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第二章十三節


 私は今なにをしている。意識があるのかないのか自分が誰なのかどこに居るのか誰なんだろうどうしてなんだろう、どうして私は怒っているのだろう。

 目の前に映るのは黒い空と黒い地面、立っているのか倒れているのか横になっているのか、分からない、怖い、怖い、助けて、助けて、助けて、、、、、ヴァン、、、。

 

「ヴァ、、、ン、、、、、。」


 口に出してその名前を呼ぶ、私の大切な人、大好きな人、愛している人、私の全てを捧げられる人、、、、。

 頭に思い浮かぶ彼との日々、まだあって間もない時間しかたっていないにも関わらず、何十年も一緒に居たかのように長く感じる大切な思い出が、しだいに頭の中を流れて行く。

 それを辿りそして最後の景色が映し出される。


「ヴァ、、、、、ン、、、、、。」


 それは圧倒的な赤の世界、その中心に居たのは、私の大切な人、姿を見た途端に私は走り出す。彼なら私を助けてくれる。この怖い世界から救い出してくれると。

 声を掛けようと近ずく、しかし私の足は次第に遅くなる。そして最後には止まってしまい震えだす。よろよろと千鳥足になってつまずいて転んでしまう。

 バシャ!と水溜りに転んだように体中にかかる塗れてべとついた感覚が体全体を覆う、その気持ち悪い物を振り払おうと急いで顔を上げるとそこに立っていたのは赤く染まった彼の姿。


「ヴァ、、、!」


 その最愛の人の名前を叫ぼうとした瞬間に彼の体は崩れ落ち、その赤の世界の中に消えて行った。


「イヤ、、、。」

 

 ソレデワタシハリカイスル、リカイスルリカイスルワタシハウシナッタノダト。


「いやああああああああああああああああaaaaaaaaaaaayayayaaa!」


 私は叫ぶ、どうして、どうして、ドウシテ、ドウシテドウシテドウシテ。


「フフフ、いやはや、なかなかの一撃でした。」


 コエガキコエル、オマエカ!オマエカオマエカオマエカ!


「オマエ、カアアアアアaaaaaaaaaa!」


 静寂が支配した玉座の間は、今は見る影もなく地獄が広がっている。おびただしい血の海で膝をついていた少女は、その小さい体からは想像もつかないほどの威圧感が放たれる。

 蒼く美しい髪は、光を帯び逆立ち、特徴的な赤い角はパリパリと赤く放電する。金色に輝いた瞳は瞳孔が縦に細く伸びている。

 体にも変化があり、彼女のしなやか手足は燃え始めるとそれは形を取っていく。


「グアアアアアアアアア!」


 炎は彼女の体を燃やすかのように激しく輝き次第にその形を取っていく。


「いやはやこれは、可憐な少女かと思えば、、、とんだ獣ですね。」


 その様を見た将軍は余裕の表情で変わり果てて行く少女の姿を眺めていた。


『Gaaaaaaaaa!!!』


 咆哮と共その体は砲弾の様に跳んだ。


「!!!」


 油断なく構えていた孟将軍は驚きの表情で大刀を手に防御する。そして受けたこぶしの衝撃にもまた驚く。地に足を深くついていた体は地面を削りその衝撃に押される。


「ヌッフン!!」


 手にした大刀の角度を変えてその衝撃をいなすと、蒼い砲弾はまだ残っていた柱へとぶつかる。


「これはこれは、本当に驚きです。」


 飛んで行った方へ向き直り構えるとそう口にする。


「速さ、力、貴方はこの二つだけなら私以上です!」


 誇り舞う中から再び向かってくる蒼い砲弾は、先ほどよりも早く強く飛んでくる。当たれば人間は消し飛んでその燃えるような熱でたちまち蒸発してしまいそうな熱を感じさせるそれを、、、、。


「ですが!」


 迫り来る炎を臆せず冷静に上段から一振りする。


「それだけでは私にはかないません。」


 その一振りが彼女を鮮血の海へと沈めた。





 アイツの声が聞こえた。酷く悲しく深い怒りの声を聞いた。あの声に俺は聞き覚えがあった。それは初めて出会った時と、あの森でファフ爺と別れのきっかけとなった時だ。

 彼女は、泣いていた。いつも一人の時は泣いて悲しんで心を痛めつけていた。なら俺は、俺に何ができる。何もできない悲しんでいる理由もわかっていながら。

 だから俺は、側に居てやりたいと思った。なら今俺がやるべきことは!


『心は折れていない様だな。』


 懐かしい声が聞こえてくる。優しく包み込むような声が、俺に語り掛けてくる。


「この声は、、、、!」


『久しいなヴァン。』


「ファフ爺!生きていたのか!」


 目の前にあるのは光、蛍の様に淡い光が俺の目の前を漂っている。声はそこから聞こえてきていた。


『いや、今ここに居るのはただの残留した思念だ。本体はすでにエーテルとなりこの星をめぐっている。』


「そう、、か、、。」


 久しぶりに聞いた声の懐かしさに顔が緩む。たとえこの瞬間だけの出会いだけだとしても嬉しく思った。


『ヴァン、今の私にはあまり時間は残されていない、こうして声を届けるだけでこの思念は消えてしまうからだ。』


 声が一段低くなり、語る声は真龍にふさわしい威厳を感じる。


『ヴァンよよく聞くけ。神器とは意志その物、使う者の心ひとつでそのすべてが変わる。』


「意志、、。」


『そうだ、強い心と、揺ぎ無い意志がお前にあるか?!!』


 その声が俺に答えを求めてくる。これはファフ爺の声ではない。二つの無機質で感情がないこの声が、胸の奥に突き刺さす声がどこからか聞こえてきたのだ。

 その声が誰なのか俺はすぐにわかった。


「なら決まっている、俺はアイツを一人にさせる訳にはいかない。たとえこの世の果てへ落ちようとも俺はアイツの側に居続ける。そのための力を貸してくれ!フィオロス!!クロトス!!」


 その名を読んだ瞬間、目の前が開ける。今までの暗闇に光が灯る。一つ、二つ、三つ、、、、、、その光は次第に数を増やし世界は星空の海へと変わった。

 

「・・・・・・。」


 俺はその光景にいささかも動揺してはいない。ただ一点の光を見て、手を差し出すと、無数ある光から二つ俺の手の中に納まった。

 すると手の甲にはそれぞれ魔方陣が現れ、蒼く輝いている。


「ありがとう、お前たちのお陰で、俺はまだ立って行ける。」

 

 光を放つ魔法陣からは何時も俺が握りしめていた存在を今度は体の内側から感じる。


『無事、契約は果たされたようだ。』


「ああ、ありがとう、ファフ爺。」


 そしてその満天の星の下にある淡い光が点滅し側まで寄って来る。


『ならば行け!お前の意志を貫いてこい!』


「ああ!行ってくるよ!、、、、、、さようならファフニール。」


『ああ、さらばだ!ヴァン!!お前の道行きこの空の下から見守ってる。』


 ファフ爺のその言葉を最後に俺の体は一つの星となって流れて飛んでいく。あいつの側へ帰るために。光は流星となった。

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