第ニ章 幕間2
「エヴァ隊長!巡回終わりました。」
「ご苦労様、裏にトトロスさんから差し入れがあるから食べて。」
「分かりました。」
ここは難民キャンプの居住区、5万人以上住民がここに住んでいる。と言ってもすべての人がここにいる訳ではない。
難民キャンプは、西地区と東地区で分けられ東には商業区や職人街が集まり、そこで働いている人やその家族が住んでいる西地区の居住区。
トトロスが営んでいる酒場は、東地区の西寄りにあり、職人たちの帰り支度時に寄りやすい位置に場所を取っている。
そして今エヴァが居るのは居住区の中央付近に詰め所、ここは町の治安維持のために置かれた場所で、10人ほどがそこで勤務し一日二交代制でキャンプ地の治安を守っている。
「西地区の定期巡回は終わり、、、と。後は夜明け前に巡回して、、、、ふう。」
机に向かい書類の処理をしているエヴァ。彼女がここに居るのは訳があった。
あれは一週間前の事だった。帝都陥落の知らせがエヴァ達のところに来たのは早朝、シャルルが朝早く館に駆け込んできたことで知った。同時にヴァンとファナがその帝都に向かっていったことも。
それから数時間後、ボロボロの姿で二人が運び込まれてきた。その時は皆が大騒ぎだった。なぜこんなことになったのかは連れて来てくれたラインハルト王子がその時のことを詳細に教えてくれた。
それを聞いた私達は心臓がぎゅっと掴まれたようになった。私は、、、、私はいったい何をしていたんだろう。
彼に最後に会った時は、昨夜の出来事、、、私の行為を見られた後から気まずくて顔も見ることも出来ずに何もせずに部屋にこもっていた。
どうしたらあの事をごまかせるだろうとか無かった事にできないだろうとかを考えてあの時の事を思い出しながらベットの中で悶えてた。
私は自分の事ばっかり考えて何もしていなかった。朝に依頼があると出かけて行ったのは知っている。それがまさかこんなことになるなんて、、、、。
「ヴァン、、、、。」
眠っている彼は青い顔をして見るからに衰弱していた。医者の話によれば体内にある魔力が著しく低下してその作用で体の機能も低下していると言う。
いろいろと手を尽くし回復する方法を探してはいるみたいだけど、いまだその方法が分かっていなかった。
私は、此処で一体何をしているのだろうか、ただ座って彼の姿を見ているだけで何も、、、何もできない。
いったい何をすれば、私は彼に何ができる、何もしてあげられない。そう思うと私の体は鉄の様に重くなり動くことさえできないでいた。
「ちょ!ファナちゃん!そんな恰好で何やってるの!」
「に、兄さまは見てはだめです!!」
「ぐあ!」
廊下が騒がしいと思っていると、バン!と扉が勢いよく開かれる。そこに立っていたのは、ファナさんだった。
衣類を纏わない姿で立っていた。
「ファナさん!」
「ヴァン、、、待ってて、、、。」
フラフラと歩いてくるその姿に私は思わず立ち上がり、駆け寄って肩をつっかむ。
「ファナさん!いったい何を、、、、!」
のぞき込んだ彼女の瞳には私は映っていなかった。彼女には彼しか見えていない。ヴァンの姿しか目に入っていなかった。
私は彼女から感じた気迫の様な物を感じ気おされ何もできずに立ち尽くしていると。
「ヴァン、、、、今分けてあげるから。」
そう言って彼のベットに入り込むと体が蒼く光り出した。それは魔力の光、その光がヴァンの体にしみ込むように広がる。すると彼の顔に赤みが戻っていく。
ファナさんは、自身の魔力を分け与えているのだと分かった。次第に光は弱くなるとファナさんはそのままヴァンの腕の中で静かに寝息を立て始める。移動させようと近ずくと彼女の体はまだ淡く光っているのが見えた。
まだ、彼に魔力を分け与えているんだと、、、そう思い私はそこから足は矢に立ち去った。私は今まで何をやっていたのだろう、私は彼のために何もやれていないのに彼女はあの一瞬で、、、、、そう思うと私は途端に悔しくなった。
私は彼女のように彼を助けてあげることが出来ない。私なんかが彼の側に居ても何もできない!
