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『眷属』
ゴブリン・リーダーが下位の存在であるゴブリンを従えているのを見て、もしかしたら俺も他のスライムを従えることができるんじゃね?と思い遭遇したスライムに部下になるよう交渉した。交渉どころか意思の疎通すらできなかった。はっきりいって、自我というものがほとんど感じられなかった。
だったらその体、俺が有効活用してやるよ。半ば自棄になりながらその考えに至った俺は、スライム相手に色々と実験をしてみた。何体かの尊い犠牲があったが、俺自身のスライム細胞を他のスライムの核に移植することでそのスライムの体を乗っ取ることができてしまった。
ただ、ないと思っていたスライムにもちゃんと自我はあり、俺のスライム細胞を移植したことにより俺の自我とそのスライムの自我が融合し、わずかにだが個体差が出てきた。かなり俺に近しい存在であるため、配下と呼ぶにはしのびないので『眷属』と呼ぶこととしたのだ。さらに俺のスライム細胞を移植した影響か、俺と同じように死体を吸収することでも経験値を得ることができるという嬉しい誤算もあった。
現在眷属は30体いる。それが今の俺の限界値であるが、位階の上昇による能力値の変動により、今後増えることが予想される。それがこのウィルバートの町を囲むように点在している。眷属とはパスのようなものが常時つながっているため、眷属が仕入れた情報はリアルタイムで俺も入手でき、逆に俺が仕入れた情報も眷属に流すことで共有することができる。そのため先ほどのように俺が仕入れた情報を眷属に流すことによって、効率的に行動することができるようになった。
また、このパスは情報だけでなく魔力や経験値も共有できるようで、こうして本体である俺がのんびりと会話している間も眷属の働きによって常時経験値が入手出来ているのだ。ただ今の眷属スライムはただのスライムと同程度の能力しか持たないため、魔物を倒すことができるほどの強さはない。そのため今入ってきている経験値の量はそう多くはないのが難点だ。
しかし将来的にはこの眷属スライムも本体である俺のように進化する可能性もあるため、根気強く育てていこうと思っている。さすがにすべてがミミック・スライムに進化するとは思わない。やはり様々な場面に対応できるように、多種多様なスライムに進化してもらいたいところだ。
防御力に定評のある『アイアン・スライム』。酸攻撃により数多の冒険者の武器を破壊し金銭的に泣かせてきた『アシッド・スライム』。沼地からの奇襲により高位の冒険者すら溺死させることのある『スワンプ・スライム』。ただ、しばらくは進化をさせないでおこうと思う。下手に上位種に進化させると冒険者に狩られてしまうかもしれないからな。順調に行っているときこそ、慎重に物事を進めなければならないのだ。
ギルドの職員と別れると、ギルドに併設されてある宿泊施設に移動し宿をとった。今までは町の外で普通に寝泊まりしていたが、これからしばらくは人間社会に沿って生活するのだ。不審な行動をとって周囲に怪しまれる行動は極力とりたくはない。
ギルド関係者しか利用することができず、食事の用意は自分でしなければならないなどあまりサービスが行き届いている訳ではないが、その分利用料金が非常に安いのがここを宿に選んだポイントだ。
人間の食事があまり口に合わないうえに、俺が活動することに必要なエネルギーは眷属たちが稼いでくれている。わざわざ食事の代金まで宿泊料金に含まれている通常の宿に泊まるのは非常にもったいないのだ。そういった意味でも俺にとっては非常に都合がよかった。今後何があるか分からないので、出費は極力減らしたい。
宿泊手続きを終え、部屋に入るとようやく人心地がついた。肉体的にはそうではないが、精神的には知らず知らずのうちに大分疲労がたまっていたようだ。それもそのはず、ここは人間の町であり俺は人間の敵である魔物なのだ。単騎で敵陣のど真ん中に侵入したようなものだからな。一人になれたことで、ようやく気を抜くことができた。
休息もそこそこに、今後の計画を立てる。
しばらくはこの町で活動しなければならないので、まずは生活基盤を整えなければならない。ライアル王国に行くため周辺国家の情報も集めなければならないし、経験値確保のため魔物や冒険者の動向の情報も必要になる。更には人間形態での戦闘も想定して剣術の鍛錬もしなければならない。
やらなければならないことは山積みだが、一歩一歩確実にこなしていこう。とりあえず、明日受注する予定であるゴブリン討伐と薬草採取の依頼を円滑に進めるため、待機していた眷属にその捜索を命じて、武装を整えるために宿を出ることにした。