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短編集

勇者召喚に巻き込まれた魔王少女の王城スローライフ

作者: 緋色の雨

 とある世界の大地に魔術先進国がある。女王が収める直轄領に加え、wizard of the Round Table――通称ラウンズと呼ばれる12の魔術師が統べる領地からなる大国だ。


 各々が好き勝手に収めていた12の領地を纏め上げたのは、先代より王位を引き継いだシャノン。先王の一人娘で、わずか12歳の少女だった。

 彼女はときに魔術の手腕を示し、またあるときは政治的手腕を示して彼らを従えていった。そしてわずか4年で、バラバラだった領地を一つの国として機能させたのである。


 そして16歳になったいま、彼女はこの世界の頂点に君臨していた。


「シャノン女王陛下、そのような恰好でどちらへ行かれるのですか?」

「異世界にあるアキバに遊びに行くつもりだ」


 純然たるプラチナブロンドの髪に褐色の肌。まだ幼さの残る彼女は、背中から広がる黒翼を隠し、ノースリーブのブラウス&ティアードスカートという姿で、紅い瞳を輝かせている。

 ――が、シャノンの側近。文官で魔術師なディアーナには意味が通じなかったようだ。


「……異世界のアキバ、ですか?」

「優れた文化を持つ異世界の聖域だ。私が女王になってからあまり足を運ぶ機会がなかったが、これを期に遊びに行こうと思ったのだ」

「そういえば……長期の休暇を取られたのでしたね」

「そなたは無論、ラウンズも私の言葉に従ってくれたからな」


 前国王が突然の崩御により国が荒れるところだった。それを防ぐために幼くして王位を継いだ女王――だが、ずっと国のために一生を捧げるつもりはない。

 国を纏めたところで後を部下に任せ、シャノンは貯まっていた休暇を取った。


「という訳で、ちょっと異世界まで遊びに行ってくる」

「お供は――」

「必要ない」


 ディアーナがかしこまりましたと臣下の礼をする。それを横目に足共に複雑な魔法陣を展開。そこに魔力を注ぎ込んで転移の魔術を発動させた。




「おぉ、凄い、凄いぞ。以前来たときよりも華やかになっているな!」


 アキバへと降り立ったシャノン。

 彼女はアキバの真ん中で両手を広げてクルクルと回る。背中から伸びる黒翼は隠しているが、プラチナブロンドに褐色の美少女は物凄く目立っている。

 もっとも、外国から来たオタクか、コスプレ的な認識で騒ぎにはなっていないようだ。


 そんな訳で、ひとしきりはしゃいだシャノンはお目当てのショップへと足を運んだ。大きなゲーム関連の専門店で、そのフロアには女性が好むようなゲームが所狭しと並んでいる。


「なになに? 光と闇のエスプレッシーボに、光と闇のカンタービレ? どちらも美しいイラストだが、なにやら似たようなタイトルだな」


 そんなことを考えながら並んでいるパッケージを眺めていく。

 女王であるシャノンは、このお店のゲームどころか、このビルをまるごと買えるだけの資金力があるのだが、彼女はこうやって悩むことを楽しんでいる。

 新作コーナーへとやってきたシャノンは、残り一つとなったゲームに目を留めた。


「乙女勇者と七人の騎士?」


 タイトルは平凡だが、シャノンはなぜかそのパッケージに惹き付けられた。

 無意識に手を伸ばす――が、その手が他の手と重なってしまう。隣を見れば、セーラー服を身に纏った、自分と同じか一つ上くらいの少女が同じように手を伸ばしていた。


(むぅ、目当ては同じ、か。最後の一本のようだし、なんとしても欲しい……と言いたいが、手は私が上、つまりは隣の少女の方が早かった、という訳だ)


「えっと……ごめんなさい」

「いや謝る必要はない、私の方が遅かったからな」


 残念に思う内心を抑えて手を引っ込める。セーラー服の彼女は少し迷った末にパッケージをその豊かな胸に抱え、クルリとシャノンの方を向いた。


「あの、よければお譲りしましょうか?」


 シャノンはその言葉に衝撃を受けた。

 一国の女王である彼女にとって、手に入らないものなどないと言っても過言ではない。だが、だからこそ、こんな風に無償の優しさを与えられるのは初めてだった。


「申し出はありがたいが、そなたも買うつもりだったのではないのか?」


 ゲームが欲しいかどうかよりも、気遣いが嬉しくて仕方ない。だが同時に、その優しさに甘えてはいけないと、彼女の申し出を辞退しようとする。

 けれど、彼女は小首を傾け、いたずらっ子のように笑った。


「実は私、これで三本目なんです」

「三本……同じのをか? もしや、観賞用とか、布教用とか、そういう?」

「それもありますけど、実は購入特典が目当てで……えへへ」


 なるほど――と、彼女の胸元に収まっているパッケージに視線を向ける。そこには、ショップ限定の購入特典ありというシールが貼られていた。


 だが、想いの強さは人それぞれだ。

 ゲームの特典だけのために買う三本目だからといって、ゲームをするために一本目を買うシャノンよりも、買いたいという想いが弱いという理由にはならない。

 だから――


「そういうことなら譲ってもらおう。その代わり、購入特典とやらはそなたに進呈しよう」

「え、いいんですか!?」

「かまわぬ。私はゲームがしたいだけだからな。買ってくるから店の前で待っていてくれ」



 シャノンはレジで『乙女勇者と七人のプリンス』を購入して店の前へと足を運ぶ。そこでソワソワと、セーラ服のスカートを翻してたたずむ少女と合流した。


「待たせたな。ここで開けるのはなんだから、少し移動するとしよう」

「あ、じゃあ近くにカフェがあるのでそこに行きましょう。私がおごります」

「ぬ? そのような施しを受ける理由はないが……?」

「特典のお礼ですよ。あとは――そう、同じゲームを購入した同志ってことで!」


 彼女はシャノンが返事をするよりも早く、こっちですと栗色の瞳を輝かせて歩き始める。シャノンは苦笑いを浮かべ、彼女の後を追い掛けて隣へと並んだ。


「このゲームは今日が発売日だったはずだが、そなたはなぜそこまで入れ込んでいるのだ?」

「えへっ、じつはこのゲームのシナリオライターのファンなんです」

「おぉ、なるほど。そういうことか」


 シナリオライター買いなら新作に食い付くのも理解できる。――と、シャノンは初めて自分と同じ趣味を持つ人間と出会ったことに気が付き、もっと彼女のことを知りたいと思う。


「そういえば、そなたの名前を聞いていなかったな。私はシャノンだ」

「私は花音(かのん)、見ての通り高校生で17歳です」

「ほう。では私よりも一つ年上なのだな」

「え、シャノンさん、私より年下なの!?」


 花音が目を瞬いた。どうやら、シャノンが年下だとは思っていなかったようだ。

 もっとも、それも無理はない。見た目こそ幼さの残る姿だが、その中身は一国を束ねる女王で、普通の女の子らしく振る舞っていてもその気品や威厳が漏れ出ている。

 けれど、シャノンは呼び捨てで構わぬぞと返した。


「え? じゃあ……シャノン、これで良いかな?」

「うむ、もちろんかまわぬ。むしろ、私の方が敬語を使うべきか?」

「うぅん、同じゲームが好きな同志だから、そんな気遣いは必要ないよっ」


 ゲームを譲ってくれたことといい、心根の優しい少女のようだ。

 そんな判断を下して花音と並んで歩いていたのだが――信号待ちで足を止めたそのとき、花音の足下に巨大な魔法陣が出現した。


(これは……かなり稚拙だが、召喚の魔法陣か? ふむ……特定の条件を満たす者を召喚しようとしているようだが……対象は花音のようだな)


「なにこれ、魔法陣? え、なんで? なんかの演出!?」


 その条件には、召喚に応じる意思のある者――という項目が織り込まれている。つまりは、深層心理において、花音はこの召喚に応じる意思のある人間、ということだ。


 シャノン自体は対象ではなく、少し離れれば対象から逃れることが可能だが――不安そうな花音が、シャノンをぎゅっと抱きしめた。


「だ、大丈夫、大丈夫だからね」


 むしろ大丈夫じゃないのは花音の方だろう。彼女は不安にその身を震わせていて、その恐怖が触れた部分からシャノンにも伝わってくるほどだ。


(まぁ……良いか)


 花音は健気にもシャノンを護ろうとしているようだ。

 それがシャノンを巻き込む行為だったとしても、彼女の心意気が美しいことは事実だと、シャノンは花音の手を握り返した。

 そして――



 目の前が真っ白になり、上下左右の認識が怪しい空間に放り込まれる。粗雑な召喚によって発生する転移酔い。それに耐えられなかったのか、花音がその身をよろめかせた。

 シャノンが慌てて花音を抱き留める。

 それとほぼ同時、真っ白な空間に女神が姿を現した。


「よく来ましたね、異世界の勇者よ。わたくしはこの世界を管理する女神です。子供達の使った召喚の魔法陣が不完全なため、わたくしがいまから、貴方を子供達の元へと転送――」

「必要ない」


 シャノンがパチンと指を鳴らした。それだけで不完全な魔法陣が修正される。


「え? あれ? もしかして……魔法陣、完成しちゃってます?」

「この程度のことで女神の手を患わせる必要はないだろう」

「あ、はい。お気遣いありがとうございます……って、貴方勇者じゃないですよね!? って言うか、二人? え? まさか、貴方――」


 女神が言い終えるより早く魔法陣が起動して、シャノン達は再び真っ白な世界に放り込まれた。今度は転移酔いは発生せずに、一瞬で別の場所へと転移した。

 そこは見知らぬ古式な城の広間。足下には巨大な魔法陣が描かれていた。それは間違いなく、花音を召喚するために描かれた魔法陣だ。


(魔術はあるが、技術はそこそこと言ったところか?)


