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第二章五節

「お待たせいたしました。」


 此処は、オルスの街から東に位置する山の山頂、そこに建てられた監視塔のような小さな砦の中の地下二階にある兵士達の詰め所、普段はここで集まり食事や談笑をするところ。

 普段は一般の兵士が過ごす場所であることからお世辞にも奇麗なところではない、取っ散らかった男子部活の部室と言った感じだ。

 だが今は、小奇麗にされ貴族が使うような豪華なテーブルにクロスが敷かれ燭台が飾られている。この岩作りの部屋で異彩を放っている。


「ご苦労だったな、ヴァン。」


 その一言に空気は震え、部屋の緊張が一段引き締まる。部屋とテーブルのミスマッチよりもこの王子の存在が一番異彩だ。

 そのの異彩の光を放つラインハルト王子の横には、ハンナ王女が座ってニコニコと笑顔を浮かげている。彼女もまた王族の名にふさわしい優美な姿で椅子に座りこちらを見ている。

 二人の存在感に圧倒され、茫然としていたが、俺は気を取り直し彼の横まで近づく。


「貴殿には、こちらの都合に付き合ってもらい感謝する。」


「いえ、此処の人たちは今何かと忙しいでしょうから、これくらいはお安い御用です。」


「貴殿の調理の腕は、ウラド伯爵から聞き及んでいる。一度食してみたいと思っていたのだが、まさかこんなに早く機会が巡ってこようとは。」


「そうでしたか、では菲才な身で王族お抱えのシェフに比べれば荒っぽい物ですが、、、、、。」


 両手に持ったフライパンを、王子と王女の前へ置く、俺の取った行動に二人は目を丸くして、控えていたハンスも驚き俺の行動を制止しようと出るが、、、。

 

「熱いですので、お気を付けください。」


 そう言って蓋を取る。むわっと湯気が上がり一緒に鳥の上質な香りと、しょうゆの焦げた香ばしい匂いが充満する。続いてフライパンからはジュウジュウと音が聞こえてくる。

 熱気のこもった湯気に二人はのけぞるが、鶏肉の焼ける匂いに、再び前を向と、二人は先ほどよりも目を見開いてその音に注目する。


「おお!」「まあ!」


 二人そろって感嘆の声を上げる。そこには輝いてつやのある物が姿を現す。


「これは、なんて料理なのだ。」


「コカトリス肉の照り焼きです。」


「コカトリス、先ほど我らに襲い掛かってきた魔物だな。」


「はい、、、、お嫌でしたか?」


 まあ、自分たちを襲ってきたモノを、目の前に食材として出されたのだ。ましてや、生きていた時の姿を目にしているので、想像してしまったのだろう。

 

「いや、私は問題ない。」


 軍に属していると言うことから、これくらいの粗っぽさに問題はないのだろう。

 そして、同席していたハンナ王女は。


「お兄さま!お料理から、湯気が出ています!とてもおいしそうです!」


 そう言って、目をキラキラと輝かせていた。それを聞いてほほ笑む王子とハンス。

 そうか、王族の姫だけに毒見から何かで、作ってから時間のたった料理しか口にしてこなかったのだろうと、俺は悲しくなる。


「ありがとうございます、ならこちらもどうぞ、熱いのでお口に運ぶときはよく冷ましてください。」


 俺は、ファナが持って来た鍋からお玉で皿に盛り付けた物を前に置いた。

 シチュー皿に注がれた琥珀色の液体と、色とりどりの野菜が入ったスープを置く。


「ケーリュケイオスのスープです。」


「うむ、見事だ!これほどの食材は王宮でも滅多には味わえない。」


「ありがとうございます。では冷めないうちにお召し上がりください。」


 そこからは食事が始まる。二人は肉を口に運び入れると、目を輝かせて初めての醤油の味を堪能する。

 ハンナは、初めての温かい料理に感動して美味しいと言って口に運んだ。

 俺は、アイテムボックスからエールの入った瓶、陶器で作られた白い物を取り出し注いでは渡す。

 その冷たいエールに目を白黒させ、一気に飲み干すラインハルト王子、どうやら気に入ってくれたようだ。

 ハンナ王女には、ディオス特製のブドウジュース。いくつかの甘味料を入れ甘く飲みやすくしたものを振舞った。

 最初は丁寧で、威厳のこもった雰囲気を出していた王子も旨い食事と暖かい空気に柔らかな表情で、会話するようになった。

 最終的には、そこに居る全員で卓を囲み笑いながら食事を楽しんでいる。酒が入ったのか、気の緩みから俺は王子と、ハンナはファナと楽しく身分を超えて親しくなる。

 こうして、その日の晩餐は好評に終わり。最後には、ハンスと俺とファナの三人も食卓を一緒に過ごし夜が過ぎて行く。




 



