次の王
「王になんてなってたまるものか!」
第一王子はそう言って王室を後にした。玉座に残された現王は溜息をつく。
その場に控えていた第二王子と第三王子は慌てて第一王子の後を追いかけた。兄が継承権を放棄してしまうと、繰り下がって自分たちが王になってしまう。王子のなかで、王になりたいと考える者はひとりとしていなかった。
「お兄様! お待ちください、お兄様!」
第一王子の背中に声をかけると、彼は振り返った。
「どうかお考え直しください! お兄様が王になってくださらないと、ぼくが王になってしまう」
「そしてそれがさらに繰り下がるとぼくになってしまう」
口々にふたりの王子が第一王子に抗議する。第一王子はかぶりを振った。
「おまえたちの負担を増やしてしまって、申し訳ない。しかし俺だって絶対に王なんてものにはなりたくないのだ。俺たちだけではない。たとえ世襲制でなかったしても、この国の王になりたいなどと思う人間が果たしてどこにいる?」
「まさしくその通りでございます。しかしお兄様は生まれながらにして王の器を持つお方。ならばその天命を全うされずしていかがいたしましょう!」
「そうおだてても意味はない。俺は王位を捨てるのだからな。ふたりのうちのどちらかが、王でもなんでもするがいい」
「だからぼくらは王になんかなりたくないんですって!」
「それは俺もそうだといっているだろう!」
第一王子がそう叫ぶと、その場で寝転がっていた猫が驚いてニャーと鳴いた。
「猫がいたのか。気付かなかった」
第三王子がひょいと猫を持ち上げる。猫はそれをいやがってさらにニャーと鳴いた。
「お兄様……どうか考え直していただけることは……」
「言っているだろう。それは無理なことだ。どれだけ押し付け合っても、あの愚王の息子である俺たち三人の中からしか次の王は選ばれない。たとえこの世襲制を撤廃したとしても、どうせ同じだ」
ニャーニャーニャーニャー。猫が騒がしくわめく。第三王子も何を思っているのか、猫を離してはやらなかった。
「ならばお兄様。第四王子を生ませればよいのではないですか?」
ふいに、第三王子がそう言った。
「しかしお前、次の王が決まるのはほんの数か月後だぞ。たとえ王が子種を仕込んだとしても、もう間に合わない」
「いえ、間に合います」
第三王子が、猫を抱え上げた。
「猫の妊娠期間は二か月程度だといいますから」
第一王子と、第二王子が顔を見合わせる。
その夜、三兄弟は王と猫を交配させ、はれて次の王をもうけさせたのだった。