 シャノンが周囲を観察していると、転移酔いで気を失っていた花音が目を覚ました。ぼんやりと目を開けた花音が周囲を見回す。


「ここは……?」

「お……おぉ、成功だ! 勇者様の召喚に成功したぞっ!」


 周囲を取り巻く魔術師や兵士達から一斉に歓声が上がる。だが、続いてすぐに困惑の声が上がった。「待て、二人いるぞ、どちらが勇者様なのだ?」と。


 そんな中、身なりのしっかりした金髪の青年が進み出てくる。

 彼はシャノンに視線を向けると、顔を見て、それから胸の辺りまで視線を下ろし、ふっと視線を外した。続いて花音の顔を見て、胸の辺りを見て……彼女の手を取った。


「おまえが勇者だな」


 その言葉に、シャノンはイラッとこめかみをひくつかせた。


(たしかに、こやつの判断は間違っておらぬ。私は巻き込まれただけだからな。だが、いまの判断の仕方はなんだ? 勇者は胸が大きいとでもいうつもりか? それとも、私の胸が小さいとでも言うつもりか? まだ発展途上なだけだ、滅ぼされたいのか?)


 物騒なことを考えているあいだにも話は進んでいる。

 金髪の青年の指示の下、花音がステータスオープンと口にした。直後、花音にはなにか見えたようで「凄い、ステータスウィンドウが開きましたよ!?」と目を輝かせた。


「そこになんと書かれている?」

「えっと……勇者って書かれています」

「おぉ、やはり、おまえが勇者か!」


 色々と思うところはあるが、花音が召喚されたのは、深層心理でこの召喚を望んでいたからだ。つまり、この場を乱すのは、結果的に花音の意思に反することになる。

 ひとまず様子を見るかと、シャノンはそのやりとりを見守っていた。そこへ「では、そちらの女性は……」と、周囲の視線がシャノンへと集まった。

 だが――


「勇者はこっちの娘なのだから、そっちの娘は部外者だろう。城の外に放り出せばよい」



 金髪の青年が素っ気なく言い放った。

 召喚の項目に、それを望む相手という項目があるとはいえ、自分達の都合で召喚したことに変わりはなく、ましてやシャノンは巻き込まれただけだ。その相手にそのような扱いをするとは、どうやら痛い目を見たいらしい――と、シャノンは敵意を抱く。


 だが、それとほぼ同時、花音が「待ってくださいっ!」と声を上げた。瞬間、皆の視線が花音に向けられ、花音は一瞬怯んだように半歩下がる。

 だけの彼女はぎゅっと拳を握って、一歩前に踏み出した。


「シャノンは私の友達、なんです。だから、その……放り出すなんて言わないで、ください」


 震える声で友人だと口にした。

 まだ出会って間もないシャノンを友人だといって、必死に庇おうとしている。花音の優しさにシャノンは胸が熱くなり、同時に花音を傷付ける愚か者に怒りを抱く。

 直後――


「愚か者っ!」「お兄様っ!」と、二つの声が同時に上がった。その動向を見守るために、シャノンはひとまず怒りを抑える。


 声を上げたのは威厳あるたたずまいの中年男性、それに高貴なドレスを身に纏う少女。立ち振る舞いや立ち位置から、声を上げた二人はおそらく王とその娘だ。

 一瞬の沈黙の後、王らしき中年の男が一歩前に出た。


「カインツ、そちらの女性方は我らの都合で呼び出したのだ。それを、城の外に放り出せだと? そなたはなにを考えている、この愚か者っ!」

「し、しかし父上」

「父ではない、ここでは陛下と呼べ」

「うぐっ。へ、陛下。勇者はこちらの娘であって、あれはただの平民ではありませんか」

「その考え方が愚かだと言っておるのだ! もうよい、そなたは自室での謹慎を命じる。別命があるまで部屋で待機しておれ!」

「……かしこまりました」


 そう口にしたけれど、納得はいっていない様子。だが、この場で逆らうつもりもないのか、カインツと呼ばれた王子は騎士に連れられて退出していった。

 それを見届けた国王が花音の前に立つ。


「愚かな息子が失礼を働いたこと、本人に代わって謝罪します。勇者様はもちろん、そちらの女性についても無下に扱うことは決してないと約束するので、どうか許していただきたい」

「え、あ、その……」


 国王に頭を下げられた花音が慌てふためく。

 その状況を見かね、シャノンが花音の前に出た。


「謝罪を受け入れるがゆえ、頭を上げるがよい。そなたの思いは十分に伝わった」

「シャ、シャノン!? 王様にそんな口の利き方をしちゃダメだよ!?」


 周囲がざわつき、花音が慌てふためく――が、頭を上げた国王がかまわぬと取り成した。それによって周囲の者達も大人しくなる。

 上辺だけの謝罪ではなく、ちゃんと謝るつもりがあるらしい。


(それだけ勇者という存在を重要視している、ということか)


 同じ王という立場であるシャノンには、この王の判断が理解できた。

 本来であれば自分の息子――王子をあのように公然に叱りつけるのは下策といえる。可能であれば、もっと穏便な取りなし方をしたかったはずだ。


 だが――と、シャノンは王の謝罪を受けて動揺している花音に視線を向ける。

 彼女はあの瞬間、真っ先に声を上げ、シャノンのことを友人と呼んで庇おうとした。


 あのまま放置していたら、勇者と王子の対立という構図が出来上がっていた。その最悪を回避するために、王はとっさに王子を叱りつけるという決断を下した。

 それだけ、勇者である花音を重要視している証拠である。


(あちらの王女もなかなかの判断だな)


 王と同じタイミングで王子とを止めようとした。見た目は十二、三歳。ゆるふわなピンクゴールドの髪を揺らす幼い少女なのだが、なかなか切れ者のようだ。

 視線を向けていると、それに気付いた王女がにこりと微笑んだ。



 その後、王に指名された大臣が、勇者を召喚した理由を説明する。

 この大陸の西には魔族が支配する魔族領があり、人々の脅威となっているらしい。そして今回召喚された勇者とは、悪しき魔王を討ち滅ぼすことの出来る存在だそうだ。

 つまり、彼らは花音に救世主となることを求めているようだ。


「わ、私が魔族と戦うのですか?」

「はい。ですが、最初から強敵と戦えという訳ではありません。最初は訓練を重ね、それから徐々に強い敵と戦っていただく予定です」


 花音が及び腰になる――が、説得されるのは時間の問題だろう。

 なぜなら、あの魔法陣はそういうものだからだ。

 目的を成すだけの素質があって、正義を成すだけの精神を持っている。そういう人間でなければ、勇者召喚の対象には選ばれない。


 花音が深層心理で望んでいる以上、シャノンが止めるつもりはない。むろん、召喚者達が花音を騙すつもりなら話は別だが――とシャノンが考えていると、王女が声を上げた。


「お父様、勇者様には色々と説明がおありでしょう? わたくしがそちらの女性をお部屋に案内してもよろしいですか?」

「……ふむ。そなたなら心配はあるまい。貴族待遇で部屋に案内してあげなさい」

「拝命いたしました」



 シャノンが召喚に同行したのは花音が心配だったから。ゆえに、案内すると言われても、花音から離れては本末転倒だ。


(……いや、互いが離れた状態でどのような扱いになるか、この機会にたしかめておくか)


 そう判断を下したシャノンは、使い魔を密かに召喚して花音の影に潜り込ませ、自分の目や耳とする。その上で、自分は王女の案内に従って広間を後にした。

 側仕えや護衛を伴う王女の横に並び、シャノンは城の広い廊下を歩き始める。


「名乗るのが遅くなりました。わたくしはフラウ・グラウシア。グラウシア国の第二王女です。貴方の名前をうかがってもよろしいですか?」

「私はシャノンだ。シャノンでかまわぬぞ、フラウ王女殿下」


 シャノンの物言いに、フラウの側仕えや護衛の騎士達が眉をひそめる。けれど、他ならぬフラウが、そんな彼らに咎めるように視線を向けることで牽制した。

 少なくとも表面上は、フラウの周囲の者達もシャノンの言動を受け入れたようだ。


(花音のいない場所では態度を変える可能性も考えたが、そのように愚かではないようだな)