そう思ったとたんに私はここに入られないと思った。途端に私は走り出す。
「あ!エヴァちゃん!!」
シャルルさんの声を背中越しに聞こえてくる。廊下を走り階段を駆け下り玄関を勢い良く開ける。中庭に出て私は足を止める。視界の端に白い光。
雪だ、白い綿毛が空から降りる。肩に触れると形を崩し、白い色はなくなり消えた。私の心もこの雪のように消えてしまいそうになる。
いったい、私は何をしているんだ。何をすれば、、、、何のために、、、、、。
「エヴァちゃん。」
私が呆然と立ち空から降り落ちる雪を見ていると後ろから声が聞こえてくる。
金髪ロングのポニーテールのエルフのシャルルだ。
「シャルル、、、、さん。」
「いやー降って来たね。風邪ひくよ。」
「・・・・・・・・」
「う~ん、、、、。よし!飲みに行こう!!」
「、、、、、え!?」
「さあさあ!行こう!」
ニコニコと笑いながら私の腕を取り歩き出す。私は何もできずただその惹かれる手に導かれながらシャルルについていった。
それから私は食事をしお酒を飲んで、、、、、、泣いた。
「どうぞ、隊長。」
書類を聞いていると、横からコップが置かれる。目線を向けるとそこには軽装の鎧に緑のローブを着た男性が立っていた。
「一息入れましょう。今日の業務は終わりましたよ。」
「すまない、大尉。」
彼はバルダス・トリトロ大尉、神聖スラヴィアナ帝国時代から私の副官としてここまで付いてきてくれた。
金髪碧眼の男性で無精ひげを生やした壮年の男性だ。隊を組んでからはあまり時間は経っては居ないが。彼の気楽さと軽い口ぶりから隊の緊張をほぐし、要所ではしっかりと締める有能な副官だ、、、と言うことが最近分かった。
「いやー、まさか私達がこの国の騎士団になるとは、隊長も思い切ったことをしますな。」
「ああ、あのまま個人で出来る事なんてたかが知れているし、こんな状況になったからには、私達も街ではなく国のために何かしないと思ったから、それに私達の様なよその国の人間を快く受け入れてくれたこの国の人々に少しでも恩返しをと思って。」
あの泣いた夜の日から数日後に、シャルルからあることを持ちかけられた。それは私を団長にした騎士団を立ち上げないかと言うものだ。
勿論その上には、シャルル、さらにその上にはシャルルのお姉さんであるミレーユさんがいる。私はいくつかある小規模の遊撃騎士団としての役割を与えられ、多岐にわたる仕事をすることになる。
この話を私はバルダスをはじめ団員達に話すと。「隊長のやりたいように。」と言われた。だから私はこの話を受け、晴れてこの国の騎士としての身分を貰い今こうして仕事をしている。
「そうですな、ならばまず自分自身も守らなくてはなりません。時間は過ぎていますから仮眠を取ってきてください。」
「いや、、、だが。」
「ほらほら!上が休まないと下がいつまでたっても休めないでしょう!残りは私がやっておきますから休んだ休んだ。」
「フゥ、わかったあとをたのむ。」
「はは!お任せくださ~い。」
大げさに、敬礼をしてウィンクする彼に苦笑し立ち上がる。机を離れ階段を上ると途中の窓からオルスの街が見える。
私は少し彼と距離を取ろうと思った。私自身にできることを少しずつやっていければ、何かが分かるかもしれない。
私がこの国に居る理由と、そして居場所を見つけるために。
カリカリ
ランプの灯る部屋に何かをひっかく音が響いている。ここ数日この音がなり止む日はなく連日この時間になり続けている。
ランプの置かれた机とその前に広がった地図にいくつもの数字と紙に書かれた細かな文字が針に括りつけられ幾本も突き立ち、その周りには紙の束が乱雑に積まれている。
「失礼します。」
ドアが開かれ現れたのは黒髪に整った顔立ちの青年ハンスだ。彼は手にティーセットを持ち床に散らばる書類を避けながら奥へと進む。
「ラインハルト様、お茶をお持ちしました。」
「ああ、ハンスか?」
机に負かっていたかを追上げる金髪碧眼の青年、彼はこの国の第一王子のラインハルト・シュディオロス。
「もうこんな時間か、、、。」
窓の外を見れば暗く、雲がかかっているようで星野光も月の光もない、だが下には街の灯りと、城壁の外にも広がったった家々を照らしている。
「どうぞ、ラインハルト様。」
「ああ、、、、、レモンか、、、、。」
一口飲むと口の中一杯にレモン特有の香りと酸味が口の中を広がりその酸味を助長させる甘味がレモンのうまみを引き立てている。
「旨いな、、、、今の時期によく手に入ったな。」
「ええ、見舞いに向かった際にリスダ殿にいただきました。」
