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『そういや、お前の種族名をまだ考えていなかったな。何かいい案はあるか?』
『いえ、特には。まぁキリン・スライムとかでいいんじゃないっすか?分かりやすいし』
『うーん、名前の決め方が適当過ぎる。とはいっても俺も他に案があるわけでもないからな。お前がそれでいいなら、それでいこう。それで、タイラント・ビートル(タイラント・センチピード)を吸収させた眷属はいつ頃ここに来るんだ?』
『ここに移動したことはあらかじめ伝えていたんで、多分そろそろ…っと、どうやら来たみたいっす。おーい、こっちこっち』
キリン・スライムの目線?の先に暗い紫色をした、見るからに毒々しいスライムがおり、こちらに駆け足ぐらいの速さで近づいてくる。
『いや、言われなくても分かりますよ、ここには我々しかいないので。っと、お待たせして申し訳ありません、ボス』
『いや、キリン・スライム…っと、それが今決めたこいつの種族名なんだが、こいつの能力の検証とかしていたから、全然待ったとかは無いから気にすんな。それよりもお前…それがポイズン・スライムの進化形態のヴェノム・スライムか。強そうだな』
『お褒めにあずかり光栄です。ですが自分はまだタイラント・ビートル(タイラント・センチピード)の死体を吸収しただけであり、自分の戦闘力がどの程度のものなのか残念ながら分からないのですよ』
結論から言うとタイラント・ビートル(タイラント・センチピード)を吸収させた個体は、麒麟とは違い特殊な進化はしなかった。しかし死してなおその体には膨大な魔力と経験値が残されており、死体を吸収した際に獲得した経験値の半分を俺に取られてなお、2段階の進化を果たしてしまったのだ。
ただ体感ではあるがこれは、俺がミミック・スライムからレプリカ・スライムに進化するまでに獲得した経験値よりは少なかった。やはり個体、または種族によって進化に必要となる経験値の量は変動するのということなのだろう。
それでもやはりタイラント・ビートル(タイラント・センチピード)も色々と規格外な生物であったことが嫌と言うほど伝わってくる。もし俺が生きたこいつと相対してしまったときは、余程の事でもなければ全力で逃げの一手を選ぶだろう。
そして無事進化したこのヴェノム・スライム。冒険者のランクで言うところの金級冒険者以上の力を持っていると言われているが、存在自体がミミック・スライムほどではないがかなり珍しく、冒険者ギルドの書庫にあまり情報が無かったので確実なことは分からないでいる。
というのも、ポイズン・スライムの段階で冒険者に狩られてしまい次の進化を迎えることが極稀であるらしいからだ。ポイズン・スライムが毒を発生させることが出来るとはいえ、身体能力はゴブリンよりは高いがオーク未満程度しかないからだ。これは進化した魔物基準からすれば、間違いなく低い部類だ。
俺の眷属のように人間ぐらいの知能を有していれば、強者から潜む、隠れる、逃げるという選択肢を取ることもできるが、それが出来ないのがスライムという底辺魔物の実態だ。冒険者から心底舐められるのも仕方のないことだろう。まぁ、そのおかげもあってか今のところ、俺の眷属に被害が出ていないわけではあるのだが。
『うーん、だったら里の外に出て適当な魔物を探してみるか。運が良ければゴブリンぐらいならすぐに見つかるだろ。そいつを生け捕りにして、ヴェノム・スライムの毒の性能について検証してくとするか』
『自分はそれで構いませんが、普通のゴブリンなど、ポイズン・スライムでも簡単に毒殺することが出来ます。少々役不足なような気もしますが…』
『かといって、他にいい魔物がいるか?そりゃ俺だって、実験するならもうちょい頑丈そうな奴がいいさ。オークやコボルトのようにな。でもあいつらはゴブリンほど生息数がいるわけじゃないからな、見つけるのに時間がかかるだろ。はぁ、こうなるんだったらここに来る前の、冒険者を何人か生け捕りにしておきゃ良かったぜ』
『冒険者ならエルフの警備隊がたまに、何人か生け捕りにしてくるっすよ。何でも情報を引き出すためといった理由で。ちなみに情報を引き出した後は里の情報を持ち帰られないためにその場で殺すらしいっす。俺らの眷属の何体かが死体の処理を任せれていたから間違いないっす』
『そうなのか?』
『ええ、その通りです。確か今も2・3人ほど牢に繋がれているそうですよ。尋問するために、今は食事を抜いて体力を低下させている途中らしいです』
『だったら、そいつらを実験の為にもらうことにするか。同化を使えば情報なんていくらでも入手できるからな。その冒険者が同じパーティだったら持つ情報に大差はないだろうから、1人を同化して情報を得れば、他の冒険者は要らないだろうから検証の為にもらうことぐらい簡単だろう。そんじゃ早速交渉に…っと、こういったとき誰に交渉すればいいんだ?』
『普通に考えれば、最も位の高い人物でしょうね。この里の場合だと、ローゼリア様になるのでは?』
『やっぱ、そうなるか。でもあの人確か今、事務仕事の最中だったよな。終わるまで時間をどうやって潰そうか…』
『魔法の訓練でもしていればいいんじゃないっすか?マジクから入手した魔法で、まだ使いこなすことが出来ていないのがいくつもあるんでしょ?』
『そうだな、それにここには標的となる的もある。魔法の訓練にはもってこいだしな』
『私たちも、能力の訓練をしましょうか。マリスレイブの都市周辺にはまだ我々の眷属の数は少ないですから。少しでも強くなっておかなければ、いざという時にボスの力になれませんよ』
『うっす。了解っす』
それからローゼリア様の仕事が終わったという孫眷属からの念話があるまで自己の鍛錬に時間を費やした。気持ち、魔法の習熟度合いが向上したかな?といった具合ではあったが、なかなかに充実した時間を過ごせたと思う。