「さきほどは、お兄様が大変失礼をいたしました」


 不意にフラウが謝罪を切り出す。


「国王陛下より既に謝罪の言葉をもらっている。それ以上の謝罪は必要ない。それに、予期せぬ二人目が現れたのだ。迷惑に思うのは当然ではないか?」

「こちらの都合で召喚をおこない、無関係の方を巻き込んだのです。責任はこちらにありますし、シャノン様を迷惑に思うなどあろうはずもありませんわ」

「それは……本心か?」


 シャノンが試すような口調で問い掛ける。

 フラウは瞬いて、一呼吸おいてにっこりと微笑んだ。


「本心ですわ。わたくしどもには勇者様の協力が不可欠で、彼女の機嫌を損ねるなど愚かな所業ですもの。勇者の友人である貴方を無下に扱うなどあり得ません」

「なるほど。その言葉には説得力があるな」


 勇者から好意を得るための打算だと明言した。その潔さに感心しつつ、だから調子に乗るなと釘を刺しているのだろうかと思案する。

 だが、その予想を覆すようにフラウは笑った。


「貴方が勇者のご友人でなくとも無碍に扱ったりはいたしません」

「……ほう、なぜだ? あの王子は、そのようなつもりはなかったようだが?」

「お兄様は……その、少し考えなしなのです」

「つまり?」


 おおよその予想は出来ている。シャノンはそれを確認するために問い掛けた。


「シャノン様は聡いお方のようなので正直に申し上げます。もしも叶うのであれば、その知識の一端をこの国に与えていただきたいと願っております」

「私の持つ知識……か」


 シャノンは廊下を歩きながら周囲を見回した。

 石造りで、床には分厚いカーペットが敷かれている。十分な手が加わっている――すなわち権力があることは感じさせられるが、同時に技術力が伴っていないことも伝わってくる。

 ぱっと見ただけでも、シャノンの持つ知識を活かせるポイントはいくつもあるようだ。


「考えてみよう。私としても、花音の扱いは気になるところだからな」


 花音が自分を庇ったように、自分にとっても花音は大切な存在であると印象づける。その意図は正しく伝わったのだろう。

 フラウは穏やかな笑顔を浮かべて「お願いします」と応じた。




 その後、シャノンが案内されたのは寝室と応接間のある部屋だった。内装もしっかりしているし、メイドは要望があればお呼びくださいとハンドベルを置いていった。

 国王が口にした貴族待遇という言葉に偽りはなかったようだ。


 これからどうしようかと、シャノンは応接間にあるソファに腰掛けた。魔術を使って周囲をサーチするが、監視の類いは見つからない。

 信頼されているというよりは、そういう技術がないのかもしれない。


(花音に付けた護衛を兼ねた使い魔にも気付かれていない、か。花音も丁重に扱ってもらっているようだな。これならば問題はなさそう、か?)


 これからどうするのが正解だろうか――と、シャノンはステータスオープンと呟いた。その言葉に反応して、シャノンの称号などが虚空に浮かんだウィンドウに表示される。


 ステータスが浮かぶのは、シャノンの知る魔術とは形態が異なる現象だ。それ自体も興味深いが――と、シャノンはウィンドウに浮かぶ最初の文字列に目を向ける。


 シャノンという名に、16歳という年齢。ラウンズ――wizard of the Round Tableを統べる者といった、彼女の偉業を現す称号が並んでいる。

 そしてその項目の最後にはこう書かれている。


 ――魔王。


(さてさて、どうしたものかな?)


 国王達の要請に応じ、花音がこの世界の勇者として悪しき魔王を滅ぼすと決意する。その光景を使い魔を通して眺めながら、シャノンは今後のあれこれに胸を躍らせた。



   ◇◇◇



 部屋で一人になって一息吐いたシャノンは、自分が紙袋の手提げを持っていることに気付く。勇者召喚に巻き込まれる切っ掛けともなったゲームの包装だ。

 シャノンはその包装を解いて、花音に渡すための購入特典を取り出す。どうやら、ヒロインのライバルとなる悪役令嬢のキーホルダーらしい。


(ほぅ……悪役令嬢が登場するのか)


 悪役という言葉に親近感を抱いたシャノンは、パッケージの裏にあるあらすじに目を通す。


 どうやら、魔王を滅ぼすために異世界から召喚された少女が勇者として立ち上がり、それを支えてくれる七人の騎士達と恋に落ちるのがゲームのシナリオらしい。


 ちなみに、悪役令嬢として立ちはだかるのは勇者召喚に巻き込まれた少女で、貴族待遇を受けた彼女は異世界の知識を生かして成り上がり、勇者の想い人を奪おうとするようだ。


(ふむ……何処かで聞いたような設定だが、純粋なヒロインと策略を巡らす悪役令嬢の対比なのか。プレイしてみたいが……自分だけ抜け駆けするようで気が引けるな)


 シャノンならば、この部屋をゲームが出来る快適空間にすることも可能だ。だが、自分にゲームを譲ってくれた花音に引け目を感じて踏みとどまった。


 パッケージを包みの中に戻したシャノンは購入特典のキーホルダーを手に取る。万一にもキーホルダーが壊れてしまわぬように、軽く強化の魔術を施しておく。


「これでよし――と、ちょうど来たようだな」


 シャノンが視線を向けるのとほぼ同時、扉がノックされる。それに応じるとほどなく、なんらかの覚悟を秘めた顔つきの花音が部屋に入ってきた。


 だが、シャノンを見るとその覚悟が揺らいだようで、彼女は視線を泳がせる。


「どうしたのだ、花音。ひとまず、そこに座ったらどうだ?」

「あ、うん……でも、その前に――ごめんなさい」


 彼女は唇をきゅっと結んで深々と頭を下げた。


「なにを謝っているのだ?」

「召喚にシャノンを巻き込んでしまったから……あの召喚、私を召喚するためのものだったの。なのに私、貴方にしがみついて……」

「それは私を護ろうとしたからだろう? 私は花音を振り払うことが出来たし、そうしなかったのは私の意思だ。だから、責任を感じる必要はない」

「……シャノンは優しいんだね」

「気遣っている訳ではないぞ。それに……」


 シャノンは事実しか言っていない。優しいというのなら、自分だって大変な状況なのに、こんな風に巻き込んだ相手を心配できる花音の方だろう。


「それに?」

「そなたは私を友人だと言ってくれた。それだけで、ここに来てよかったと思っている」


 シャノンは笑って、購入特典のキーホルダーを花音の手のひらに乗せる。


「……シャノン」


 花音は感極まったように目を潤ませ、それから受け取ったキーホルダーを握り締めた。


「私、決めたよ。悪い魔王を滅ぼしてこの世界を平和にする! それで王様達に協力してもらって、シャノンが元に戻れる方法を探してみせるよ!」


 その瞳には、たしかな意思が宿っている。悪しき魔王を滅ぼして、シャノンを元の世界に戻すための方法を探すと、彼女が本気で言っているのが伝わってくる。。


「そうか……ならば私も、出来うる限りのサポートをすると約束しよう」


 目には目を歯には歯を、受けた好意には同じだけの好意を。彼女が自分のために戦うというのなら、自分もその手伝いをしようとシャノンは決意した。



 花音はさっそく勇者として訓練を受けると部屋を出て行った。そんな彼女を送り出し、これからのことを考えていると、メイドや側仕えを連れたフラウが部屋を訪ねてきた。

 彼女のメイドや側仕えがテキパキと紅茶やお茶菓子をテーブルの上に並べていく。


 唐突に開かれた、ささやかなお茶会。

 フラウの目的は最初に言っていたとおり、シャノンの持つ異世界の知識のようだ。ただし、一方的に知識を奪おうという訳ではなく、この部屋に不足はないかなどの配慮も見せている。


 自分よりも年下でありながら交渉のなんたるかを知っている。また、王の娘でありながら、勇者召喚に巻き込まれただけのシャノンにも礼節を忘れない。


 そんなフラウに、シャノンは相応の好意を抱きつつあった。花音のサポートをすることに決めているシャノンは、フラウを通してこの国に技術を流すことにする。

 シャノンはお茶会の話題として、井戸についての技術を零した。


「井戸の水を容易に汲み上げるポンプですか……異世界の技術はとても便利そうですね」

「この世界にポンプはないのか?」

「ええ。さきほどおっしゃった、つるべ式や滑車式の井戸もありませんわ」

「……なるほど、それならば井戸の水を汲むのが大変そうだ」


 ポンプは言わずもがなで、つるべ式や滑車式も井戸の水を汲むのがかなり楽になる。それらを使っていないと言うことは、井戸の水を汲むだけでも一仕事、という訳だ。


「ポンプの作り方なら把握している。後で作り方を教えよう」

「それは……とても助かりますが、作り方なんて把握しているものなのですか? 普通は存在や素材を知っていても、作り方までは知らないものだと聞いていたのですが」

「そこは人によるだろうな」


 実際のところ、シャノンもポンプの詳細な構造までは知らない。だが、あえての言い回しで、自分ならばその詳細を識っているとフラウに認識させる。


「であれば、さっそく技術者の候補となる方々を集めますので、その方々にポンプの作り方を教えてくださいますか?」

「うむ、準備をしておこう」



 お茶会の成果が満足のいくものだったのだろう。

 ご機嫌で帰って行くフラウを見届けたシャノンは部屋の真ん中に立ち、自分の前の足下に自らの魔力で描き出す魔法陣を構築した。

 勇者を招いた魔法陣に似ていて、けれど比べものにならないほどに洗練されている。


「来なさい、ディアーナ」


 魔法陣が輝きを増し、次の瞬間には側近で文官のディアーナが出現した。彼女はシャノンに気付くやいなや、妖艶なドレスの裾を翻して片膝をついた。


「召喚に応じはせ参じました、シャノン様」

「うむ。これから私はこの地でしばしの休暇に入ることとした。国の治政はそなた等に任せるが、なにかあれば私に報告するように」

「承りました」


 気負いなく答える。

 ディアーナに任せておけば安心だと、シャノンは満足気に頷いた。


「それと……この地にポンプを広げることとなった。この地の鍛冶職人にも作れるように、設計図を用意しておいてくれ」

「ポンプですか? ……自国の商品となると、この国では再現が難しいかもしれません。また無理に広げることになると、この世界のバランスを崩すことにもなりかねませんが……」


