第二章十四節
「ラインハルト様!」
暗い空洞を抜けた先は、湖の北側にある小高い丘の上だった。ここは昔監視塔が立っており、湖と帝都を一望できる場所だったが、この監視塔は朽ち果て長らく廃墟になっていた。
その監視塔の地下にと言っても今は床が抜けて空が丸見えになっているが、その場所の床に今は大きな階段が現れていた。
「ハンス!ここに居たか。」
「はい!、急いで帝都に向かっていた所、ここに集まった住民達を見つけましたので事情を聴いておりました。そんなことより!」
そう言って先ほどの安堵した顔とは裏腹にオーガも逃げ出すような顔で俺に詰め寄って来る。
「我々を置いて今回のような危険なことはお控えください!私がどのような気持ちでここにいるか!!」
ハンスは普段は温厚で優しいが服を着て歩いているような男で、いつもは花の咲いたような微笑みをしているが、怒った時も表情は変わらずにそのままの顔でものすごい圧を放ってくる。
「分かった分かった、俺が悪かった。」
「ここに居たか、ラインハルト。」
俺が、ハンスをなだめていると父上が声をかけて来た。
「父上、、、、。」
顔を向けると、そこには少し疲れた顔をして一気に老け込んだように見えた。
無理もない、この国の首都があのようになり住民たちは皆無事だと言うが、その気苦労は計り知れないものがあるだろう。
俺は、父上が大好きだ男としても皇帝としても尊敬できる人物だ。俺もこの偉大な男になれるように軍に入って戦いの中に身を置いていた。
だが今目の前に居るのは疲れ果てた老人ただ一人、あの荘厳な玉座で威厳溢れる姿は今は何処にもない。
「ラインハルト、よく救援に来てくれたと言いたいところだが、少し無謀が過ぎるな。己の立場と責任をよく理解することだ。」
「、、、、、申し訳ありません父上。」
少し肩を落とす。父上の言うことは正しく俺の行動が無謀だったことは自覚している。しかしあの時帝都の襲撃と言う報告を聞いた途端に頭の中が真っ白になり思考よりも行動を優先してしまった。
「いやいや、陛下が言えたことではありませんよ。」
「、、、、、ロバート。」
「陛下もよく戦場では剣一本、槍一本で敵陣に一騎駆けをしていたではありませんか。あの時の私の、、、、。」
「ああ!わかったわじかった、、。頼むから息子の前で昔の話はよしてくれ。」
と困った顔でロバート卿をなだめる光景を眺め少し苦笑いをする。二人は昔から共に戦場を駆け数多くの功績を残していた。幾多の戦場での思い出は何人も立ち入ることはできない。
そんな二人の関係はとても強固な絆の様な物を感じた。いつか俺もハンスとこんな話をする日が来るのだろうかと、そう思うと今回の俺の行動を心配していたハンスに申し訳ない気持ちになって来る。
「ロバート卿、何か報告が?」
父上と話していたロバートにハンスが声をかけると、「そうでした。」と言って咳ばらいを一つすると。
「陛下、すでに住民の半数はギルドマスターの先導でオルスに向かっております。」
「わかった、我々も急ぎ向かうとしよう、ハンス卿すまんが飛翔騎士を数騎貸してくれんか?」
「分かりました、一個小隊分を回します。」
「うむ、まともあれ、ラインハルト、今回はよく駆けつけてくれたな、礼を言うありがとう。」
「父上、、、。」
「ハンス卿、こんな息子だがこれからよろしくしてやってくれ。」
「は!」
「所でラインハルト、先ほどともに来た青年は、、、、、。」
ドッオオオオオオオオオオオオオオン!
「なんだ!」
突然の轟音が鳴り響く、見ると帝都の方で蒼い光が輝いていた。音と光に驚いて周辺に居た人はその光景を目にし固まっている。
「ヴァンの旦那!!」
そう言って人ごみの中から一人の男が飛び出しトンネルに向かおうと居てるのが見えた。
「だめだアスラ!今から行っても間に合わない。」
「だがあそこにはヴァンの旦那やファナ嬢ちゃんが戦っているんだ!」
と言って冒険者風の男が言い争っている。そうだ、まだあそこには彼が戦っている。なぜ逃げてこない。
答えは決まっている。あの化け物のような男と対峙しているからだ。
「行くぞ!ハンス!!」
「承知しました!」
訳も聞かず俺の行動に合わせてくれたハンスに
「ジーク!すまないがもうしばらく貴殿の翼を借りるじぞ!」
そう言ってジークに乗り手綱を引く。
「ラインハルト!」
「父上、、、俺は、、、!」
「構わん、行ってこい!」
初め止められるのではと幾つか言い訳を考えていたが無駄になった。
「父上、、、!行ってまいります!!」
そう言って大空を舞う、時間は夜明け、東からは朝日が昇り山の影から延びる光は空へかかる階段の様に線を走らせその上を駆け上がるように飛んでいく。
「暁東様!」
「翠花ですか。」
しばし静寂が支配したこの部屋にけたたましい女の声が響く。彼女は黒のロングをサイドで結び、緑を基調にした鎧を着た少女が部屋に駆け込んでくる。
「ご無事ですか!?」
不安そうな顔で駆け寄る少女にほほ笑む猛将軍に手を伸ばし体を触って、どこにも怪我の跡がないのを確認してホッと一息つくと顔を凛々しく作り直して向き直る。
