第一章十三節
青く生い茂る草原の大地の中で、風を切って進む騎馬隊は強大なモノへ向かって走っている。
空気は重く圧し掛かり、その歩みを止めようと纏わりつく、しかし実際のまとわりついている訳ではない。手綱を握る彼女達は今死地へと向かっている。
この先には絶対の死が存在している。今の彼等は震える体で怯える馬達を御しながらなんとか進んでいた。
「目標までもう少しだ!攻撃準備だ!!」
先頭を走る、騎馬には白銀の鎧を纏い金の髪が走る風になびいて宙を泳いでいる。その声は凛とし後に続く者達を鼓舞するよう力強く檄を飛ばす。
その声に皆の顔付はキッと引き締まり己の締めを思い出す。手には剣を、弓を構え彼女が言ったように攻撃態勢をとった。
「解っているな!我々は囮だ!!アイツの注意を私達に向けさせる。私の隊は右に、シャルルの隊は左に。第一斉射をしたのちに二手に分かれる!いいな!!」
「「「「はい!!!」」」」
威勢を取り戻した力強い声が私の背中を押す。檄を飛ばし励まそうと思った私が逆に励まされたようだ。
正直恐怖が消えたわけではない、目の前にいるモノからは絶対的な絶望を感じる。エルフである私はそれを魔力で直に感じ取っていた。
圧倒的なものを前に、気は遠くなり足は固まっていた。出来る事なら今すぐ悲鳴を上げて逃げ出したい。責任もプライドも捨ててどこまでも遠くへと走り出したい。
しかし私は今ここにいる。なぜ?それは妹の存在だ。普段はめんどくさがりで調子に乗っては小さいことで失敗して。でもめげず明るく笑い力をつけ前向きに生きている妹だった。
今回もそうだ、最初は腰を抜かせ座り込んで青い顔をしていた。でも彼、ヴァン殿が現れ、その強大なモノに戦いを挑んでいた時、彼女は立ち上がりこういった。
「私達も行こう!」
そうして砦を飛び出していった。勝算があるとか役に立つとかそう言うことで駆けだしたのではない。強大なモノに立ち向かっていった彼を見て勇気を取り戻し駆けて行ったのだ。
それを見た私もそれに続くように駆け出し砦を出た。気が付けば後ろには側近の数十名が馬に乗りついてきた。ほどなくしシャルルに追いつくと、前方に轟音が鳴り響く。
ケーリュケイオスの全ての首が断ち切られ青白い閃光が空を走っているのが見えた。
その光景に私は思わず声を出し叫んでいた。倒した!やった!!これで助かる!!と思った。
しかし、そうはならなかった。なんと瞬く間に再生しているのが見えた。その光景に私は再び絶望してしまった。心は折れ体は固まり全身に重い何かがのしかかって来るかのようだった。
妹も、そして後ろに付いてきた部下たちも同じ気持ちだった。現実を見せられ意気消沈していた時轟音が鳴る。
私達の少し前に、何かが降ってきた。攻撃かと驚いて我に返り反射的に剣を引き抜いてその場所をよく見てみると人だ。人が飛んできたのだ、しかもそれはよく見知った人物だった。
それを見てシャルルは走り出す。私も釣られそれに付いて行くと彼の姿が目に入ってくる。体は傷つき腕はひどい状態で折れ曲がりとても痛々しい姿だった。
それでも、彼は立っていた。相棒のファナに支えられ剣を手にし燃える瞳で、前を向いている。その姿に衝撃が走る。
まだやるのかと、ここまでの傷を負っても全く恐怖している顔を見せない。それどころかさらに闘志を燃やし今にも飛び出そうとしていた。
「すまんが、二人の力を貸してくれ。」
そう言った。それだけで、その言葉を聞いただけで、私は勇気が湧いてきた。戦う力が湧いてくる。絶対勝てると、そう信じさせられる目で私をまっすぐに見つめてくる。それで私の絶望と恐怖は消え去った。
それで今私はここにいる。目の前の恐怖を倒すために。目標は巨大でここからでも見上げるほど大きかった。距離的にそろそろか。
「攻撃準備!!先ずは当てろ!!私達に注意を引き付けるんだ!!」
数十名の騎士たちは、手に弓を構え、あるものは手のひらを前に突き出すようにして魔法を放つ用意をする。準備ができたようだ。
「いまだ!!放て!!!!」
号令と共に、一斉に放たれるやと魔法。魔法はいろいろ、火や水、氷と言った多種多様の魔法が走る。弓を持った者も同じだ。矢先には魔力が宿り色が付く。
魔法と同じように空を駆け目標を穿とうと走る。やがて命中した。ドドドドドッ!と爆発音が響く、ここにいる騎士たちはみな上級魔術師クラスの魔法が使えその威力も高い。
しかしケーリュケイオスには聞いていない、まるで歩いている途中で、羽虫に体当たりをされたかのように少し首をひねって気にしないように進んでいる。
まったく効かないのは解りきっている。たとえ私達の攻撃が羽虫程度だろうと、それが大群だったら手で振り払おうとしてくる。それが私達の狙い!