 部屋の内装を見回してこの国の技術レベルに憶測を立てたディアーナがそんな結論を下す。


「であろうな。その辺りのさじ加減はディアーナに一任しよう。私としては、しばらく滞在するこの国が住みやすくなればそれで良いと思っている」


 自分の要望を伝えておけば、あとは彼女が上手く調整してくれるだろう。当時12歳でしかなかったシャノンが魔族領を纏められたのもディアーナの助力によるところが大きい。


「承りました。必ずやシャノン様のご期待にお応えいたしましょう」

「うむ。頼りにしておる。それと、この部屋も少し改良してくれ。ただ、私が異世界と行き来する技術があることはいまのところ秘密にしているので、ごまかしの利く範囲で頼む」

「仰せのままに」


 ディアーナはかしこまり、さっそく準備をして参りますと自らの魔術で帰還した。





 そんな訳で、この国に滞在することになったシャノンは精力的に活動を始めた。

 まずは城に招いた鍛冶職人に、自国から取り寄せたポンプの設計図を始めとした技術提供などをおこない、その報酬の前払いとして、ある程度の自由と資金を勝ち取る。


 シャノンは続いて服のデザイン画とその型紙を自国から取り寄せ、城に招いた服職人に作らせ、自分や花音の服を準備する。

 続いて同じように料理のレシピを取り寄せ、城の料理人にいくつか分け与えた。


 最後に、ディアーナの手によって自分の部屋を密かに改装させる。見た目はそのままでも、中身はまったく別物の家具を揃え、空調完備の快適な自室を作り上げた。


 この間、わずか一ヶ月ほど。衣食住のすべてを改善したシャノンは、続けてディアーナにいくつかの指示を出した。優秀なディアーナはすぐにその指示を実行に移す。

 その完了の報告を聞いていると、不意に扉がノックされた。


 シャノンは即座に目配せをする。

 ディアーナは無言でかしこまり、それから転移の魔術を使ってその場から姿を消した。


「入るがよい」


 シャノンが部屋の外に向かって答えると、外からメイドが扉を開ける。

 開け放たれた扉から花音とフラウが入ってきた。その後に続いて花音の側仕え、それにトレイにお茶菓子を乗せたメイドが続く。


「ふむ。今日は二人一緒なのだな?」

「ここへ来る途中、訓練の合間に休憩する花音様をお見かけしてお連れしました。先日シャノン様から頂いたレシピにあった、ショートケーキが完成したので試食してください」


 フラウの声に応じて、彼女の側仕えやメイドがテキパキとお茶の用意をしていく。


「それはかまわぬが……相手の部屋でお茶会をするのはこの国では一般的なのか?」


 シャノンの知る貴族社会のマナーにおいては、相手を招いてお茶会をするのが普通。このように相手の部屋にお茶会の準備をするというのはあまり聞いたことがない。


「一般的ではありませんね。ただ、お庭だと花音様やシャノン様はとても目立ちますし、わたくしが招くと、どうしても堅苦しくなってしまうので。……もしかして、不快な思いをさせてしまったでしょうか?」

「いや、そういうことであれば問題ない。むしろ配慮に感謝する」


 相変わらずの口調で応じる。最初はシャノンの物言いに眉をしかめていたフラウの側近達だが、いまでは眉一つ動かさなくなった。

 内心までは分からないが、少なくとも表面上は容認しているようだ。


 むしろ、花音の方がお姫様に失礼だよと慌てることが多い。ただ今日に限っては、ショートケーキに釘付けでそれどころではないようだ。


「うわぁ……美味しそう。日本のお店で売ってるショートケーキと変わらない見た目だよ、凄いね。……あれ? でも、この国にイチゴはないとか言ってませんでしたか?」


 花音自身も食にはあれこれ求めていたのか、首を傾げてフラウに問い掛けた。


「はい、この国にイチゴなる果実はありませんでした。ただ、遠方よりまいったという行商人が、たまたまイチゴとそっくりな果実を輸入したのを見つけて入手させたのです」

「へぇ、たまたま輸入されて……あれ、遠方から輸入? 馬車だよね?」


 花音は目を瞬いて「イチゴって、そんなに日持ちしたっけ?」などと呟いている。シャノンは「そんなことより、せっかくだから味見してみたらどうだ?」と話を逸らした。


「そうですね、それでは頂きましょう」


 最初にフラウが口を付ける。このケーキや紅茶には毒が入っていないと示す、貴族のあいだでおこなわれる基本的なマナーである。

 それを見届けたシャノンと花音が同時にイチゴショートを口に運んだ。


「美味しいっ、ホントに日本のお店で買うのと変わらないよ!」


 花音はご満悦だ。シャノンもまた、よく再現できていると笑みを浮かべる。それを見守っていたフラウは笑顔。だが、彼女の連れてきたメイドが小さく安堵の息を吐いた。

 側仕えはともかく、メイドまでは表情を隠す訓練が足りていないらしい。


 それに気付かないフリをして、シャノンは「レシピ通り、上手く作れている。料理長達は相当努力を重ねたのだろう」と称賛の言葉を贈った。


「ありがとうございます。シャノン様からお褒めの言葉があったとお伝えいたしますわ」


 フラウも表情を綻ばせた。

 そうしてイチゴショートを主軸にしたお茶会が始まる。レシピの話題から離れ、今度は世間話が始まり、この世界の気候の話になった。

 この世界には日本と同じような四季があり、この国はもうすぐ夏が訪れるらしい。


「そろそろ暑くなってくる季節なのですが……そういえば、この部屋は涼しいですわね?」

「そういえば、私の部屋ももうちょっと暑かった気がします」


 フラウが小首をかしげ、それに花音が同調する。

 二人の視線がシャノンに集まるが――


「では、この部屋はちょうど日光が当たりにくい場所にあるのでしょうね。石を通しても、外の温度が伝わる、なんてことは普通にありますから」


 素知らぬ顔で答えるシャノンに、二人はなるほどと納得顔を浮かべた。


 その後も世間話は続いていく。

 よほど甘い物に飢えていたのか、花音がおしゃべりの合間にケーキのお代わりをする。シャノンはそれを微笑ましく思いながら、こっそりと花音の姿に注視する。


 彼女はこの一ヶ月で、それなりには強くなっているようだ。――といっても、魔術はまだ使えず、剣技とスキルのいくつかを覚えた程度ではあるが。

 ともかく、日本の女子高生としては、画期的なレベルアップを果たしている。その辺り、異世界から召喚された勇者補正的ななにかが働いているのだろう。


「花音、訓練は順調か?」

「うん。色々と大変だけど、強くなってるっていう自覚はあるよ。明日は実地訓練で、北にあるダンジョンに向かうことになってるんだよ~」

「……ダンジョンだと?」


 シャノンの知るダンジョンとは、魔術師の実験施設などのことだ。侵入者を防ぐ魔物や、様々なトラップが配置されていて、招かざる客には危険な場所となる。

 もちろん脅威にも様々あるが、たとえ最低難易度であろうといまの花音には荷が重い。そんな風に心配していたら、フラウがご安心くださいと声を上げた。


「花音様には既に説明済みですが、北のダンジョンにはいくつも階層があり、一層は比較的安全で、新人の訓練に最適な場所として利用されているのです」


 その言葉を聞いても、シャノンの不安は晴れなかった。



   ◇◇◇



「来なさい」


 力ある言葉と共に、足下に展開した魔法陣に魔力を注ぎ込む。魔法陣から光の柱が立ち上り、それが収束して少女の姿を形取った。


 紅い瞳でシャノンを見上げる黒髪ツインテールの少女。透けるように白い肌を惜しげもなく晒すビキニのような衣装で、腰にはあまり意味を成さないミニスカート。

 露出したお腹から太ももに掛けて、魔術による紋様が刻まれている。


「ラウンズが一人シャスティア、シャノン様の召喚に応じてあげたわよ」


 紅い瞳を輝かせてにぃっと笑う。


「よく来てくれたな、シャスティア。実はそなたに頼みたいことがあるのだ」

「はぁ? どうしてあたしがシャノン様の頼みを聞かなくちゃならないのよ。シャノン様が休暇に入ったせいで、あたしは自分の領地を治めるのに大変なのよ?」

「すまぬな。だが、これはシャスティアにしか出来ぬことなのだ」

「あたしに、しか……? し、ししっ仕方ないわね。そこまでシャノン様に頼られたら、断れないじゃない。……それで、なにをして欲しいのよ?」


 ちょっと照れたようにそっぽを向きながら聞いてくる、シャスティアがチョロすぎると、ツッコミを入れる者はこの場にはいない。


「この城から少し北に向かうとダンジョンがある。――探知できるか?」


 シャノンの問い掛けに、シャスティアは即座に探知の魔術を発動させた。


「……あぁ、数キロ先にあるわね。このダンジョンがどうかしたの?」

「そのダンジョンに存在する脅威を一掃しろ」

「一掃? それはかまわないけど……階層が多いわね。外からダンジョンごと押し潰してしまっても良いのかしら?」

「それはダメだ。ダンジョン内を清掃した後、勇者の訓練所に作り替えるからな」

「ふぅん、後で使うなら潰すのはダメね」


 シャノンは何気ない口調で相槌を打って、それから「ん?」と首を傾げた。


「……え、ごめんなさい、シャノン様。いま、勇者の訓練所に作り替えるとか聞こえたように思ったのだけど、あたしの聞き間違いよね?」

「いいや、あっている。作るのは勇者の訓練所だ」

「な、な、なにを考えているのよシャノン様! 勇者っていうのは魔王を殺すために特化された能力を持つ者に与えられる称号でしょ!?」


 詰め寄ってきたシャスティアに両肩を掴まれ、シャノンは首を横に振った。


「間違っているぞ、シャスティア。勇者は魔に属する存在すべてに特化しているのだ。魔王である私も含まれるが、私だけが対象ではない」

「よけい悪いでしょうがっ! そんな存在を育ててどうするのよ、バカなの、死ぬの!?」


 シャスティアが声を荒らげる。部屋の外に声が漏れないようにと、シャノンは空気の振動を遮断する結界を部屋に張り巡らせた。


「心配するな、シャスティア。私がその程度のこと、考えていないはずがなかろう。勇者の目的は悪しき魔王を討ち滅ぼし、この世界に平和をもたらすことだ。その点を考慮して私が立ち回るゆえ、国民はもちろん、私が害されるような事態には決してならぬ」


