第二章八節
ここは、城の最奥にある玉座の間、此処にはいつもこの国の象徴であり秩序である皇帝が座る場所。
普段は、国の合否を決める場所で国の重鎮たちが集う場所だ。
だが今、ここは普段の静寂とは違い、喧騒が支配している。
「西側の状況を知らせろ!」
「まだ、配置はできないのか!!」
「南門は閉鎖しました!ですが市民が押しかけて無理やり開けようとしている様子です!!」
「避難誘導はギルドを通して冒険者達に協力させろ!先ずは市民の安全を確保するんだ!」
「何!武器庫が開いている!」
「それは私が指示を出した。まずは城壁に兵を集中させる!魔法使い魔術師は、城壁側に集めさせろ!」
「紅月の軍艦は何隻いる!確認したのか!!!」
このように、この場所は今人が行き交っている。高価な服に身をつつんだ人物が、兵士達の報告を聞いては指示を出している。
その光景をただ黙ってみている初老の男がいた。彼こそラインハルトとハンナの父親でこのシュディオロス帝国のアルトロ・ロス・シュディオロス皇帝陛下その人だ。
紅月が攻めてきたのだ。先の戦争から半年、そろそろ何か行動を起こすとは思っていたが。
「王よ、報告します。」
一人の貴族が、その男に駆け寄り、手にした紙に書かれていることを読み上げる。
「現状、湖に突如現れた船団は合計5隻で、その船から何か黒い物が飛来し城壁に激突したとあります。現在被害は城壁の身になっていますが、激しい轟音で市民はパニックに陥り各所で怪我人が出ている模様です。」
「南門は閉めたのだな?」
「はい、敵の侵入を防ぐために南と東は完全に封鎖しました。」
「兵の配置は?」
「はい、順次配置に就かせています。現在も出来るだけの兵士を動員させようとしています。全部で二千は動員できますが、、。」
「そのうち半分は市民の避難と、場外の安全を確認しに行かせろ。飛翔騎士は?各都市にこのことは伝えてあるか?」
「はい、20のワイバーン騎士を使い各方面に援軍の要請を送っています。数日中に到着すると予想はしていますが。」
「それまでは今ある戦力で凌ぐしかないか。」
(だめだな、これは、、、、、いずれ包囲されこの帝都は落ちる。)
戦力差は圧倒的に不利、今からでは援軍も期待できない。このままではいずれ、、、、。
「報告します!!!!」
と決意をしとき、部屋に大声を上げて転がり込むように兵士が入ってきて皆手と口を止める。
「見、、皆、、、南門に新たな軍勢が出現しました!!!」
と声を張り上げる兵士に、その場に居た貴族たちは絶望して床にへたり込む。
「待て、、、どこの軍勢だ?」
「は!南に現れたのはカリオ公爵の騎兵です!それから、、、、、。」
「「「おおおおお!」」」
それを聞いた貴族達の顔に希望が戻り口々に歓声を上げ飛び跳ねている。だがその中でただ一人静かにその報告を聞いていた皇帝は静かに声を上げる。
「それから、、、、、、続きを申せ。」
報告をしに走ってきた兵士に問と、声を震わせ声を上げる。
「き、、騎兵の横には紅月の軍旗が上がっています!!!!!」
その声にまた先ほどの様に部屋の中は絶望が支配したのだった。
目の前には白い壁がそびえ立っている、堅牢な城壁は中にいる者には安らぎと安寧を約束され。外からくる者には絶対の拒絶を与える。
だが今この壁の内側に居る人々は外からくる脅威に絶望していた。その原因が正門の前まで現れる。とくに攻撃されることもなくここまでこれた集団から二つの騎馬が出てくる。
「将軍は大丈夫だろうか、、、。」
城を見上げる顔には不安と焦りと言ううよりは、はいつも側に居る人が居ないことからの寂しさからくるものだ。
それを横目で見ている人物がやれやれと声をかける。
「翠花殿、伯爵様も側に居ります。そう時間かからずまたお会いできますよ。」
彼女、黒いセミショートに髪飾りが特徴の美人があの猛将と片時も離れず何時もずっといることは、この分全員が知っていることだ。
いつも彼の後ろをついて回り、暑い日には水を用意し、手ぬぐいを私、軽食を用意するといつも甲斐甲斐しくしている光景を見ない日はない。
少し離れ離れになると見るからに気落ちして落ち込んでいるのが分かる。それをいつも励ますのがここ最近の私の仕事になりつつある。
「さあ、ここまで来たからにはもう終わりです。仕事を終えて将軍たちと合流しましょう。」
「そうですね。私は私の役割をこなさなくてはなりませんね。、、、、、、フゥー。狼煙を上げろ!」
後方の集団から少し紫掛かった色の煙が上がる。それをただ見ている先ほどの騎士、彼はこの国シュディオロス帝国に長く仕え、カリオ公爵のお世話役をしていた人物だ。
彼は今、すべてが終わったと思わせるように哀愁を纏う顔でそれを見上げる。この狼煙が昇ることの意味を彼は知っていた。
(これで、この国ともおさらばですね、、、、、。)
それは、今までの人生の全てを崩すよ行為だ。守るべき国を裏切り滅ぼそうとしていることに、心中穏やかではない。異教の計画、国を裏切ることを決意したあの日から覚悟は決めていた。だがいざその時が来たとたんに私は悲しくなる。
今まで、幾度もあった闘いの中で、国のために倒れて行った同僚たちの顔がチラつく。彼等はいったいなんのために死んでいったのか。
今私がここにいることが彼等がしてきたことの意味を消している。そう思うと私の背中は押しつぶされそうになる。
「さあ!始まりますよ!!」
一声で背中の重みは消える。紅月から来た若き将の一言が戦場を通り抜け、目の前にそびえる城壁の門が開かれようとしている。
すでに侵入している仲間に門の開閉を合図するために狼煙を上げたのだ。せめてもの救いは、この町で無用な血が流れない事だろう。
「どうやらうまく行きそうですね。」
「ええ、数か月前から忍ばせていた間者が仕事をしてくれたましたか。」
この計画は長い時間をかけて準備してきた。ハンナ王女の事件を始まりにして、各地で起こる農民の反乱や、盗賊の暗躍を先導しては、帝都の軍備を割いて手薄にし攻める。
そして極めつけはカリオ公爵の裏切り、いや、南部の貴族総出で反逆したのだ。元々中央の貴族達の傍若無人の行いに対立してきた地方の貴族達の不安が爆発したのだ。
カリオ公爵はその貴族達の先陣に立ち、紅月の軍と同盟を結び今こうして帝都を攻めている。
「さあ、行きますよ。」
翠花の一声で、ぞろぞろと兵士がその開かれた門の中に入る。私もそれに続いて二列になり城門を通る。
「大変です!」
そこで先行していた兵士が近づいてくる。その慌てふためく姿に、緊張が走る。
「どうした!」
駐屯兵の反撃か?ここまではうまく行っているここからは油断できない。数は少なくとも、地の利は向こうにある。それを生かし戦いを仕掛けられたらこちらも苦戦は逃れられない。
今後軍と塀の動きを考えようしていたが報告してきた兵士の言葉に一瞬で吹き飛んでしまった。
「街に人が一人もいません!!!」
静寂が今街を支配している。