「孟将軍、ご無事でしたか。」
その先ほどとは全く違う態度の温度差に笑いをこらえる様に手を口元に寄せる。
「翠花、外の様子はどうですか?」
「はい、敵は地下道を通って脱出したようです。今現在は帝都内の創作と負傷者の手当てをしています。」
「そうですか、城は落とせましたが、目標であった皇帝の捕縛と市民達の捕縛は失敗ですね。いやー実に残念です。」
そう言って残念そうな顔を全くしていない猛暑軍に難色を示した翠花は咳ばらいを一つしてあきれる。
「将軍、幾ら本意ではない任務でもそのような態度をしては王族の方々がうるさいですよ。」
「フフフ、これは失礼しました。」
まったく悪びれた様子もなく笑う。猛暑軍は今回の侵略には否定的だった。今必要なのは国内の補強、なのにこの時期に強行した作戦に疑問を持っていたのだ。
特に市民達の捕縛と言う命令には大いに不満を出していた。いったいなんのためにと理由を聞いていたのだが結局は最後まではぐらかされるだけでその目的も聞かされていない。
なので、市民達の大半が逃げていたことに、大いに満足をしているようだった。
「それで将軍、このありさまはいったい?」
気を取り直して辺りを見回してみる。残っている壁や柱を見ればここが以前はこの国の中枢だったのだろうことは想像できる、だが今やその影もなく壁や屋根は瓦礫に美しかったであろうガラスの窓は粉々にくだけている。
「シャオドン様、幾ら敵の本陣だからと暴れすぎです。」
この惨状を作り出したであろう本人に、呆れた顔で言うと。
「申し訳ありません、相手がかなりの使い手だったので、礼儀と思い本気を出しました。いや、久々に心躍る相手です。ですからまだ私の前には出ない方がいいですよ。」
「え?・・・・・・!!!!」
視線を追うとそこに居たのは、蒼い髪に赤い角が生え身長的にも自分より幼い、一人の少女が立っていた。
普段はその立つ姿に見惚れるほどの美少女なのだろう、だが今はその影もなく美しいであろう蒼い髪も生えている赤い角よりも黒い赤に染まり。きめ細やかな瑞々しい肌も黒ずんだシミに置かされとても痛々しく見えている。
とても戦える状態ではない彼女は、震える脚で立っている。今にも倒れそうな、だが全く倒れる気配すらない雰囲気を出しギラギラに殺意のこもった目でこちらを見ている。
その凄まじい決意と新年の塊のような彼女の姿に私は戦慄を覚え背筋が凍り付く。
「まだ、立ちますか。」
静かにそう言った。だがその言葉は目の前の少女に対してではない。少女の後ろ、薄暗いここではよく見えないがうっすら人影が揺らいでいるののを感じ取る。
カツカツとこちらに近づいてくるのを感じる。そう感じるのだ。目には見えないがその存在感がはっきりと伝わってくる。
「すまなかった、ファナ。」
青年は肘から先のない腕で彼女を引き寄せて、黒ずんだ髪に顔を埋める。
「シャオドン様、、、、。」
「下がって居なさいツイファ!。」
私は金縛りにあったように動けずにいた。異質だ!異様だ!!目の前に居るこいつは人間なのか!!?
今目の前に居るのはいつ死んでも、、、いやとっくに死んでいるであろう傷を二人とも負っている。現に今も青年の切断された腕からは血が流れ落ちている。致死量をとっくに超えている!
なのにこの青年は、平然と立って胸の中で泣く少女に顔を寄せている。この異様な光景に放心した私は、ハッとなって、手を剣に伸ばそうとするとがしっと掴まれる。
「おやめなさい、貴方ではかないませんよ。」
「シャオドン様、、、、。」
「辺りをよく見て見なさい。」
そう言われて少し落ち着いたわたしは、首を動かしてみる。すると光が横切った。淡い光を放つそれは蛍の様に点滅し飛んでいる。一瞬奇麗だと思た。その一筋の光を目で追うと、少年の方へと飛んでく。
彼の体に触れた瞬間、光が薄く包む。その光景を見ていると、また一つ何処からか飛んできた光が彼の元へと向かい先ほどと同じように彼の体を光らせ。そしてまた一つ、また一つと集まって来る。
その数は次第に良くなり最後には床から泡が昇る様に光が舞い上がった。
「これは!!」
その様に驚いているのは私だけではなく、前に居るドウファン様も驚いている。
「エーテルを吸収している、いえこれは、、、、、!!」
光が形を作っていく、それは神秘的な光景だった。集まった光は二つになりその輝きが収まると剣と槍が現れた。
「さあ、ここからが本番だ!」
青年はその剣と槍にそれぞれ腕を伸ばす。もうあるはずのない腕がそこにあるかのようにその剣と槍をつかもうとする。
「いくぞ!フィオロス!クロトス!!」
そう叫ぶと、その剣と槍は再び光となり今度は形を変え細い糸のようになると、その糸は彼の腕へと巻き付くそして次第にその糸は彼の新たな腕となった。
いや!腕じゃない!その形状は人間の腕の形ではなく鎧の様になっていく。まるでどらがんの腕の様に蒼い輝きを放った鎧は彼の首元まで伸び止まる。
「フフフ!!まさかこんな短時間で覚醒するとは!」
「ケリだ!孟将軍!」
そう言ったとたん、風が爆発した。