 絶対的な王者としての意思を込め、シャスティアをまっすぐに見下ろす。その紅い瞳に見つめられたシャスティアは息を呑んで……それから周囲を見回した。


「……なるほど。ま、シャノン様の心配なんて、初めからしてないけどね」


 さきほどまであれだけ取り乱していたくせにと、シャノンは苦笑い。


「そういう訳だから、ダンジョンに存在する脅威の排除を頼む」

「いいけど……期限は?」

「夜が明けるまでだ」

「はあっ!? 出来る分けないでしょ、何層あると思っているのよ!」


 さきほどの探知でダンジョンの詳細を把握しているのか、シャスティアが抗議する。


「明日の朝には勇者がそのダンジョンを訪れる。それまでにダンジョンの清掃を終えて、勇者が訓練できる環境を整える必要があるのだ」

「だからって……夜明けまでなんて、いくらなんでも無茶よ」

「普通なら無理だろうな。だからこそ、そなたに頼んでいるのだ。ダンジョンを破壊するのではなく、中の脅威のみを短期間で排除する。これはそなたにしか出来ぬことだ」

「……はぁ。もう、仕方ないわねっ! 軍勢を使えば出来なくはないし、断ったらシャノン様が可哀想だから頼まれてあげるわよ」

「頼りにしている」


 シャノンが笑うと、シャスティアは少し怒ったような顔をする。


「言っておくけど、煽てられてるって分かってるんだからね? 分かってて、シャノン様が可哀想だから、助けてあげてるだけなんだからね?」

「うむ、本当に感謝している」

「……だったらいいけど」


 いいらしい。


「……でも、さすがに訓練所を作るのは無理だからね?」

「分かっている。そなたに頼むのは脅威の一掃のみだ」


 訓練所の設置はディアーナに頼むつもりだ――などと余計なことは口にしない。決して仲が悪い訳ではないが、彼女達のあいだにはライバル心のような感情が存在しているからだ。



 という訳で、シャスティアに脅威の一掃を命じて送り出した後、シャノンは続けてディアーナを召喚して、勇者訓練所の設営を命じる。


「……勇者を育てる、ですか?」

「その下りはもう終わった。心配せずとも我らが被害を受けるようなことにはならぬ」

「承りました」


 即座にシャノンの思惑を理解したディアーナがかしこまる。


「いまはちょうど、脅威の一掃をおこなっている。しばらくしてから向かうがよい。その前にいくつか訪ねたいこともあるからな」

「なんでしょう?」

「まずはイチゴの件だ。そなたが持ち込んだのか?」

「はい。シャノン様がショートケーキのレシピをご所望でしたので。交易商を装い、この国に持ち込みました。……問題ありましたでしょうか?」

「いや、そういうことであればかまわぬ」


 花音が日持ちから輸送に疑問を抱いていたが、バレなければ問題ないと判断する。


「では、鍛冶師に作らせているポンプの再現率についてはどうなっている?」

「やはり、彼らに我が国の技術をすべて再現するのは難しいようで、我が国から連れてきた職人を紛れ込ませ、その部品の製造をさせています。ほどなく試作品が出来るでしょう」

「ふむ。よくやってくれた」


 シャノンの手足となって働くディアーナを労い、その後もディアーナが招き入れた行商人などについて確認。改めて、勇者訓練所の設置に向かわせた。


     ◆◆◆


 翌朝、女性用の軽鎧を身に着けた花音は城の北にある門にいた。指南役でも有り、護衛でもある騎士達を引き連れた花音の旅立ちを、城の重鎮達が見送りに来てくれたのだ。


「花音様、くれぐれもお気を付けください」

「ありがとうございます、フラウ様。護衛のみなさんがいるから平気です」


 そう強がってみせるが、花音は最近まで普通の女子高生だった。普通の訓練ならまだしも、実戦による訓練となると勝手が違う。

 不安なのは当然で、その顔はわずかながらも強張っている。無意識に視線を巡らせた花音は、その視線の先にシャノンがいるのを見つけて駆け寄った。


「シャノン、実地訓練、頑張ってくるからね!」


 シャノンは召喚に巻き込まれた被害者だ。

 おまけに、現状では彼女を元の世界に戻すことも出来ないらしい。それを知っても、彼女は嫌な顔一つせずに、悪いのは花音じゃないと励ましてくれる。

 花音はそんな彼女を元の世界に帰すために頑張ると決めたのだ。だから、こんなところで足踏みなんてしていられないと、自分を奮い立たせた。


「うむ、気を付けていってくるのだぞ。それから……これを持っていくといい」


 シャノンが花音の手を取って、その手のひらにネックレスを乗せる。小さな紅い宝石が台座に収められた、美しいデザインのネックレスだ。


「……これは?」

「お守りだ。必ず花音のことを護ってくれるだろう」

「え、でも……なんだか、凄く高そうな宝石じゃない? 戦いの中で落としたり傷付けたりしないか、心配になっちゃうよ」

「お守りとは元からそういうものだ。花音を護って壊れるのならなんの問題もない」


 でもと迷う花音を、シャノンが静かに見つめた。自分を心配してくれている。それに気付いた花音は、彼女の好意と受け取ることにする。


「……シャノン、ありがとう。ありがたく使わせてもらうね」


 お礼をいって、首に付けようとする。けれどネックレスを付けたことのない花音は上手く付けられない。焦り始めたところで「私が付けてやろう」とシャノンがネックレスを取った。


