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第一章九節

「なるほど、、それで連れて帰って来たというわけだな。」


「ええ、これも縁かなと思いまして。」


 ここはオルスにある家の中、正面には白髪の初老の男性ディオス元大佐、顔には皴があり見るからにおじいちゃんと言った優しそう顔をしているがその瞳を見れば彼が歴戦の強者だと理解する。

 その強者に見られると深く底の見えない深い緑の瞳がすべてを見抜かれるようなそんな感覚に落ちてしまう。今も、目の前に座っているアスラに目を向けて、腕を組みじっと見ていた。


「しかし、あんたも災難だったな。隣の宿から出た火で家が燃えちまうなんてな。」


 バルダス、この家では2番目の年長男性で元は神聖スラヴィアナ帝国で兵士をしてエヴァの副官をしていた、金髪碧眼の壮年の男性で無精髭を生やした親父と言った風貌をしている。彼は手でその髭を撫でながらアスラの隣にいるもう一人の男性にそう声をかけた。


「へい、、、、、、。」


 その男性は力なく答える。その顔は暗く陰り幅広い肩幅は縮こまり背中も丸くなっている。彼は、俺達がギルドを出た時に寄った屋台のおやじでトトロスと言う。彼は昼間に見たあの豪快な笑顔ではなく、暗く沈んだ表情をし見る影もない。

 あの時の親父がなぜここにいるかと言うと、あの後、マナトミナがギルド内に駆け込んだ後、アスラ達が泊まっている宿まで付いて行った。そこで見たのは、黒く焦げて完全に崩れている建物、その前にはその建物の持ち主たちが力なく膝ををついていた。

 その中に一人見知った顔がいたので、声をかけると、呆然と言った感じで、泣いていた。出火元の宿の隣に立っていた家でそれなりに大きい物だったがもらい火で完全に消失してしまっていた。


「まあそれで、見て見ぬ振りも出来なかったし、知らない中でもなかったしな。とりあえずは今日の寝床を用意すると言うことで連れてきた。」


「ヴァン殿が問題なければ、私としても反対する理由はない、、、しかし今日は濃い一日だったようですな。」


 と、バルダスがけらけらと笑いその手に持っていた酒瓶をコップに移して飲み始める。

 確かに普通にいけば森の中で草取って報告して終わりののはずの一日が何でこうなったかなと思う。


「まあ、とりあえず今日はここまでにしよう、みんな疲れているしな。」


「そうですな、これからのことも含めて我が家でゆっくりとお寛ぎいただこうではないですか。ささ!先ずは一杯。」


「申し訳ない、、、。」


 いつまでも力なくうなだれているトトロスの親父さんは、バルダスに進められコップを手に取り中身を飲み干す。


「やや!豪快ですな!、、、災難でしたがひとまずは生きていたことに感謝しなくては。そのためには飲んで食って騒いでそして明日のことは明日考えましょうや、ね!!」


 今にも死にそうな顔をしていたトトロスに、バルダスは励ますように酌をし続ける。それにこたえるように、次々と注がれたコップの中身を空にしていく。

 その様子に、俺やディオスもあきれて苦笑していた。しまいにはアスラまでもその輪に入り今や三人で騒いでいた。これはつまみでも出すかな。

 とアイテムボックス内にある作り置きの料理を全部出すと。おお!と飲兵衛達が手に取りそれ口に運びながらまた酒を飲みさらに騒ぎが大きくなる、するとそれを聞き付けた他の仲間たちがそれに混ざりだし昨日と同じように宴会が始まる。

 

「何を騒いでいるんですか?」


 部屋の入り口では、風呂から上がったエヴァを筆頭に女性人達がそれを見て眉をひそめていた。


「話し合いが終わったらこうなった。」


「まあ、大体想像は付きますが、、、、、お風呂空きましたよ。」


「ああ、わかった。」


 そう言って、騒いでる一団に目をやると、アスラも、トトロスも赤い顔して豪快に笑っているのを見ると少し安心した。

 冒険者のアスラにとってはそれほど痛手ではなかったようだが、一軒家を燃やされたトトロスは絶望しただろう、今は暗い気持ちを吹き飛ばすように笑ってはいるが、その心中は穏やかではないはずだ。

