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渡り鳥

 地中をおよぐ鳥の群れ。羽をぴたりと体につけて、滑っているかのように足元を流れていく。風力計は高い数値を出していて、その中を飛んでいける鳥の強さに、なんだか感心する。

 全面ガラス張りの渡り廊下。ぼくはその中間点で休憩していた。床に座り込んで足を伸ばす。

 頭上には空、俯くと奈落。かつてここは地上だったという。けれどもうどちらを向いても、人間が立てる場所なんてない。土星の環のように、ばらばらに分解した土の気流を、びゅんびゅんと鳥が掻き分けていく。砂粒のような空気はその嘴で舞い上がり、沈殿する暇もなく空を漂っていた。

 頭上を仰ぐと太陽が見える。数日前に昇ったばかりだから、これから暑くなることだろう。

 そうやってぼーっと座り込んでいると、廊下の奥のゲートが開いた。滅多に開かない、外気出入口がある区画とつながっているゲートだ。

 中から人が出てくる。見覚えのない人だった。小脇にヘルメットを抱えているから、外からやって来たのだろう。

 その人はぼくの姿を確認するなり、早歩きで近づいてきた。

「あなたが、ここの管理人さん?」

「はあ」

「私、ふたつ隣の固有シェルターから来ましたの。案内してくださらない?」

「はあ」

 起き上がり、その人を改めて見る。ここでは所有していない柄のパイロットスーツを着ていた。それにイントネーションにもどこか異国情緒を感じさせる。

 ついてくるように促し、その人が入ってきたのとは別の方向へと、廊下を進む。

「わざわざこんなところまで何の用に?」

「昔、ここに忘れ物をいたしましたの。今この、日が昇って間もないタイミングに来ないと、また機を逃してしまいそうで」

「はあ。まあそういうことなら、すぐに見つかりますよ」

 ゲートを開ける。気圧調節用の予備区画を通り抜けると、住民共同のホール区画に出る。見知った顔が何人か、珍しい来客に視線を注いできた。

「あれはなんですの?」

 ホールの中央に設置された、巨大な時計を指さす。時計は0時5分を示していた。

「ああ、世界終末時計ってやつですよ。昔のオブジェを飾っているんです」

「へえ」

 ホール区画からさらにゲートを通り、管理人用の部屋に入った。シェルターの内容物はすべてこの中で確認できる。

「それで、どんな忘れ物ですか?」

「妹を」

「ああ、なるほど」

 シェルター内の記録を漁ってみると、確かにその人の妹らしき情報が見つかった。

「ありましたよ。再現しましょうか」

「お願いいたします」

 使っていない区画を分解させ、それらをここに移動させる。そして妹の情報を与えると、すぐさま目の前でナノマシンが再構築され、幼い少女が再現された。

「お姉ちゃん?」

 少女が姉の姿を確認する。

「ああ、良かった」

 その人はしゃがみ込み、自身の妹を抱きしめた。人間の情報はシェルターごとに孤立していて、別のシェルターで再現はできないから、さぞかし寂しい思いをしていたのだろう。

「帰るならすぐに帰ったほうがいいですよ。すぐまた暑くなりますし」

「ありがとう」

「いえ」

 また渡り廊下の向こうへと行き、その人はジェット機に乗り込む。一人乗りのジェット機であるため、行くまでは姉妹融合していくようだ。胸と背中を接合した彼らは、またこちらに向かって礼をして、そそくさと出発する。気流に逆らうと危ないから、来た道を引き返すことはできない。ふたつ隣のシェルターから来たということは、帰りはほとんど地球一周の旅になることだろう。

 足元を流れる渡り鳥と一緒に、彼らは再び旅立っていく。

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