序章第十節
夜、月が頂点に差し掛かるころ。俺は一人森の中にいた。日課の鍛錬をするためだ。
アイテムボックスから、槍を取り出す。見た目はシンプルな作りで、穂先が剣のように長くなっているそれを取り出し構える。
鋼鉄の柄に穂先で不思議と手になじむその槍で日々の鍛錬に使っていた。
いつもの場所、いつもの槍を使いいつもの動作で鍛錬を始める。同じ動作を何回も繰り返す。しかし今日は集中しきれていない、原因は分かっている。
「フッ!フッ!フッ!」
いつもより集中できないでいるのは昼間のファナの顔を見たからだ。彼女の生い立ち経験してきたことは俺の想像を超えた恐怖を味わってきたのだろうと思わせる顔をしていた。
ファナは強くなった。初めて出会ったころに比べて段違いの実力をつけた。しかしそんな彼女の顔はいつも不安が浮かんでいた。
(ファナを安心させたい俺自身にいったい何ができるのか。)
この数ヶ月、一緒に暮らし、ファナとの距離は縮まっていると思うそれに俺を慕ってくれている。だから俺は、彼女の頼りになれる存在になりたいと、守りたいとおもったから
(もっと!力を、、、、。)
そう思い、つい力が入ってしまう。一つ一つの振りや突きに力と気合を込め打っている。今日の槍の音はどこか乱れている音だった。
森から音が聞こえる。この音はヴァンがいつもの場所で鍛錬をしているときの音だ。
そして私はこの時間になると本を読む、この家にあった本を毎日繰り返し読むことが私の日課だ。
初めここでの慣れない生活や鍛錬の日々に私は疲れ、泥のように眠っていたが、ある日の夜に不意に目が覚める。
疲れた体を起こし水を飲もうと扉を開けると音が聞こえてきた。その音を確かめるべく外に出て森に入ると、彼がいた。必死に槍を振っているヴァンの姿が。
槍の一振り一振りに私は見惚れてしまった。とてもキレイだと、そして彼の顔が目に入る。大粒の汗がびっしりと浮かんでいることに気が付く。
(いったいあの人はどれくらいの時間ここで、、、)
槍に一振りを繰り返ししている彼の姿はまさに鬼気迫るものだった。ヒュン!と繰り出されるそれはとても恐ろしくなった。まるで、彼の目の前に立って的にされているような恐怖が遅い背筋が寒くなったのだ。
私は怖くなり逃げるように走って、ベットに潜り込む。そして思ってしまう。私は彼に迷惑をかけているのではないかと。
彼の事情はファフニール様から聞いて知っている。魔人で転生者、ここでの生活は彼のために用意された時間だからその邪魔をしているのではないかと、私自身が彼から時間を奪っているのではと考えてしまう。
そして思い浮かんでしまう、彼の顔が頭から離れない、その日は眠れない夜になった。
「ヴァンさん、本を貸してください。」
次の日から、私は本を読み始めた。夜に鍛錬をするのは体力的に厳しく思い、知識をつけることにしたのだ。
料理はもちろん、食料の種類や動物や魔物の解体の仕方などの知識をすべて学ぼうとそして少しでも彼のために何かをしようと。
(少しでも恩を返せるようになりたい。)
今まで自分のことしか考えていなかった。私を鍛えこの場所で生活して食事を用意させてもらって。ただそれだけの自分がとても情けなく恥ずかしかった。
私は彼の力になりたい。今の私はなにもできないことがほとんどだけど、お礼と恩を少しでも返せるようになりたい。
そしてその日から毎晩この時間は本を読んでいる。繰り返し読み続けている。
夜の空、雲は風に吹かれて動く。しかしその風に逆らい進むものがあった。雲の上を行き、悠々と飛んでいるそれは、月明かりに照らされて銀色に輝いていた。
「少佐、準備はよろしいですか?」
暗い部屋の中、初老の男性が青い服の女性がに声をかけた。
「ええ、問題ありません艦長。」
部屋の中は暗いが次第に月明かりが入ってくるとその姿を映し出す。青い服に白いバラが刺繍されていて。手と足には鎧、そして腰まで伸びる銀の髪が月明かりで輝いて見えた。
声も、凛としたもので、不思議と耳の奥へ届く。誰が見ても美人で気高いその姿はただ静かに窓の外を見る。
外には森が見えた、一本の大きな木を中心に広がる森が眼下に広がる。
「目標が見えました!」
「よし、総員位置につけ!!後ろの艦は付いてきてるな。」
「はい、問題ありません!!。」
「よし、総員降下開始!!」
カンカンカンカン!
鐘が鳴り響く中、人が動く、怒号が飛び交い整列する軍人、紺色の服に背嚢と、マスクをつけている。大きな扉から一人ずつ飛び降りていく。
「では艦長、ここをお願いします。」
銀の髪の女性は部屋を出ていく。その動き一つとっても見惚れてしまいそうになる挙動で、部屋を出ていく。
「お気お付けて、銀月殿。」
「そちらも、ご武運を。」
こちらに振り返りそう挨拶をした。