「少し髪の毛を退かせてくれ」


 言われるがままに長い髪の毛を片方に寄せると、背後に回ったシャノンが首に掛けてくれた。背後から回される指が首に触れてくすぐったい。


「これで大丈夫だ。この世界を救う第一歩、いまこそ踏み出すがいい」


 耳元でシャノンが励ましの言葉を口にして、その背中を押してくれる。いつの間にか震えは止まっていた。花音は振り返り、シャノンに向かってにぃっと笑ってみせる。


「ありがとう。行ってくるね!」



 馬車で城下町を出て、ダンジョンの近くに着いたら徒歩に切り替える。太陽が真上に昇る前には目的地へとたどり着いた。


 ダンジョンの入り口を囲むように、石レンガの壁が広がっている。そして入り口には金属製の門扉。金属の格子が模様になったような、美しいデザインの扉だ。


 石壁は人の高さほどで、厚さは20センチ程度。中に鉄筋でも入っていなければ簡単に倒れてしまうだろう。意外と建築技術が進んでいるのだなと感心する。


「ここがダンジョンですか、思ったよりも綺麗ですね」


 花音が護衛の騎士達を見ると、彼らは一様に困惑していた。


「……どうしました?」

「その……我々が知る限り、ダンジョンの入り口にこのような外装はありませんでした」

「……どういうことですか? 来る場所を間違えた、とかですか?」

「い、いえ、場所はあっています、間違いなく。ですが、入り口はもっと殺伐とした感じで、このように綺麗に整えられてなどいなかったんです」

「言われてみると……凄く新しいですね」


 まるで昨日今日建てられたような真っ新な外壁だ。


「城の誰かが、今日のために作り替えた、とかではないのですか?」

「どう、でしょう? 普通であれば我々が知らぬはずはないのですが……ですが、絶対にないとは言いきれませんな。現に、こうして作り替えられている訳ですし」


 腑に落ちないという顔の騎士が迂遠な言葉でいうには、王族で勝手なことをするのは初日に自室での謹慎を申しつけられた第一王子くらいだそうだ。

 だが、王子は例の件で監視を付けられているので、このような真似は出来ないとのことだ。


「よく分からないですね。ひとまず、中を覗いてみますか?」

「不測の事態で不用意に動くのは危険です」

「でも、あれだけ大々的に見送られて、なにもせずに戻って大丈夫ですか?」


 王族や城の重鎮達によって大々的に見送られた。にもかかわらず、ダンジョンの入り口が綺麗になっていたので逃げ帰りました――なんて言えるはずがない。

 花音の言葉には、騎士達も同意見のようで考え込んでしまった。


 騎士達が判断を仰ぐように一人の騎士に視線を向ける。注目を浴びたのは顔立ちの整った騎士、花音を護る騎士達の隊長であるカーティスが口を開く。


「偵察を出しますので、勇者様は我々とここで待機してください」


 ということで、護衛の騎士達から数名が選ばれて偵察に出される。本来は弱い魔物しか出現しないはずの入り口付近だが、この状態ではなにが起きるか分からない。

 彼らは極度の緊張を抱きながら、ゆっくりと内部へ潜入していった。



 ほどなく、偵察をおこなっていた騎士達が戻ってくる。一人が水に濡れているが、特に傷を負っているようには見えない。

 全員が無事――だが、彼らは一様に複雑そうな顔をしていた。


「どうした、なにがあった?」

「いえ……その、奥には手頃な魔物がいました。勇者様にとっては弱すぎず強すぎず、おそらくは良い訓練相手になるでしょう」

「では、なぜそのような顔をしている? というか、なぜ濡れた?」


 カーティス隊長が眉をひそめる。


「なんと報告をすれば良いものか……実際に見てもらった方が速いかと思われます」

「ふむ……勇者様に危険はないのだな?」

「奥に魔物がいる以外は、トラップなども認められませんでした」

「分かった、では二人ほど入り口の見張りに残し、残りで内部へと入ろう」


 カーティス隊長の指示によって、花音達はダンジョンへと足を踏み入れる。入り口が綺麗になっていると言っていたが、内部は更に綺麗になっていた。


 最初は地下へと続く階段。

 壁や天井は綺麗に整えられていて、謎の光源がダンジョンの通路を照らしている。床も綺麗に磨かれた石の階段による緩やかな降下が続いている。

 ここが日本なら、花音はテーマパークの入り口と誤解しただろう。


「この内装も……前とは違っているのですか?」

「はい、このように手入れされてなどいませんでした。ただの巨大な洞窟といった感じで、階段はもちろん、あのような光源もありませんでした」

「……不思議、ですね」

「不思議なんてモノではありませんよ、勇者様。入り口どころか中の通路まで。大規模な工事を何年もおこなわなければ不可能です。一体、誰がどうやって……」


 花音にとっては、これも召喚と同レベルの不思議な現象――くらいに思っていたのだが、魔術のある世界で暮らすカーティス隊長達にとってもあり得ないことらしい。


 どういうことなんだろうと考えながら階段を降りきると、奥へと続くまっすぐな廊下。それに左右にそれぞれ小さな廊下が延びていた。

 それぞれの廊下の前には、なにやら案内板のようなモノが貼り付けてある。

 そこに書かれた文字を目にした花音はパチパチと瞬いた。


「あの……私は召喚されたときに、この国の言葉や文字を理解できるようになったんですよね? ということは、あそこに書かれている文字は、私が読めるとおりの意味、ですよね?」

「はい、勇者様の読み取ったままの意味であっているはずです」


 偵察のときに、なぜかずぶ濡れになっていた騎士が答えてくれる。


「……休憩室、シャワールーム、勇者訓練所と書かれているように見えるのですけど?」

「休憩室は、いくつか部屋が用意されており、トイレや炊事場はもちろん、ベッドも用意されています。またシャワールームなる部屋では、本当にお湯が降ってまいりました」

「じゃあ勇者訓練所というのは……?」

「勇者様にちょうど手頃な魔物が出現するようです」

「……よく分からないけど、至れり尽くせりですね」

「そういう問題ではありません、勇者様」


 騎士達はかなり動揺しているようだが、もともとを知らない花音にとってはやっぱりちょっと不思議な現象なんだね。くらいの感覚だった。



   ◇◇◇



 勇者である花音が実戦の経験を積むのに最適で、休憩室やシャワールームも完備。誰が作ったのかは不明だが、とにかく便利なことに変わりはない。

 どれだけ調べても罠一つないと言うことで、花音は実戦訓練を開始することになった。


 ちなみに、花音が戦っている敵はシャドウと呼ばれる中位の魔物である。

 シャドウは戦う相手のおおよその能力を写し取って襲いかかってくる難敵だ。自分よりは少し弱いレベルなのだが、それでも自分とほぼ同じレベルの相手に完勝するのは難しい。


 だが、勇者には魔に対する特攻の能力がある。

 自分と同じ程度の技能を持ちながら、自分が有利な条件で戦える難敵。技能的な意味でも自分の欠点を知ることが出来て、レベル的な意味での経験値も多く得ることが出来る。


「あ、またレベルが上がりましたよ」


 最初はレベル1だった花音は、わずか半日で自分の年と同じ17までレベルを上げてしまった。冒険者でいえば、丸一年を迎えた程度の強さ。護衛を連れて効率よく狩りをする、花音に組まれたスケジュールでは、三ヶ月後の目標レベルであった。


「レベルって思ったより簡単に上がるんですね。最初と比べて凄く身体が軽くなりましたよ」

「それは、ようございましたな。……ははは」


 疲れた顔で答えるカーティス隊長。

 彼の背後では他の護衛騎士達が顔を引き攣らせている。

 自分達の血の滲むような努力の日々が、彼女の数時間と同等といわれたも同然だ。喜ばしいと思う反面、思うところがあっても無理はないだろう。


「みなさん、どうしたんですか?」


 首を傾げる花音に、カーティス隊長が普通、レベルはそんなに簡単に上がらないということを伝える。そこから、他の騎士達の様子がおかしい理由に気付いた花音が慌てた。


「す、すみません、まさかこれが異常だなんて思わなくて」

「いえ、勇者様は実戦が初めてですし、これが普通だと思っても無理はありません。ただ、本来はあり得ないことなので、あまり口外しない方がよろしいでしょう」

「そうですね、指摘してくれてありがとうございます」


 花音は間違いを正してくれたことに感謝して、それから「あれ?」と小首をかしげた。


「私以外がここで訓練をしたらどうなりますか?」

「敵は一体ずつしか出ないようですので、二人で戦うようにすれば、花音様ほどではなくても良い訓練になるはずですが……」


 案内板に勇者訓練所と書かれていたことが気に掛かると、カーティス隊長は口にする。


「私以外が訓練するとダメ、ということですか?」

「その可能性はあります。そして可能性がある以上リスクは冒せません。少なくとも、勇者様がこのダンジョンを必要としなくなるまでは」

「……そうですか。なんだかもったいないですね」


 みんなも訓練できれば良いのにと呟いて、ひとまず今日の訓練を切り上げる。大きな通路を通って階段まで戻ってくると、騎士の一人が「あれを見ろ!」と声を上げた。

 彼が指をさしている方をみなが一斉に注目する。

 そこには、さきほどもあった案内板。

 だが――


『勇者訓練所

 *勇者の使用中以外なら、他の人間が使用してもかまいません』


「案内板の内容が変わっているだと!?」


 どういうことだ、誰がいつ書き換えた!? と騎士達が騒然となる。そのまま、案内板を書き換えた存在に警戒しつつダンジョンの外まで戻る。

 外を見張る騎士達に問いただすが、誰も出入りはしていない、ということだった。


 誰が書き換えたのか――は、間違いなく、このダンジョンを改良した誰かだろう。だが、入り口には見張りの騎士がいて、奥には勇者達の一行がいた。

 その状況で案内板を書き換えた。しかも、勇者達の会話を聞いていたことになる。


 謎は深まるばかりだが、とにかく今回の目的は達せられた。ということで、騎士達が引き上げの準備をしていると――闇が空を覆った。


「何事だ!?」


 即座に臨戦態勢を取る護衛の騎士達。

 空に広がる闇が収束して、それが人を形取っていく。姿を現したのは、灰色の翼と二本の角を持った人の形をした男だった。

 彼は周囲を見回しながら、ゆっくりと身構える花音達一行の前へと降り立った。


「ダンジョンコアが制圧されたと聞いて駆けつけたが……この外装はなんだ? これはおまえ達がやったことか?」


 男が花音達に視線を向けた。彼を取り巻く黒いオーラのようなモノが見えるのは錯覚か、それとも魔力かなにかなのだろうか? ただ問われただけなのに震えが止まらない。

 そんな花音を庇うように、カーティス隊長が前に出た。


「き、貴様は何者だ!」

「俺か? 俺は六魔将が一人、ディリオラだ」

「ば、馬鹿な、六魔将だと!?」


 護衛の騎士達がざわめき、花音もまたその身を震わせた。

 六魔将というのは、その一人一人が単独で砦を落とすほどの力を持っているといわれている魔王の側近だ。いまの花音達では勝てるはずがない。


 花音は震える手で、腰に下げる剣の柄を握る。けれど、剣を抜くよりも早く、カーティスに腕を押さえられた。彼は、戦ってはダメだというように顔を横に振った。


「我々がディリオラを引き付けます。そのあいだに勇者様はお逃げください」

「そんなこと――」


 出来る訳がないと、口にすることは出来なかった。

 不意に、ディリオラが殺気を膨らませたからだ。


「おいおいおい、いま、聞き捨てのならねぇことを言いやがったな。勇者……そいつか!」


 ディリオラが自分の頭上、花音達の方を向けて魔法陣を展開した。


「いかんっ、勇者様を護れ!」


 騎士達が花音を庇うように前に出る。直後、ディリオラの展開した魔法陣が光を放ち――気付けば、辺りの木々は吹き飛び、花音を護る騎士達は倒れ伏していた。

 花音だけが、なにが起きたか理解できずにたたずんでいる。その胸元に飾られた宝石が光っているが、花音はそのことにも気付かなかった。


「……ほぅ? いまのに耐えたか。さすがは勇者、といったところか」


 ディリオラが更なる殺気を向けてくる。

 だが、自分が立っているのはたまたまだと花音は思っている。花音自身がなにかをした訳ではないし、こんな相手に抗える訳がないと、花音の心が折れそうになる。


(怖い……逃げ出したい)


