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我が名は19番。サーチ・スライムの19番だ。
ランジェルド王国とクオリア公国の戦争によって混乱した国境付近で日々、経験値を得るため活動をしている。
つい最近まで私は自分のアイデンティティに悩んでいた。日々増え続けるサーチ・スライムの数に、自分がその他大勢として埋もれてしまうのではないかという不安を感じていたからだ。
しかしそれも、ボスから直々に国境付近の眷属達の代表の様な地位に任命され、その悩みから解放された俺は、激務である仕事も比較的楽しい気持ちでやることが出来るようになっていた。
そんな俺に最近また新しい悩みが出来てしまった。それはかつてボスによって組織された、進化した眷属のみからなる部隊、俺が所属するその部隊の一員であるポイズン・スライムが荒れていることに起因する。
『おいおい、19番さんよ。そんな、なまっちょろい仕事でいいのかよ?ボスから直々に責任ある立場に任命されてんだろ?そんな適当な仕事してたら、解任されちまうんじゃねーの?』
『いやいや、流石にこの場所でこれ以上の被害だすと、王国の連中も本格的に調査に乗り出すだろ。俺はリーダーだからな、もっと慎重にやらないと』
『あんたがそんなんだから、ダメなんだよ俺ならもっとギリギリのラインを見極めてだな…』
『ちょっとまて、ポイズン・スライム!19番をこの地の責任者に指名したのはボスの命令だ。それ以上の言はボスに対する暴言だと判断するぞ!』
『……ッチ!わーったよ』
『スマン、助かったよ、アシッド・スライム。リーダーとして、礼を言う』
『気にするな。ただな…ポイズン・スライムが荒れる気持ちも分からんでもない…お前も奴の気持ちを少しはくんでやってくれ』
『ああ、そうだな。それにリーダーである俺も、眷属の中で最初に2段階目の進化を果たすのは、この中からだと思っていた。だが…』
ヴェノム・スライムの誕生。しかも眷属の中では新参も新参。眷属になってから数日しかたっていない奴がその栄誉ある称号を手に入れてしまったのだ。しかもポイズン・スライムからすれば、自分の進化先でもある。
同じ部隊のメンバーであるアイアン・スライムとアシッド・スライムは、何とか理性を保っている。だがそれも、最初に2段階目の進化をした種が自分とは異なる種であったからに他ならない。
つまりこの2体も、一歩間違えれば自分がその立場であったことを自覚しているからこそ、余程の事でもなければ俺をかばうという事はしない。
『ポイズン・スライム…リーダーである俺が言うのも腹が立つかもしれんが、俺達は『ナンバーズ』という称号を手に入れたじゃないか。それだけでは満足できないか?』
『ナンバーズ』それはボスが新しく作った称号であり、その『ナンバーズ』には1~100の数字が与えられる。ちなみに数字の大きさは強さの序列とかではなく、単に生まれた順番だ。つまり早い段階で眷属として生まれたこのポイズン・スライムにも、当然数字が与えられている。
ちなみに『ナンバーズ』という称号を作ったのは、眷属の数が増えすぎて数を数えるのが面倒になったボスが、新しく生まれた眷属に番号を与えないための言い訳作りの為である。そのことを知っているのはリーダーである俺を含め少数しかいない。
『そりゃよ、確かに『ナンバーズ』というアイデンティティはある。だがこれは俺のほかにも100体にも上る眷属が持つ称号だ。俺は…俺だけがもつ、『眷属のポイズン・スライムの中で一番最初に2段階目の進化をした』という唯一無二の栄誉が欲しかったんだ。そのために日々辛い仕事にも取り組んでいたのに…それなのにぽっと出の奴なんかに……』
『そう…だよな。スマナイ、ポイズン・スライム。俺はリーダーなのに部隊のメンバーであるお前の気持ちを全然汲んでやれなかった…』
『うるせー、ボケ!大体テメーが一番ムカつくんだよ!』
『な、何?』
『事あるごとにリーダー、リーダー言って自慢して。鬱陶しいったらありゃしない』
『そ、そんな…お、お前ら、アシッド・スライムとアイアン・スライムはどうなんだ?』
『そのことに関してはポイズン・スライムに同意だな!』
『……上に同じく』
『そ、そんな…俺、リーダーなのに…』
その後、他の部隊のメンバーからこっぴどく説教され、俺は自分をリーダーだと必要以上に呼称するのをやめさせられた。仕方ない。メンバーの士気を保つのもリーダーとしての役割だ。
その後なんやかんやあり、そうこうしているうちに珍しくボスからの念話が入った。何でもドミネイト・スライムを優先的に育ててくれとのことだった。急ぎではないようだが、ボスの依頼には即座に答えておかなければ。リーダーを解任されたら、俺もまたアイデンティティに悩む日が来ることになるのだから。




