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序章第一節

 暗い電灯の中で帰路に就くために歩いてた。

今回のバイトも今日で終わりか。次を探さないと。と考えながら道を曲がると

どん!

「気を付けろ!」

男の声を聴いたような気がする。地面に倒れたがなぜか起き上がれない。

よく見ると胸のあたりに赤い染みがついていた。それが自分の血だとわかるころには。

もう何も考えられないでいた。痛みも寒さも暖かさも何もかも暗闇の中に沈んでいく。


--------------------------------------------------------------------------------------------------

 鳥の声が聞こえる。目覚まし時計のけたたましい音や携帯の無機質な音とは違い、穏やかで朝の目覚めには最適で最高な音だった。

 覚醒しようと目を開けようとするが、しかし思うように開くことが出来ない。ならばと手でまぶたをこする様に動かすが全く動かない。そのことに違和感を覚えた俺は半覚醒のまま目に力を入れ強引に開けると、その眩しさに眩んでしまい光を遮ろうとまた手を動かそうとするが全くと言っていいほど動かない。さすがにおかしいと思い、くらんだ目で自分の体を見て驚愕する。


「なんだこれ!」


そこには体全体に木の枝や葉が一本一本巻き付いている。その異常性と草の感触にびっくとなって思わず体に力が入ってしまう。すると強固と思われた木々の枝や葉が何の抵抗もなくブチブチっとちぎれて上半身が動くようになった。

しかし、体半分がまだ抜け出せずにいる。ここぞとばかりに体に力を入れると、自分に巻き付いていた木や葉から軽快な破壊音が響く。抜け出せたと思ったその時、俺の体は宙を舞った。


「なんだこれはああああああああああああ!」


 本日二度目の絶叫、体の浮遊感によって重力に従い落下しているのがわかる。足が付かず、胃の中が裏返る感覚を強烈に感じ取る。そのまま俺は目をつぶり次に来る衝撃に備える。いったいどれくらいの高さから落ちたのかは分からないがこのまま地面に激突すれば間違いなく死ぬと思った。落下している時間が長ければ長いほどそれは確信に変わる。俺はこのまま死んでしまうと、落ちる中でそう思ってもう諦めた時。

 ドッパアアアアン!と全身に鋭い痛み、そして冷たさを感じた。一瞬死んだのかと思ったが冷たさを感じたことで俺の頭は完全に覚醒する。カッと目を見開くも、そこが水の中と認識するのに少し時間がかかった。見えるのは暗い景色と、線になって伸びる光。それを認識して俺は息を吸おうとする。


「ごばごばごばごば」


口の中一杯に水が入って来る。最初それが水だと俺は認識できず、ただ苦しさを感じるだけだった。その苦しさから体全体でジタバタもがいたことで、やっと水の中にいることを認識する。俺は自分の口から出る泡や、光の差す方へと体を向けて浮き上がり、やがて水面へと顔を出すのだった。


「ハアハアハア、、ここは、、、、。」


 荒れる息を整えながら顔を左右に向ける。周りには水面が広がり、少し離れたところに陸地そして木が見える。とりあえず近くの丘を目指して泳ぐことにした。やっとの思いで陸地に着き、疲れた体を地面に横たえる。そこで少し余裕ができたので改めて俺は考える。


「ここは、、、、俺は、、、、、、俺は誰だ??」


 俺は俺のことを思い出せない、いや、俺は日本人で、最近起きた出来事や今が西暦何年かといったことは覚えている。しかし、自身の名前といった個人情報が全く思い出せない。家族も友人も故郷のことも、思い出せない。


「俺は、、、、一体だれか、、、、誰か!説明してくれ!!!!」


 頭の中が真っ白になる。俺と言う存在が希薄になる。不安と、自分が消えてしまうかのような恐怖が体を駆け巡り鳥肌が立ってしまう。体を襲う不安と恐怖を紛らわせる為に俺は叫ぶ、、、誰か説明してくれ!そう叫んだ直後、その声を聞き届けたのか、男の声が聞こえた。


「やれやれ、騒々しいな。」


「え?」


 厳かな声が聞こえそちらに振り向く、そこには巨大な樹がありそこから声が聞こえたのかと首をかしげていると。


「こちらだ。」


 再び声が聞こえて改めて周囲を見回すと、先程の大樹の根元にその存在はいた。黒く巨大なドラゴンがこちらを見ていた。


「ふぉふぉ、お主ようやく目が覚めたか。待っていたぞ。」


 そのドラゴンはこちらを見つめどこか嬉しそうに言った。長い首をこちらに向ける。俺はその姿を見て呆けている。

 体が動かない、金縛りと言われるものにかかったように、その存在をただ見ている事しか出来ない。


(まずいまずいまずい!!!)