 逃げろ、全てを投げ打ってでも逃げろと本能が叫んでいる。

 へっぴり腰で、柄を握る手は見ていて可哀想になるほどに揺れている。その顔色だって真っ青で、いまにも倒れそうだ。それでも、花音は剣を抜き放った。


 だけど、花音に許された抵抗はそこまでだった。

 いつの間に接近していたのか、花音の間合いに飛び込んできたディリオラが、虚空から引き抜いた剣を振るい、花音の剣を弾き飛ばした。

 ディリオラは続けて剣を翻し、今度は花音の首を狙って振るう。


 死に瀕した花音の時間が引き延ばされてゆく。ゆっくりと迫り来るディリオラの剣を知覚するが、花音の動きはそれ以上に遅く、ディリオラの攻撃を防ぐ術がない。


(シャノン……ごめんっ)


 最後に思ったのは、巻き込んでしまった友達を元の世界に帰してあげられない事実。

 花音は死を覚悟して、ぎゅうっと目を瞑った。


     ◆◆◆


 花音達一行を送り出した後、シャノンは鍛冶職人達のもとを訪れた。

 彼らの知識はシャノンの国の職人達と比べるとかなり劣っている。だが、その技術や意気込みは決して劣っているとは言えない。

 シャノンは彼らに知識を与え、自国にあるのと同じポンプを作らせていた。


「試作品は出来そうか?」

「うむ。シャノン殿のおかげで、どうにかここまで漕ぎ着けた。じゃが、一部の部品がやたらと複雑でな。その部品は外部の錬金術師に委託している状況じゃ」

「まぁ当面は仕方なかろう。あれは複雑な部品だからな」


 なお、外部の錬金術師というのは、ディアーナが自国から連れてきた職人である。ゆえに、いまだこの国の者達は、ポンプを再現できずにいるのが現状。だが、シャノンの目的は自分の生活環境を堂々と整えることなので、ポンプが出来れば問題はない。


「しかし、異世界の知識というのは凄いな。よもやこのようなモノが出来るとは」

「他にも様々な知識がある。これが終わればまたなにか作ってもらうので楽しみにしておけ」

「ほっほ、それはたしかに楽しみじゃ」


 そんな感じでポンプの試作品を完成させて、続けてポンプの量産体制の計画を立てる。ほどなく、ディアーナから思念による連絡が入った。


『どうした?』

『花音様が本日の訓練を終えました』

『……うむ、そのようだな』


 花音の影に潜らせている影を通してその光景を確認する。


『レベルも順調に上がっているようだな』

『はい。そちらに問題はありません。ただ……花音様が訓練所を自分だけ使うのはもったいないとおっしゃっていますが……どう対応いたしましょう?』

『花音らしいな。かまわぬ、花音が使用しておらぬときは、他の者も訓練させてやれ』


 ダンジョンのコアを制圧しているのはシャノンの配下である。ゆえに、シャドウを発生させているのもシャノンの意思であり、勇者以外にどのような敵を出現させるかも思いのままだ。

 花音を護る騎士のレベルアップもまた、花音を護ることになるだろうと許可を出す。

 そうして、シャノンは鍛冶職人達との話し合いを再開する。

 けれど――


『シャノン様、緊急です。六魔将と名乗る魔族が花音様の前に現れました。このままでは花音様の一行が全滅しそうですが、いかがいたしましょう?』

『――私が向かおう』


 すぐさま、鍛冶職人達に急用を告げて部屋を後にして、誰もいない物陰へと飛び込んだ。シャノンは一瞬で戦闘準備を整え、花音のいるダンジョン前へと転移する。



   ◇◇◇



 使い魔の目を通して状況を把握していたシャノンは、花音に剣が振るわれる瞬間、そのあいだに割り込んだ。迫り来るディリオラの剣を指先で摘まんで止める。


「何者だ、どこから現れたっ!」


 ディリオラが声を荒らげた、その声にはわずかな焦りが滲んでいる。

 突如現れたシャノンに、指先だけで一撃を防がれたのだ。焦るのも当然だろう。ディリオラが慌てて剣を引こうとするが、シャノンはそれを難なく押さえ込んだ。


 剣を指で掴んだまま腕を振るう。

 最後に指を離してやれば、ディリオラは大きく吹き飛んでゆく。


「あ、あの……助けてくれたんですか? 貴方は……?」


 花音が戸惑いながらもそんな問いを投げかけてくる。

 いまのシャノンはディアーナと同じような武装を纏い、背中には漆黒の翼。マントの付いた、黒いフードを深く被って顔を隠している。


 だが、声でバレては意味がない。

 シャノンは意図的に低い声を出して「心配するな、私に任せておけ」とだけ答えた。そして、花音を安心させるためにパチンと指を鳴らす。

 直後、倒れている騎士達に淡い光の粒子が降り注いだ。


「……いまのは?」

「範囲回復の魔術だ。じきに目を覚ますだろう」


 それだけを口にして、シャノンはディリオラの元へと歩いて行く。ちょうどダメージから立ち直ったディリオラが立ち上がるところだった。


「貴様、六魔将とか言ったな?」

「そうだ。魔王様の側近である俺にこのような前をして、ただで済むと思っているのか?」

「ほぅ? おまえのよう小物が側近とは、その魔王とやらもしれているな」

「貴様っ、魔王様を愚弄するかっ!」


 ディリオラの身体がグッと膨れあがり、彼の持つ剣が淡い光を纏う。


「魔剣の錆びにしてくれるわ!」

「ふっ、血で錆びる魔剣だと、笑わせてくれる」

「その減らず口、いますぐ叩き斬ってくれる!」


 一足でシャノンの間合いへと踏み込む縮地。彼は既に剣を振るっている――が、シャノンは虚空から引き抜いたデスサイズで易々と受け止めた。


「遅すぎてつまらぬな。今度はこちらから行くぞ。どこまで対応できるか試してやろう」


 シャノンがデスサイズを振るう。決して早くはないその一撃を、ディリオラは剣で受け止めようとした――が、あまりの重さに剣を弾かれる。彼はとっさに身体を捻ってデスサイズを躱すが、シャノンは美しい曲線を描いてデスサイズを翻し、流れるような連撃を放った。


 二つ、三つと連撃を重ねるたびに速度と重みが増していく。デスサイズとは本来儀式用の武器であり、実戦には向いていないと言われている。


 事実、シャノンの持つそれも魔術具なのだが――シャノンは軽やかに、踊るようにデスサイズを振るい、彼女の魔力を纏った刃が青い残光を残す。

 淀みのないその連撃は美しくすらあった――が、そのデスサイズが秘めるのは圧倒的な暴力だ。その一撃一撃がディリオラの命を確実に削っていく。


(ふむ……この程度が限界か? 奥の手を隠している可能性はあるが、それを差し引いてもそれほどの脅威ではなさそうだな)


 ラウンズが一人のシャスティアは無論、文官でしかないディアーナでも十分に対処できるレベル。六魔将は恐るるに足らずとの判断を下す。


「ば、馬鹿な、この俺が押されているだと!? 貴様は何者だ!」

「答える義理はない」


 おおよその力量は測り終えた以上、これ以上戦いを長引かせる理由はない。すぐさま始末してくれると、シャノンがデスサイズに更なる魔力を込める。


 刹那、ディリオラが魔術を放った。

 魔法陣はない。シャノンの不意を突いた攻撃で、威力はともかく範囲が広く、花音や騎士達が巻き込まれる恐れがあった。

 シャノンはデスサイズに込めた魔力を使って広範囲の障壁を張る。


(詠唱も魔法陣もなく、この規模の魔術を放てるのか。少し見くびっていたか?)


 敵の脅威度を上方修正して身構える――が、爆風が晴れたそこは無人。即座に探知の魔術を行使するが、シャノンの探知範囲にディリオラの気配は残っていない。


「……逃げた、か。引き際は見事だな」


 周囲に他の脅威はない。花音は怯えてがいるが無傷。騎士達も癒やしのおかげで命に別状はなく、ほどなく目覚めるだろう。それらを確認したシャノンは、ディアーナに引き続き周囲の警戒を命じ、転移の魔術でその場から立ち去った。




 城に戻ったシャノンは、何事もなかったかのようにその日を過ごした。

 夕暮れになって部屋でくつろいでいると、城がにわかに騒がしくなる。ハンドベルで呼び出したメイドに事情を尋ねると、花音が帰還したようだという答えだけが返ってきた。

 どうやら六魔将の出現はまだ知られていないようだ。


「では、私も迎えに行くとしよう」

「確認してまいりますので少々お待ちください」


 メイドの一人が席を外す。

 そのあいだにもう一人のメイドがシャノンの身だしなみを整えてくれる。その作業に身を任せているとほどなく、席を外した方のメイドが戻ってきた。


「花音様はこれから陛下に遠征の報告をなさるそうです。それが終わったら、シャノン様の部屋を訪ねると言付かりました」

「そうか。ではここで待つとしよう」


 メイドに労いの言葉を投げかけて退出させ、使い魔を通して花音の様子をうかがった。

 報告は主に花音がおこなっているが、その補足を護衛の騎士隊長であるカーティスがおこなっている。花音の報告は不慣れなようで拙いからだ。


 むろん、勇者訓練所の得体が知れないというのもあるだろう。実際、報告を受けた者達も混乱しているようだ。

 だが、花音は勇者訓練所のシャワールームに興味津々のようだ。あのシャワーがこの城にないのかと問い掛け、ないと言われて落ち込んでいる。

 シャノンは、花音の欲しいものリストにシャワールームを加えた。


 その後も、少し寄り道をしながらの報告が続く。報告だけならカーティスに任せた方が早そうだが、そうしないのは勇者である花音を立てているからだろう。


(思った以上に花音を大切にしているようだな。だが……問題は花音の方だ。最初の実戦であれだけの体験をした以上、心が折れていてもおかしくはないぞ)