「左右に展開!後はあるだけの全てを奴にぶつけろ!!!」
数十の騎馬隊は二つに分かれそれぞれが得意な魔法を打って打って打ち続ける、やはり攻撃は効いていない、それは分かっているんだ。だから早く私達の方を向けうっとうしいと睨みつけろ。そして手を上げろ、そうすればお前は終わりだ。
次第に二つの騎馬隊はケーリュケイオスの側面へと走る、首はそれを追って二つに分かれ、九つの首は鬱陶しいハエを叩き潰そうと首を左右へと伸ばしてくる。そのおかげで進行は止まりケーリュケイオスは動きを止めた。
「隊長、奴の動きが止まりました!」
「よし!このままアイツの射程範囲外まで後退するぞ!!」
距離を取ろうと背を向け走り出す。長く太い首が5本こちらに延ばされてくる。それは長く何処までも伸びるかのようにズズズズと空気を震わせながらこちらに向かってくるのがわかる。
大分距離も取れただろうといったん後ろを見る。そこにはまだこちらに伸びてくる首があった。どこまでもそして限界がないかのようにその首は私達めがけて伸びてくる。
「あいつ、どこまで届くんだ、、、、、、走れ!まだアイツの射程圏内だ!!」
死が迫って来る。確実に私達の絶望が口を開け迫ってくるのだ。その恐怖に再び体が止まろうとする。頭にはただ走るだけだ、出来るだけ遠くに走ることしか考えられない。
(怖い、胸が締め付けられる。怖い、怖い、怖い、私死んじゃう、、、。)
ここに来たことを後悔し始める。なんで私がここにいるんだろうとそう思ってしまう。諦める疲れる、生きることに疲れてくる。極限の恐怖が絶望が生きていたいと言う力を吸い取っていく。
諦めよう、もういい、と思い始めた時風を感じた。優しく頬を撫で全身を吹き抜ける優しい風が私に生きる力を与えてくれるかのように心を包み込む。
ハッとなり顔を上げる。視界が広がりより明確にその風の正体を感じ取る。風ではない魔力だ。濃い魔力が私の周りを突き抜ける。そして気が付くこの魔力がどこから来るのか、一体誰の物なのか。
視線を動かす。居るであろうこの魔力の元となっている人物の場所を。そこには轟々と鳴り響く風が舞い上がっていた。
「ファナ、いいな?」
「少しきつい、、、、、でも大丈夫。」
今俺達は、死力を尽くしている。体に残っている力を出し尽くし手にしている神器にありったけの魔力を注ぎ込んでいる。
俺の右手には剣のフィオロス、そしてファナの右手には槍のクロトスが握られていた。
「ぶっつけ本番だったけどうまく行ったようだな。体に変化はないか?」
「うん、むしろ調子がいい、これなら全部を出せるかもしれない。」
神器は本来それが認めた或は適性がある者にしか扱うことが出来ない。そうでない者が使えばたちまち魔力や生命力といった物を根こそぎ奪い死んでしまう。
しかし今ファナはそれを扱っている。それは俺とファナが命を共有しているからだ。確証はなかったが同じ命と言うことはお互いが繋がっていると言ううこと。
魔力の質も俺と同じだならば使えるのではと前々から考えてはいたがうかつには試せなかった。
今の俺は左手が使えない、両方の武器を扱うことはできず全力の魔力を出すことも出来ないでいた。俺の力を剣のフィオロスだけに注ぎ込むには力が足りなかった。
なので一本をファナに持ってもらいお互いの魔力を合わせることにした。そのおかげで俺達の周りには今まで感じたことのない魔力が渦巻いている。
轟々と鳴り響いて渦を作りだす魔力の竜巻が唸りを上げている。これなら倒せるだろうこれで倒せないならそれこそ総力戦、オルスにいるすべての力を結集して戦うしかない。
「ヴァン!あれ!!」
ファナが何かに気が付いたように前に目を向ける。そこにはケーリュケイオスの首が左右に延ばされている光景が目に入る。
どうやらうまく動きを止めてくれたようだと、しかし想定外のこともあった。首が伸びているのだ。
一本がそれぞれさっきまでの倍近くの長さがあったことに驚く、すべての首がそうではないが、両脇に伸びた一本がドラムに魔れたホースを伸ばすようにどんどん伸びているのが見えた。
「どうやら時間はあまりないようだ。いくぞ!!!」
「うん!」
そう言って点に掲げた二本の神器を振り下ろそうと腕に力を籠める。
「「チェリあああああああああああああ!」」
掛け声と共に力いっぱい振り下ろされる。瞬間剣先に魔力が集中する。フィオロスとクロトスの刃先が重なりそこから斬撃の渦が飛び出していった。
衝撃のすさまじさに一瞬足が折れかかった。それを腰に手を回していたファナに強く抱かれ踏ん張ることが出来た。添えrで無数名とるは後ろへと電車道を足出る作ってようやく止まる。
斬撃の渦は地面を抉りながらケーリュケイオスの胴体へと進んでいった。竜巻が横に発生したらこうなるのだろうと思った。
しかし実態は違う、その渦は刃だった。先ほどヴァンが放った渾身の一撃、ケーリュケイオスの首を全て切り伏せた斬撃を竜巻のように回転させそれを何枚も折り重なったまさにドリルのように突き進んでいる。
ゴガガガと突き進め刃の竜巻はケーリュケイオスに命中する。その様は圧倒的だった。何の抵抗もなく刃の竜巻はその体を削りやがて森のまで突き進んでいた。
悲鳴、形容しがたく理解できない悲鳴が鳴り響く、耳の奥が痛くなるようなその声はやがて消える。残ったのは澄んだ風が優し吹く空だけが残っていた。
「終わった、、、、。」
「うん、、、、、たおした、、、。」
お互いが顔を見合わせ笑った。喜びはない、だが達成感は感じる。俺とファナ二人がいれば問題ない。
お互いは信頼し合い、愛し合って心を通わせた。その力の前に絶望はなかった。俺達はやったのだ。
安心した、途端俺達は地面へと倒れ込む。すべてを出し切った達成感と一緒に疲労も出てきた、もう心配事はないそう思い俺達は深くまぶたを閉じるのだった。