 今はただ飲んで食って寝て、、、、、それで少しは元気になればとそう思った。


「あれらはしばらく構わないでおこう、、そっちは?大丈夫だったか?」


 エヴァと一緒にお風呂時は言っていたのは。うちの女性陣はじめ、アニラとミナとマナの冒険者三人とトトロスの奥さんでリスダと言うう人も一緒だった。

 彼女も、トトロスと同じく顔を暗くして今にも死にそうな眼をしていたが、、、、。


「はい、大丈夫です。主人共々お世話になります。」


 エヴァの隣に立つ40代くらいの女性が、深々と頭を下げていた。

 見るからに少し、気落ちしてはいるが、あの火災現場で座り込んでいた時よりは随分とマシになった様に思える。


「まあ、部屋は余っているのでとりあえず今日はお休みください。ポロナ、案内頼むな。」


「了解っす!」


 そう言って俺はろーかを歩いて風呂場へと入る。この家の風呂は一つで銭湯くらいの大きさがある。この家の下見の時にこの風呂場を見て瞬間一目ぼれしてしまった。

 床は大理石、浴室も同じもので出来ていて、一つの石をそのまま削り出したように継ぎ目もきれいだ、この家のには小さな風車があり、そこから水を張ってから魔道具で湯を沸かす。

 お湯を沸かす魔道具は、魔物の魔石か、自身が魔力を流し込むことで起動させることが出来る。この家には高魔力保持者が多くいるのでその点は問題なく使うことも出来る。

 魔石に至っても、Dランクの魔物の魔石が二つあれば起動できた。なので、水さえ張ればここの風呂場は毎日入れると言うことだ。

 個人的には大いに助かる。と言うかとてもうれしい。やはり一日の終わりはゆっくりと湯につかって疲れを取りたいものだとしみじみ思う。

 

「ヴァンさん、お疲れ様です。」


 風呂場に行くと数人の男達が入浴の準備をしていた。女湯の時間が終わり今は男湯の時間になっている。


「はい、お疲れさん。」


 俺も近くに置いてある籠に衣類を脱いで、入浴の準備をして浴場に入る。

 中は湯気が立ち込め暖かく湿った空気が息をするたびに喉を通って肺に入る。石鹸の優しい香りが心を落ちつかせせてくれる。

 体を洗いいよいよお湯の中へ入る。


「う、、、はぁぁぁぁっ、、、。」


 体全体に染み渡る温かさが心地いい、今日一日の疲れをお湯で洗い流すように肩までつかり目を閉じる。

 今日は本当にいろいろあった。ギルドに行って、依頼を受けて、森で採取と、、オーガの群れと戦ってアスラ達と出会い、ギルマスと出会い、家を焼け出されたトトロスと出会って。


「濃い一日だったな~。」


 さて、今日はとても大変だった、それに尽きる。今後も含めて今は休もう、そして明日のことは明日考える。

 天井を見上げ静かに目を瞑り頭を空っぽにして、今はただ体全体で感じている温かさを堪能するのだった。


「失礼しますよ。」


 隣に誰か来たようだ、見上げた目線を向けると、ディオスがタオルを手に隣に座っていた。


「ああ、いいですな、風呂と言うものは。私達の国ではあまりない文化です。」


 そう言って手で顔を洗い肩まで湯につかって背を壁へとあずけ目を細める。

 風呂に入り一息ついている彼の姿は、銭湯とおじいちゃんと言う一枚の絵が頭に浮かぶほどしっくりとくる。

 しかし、その体にはおじいちゃんと言うには不釣り合いの傷が無数に走っていた。それを見れは彼も戦士だったのだと改めて思うのだった。


「向こうはどうですか?」


「あいつらならあのまま朝まで騒いでいそうですね。まあ、バルダス以外は今日は大変だったでしょうからいいのですが、、、バルダス以外は。」


 そう苦笑し、改めて風呂を堪能するべくその身を深く浴槽に沈める。足先から首元までお湯の温かさが伝わり頭の中がふわっと軽くなっていく。


「しかし、あなたも物好きですね。」


 そのふわっとした心地よい感覚を堪能していたらディオスにそう話しかけられた。言われたことの意味を悟り俺は目線だけ向けて、、。


「まあ、見てしまったからにはね、ほっとけませんよ。」


「あなたは何時もそれだ、このままではいずれ助けた人の重さに潰されますよ。」


 そう言って真剣な顔を俺に向けてくる。彼なりに心配してくれているのが分かるがこればかりは俺の性分だと思い改めて答える。


「まあ、ご忠告はありがたく。でも考えがないわけではないんですよ。彼らを助けたのにも俺なりに利益になるかと思ったからです。」


「利益ですか、、。」


「ええ、まあ、簡単に言えば情報です。彼等はこの町で長年生きているならこの町での暮らし方を知っている。それを教えてもらおうと思ったんです。そうすれば俺達にもプラスになるはずです。」