リスダとは、オルスにアルヴァンの邸宅に住んでいるトトロスの妻で二人はある事故で家を焼かれ丁度近くに居たヴァンとアスラ、アスラはトトロスの事を知っておりこの町では名の知れた屋台の親父で
昔は、Bランクの冒険者として活躍していた。そのことからアスラらシアンも何度か恩を受けたことがあるらしい。その縁で、アスラ達と一緒にトトロス夫妻はヴァンの館で生活していた。
「それからこれも。」
「これは?」
ハンスが取り出したのは白い皿にのせられた四角い物体が出される。
「パウンドケーキだそうです。ヴァン低に居られるハンナ様が手ずからお作りになったものです。」
「ハンナが!、、、、、大丈夫か?」
以前ハンナが作ったスコーンを食べた時のことを思い出す。見た目やよかったがものすごく硬くまずかったのを思い出す。
それを知っているハンスもその時のことを思い出したのか笑って答える。
「大丈夫です。すでに私が味見をしましたので問題ありません。」
ハンナ・シュディオロス王女、ラインハルトの腹違いの妹でこの国の第二王女だ。彼女は今ヴァンの館に住んでいる。
なんでも、彼に兄を助けてほしいとお願いしたことで、今回のようなことが起こったことから責任を感じたそうだ。
王族として一冒険者をここまで築かうのはおかしなことだが、彼女はそう言ったことには疎く、短い時間でも共にしか彼等の事を心配するほど親しく思っているようだ。
それはラインハルトも同じようで、この数週間は数日に一回は様子を見に足を運んでいた。
「、、、、、やはりアイツはまだ目を覚まさないか?」
「はい、ですが回復はしているようで、初めに運び込まれた時よりは顔色がいいそうです。やはりあのことがきっかけのようです。」
あれとは、ファナがヴァンの寝所に向かった時の事だ。ラインハルトが見舞いに訪れた時後ろから歩いてきたファナの格好を見たハンナが勢いよくラインハルトの顔を叩いた。
お陰でしばらく顔には奇麗な平手跡が残った。
「あれは、、、痛かった。」
「はは、、、、私は最初何事かと思いましたが、、、、、。ハンナ様も最近では明るくなられましたね。」
「ああ、まあしばらくはあのままあの場所に厄介になってもらうとして、、、、問題はこちらだ。」
「外の情勢ですか?」
「ああ、北壁からは敵の姿は見えないとあったが、、、、、、、それ以外向こうの動きが全く分からないのだ。」
帝都陥落から約一ヶ月、避難してきた難民達の生活は安定しその最前線である北壁の修繕も順調に進んでいる。
だがその侵略してくる敵の動きが分からない、もちろん偵察や密偵と言った兵士達はこの帝国にも存在している。
だがそのほとんどの部隊は元老委員の貴族たちに掌握されていて王族であるラインハルトが使える部隊はなかった。
そして、此処に逃げてきた兵士や騎士達の中にはその舞台は一人もおらず、元老委員議員の貴族達も誰一人いなかった。
「もし逃げる先があるとすれば、西と東、、。」
「連絡は来ているのだが、そのどちらの街や周辺で彼等を見た者はいないと報告が上がってきています。」
ならばいったいどこに逃げだしたのか、、、、、、、。いろいろと理由は考えられるが、、、、、。
「まあ今はあ奴らに構ってはいられない。問題は敵の偵察に向かわせられる実力の部隊がいないと言うこだ。」
敵陣に入り秘匿性を持っていて機動力も高く接敵し浅井に必ず生き残ることのできる兵力、、、、いや兵士が、、、、、、、。
いや、いるにはいる。それは冒険者だ彼等は強大な魔物を倒す力を持ち何もない山野で生き残れるほどの生存能力も高い。
その中でもAランクの冒険者はその条件に当てはまる。だがそのクラスのランクの冒険者は少なくそして今やその力は防衛のために使わなくてはならない。
どこかにまだ防衛に配置していない高ランクの冒険者は、、、、、、。
「やはり、ヴァンの力が必要だな。」
そう、彼はまさに最高の戦力だ。ファナと言う先祖返りのドラゴンとしての機動力と、彼自身の高い戦闘力が今まさ必要だ。
勿論ラインハルト個人としても彼の事を心配はしているが、、、、。それほど今この国は兵力が不足していた。
「幸い今は冬、気温も低く何より北壁周辺は深い雪に覆われて進行するには春を待たなくてならない。」
「ええ、昨晩も雪が振っことで北壁周辺は深い雪に覆われています。この雪が亡くならない限り進行も始まらないでしょう。」
しばらくはもんだいない、、、、、だがそれは解決策にはならない。結局は出たとこ勝負になるわけなのだが、、、、、。
カップに残ったレモンティーを喉に流し込みこれから起こる勝算のない戦いに考えに没頭するのだった。