 内心ではまさにパニックを起こしていた。俺はこのドラゴンに食い殺されるのか。訳も分からず知らない場所で、そう思って泣きたくなる。

 というかもう泣いていた。大の大人が震えながら涙と鼻水を垂らし、ただ立ちすくんでいた。


「むむ、安心しろお主に害をなそうとは思わん。だから、ほら泣き止め。」


 焦ってドラゴンが声をかけてくる。慌てふためいた(ような)声で、首をこちらに寄せてどこか孫に言い聞かせるようなやさしい声で

言ってくる。

 その声を聴いた俺は少し落ち着き、手を動かして涙を拭った。そして改めてドラゴンに向き直り、よく見てみれば

その体には無数の傷があり、体の半分は木の中に収まっていた。いや違う。そのドラゴンは木と同化していた。

 ドラゴンと木のつなぎ目が全く見えず所々青い苔が生え背中には木が生えているのだ。(青い苔が生えている場所を明記した方が良いかと)

 

「すいません。あなたはどちら様でしょうか?この場所はいったいどこなのでしょうか?」


 思わず敬語になってしまう、目の前には話せる人?がせっかくいるので質問をする。この数分で自分の世界は

360度どころか、720度くらいは混乱してしまっている。先ずは、落ち着いて今自分に起きていることを理解しなくては、と思った。


「ここは、ヘイズの森と呼ばれる場所だ。私はこの森の守り人というべきか。まあ、そんなところだ。」


 彼はそう答えたが、俺はその名前に聞き覚えはない。それはつまり、ここが地球ではなく、ましてや日本でもない事を、目の前の存在が証明したという事だ。

 予想していた通り、ここは俺の知る世界ではない。異世界へと来てしまったのだろう。とりあえずそう俺は納得した。


「俺は、、、俺はいったい、、、、誰だ。」


 転生なら赤ん坊の姿で目が覚める。しかし今の俺は青年といっていい肉体をしていた。改めて全身を見てみると、肌がさらけ出されていた。

 つまり俺は服を着ていない。裸の状態で俺は今立っている。いろいろとありすぎて、そのことにも気づかずにいたのだ。

 羞恥心から手で大切なところだけを隠し、内またになってしまった。それを見たドラゴンが声をかける。


「ひとまずこれに着替えなさい。」

 

 とツタを伸ばしてきた。その動きにも驚いたが、そのツタが持ってきた箱の中身にも驚いた。

 上下の服とブーツ、更にはケープマントのようなものに手甲のようなグローブもあった。

 俺はとりあえずそれらを身に着ける。サイズは不思議とあっていた。それを着こんだ事で落ち着いて、俺は一息つく。


「ふむふむ、おちついたか?」


「はい、しかしこのように立派なものを頂いてよろしかったのですか?」


「問題はない、それらはもともとお前のために用意してあったものだ。遠慮することはない。」


 どこかやり遂げた、安心したというような声色で答えた。俺はそこに疑問を持った。俺のために用意したとドラゴンは言っていた。それはつまり、俺がここに来る事をこのドラゴンは知っていたという事だ。


「あなたは、俺が誰かわかるのですか?教えてください!俺はいったい誰なんですか!!」


 身を乗り出してそう叫ぶ、このドラゴンは俺のことを知っている。そう思うとつい口調が荒くなってしまった。


「お前はこの千年の間、この木の中で眠り続けた、魔人の最後の生き残りだ。儂の名はファフニール、この地を守りお主を守る生涯を過ごすものだ。」


 どこからか吹いてきた風が優しく俺の頬をなでる。それを見たファフニールは、なぜここを守り続けてきたのかを話し始めるのだった。

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