 晩餐が終わり一息ついたころ。ハンナ王女は就寝のために席を外し、それについてハンスもそれに続く。

 兵士達の食事も終わり、これからは交代で見張りに就くため砦内に散ってい今この場所には俺と、長椅子の一角で寝息を立てているファナだけだ。

 俺は食器や鍋を見て、食事中の王子達や兵士達の笑顔を思い出しにやりと笑う。作り手にとってはそれを喜んでくれる人が居ることが何よりの喜びだ。

 新作の照り焼きは好評だった。今度はエヴァ達にも作ろうかな。


「今日はご苦労だったな。」


 そんなことを考えていたら。背中から声を掛けられる。ラインハルト王子だ。

 俺は手を止めて振り返る。


「殿下、このような場所にどうかしましたか?」


「いや何、貴殿と話をしたいとおもってな。」


「ふむ、わかりました。」


 俺は、王子の対面へ座り、一つワインを取り出すとガラス製のコップにそれを注ぐ。


「お飲みになりますか?オルスで作られている100年ものです。」


「おお!貰おう。」


 そう言って、受け取って中身を改めると匂いを嗅いで口をつける。


「いい味だ。」


「これも一緒にどうぞ。」


 チーズとクラッカーを取り出し前に置く。チーズは円柱型でそれをスライスして、それをクラッカーの上に乗せる。


「うむ、ではまずは乾杯だな。」


「はい、、、何に乾杯ですか?」


「そうだな、では我らの友誼に!」


「そこは依頼の成功では?」


「それは先ほどの晩餐で済んでいる。私は貴殿を友と認めこれからは対等の立ち位置で話そう、こうしたプライベートな場では気さくに話してくれて構わなぞ、ヴァン。」


「、、、、、わかっよラインハルト。」


「うむ!」


 満足そうに頷いて、互いに手にしたグラスを打ち鳴らす。

 そこからは、互いに胸の内を開いて話した。この国でやっている仕事や、オルスの街に向かう理由とハンナが同行していることも含めていろいろと話した。

 互いに、酒は入っているがそんなに強いものではなかったのでお互い冷静に話していた。


「実はな、今回の護衛対象はハンナなのだ。」


 そう口にする。まあ、大体は想像できては居たが、暗殺?誘拐?聞くと。


「誘拐だ、、、。南にある大陸は知っているか?」


 確かローファン大陸という物があって、海を隔て船で十日の位置にある大陸だ。そこは今長い戦争があり今は二国が残って西と東で分かれているようだ。

 ラインハルトの話によれば、半年前に、その二国が協力して俺達のアーク大陸に侵攻してきたそうだ。最初は劣勢だったが帝国近衛軍と飛翔騎士たちの活躍で、何とか上陸は阻止できたが。

 この国が所有していた島、大陸より三日の位置にあるところが占領されているみたいだ。

 そして、その二国のうち一国がその島を占有して、もう一国がそれに反発し険悪な中になっているとか、その間に帝国は態勢を整え、島の奪還の準備をしているとか。

 そしてハンナだ、西の方にある国の王子が、帝国に交渉の席を設けて戦後処理をしていた時たまたま庭に出ていたハンナを見て欲したらしく、強引に奪おうとしたことがあったとか。

 その場は何とか収まったが、その後白の中には間者が入りこんでは、ハンナ王女を連れ去ろうとしたり学院の通学途中にも連れ去られそうになったことがあったとか。

 勿論、帝国の方でもそれを阻止しては、その国に抗議をした理の対策は取っていたと言う。すると帰ってきた答えが、島を返す代わりに王女をよこせと言う内容だったそうだ。

 さすがの帝国もそれはできないと、答えがまとまろうとした時、帝国の中で渡してもいいのではないかと言ってきた。


「それが、カリオ公爵、、、、。」


「ああ、王位継承権が低いハンナを材料に、友好を開こうとしているのだ。あいつめ、強硬策が通じないと分かると内側から崩しに掛かったのだ。」


 なるほど、それでここに。内輪揉めに巻き込まれないように連れてきたと。その公爵は、先の戦争では先陣を切って戦っていた。

 なぜならそこは公爵が管轄する領地で、国では侵略を押しとどめた英雄になっていたことから、周りも反対することに抵抗してい居たのだ。

 そしてここ数週間で城内は二つに分かれて今やいろいろと危ういと言う。だから今回、争いとは無縁なウラド伯爵の領地に匿うことになったのだ。

 ウラド伯爵は、ヘイズの森から出てくる魔物達の防壁となっているため国からいろいろと特権が与えられている。

 その中の一つが、あのオルスの街は帝国領であって帝国ではない扱いになっている。なので、あそこではいかなる貴族も手出しはできない。

 それを使い、帝国内でそれが収まるまでいてもらおうと言うことだ。

 だが、それでもネズミは何処にでも入るようで、オルスに居ても狙われる可能性もあることから、腕利きの護衛を頼んだことから、俺に話が回って来たと言うことだ。


「あいつ、ハンナは俺とは腹違いの妹でな。母親はある男爵家の次女でとても綺麗だった。実際には俺の家庭教師をしてくれていた人で、私も子供の頃はハンスと共に世話になったのだ。」


 大分酒が回ったのか、ラインハルトはそう言っては注がれたグラスの中身を飲み干すと静かに顔を机にと埋め。


「あいつは、物心がつく頃に母を無くし、それを引き取って男爵家は、彼女をぞんざいに扱ったのだ。」


 机に頬を乗せてそう語りだすラインハルトの声はとても辛そうだった。


「昔から狭い部屋に閉じ込められて、冷たい食事しか与えられずに過ごしてきたのだ。それを見かねた父が力と権力をもって、ハンナを引き取り、俺とハンスがともに育てたのだ。」


 ラインハルトの口調から、ハンナがいかに大切な存在であるかを語っていた。


「ヴァン、、、たのむ、、、、、、どうか、あいつ、、を、、、、、。」


 それを最後に、ラインハルトは眠ってしまった。寝顔は苦しそうで、頬には一筋の涙がこぼれる。

 よほど心配しているのか、彼がここまで頼むのだと俺は決意を新たにする。


「大丈夫だ、この依頼は俺の全力をもって完遂するよ。」


 そう言うと、ラインハルトの顔は少し和らいで、また頬に一筋の涙がこぼれるのだった。

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