「なるほど、、、。」


 ディオスは少し考えるように目を瞑り押し黙る。彼は長く生きているだけあってこの集団内での役割は理性だ。複数人の人の考えを聞いて整理し結論を出す。

 彼の人生経験が俺達の行先をうまく導いてくれた。森の中でも俺達を先導してくれたしここでも何かしらの道を示してくれるはず。

 ならば、俺が用意するのは、彼が判断できる多くの情報だ、そして体と心を安らげる場所、そうすればこの集団はうまく行くと俺は彼と共に行動してきて分かったことだ。


「ヴァン殿、、、、一つ私もやってみたいことがありまして、、ご相談に乗ってもらえませんか?」


 そう言ってきた。俺はその考えを聞いて賛同した。彼は満足そうにうなずいていたのだった。








 翌朝、風呂の後俺はすぐに寝床へと入った。慣れない環境に想像以上に疲れが溜まっていたようで目を瞑るとすぐに夢の中だった。

 それほど眠ったという感覚はないが体はしっかりと癒せたようで軽く感じる。背伸びをしいざベットから起きようと動くと、手に温かい感触が当たる。

 見てみると、ファナが寝間着姿で俺の隣で丸くなっているのが見える。いつの間にか潜り込んでいたようだ。

 秋中頃の今気温は低く、朝になれば肌寒く感じる。その寒さに耐えかねて、俺の寝床に来たのだろう。


「うん、、、、。」


 優しく頭をなでると、安心したよな顔で体を丸めまた深く眠りについたようだ。ファナも昨日は大変な一日だっただろう。知らない人の目にさらされて心身ともに疲れたのだろう。

 思えば当区に来たものだと思い。森の中での生活を思い浮かべる。彼女自身これまで苦難の道のりだった。この町で幸せに暮らせればとそう願う。

 崩れた布団を掛け直して俺は着替えて部屋を出る。外へと向かうとまだ薄暗い空と目の前にはテニスコート位の庭がありその端の方へと向かう。


「今日も晴れそうだ。」


 見上げた空はまだ暗いが東は少し明るくなっている。空にはまだ星が光り輝いていて雲は一切ない。それだけで今日は快晴だと分かる。

 

「さて、始めるかな。」


 アイテムボックスから、剣のフィオロス、その剣と同じ刃の形と長さの槍であるクロトスを取り出し、いつもと同じ、日課である鍛錬を始めた。

 左に槍のクロトス、右にフィオロスを手に刃を振う。剣と槍の二刀流は、左右で違う重さの武器をうまく重心を動かしバランスを取る。

 安定し体を振り回し、剣の切っ先に力が乗る様に、標的の肩と顎の間に刃が通る様に剣のフィオロスを振う。槍も同じく喉元を穿つように突き刺す。二本の武器を交互に動かし一つ一つの動作をつなげていく。それを何度も繰り返し徐々に早くななっていく。

 シャオン!シャオン!二つの刃が音を鳴らせる。その音は風を切り空気さえも切り裂くほど鋭い音になっていく。

 調子よく振られるフィオロスとクロトス、その音に俺の心は次第に落ち着き感覚が鋭くなってのを感じる。すると視界の端に人影が見えた。エヴァだ、俺は一通りの動きをした後動きを止め息を吐く。


「お邪魔しましたか?」


 動きを止めた俺にそう声をかけてくる。


「いや、人桃李終わったところだ、、と、おはようエヴァそのれにシアン。」


 そう言って、エヴァの後ろに立っている獅子の獣人でAランク冒険者のシアンへ声をかける。


「はい、おはようございます。相変わらず朝が早いですね。」


 そう言って俺の顔を見てくるエヴァ手には手ぬぐいを持ちそれを差し出す。


「ありがとう、二人も鍛錬か?」


「ええ、そうですよ。昨日の夜話す機会がありまして私から是非にとお誘いしました。」


 どうやら同じ女性同士上手くいっているようだ。とシアンの方を見るとなぜか微動だにせず俺を見ている。


「どうしましたかシアン?」


 先ほどから何も言わない彼女に気づいて声をかけるエヴァ。


「いや、なって言うか、、、。」


 その顔は驚きと言った感じで目が見開かれている。


「凄い物を見た感じ。動きはキレイなんだけど、、、なってゆうか出鱈目だな!」


 ひどい言い草だ、と眉をひそめる。


「ねえ、彼の剣筋を見れば出鱈目ですよね。」


 エヴァも彼女の言葉に同意する。


「いや、なんて言うか、、、正確すぎるんだ、まったく同じものを見せられているようで、すごく不思議なんだ、、、上手く言えないが、、、、出鱈目なんだよ。」


 俺は肩を軽く上げほっとけと言わんばかりに苦笑いを浮かべる。


「まあ、二人とも仲良くなれたようで、何よりだ。」

 

