとするか。


 「そういえば、カールさんはどうしてこの練武場に?」


 「魔法の鍛錬ですよ。今でこそ診療所で医師として働いていますが、昔は里の警備隊員の一員として里の平和を守っていたんです。まぁ、衛生兵として、ですがね。そのころの名残で、たまにこうして戦闘訓練をしないとどうにも落ち着かなくて」


 「常在戦場というやつですか。確かに里の警備兵の多くが出払っている現状では、戦える人材は一人でも多い方が良いですからね。立派な心掛けだと思います」


 「とはいっても、里にはローゼリア様もいらっしゃいますからね。まぁ気休め程度にしかならないとは思いますが」


 「ローゼリア様が幾ら強いといっても、お一人では限度があるのでは?そう考えると、やはりカールさんはご立派だと思いますよ」


 「ふふっ、ありがとうございます。ここに来られたという事は、ゼロさんも訓練ですか?」


 「はい、人の都市だと魔法の訓練をする場所がなかなか確保できませんので。あの、もしよろしければ魔法の訓練を見てもらえませんか?独学…いえ、人の都市で魔法を勉強したマジックキャスターの知識はあるのですが、やはり練習風景を実際に見てもらって、直接アドバイスをもらった方が訓練がはかどるのではないかと思いまして」


 「私でよければもちろん構いませんよ。あ、流石に私が習得していない魔法だったら、アドバイスをするというのは難しいと思いますが」


 「今の私では、高度な魔法を習得する意思すらしませんよ。身の丈に合ったほどほどの魔法ですら手に余っていますので。とりあえず『ファイヤー・ボール』の練習に付き合ってもらえませんか?」


 「分かりました。それでは実際にあの的に向かって撃ってみてください」


 結論から言うと、カールさんとの魔法の訓練は非常に身になった。マジクが魔法学校で教わった知識と差があり、指摘された部分を意識して訓練するとそれまでにないほどの成長速度を見せ始めたのだ。


 やはりこと魔法に関してはエルフの持つ知識の方が、人間の持つ知識よりも一歩も二歩も先にあるという事か。


 おまけに教え方も非常にうまい。話を聞けばエリーもカールさんに一時期魔法を教わっていたらしい。あそこまで親しげにしていたのは、そういった理由があっての事か。それにしても思いがけず、彼女が姉弟子になってしまったな。次会ったときは一定の敬意をもって接するべきか……いや、無いな。変に偉ぶられても面倒だし、彼女には黙っておくことにしよう。




 「練習に付き合って頂き、ありがとうございます。色々とためになりました」


 「いえいえ、ゼロさんの習得速度が速くて、こちらも驚かされました」


 「お世辞でも、私よりもマジックキャスターとして遥か高みにいる貴方にそう言われると、うれしいですね。これからもカールさんの教えを無駄にしないよう、自分でも努力を積み重ねていきたいと思います」


 「それがいいでしょう、魔法というのは奥が深いですね。私はおろか、ローゼリア様ですらその奥底を覗くことすら出来ていません。日々、努力することが大切ですよ」


 「はい、肝に免じておきます。まぁ、肝は無いですけど。それでは私は獣人との会談がありますので、これで失礼させていただきます」


 「はい、頑張ってくださいね」


 つい先ほど、獣人達が里の近くまで来ていると眷属からの念話が入った。魔法の訓練で充実した日を送れた気になったが、今日という日の本番はむしろこれからだろう。


 とりあえず、里の警備隊を回してもらい獣人族たちを出迎えに行ってもらう。これは俺という存在がこの里のエルフからどれだけ信用をされているかの証明でもあるのだ。俺は一足先に会談の会場となる、里の集会場に移動しておくことにした。


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