はじめに
登場する人名や地名は、「沸嗣」以外全て仮名であることをここに記しておく。
今、この文を誰が読んでいるだろうか。もしかしたら私と同じ島の者かもしれないし、本土の者かもしれないーー。
今これを読んでいる読者の皆様へ。この小説は、私蛇迫沸嗣が体験した事を、その時の日記を元に、小説形式で書いた物である。
私が住んでいた島、蛇島は、海の上にある小さな島だった(本当の名前は別にあるが、一部では本当に蛇島とも呼ばれていた)。本土からは離れており、夜になれば電気とやらの光が薄く見える程度だ。形は本土から見て二等辺三角形のようになっており、島は二つの村で構成される。
奈神村と精神村である。精神村が本土に近い広がった土地に位置し、奈神村は奥のすぼまった土地に位置していた。奈神村は三角形の先端に近づくにつれて盛り上がり、天辺は崖になっている。ここが、竹が密集していて先が見通しにくく、毎年数多くの子供が亡くなるのだ。
そして、山には大きな湖がある。三角形の頂点に向けて先がすぼまった、楕円形の湖だ。その湖から、くねくねと蛇行した川が流れ、精神村の丁度真ん中あたりで海に繋がっている。
この湖と川こそが、蛇島の名前の所以なのだ。
先のすぼまった湖は蛇の頭を、蛇行した川は蛇の体を。そう、まるで島に大きな蛇が這っているかのようにーー。
島の中心には、遊廓がある。この島で一番大きな建築物で、遊廓に来るためだけに本土から人がやって来たりもする。蛇島で一番綺麗で、一番残酷な場所であった。