 二人が俺の態度に対し笑いあっている。年が近いこともあって仲良くしているようだ。


「ヴァン、聞きたかったことがあるのですが、彼ら、、トトロスさんでしたっけいったいどうするのですか?」


「それについては考えがある。まあそれは皆が集まったらかな。」


「解りました。ではその時に、、私からもお話がありますから。」


「分かった、じゃあ俺は上がるよ。」


 挨拶をして彼女達に背を向ける。後ろからは掛け声と剣のぶつかる音が響いてきた。

 剣の音からお互い本気ではやっていない様だ、聞いていて気持ちいい音を二人とも鳴らしているの。

 次第に激しくぶつかる金属音を背で聞いて俺は、腹を空かせて来るだろう二人を思い朝食の献立を頭に受けべるのだった。








 朝食を終え食堂にはこの家に住む全員が集まっていた。


「さて、今後について改めて話していこう。」


 一同を見回すと、ディオスとエヴァその横にバルダス、後ろにはポロナ初め神聖スラヴィアナ帝国の兵士たちが立っている。

 左を見れば、アスラとシアン、ミアマナの双子が座り、そのまた横にはトトロスとリスダが席について俺を見ていた。


「まずは皆がこの町で何をしていくかを決めようと思う。まあ、俺とファナは昨日冒険者として登録して初仕事を終えてきたわけだけど。」


 どん!と俺はアイテムボックスから昨日もらった報酬を全部乗せる。中には白金貨が20枚入っていた。

 それを見たディオスたちが目を丸くして驚いている。それだけ中に入っていた金額に驚いたようだ。


「昨日一日でこれくらい稼げた。なのでまあ、みんなが暮らしていける分には問題はない。」


「ちょっと待て!」


 そこでアスラが、声を出す。


「言っておくが昨日のあれは異例中の異例だからな。そうそう昨日の様に稼げるわけではないぞ。」


 そう言って、アスラ他シアンたちが頷いている。


「ああ、だから俺達は突然入る高収入を当てにせず、毎日少しずつしっかりと収入を得られるものを俺達で始めようと思う。この金はそれを始めるための資金に使う。それで、その方法だけど、、。」


「ここからは私が話す。」

 

 そう言って席を立つのはディオス。


「昨日ヴァン殿にも話したことだが、私達で店を開こうと思う。」


「店って、何をやるんですか?」


「私は仕事を引退したら店を出そうと思っていた。まあ、小さな酒場みたいなところで、余生を送ろうと思い準備を進めていたが、、、まあ皆も知っての通り今私達はここにいる訳だが。」


 そう、昨日の風呂場で相談されたのはこのことだった。任務中に戦死扱いで国から切り捨てられた彼等は自分自身の夢や未来を諦めなければならなかった。

 ならば、今ここでその夢をかなえようと、ディオスはそう言っている。

 もちろん俺自身も賛成し、彼が店を持てるように支援もしようと、、昨日風呂の中で話し合い彼は自分の店が持てる足掛かりができたことにとても喜んでいた。


「ま、そうゆうわけでディオスさんとほか数名は、飲食店の経営をしてもらう。そこで、、、、トトロスさんにお力をお借りしたい。」


「おう!旦那には大変世話になった、俺でよければ力になる!」


「ありがとう、まあ、トトロスさんにはこの町での物流に関していろいろと教えてほしい。酒や、食品あとは食器類とかそういったものを仕入れるルートや商人を紹介してほしいんだ。もちろん報酬は出す。」


 そう、昨日家を火事の貰い火でなくした彼らを俺がこの家に止まるように勧めたのがこれだった。ディオスが店を出したいと昨日の夜相談を受けなくとも、何かしらのお店を出そうとも思っていた。

 有志を募って、屋台か何かをやろうと最初はそう思っていたが、店を開きたいと言ってきたディオスにこの剣のすべてを任せることにしたのだった。


「まあ、そんなわけでこの家の収入源を一つ、確保する。その他にも考えはいろいろあるが今日はそのことを。」


「あの、よろしいですか?」

 

 途中エヴァが手を上げている。


「私からも一つ、提案と言うか決めやことをお話ししようと思いまして。」


 そして、彼女は自分の考えを話し、俺はそれに同意したのだった。

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