謎の青年
前回の続きです。
個人的には結構好きなところです(笑)
宜しくお願いします。
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あれからしばらく、進は街探索をすることにした。やはり、日本と比べると、人も環境もなにもかもが変わっている。
「多分だけど、俺ってこの世界じゃ英雄並みのチート能力があるんかな? 異世界召喚あるあるでそういうのあるし」
ラノベというアニメやゲームの小説で、そういったチート能力を持つ主人公が多いため、進はそう思った。でも、実際はというと…
「見た目もやっぱりパッとしないし、体もいつも通り。俺って読書と剣道が趣味だからなぁ…」
読書は小学生からの趣味だ。純文学からラノベまで幅広く読んでいて、文学の知識はかなり深い方だった。特に、ミステリーやファンタジー小説が好きで、そのジャンルの本は本棚の半数を占めるほど。
そして進は、今通っている中学では剣道部に所属していて、初心者ながら、1年生の中ではそれなりに強かった。それにも理由がある。初心者の進を支えてくれる相棒的存在がいた。
進にとっては、相棒であり、親友だった。
名前は三谷 亘といって、家が剣道の道場だというすごい人だ。「三谷流」という特有の教訓があり、それに沿って日々の稽古に励んでいるらしく、亘の腕前は1年生内だけでなく、剣道部内でもピカイチだった。先輩からは、「次期部長」と呼ばれていて、先生からも活躍が期待されている。
そんなとてつもない同級生がいる。進は密かに、すごく尊敬していた。だから、同等に、それ以上に強くなって、支えてあげられるようになろうと決意した。
そんな中、意外なことが起きた。
なんと、練習中に、向こうから話しかけてくれた。
「雨宮だよね? 今の剣の振りメチャクチャ良かったよ!」
突然褒められて照れた反面、素直に嬉しかった。それに尊敬してる亘から言われて、さらに練習を重ねた。重ねていくうちに、亘と一緒に練習するようになり、今では相棒であり親友的存在になっている。改めて考えてみると、なかなかすごいことだった。
…なのに、今現在異世界へ飛ばされている。わけが分からない。
ふと、ここってどういう国で、なんていう国名なのだろうと思い、思いきって商人らしきおじさんに声をかけてみることにした。
「あのさおじさん、ここってどういう国で、なんて国名なんだろ。俺ピンぼけしててさー、忘れちゃったんだよね~」
国民を装って、ピンぼけという名義で尋ねてみた。進渾身のボケである。すると、おじさんはまじまじと進を見つめ、「すげぇな…」と小言を漏らした。
「あぁすまんな! なんかお前さんの服装がすごい斬新と思ってな。そんな丈夫そうで且つ色味も素晴らしい。一体これをどこで?」
物珍しそうに、興奮気味に問い詰めてくるおじさんに、進も困惑し、「ちょっ! そんなに質問しないでくれ!」と落ち着かせた。確かに、進の着ている制服が珍しいのは分かる。周りの人の服装は、みな薄手のものだったり、おじさんのような商人の男は、基本上裸だったからだ。
「またすまんな! 気になることは追及したくなるタチでな。気にすんな!」
「いや気にするわ! この世界のおじさんってみんなこんな感じたなのかな… これから先が思いやられるわ…」
「失礼だなっ! お前、俺に絞められてぇらしいな…」
と、おじさんの拳が上がる前に、「分かった分かった、悪かったって」となだめて、結局なんていうの? と聞いた。
「本当に覚えてねぇのか? …まぁいい。ここはな…」
高らかに次の言葉を発言する。
「月の国、「リゼルス」だ!」
*
「はぁ。月の国、リゼルスか。結構カッケーじゃん。異世界って感じがする」
歩くのに疲れはてて、ふらっと目に入った路地裏に座り込んだ。あのおじさんとは、少し話してすぐに別れた。別れ際に、「困ったことがあればいつでもここに来い!」と頼りになる一言を言ってくれたおかげで、まだなんとか気持ちに余裕がある。
だが、やはり問題なのは、これからのことだ。
寝床や食べ物・飲み物、トイレ、風呂など、生活になくてはならないものが多くある。この世界の金銭の通貨も、日本とは全然違った。この国の通貨は「ペガ」らしい。
なんでも、神の使い魔であるペガサスから取ったとか。
「元の世界に戻れれば話は別なんだけどな。そもそも俺を召喚した神の使徒さんはどこよ」
あれから1度も姿を現していない。それどころか、身勝手に進を1人、異世界に置き去り状態だ。救世主だ、と言っていたが、あれの意味もまだ分からない。まだまだ分からないことだらけだ。
深くため息をついたとき、ササッと誰かが後ろを通った音が聞こえた。身構えてすぐに後ろを振り向いたが、誰もいない。怖くなって立ち上がり、護身用で常に持っているカッターをリュックから取り出した。なにか事件に巻き込まれたとき用だ。しかし、やはり誰も来ないし襲ってこない。…ただの勘違いか。そう思って安堵していた次の瞬間だった。
「俺たちの縄張りに、気安く入ってくんじゃねぇよ」
怒っているのが分かるくらいに低い声が、耳元で囁かれた。進は咄嗟に、振り向きながら、持っていたカッターを横に振った。だが、無情にスッと避けられる。
「そんなひょろひょろな攻撃が当たるかってんだよ。つーか、そんな古臭い戦闘よりも、魔法使おうぜ」
いかにもコソドロの雰囲気があるまだ若そうな男が、狂気染みた顔で、右手から稲妻を発生させた。
「魔法だ…。流石異世界、なんでもあるな!」
魔法の存在に感動している場合ではない。一刻も早くここを抜け出さねばならない。だが、出入口は既に、別の仲間たちにいつの間にか塞がれていた。
あ、これゲームオーバーだ。死んだな。本能的に思った。
「抵抗しても無駄っぽいな。…俺の人生、こんなところで終わりとか、なんか最期くらいはカッコよく死にたかったな」
「ははっ、お前はここで死ねぇ!」
死を覚悟した進は、ぎゅっと目を閉じた。
そのとき__。
「そこまでだ」
威勢の良い、これもまた男の声だ。透き通ったクリアボイスで、コソドロよりも綺麗な低音の声をしていた。
その人は、出入口の真っ正面に立っていた。貴族のような、品のある青年だった。アイドル並みに整った顔立ち、タキシードのようで汚れ1つ無い服、背も180以上ありそうな高身長。まさに、貴公子のような、完璧人間がそこにいた。
彼との出会いは、後の進の異世界生活を大きく揺らすことになっていく…
ここまでご覧くださりありがとうございました。
今回から、新たに、亘と謎の青年がメイン登場人物として増えました。
さて、なにやら物騒な場面で終わっていますが、ここからすごく盛り上がっていきます!
次回を楽しみに待っていていただけると嬉しいです。