終わりに
葦登には自殺願望があった。計画では最終的に死ぬなんてことは考えていなかったが、本人は納得がいかなかったらしい。遊廓に放火した後、一人炎の海に飲まれて死んだ。あの日はたまたま遊女達が病院に行く日で、赤前垂れや他の人々は残っていたものの、人が少なかった。あとは三階に炎を点けてしまえば、じわじわと燃え広がって他の人々は逃げられる。
最後まで葦登が自殺するなんて考えていなかった私は、彼女を遊廓から引き摺り出そうとした。――その時に負った火傷が今も残っている――。しかし炎の中から高笑いが聞こえた。結局私は居合わせたチズルに止められ、葦登は死んだ……はずである。なぜ分からないかというと、葦登が助からないと悟り、島を出たからだ。最初の計画通り、船は浅海氏に出してもらった。
あれから本土に渡り、私は今までのことを忘れたように生活できた。名前も偽名を使い、浅海氏以外誰も私のことを知らないのがとても楽だった。
しかし、私は蛇島から唯一持ってきたこの日記を、このまま塵にすることはもったいなく思えた。それで小説風に書き直してみたのが本作である。ただこれには問題があった。書いている途中、あの忌々しい音がするのだ。
……ずるっ、ずるっ……ずるっ、ずるっ。
この日記を書き進めるほど、音は強くなる。次第に夢も見始めた。私が遊女の手足を切り落とし、その顔が朱文金に変わって湖に落とされる夢。もういつ現実で朱文金の顔を見るかも分からない。でも書くのはやめられない。結局朱文金は、宗治に成り代わられた哀れな人だったというのに。
私はとにかく急いで書いた。……そして、なんとか完成させたのである……。
この全てを本当だと思うか、作り話だと思うかは貴方次第だ。そこはあえて明言しないでおく。できるならこの小説が沢山の人の目に留まり、私と同じような人が増えることを心から願う。
今、私の四肢は右腕しか動かない。他は全て事故や不注意で使い物にならなくなってしまった。右腕も動きが怪しくなってきて、もう先が長くないのだ。
私程ではないだろうが、これを読んだ人には障りが出るだろう。それこそがこれを書き続けた唯一の動機である。原因が蛇神様なのか、かつて殺された遊女なのか、宗治なのか、私が殺した島の住民達の祟りなのかは分からない。
最後に、読者の貴方に伝えたいことがある。私は
(記述はここで途切れている)