 初陣でPTSDになることは良くあることで、そのまま戦えなくなることだって珍しくはない。その状態で次の戦いに赴けば、命を落とすことだってあり得るだろう。


 だが、シャノンは花音をそのような目に遭わせるつもりはない。自分のことを友人だと言ってくれた。シャノンにとっては初めての友達を護るためにここにいる。

 花音が前に進むのなら支えるが、そうでないのなら元の世界へと連れ帰る。


 花音の状態を見極めようと報告を見守っていたのだが――花音は自分の力不足を嘆きながらも、六魔将に勝てるようにもっと訓練をするとの意気込みを口にした。

 さすがは、召喚の魔法陣に選ばれただけのことはある、ということだろう。



 その後も報告は続き、六魔将の出現について語られる。その瞬間、話を聞いていた者達が大いにざわめいた。それだけ、六魔将の存在は彼らにとって大きいのだろう。

 だからこそ、六魔将を圧倒した謎の存在は更に信じがたいようだ。


 もっとも、シャノンにとっては、花音に正体がばれていないことが分かれば問題はない。この様子なら問題はなさそうだと、使い魔との同調を切った。



 しばらくして花音が部屋にやってきた。

 彼女はシャノンを見るなり抱きついてくる。


「ただいま、シャノン」

「……うむ、よく帰ったな」


 強敵に立ち向かう勇気はあっても恐怖を感じない訳ではない。六魔将の出現は彼女の心を傷付けていたのだろう。それに気付いたシャノンはなにも言わずに花音を抱き留めた。


(とはいえ、私が抱きしめていると言うより、私が花音の胸に抱きしめられているという感じだがな……ぐぬぅ)


 花音より一つ年下ではあるが、年齢以上の格差を感じずにはいられない。シャノンはそんな理不尽に傷付きながらも花音の背中をぽんぽんと叩いた。

 ほどなく、花音が「あっ」と声を上げてその身を離した。


「ご、ごめん」

「……ん? どうした、なにを謝る必要がある?」

「え、あ、その……一応着替えはしたんだけど、それだけだから……」

「あぁ、たしかにいまの花音は汗臭いな」

「うぐぅ……」


 花音は自分の豊かな胸をぐっと押さえた。


「だがそれは、花音が頑張った証拠ではないか。なにも恥じる必要はないぞ」

「え? あ、その……は、恥ずかしいよぅ」


 恥じる必要はなくても恥ずかしいらしい。


「ふふっ、花音は乙女だな。では、後で一緒に湯浴みでもするか?」

「お風呂?」

「ああ。花音が遠征で疲れるだろうと思ってな。メイドに頼んで用意させてある」

「いいね! じゃあ一緒に入ろ! ――と、そのまえに、王様から言伝があるんだった。ポンプの試作品を見たいって言ってたよ」

「……あぁ、中庭の井戸に設置準備をしてある。すぐに向かうとしよう」



 メイドを通して鍛冶職人達に知らせを出す。さっそく中庭に移動して、国王達が来る前にと、中庭の井戸で鍛冶職人達が作業を開始する。

 付いてきた花音が目をキラキラとさせている。


「うわぁ、本当にポンプだ、凄い! 私、なんとなくの原理は知ってるけど、どうやったら原理通りに動くか分からなくて、教えられなかったんだよね」

「原理を知るのと、作り方を知るのは別だからな」


 一般的な手押しポンプは真空を作り出すことで、気圧の差を利用して水を汲み上げる。

 口にしてしまえば簡単だが、どうやって真空にするのか、その部品はどうやって作るのか、といった問題がある。その状態からでも作れなくはないが、それでも何年もかかるだろう。


 もっとも、シャノンの場合は自国の専門家を招くなど、様々な抜け道を利用している。だからこそ短期間での制作が可能であり、花音が驚くのも当然である。

 もちろん、シャノンはそのようなこと、おくびにも出さない。そうして設置を進めているとほどなく、国王やフラウ、それに国の重鎮達が姿を現した。


「シャノン様、それがポンプなのですか?」

「うむ。井戸の水をくみ出すのに最適な道具だ」


 フラウの問い掛けにシャノンが答える。

 フラウの側仕え達はシャノンの態度にも慣れたものだが、重鎮達は眉をひそめた。ただし、国王やフラウの周囲がなにも言わないことから、重鎮達も無言を貫く。


「シャノン様、ポンプの設置が終わったぞ――ました」


 鍛冶職人が報告して、それからそそくさと後ろに下がった。どうやら、王族を始めとした偉い人達が一杯いて緊張しているらしい。


(彼らに実演させるつもりだったのだが……さて)


「誰か、ポンプを使ってみたい者はいるか?」


 国王達に視線を向ける。

 とはいえ、国王や王女は軽々しく試せる立場にない。出来るとすれば重鎮達だが、彼らは皆得体の知れない道具に警戒心を抱いているようだ。

 ――と、その様子を見ていた花音が手を上げた。


「はいはい、私、やってみたい」

「ふむ。では花音に任せよう。そなたなら説明もいらぬだろうし、ちょうどよい」

「まかせて!」


 井戸に設置されたばかりのポンプの前に立つ――が、彼女はコテリと首を傾げた。


「あれ? シャノン、これ、呼び水はどこに入れるの? というかハンドルがないよね?」

「いや、呼び水は必要ない。その蛇口に手をかざして見ろ」

「え、こう? ――って、勝手に水が出てきた!?」


 ポンプに組み込まれた魔導具が起動して、吸い上げられた井戸水が流れてくる。驚いた花音が手を引っ込めると、ほどなくして水が止まった。


「え、センサー? え、自動?」

「おぉぉおぉ……なんと、手をかざすだけで水が出るのか、これは便利だ!」

「ええ、本当に。まさに画期的。異世界の技術は素晴らしのですね!」


 目を白黒させる花音の横で、国王やフラウが驚きの声を上げた。続けて遠巻きにしていた重鎮達も驚嘆の声を上げたため、誰も花音が驚いていることを不審に思わない。

 俺にもやらせてくれと、我慢の利かなくなった国王が手をかざす。ポンプから水がジャーッと噴き出して、国王達が「おーっ!」と声を上げた。


 一人だけ違う意味で驚いている花音が彼らの輪から押し出されてくる。彼女は凄く困惑した顔で「シャノン、あれってどういうこと?」と眉を寄せた。


「便利であろう?」

「便利は便利だけど、色々おかしいよね?」

「便利だからよいではないか」

「そういう問題……かなぁ?」


 まだ困惑している――というか不審に思っているのだろう。だからシャノンはさきほど仕入れたばかりの、とっておきのカードを切った。


「あれを少し改良すれば、シャワーを作ることも難しくはないぞ?」

「え、シャワー?」

「まぁ花音が必要ないというのなら、これ以上の技術提供は控えることにするが……」

「あ、待って、ちょっと待って。必要ないなんて言ってないよ! 便利ならいい。というかシャワー欲しい! シャワー作って、シャノン様!」

「ふっ、仕方ないな」


 次はシャワー付きのお風呂だなと、シャノンは次なる目標を立てる。国王達が自動ポンプに驚いているのを横目にしていると、花音が「そうだ」と髪を掻き上げた。


「お守り、返すね。ありがとう」

「いや、そのお守りはこれからも持っておくがいい」

「え、でも……」

「私よりも、花音にこそ必要だろう?」


 シャノンが微笑みかけると、花音は軽く目を見張った。


「……ありがとう。正直に言うと、今日、凄く怖かったの。でも、お守りを握ると勇気が出たんだ。だから、もう少し借りておくね」

「花音は、これからも魔王討伐を目指すのだな?」


 逃げたいのなら手を貸すぞと、声には出さずに目で問い掛けた。


「……怖いこともあるけど、私はみんなを助けたい。そして、シャノンを元の世界に戻すんだ。だから、私は立派な勇者になれるように頑張るよ!」

「……そうか。ならば私も出来る限りの協力をすると約束しよう」


 シャノンが笑うと、花音は少しだけ不思議そうな顔をした。


「ねぇ……シャノン。シャノンはどうしてそこまで優しくしてくれるの?」


 私が巻き込んだのにとでも言いたげな顔。だからシャノンは、それが愚かな質問だと言いたげに鼻で笑ってみせた。


「花音、おまえが私を友人だと言ってくれたからだ」

「……それだけ?」

「他になにが必要だ?」


 花音も、出会ったばかりのシャノンを友人だと言って庇ってくれた。花音がそうであったように、シャノンにとって彼女を見守るのにそれ以上の理由は必要ない。


「……ありがとう、シャノン。これからもよろしくね」

「ああ。側にいると約束しよう。花音がこの世界の(・・・・・)魔王を滅ぼすまで、な」

 

 

 お読みいただきありがとうございます。

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 長編連載中の『社畜の姫が変態です。今日も彼女に勝てません』もよろしくお願いします。

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