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路地裏を奥へ奥へと進んでいき、都市を覆う城壁に近い、かなり寂れた街角に行き着いた。ここはエリーが潜入組のエルフと情報交換を行った場所だったそうだ。人の気配がない、まさにうってつけの場所だ。
「周囲に人の気配は無し。エリー、外装を脱いでくれ」
「…ほら、これでいいんでしょ?」
目深に被っていたフードを外し、エルフ特有の美しい金色の髪と長い耳を晒す。
「なるほど、まさかあのエルフと協力関係にあったとはね。エルフの子供のことを聞いてきたからその可能性は考えたけど、他の奴隷商の回し者という可能性も十分にあったからね。これで君の…いや、君たちの事を信じてもよさそうだよ」
「正体を明かすように言ったのは俺だけど、エルフの姿を晒すだけで人間側の存在ではない証明になるなんて…エルフってのは、よっぽど人間と仲が悪いんだな」
「否定はしないわ。それで、これから先はどうするの?」
「俺はとりあえず、ロルフを連れて都市の外に出ることにする。城門での検査も入るときよりも出る時の方が簡素だから、見咎められることはないと思う。都市の外に出た後は、ロルフには何とか義勇軍のメンバーと合流してもらって、こちらと連携を取れるようにしたい」
「分かった。義勇軍の拠点はいくつもあるから、もしかしたら連絡が取れるようになるまで多少時間がかかるかもしれないけど出来るだけ早く連絡がつくよう全力を尽くすよ」
エリーと別れ、城門を通り抜け都市の外へ出た。やはり都市の外に出る時の検査はかなりザルであり、フードを目深に被った怪しい見た目をしているにも関わらず、ロルフは門兵に止められることは無かった。
城門の近くは人の通りが多いため、事前に調べておいた人気のない場所まで移動する。
「ここまで来れば、人の通りがほとんど無いから周囲を気にしなくても大丈夫だろ」
「そうだね。僕の嗅覚でも周囲に人間の匂いは確認でき無いから、まず問題ないと思うよ」
「よし。とりあえず、このカバンを渡しておこう。中に護身用の剣と、保存食やら野営用の道具を入れていたから、遠慮なく使ってくれ」
「ありがとう、助かるよ。実はどうやってこういった物を調達しようか考えていたんだ。高額だった僕を買ってくれたうえに、更にお金の無心をするようで君に頼むのは少し気が引けていたからね」
「気にするな…と、言いたいが、感謝の気持ちがあるなら結果で返してくれ。まぁ、焦って失態を犯すのもよろしくないからな。ほどほどに頑張ってくれ」
「はは、分かったよ」
「それと、こいつを渡してこう」
「これは…スライム?どうしてスライムを?」
「こいつは俺の使い魔のようなものだと思ってくれ。俺とこいつはいつでも情報交換が出来るんだ。詳しい話は、義勇軍のリーダーと正式に協力関係を結べた時に話をしようと思う。まぁ、俺に対して色々と思うところはあると思うけど、とりあえず今は信用してくれとしか言えないな」
「少なくとも僕からは何か言う事は無いよ、君に助けられた身だからね」
「あと念のため、隷属の首輪はつけたままにしておこうと思う。仮にロルフの姿を冒険者に見られても、主人が近くにいると分かれば面倒ごとに巻き込まれることを防ぐことが出来るかもしれないからな」
「それは構わないけど…指輪と首輪は一定以上は離れることが出来ないんじゃなかった?」
「だから、この指輪はこのスライムに渡しておく。このスライムが勝手に指輪を消化するということはないから安心してくれ。無事義勇軍と合流出来たら、指輪と使ってその首輪を仲間に外してもらうといい」
「うん。そうさせてもらうよ…いや、あえてつけたままにしおいて、今後は都市内部で情報収集するというのも悪くないかもしれないかな…」
「その辺りは、どうぞご自由に。こちらでも各所で情報収集はしているけど、情報の出どころは一か所より複数個所の方が信ぴょう性が増すからな」
「とりあえずは、僕が仲間たちと無事合流出来てからの話になるかな。それじゃ行くとするよ。色々と世話になったね。もし僕たちと君たちとで協力体制が整ったら、もっとお世話になるかもだけど」
「それは、まぁ、お互い様だな。今度は俺がお世話になる側かもしれないし。とりあえず、朗報を待ってるぞ」
別れの言葉を継げると、ロルフはすごい勢いで駆け出して行った。ずっと館の中で閉じ込められていたせいで、鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
ロルフの嗅覚があれば、無事に義勇軍の仲間と合流できると思う。そう言う意味では、狼系の獣人と真っ先に出合えたのは僥倖といえるだろう。




