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2018年4月7日(土) ヒンディ語マスター白井先生 現わる!

4月7日(土)


 転勤気分を紛らわすため、語学レッスンへ行くことにした。


 というのも、赴任するまでの期間限定ではあるが、会社が最大50時間の語学レッスンを無料で提供してくれるのです。


 インドでは一般的に英語が公用語として使われている。


 私は英語コミュニケーションに一切の不安を抱いていないが、せっかくなので、ヒンディ語を少し齧ることにしたのです。


 でも、人事部からは4月中にインドへ赴任してほしいと言われている。


 その間、インドへの引っ越し準備、仕事の引き継ぎ、そして度重なる送迎会をこなさなくてはならないので、正味15時間ほどしかレッスンを受講できない。


 もちろん、こんな短期間でヒンディ語をマスターするなんて不可能。


 私の目的は、インドで仕事や生活する上で必要なインド人の価値観や習慣を知ることにある。


 なぜなら、人々の価値観は往々にして言語に現れるものだから。



 でも、ヒンディ語の先生とはどんな人何だろう。


 全く想像できず、やや緊張気味に語学学校のある四ツ谷駅に降り立つ。


 四ツ谷は私が中智大学時代に4年間を過ごした場所でもある。


 久しぶりに目にする学び舎が、幾ばくか緊張感をほぐしてくれる。


 といっても、授業にほとんど出席しなかった私にとって、本当の学び舎は近隣の居酒屋でしたが。



 そして、歩くこと5分。


 閑静な住宅街にポツンとある大林語学学校に足を踏み入れた。


 この語学学校は百科辞典などを手がける大林出版社が経営しており、マイナー言語(アフリカのスワヒリ語、コーカサス地方のアルメニア語、日本の琉球語など)を学ぶことができる。


 マイナー言語の主なニーズは外交官や商社にあるようだが、グローバル化が進む昨今、金融やメーカーからのニーズも高まっている。



 受付を済ませると、定員4名ほどの小さな教室に案内され、しばし先生を待つ。


 はたして先生はインド人、それとも日本人のどっち何だろう? 


 ベースのコミュニケーションは英語になるのか? 


 なんて心配をしていると、ノックもなしに突然ガチャリと教室の扉が開いた。


 入ってきたのは昔懐かし緑色のエムエーワンを身に纏い、首からたばこケースをぶら下げ、やや白髪交じりで褐色の肌を持つ年齢60歳前後の男性だった。


 パッと見ただけでは日本人かインド人か分からない。


 なんて挨拶をするべきか躊躇していると、先生が合掌しながら先に挨拶をしてきた。


「ナマステ。講師の白井です」


 日本人だった。


「ナマステ」


 私も咄嗟に椅子から立ち上がり、同じく合掌しながら挨拶する。


「君、なかなかいいね。どっかでヒンディやってたの?」


「え、全くやってないですよ。ナマステ以外、ヒンズー語なんてもちろん知りませんよ」


「君、()()()()は止めなさい。ヒンズーは。私に出逢ったからには、今後は正しくは()()()()と発音しなさい。これはとても大事だよ。君の周りの人たちにも、ヒンズー語ではなくヒンディ語が正しいのだとちゃんと広めなさい。分かりましたか?」


 そうなんだ。


 知らなかった。


 でも、いつどこで広めればよいだろうか。


「君、いつインドへ行くの?」


「4月末には日本を出発する予定です」


「え、結構直ぐだね。すると……あと3週間ほどか。こんな短期間で君は何を学びたいの?」


「そうですね。ヒンディ自体を書けなくても、簡単な単語が読めて、日常会話ができるようになれば御の字です。ですが、それよりもインドの価値観や習慣を教えて頂き、少しでもインドでの仕事や生活に役立てられればと考えています。また個人的には大変お世話になっているスマホゲームのパズドラにガネーシャなどインドの神々が頻繁に出てくるので、どの神様がメジャーなのかを初め、宗教観についても学習できれば最高です」


「へー、そうなの。君、インドの神様好きなんだ。ガネーシャ以外に何を知ってるの?」


「そうですね。カーリー、ラクシュミ、パールヴァティ、クリシュナ、ハヌマーンでしょうか。カーリーやハヌマーンは結構強いキャラとして登場しますよ」


「いや、凄いな。何、パズドラっていうの? 今度この辺の知識が足りないうちの学生にもやらせてみるよ」


 白井先生はノートにパズドラと記し、そこに二重丸をした。



 白井先生はタージマハルに魅了され、今から40年以上も前にインドへ渡りました。


 最初はインド建築を学ぶことを試みたが、語学の必要さを感じ、ヒンディ語をマスターします。


 その後、インド、パキスタン、バングラディッシュで日本語教師として教鞭を執りながら、ヒンディ語を中心とする南アジア言語の研究を重ねたのです。


 いわば、この道の権威者で、東京外国語大学の教授でもあります。


 とても特殊な人生を送っている白井先生に一瞬で尊敬の念を抱き、心の底から色々と教えて頂きたいと思った。

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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