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管理人さん/お家で勉強会 1

次の日、朝起きた俺はふわふわとした意識のまま起き上がった。

…おそらく、昨日の夜寝るのが遅かったからだろう。

とりあえず、目を覚ますために一階に降りようと階段に足をかけた瞬間、ふらっと体が傾いて倒れそうになる。

慌てて手すりにつかまり、その場にしゃがみこむと頭に手を置いた。

いくら寝不足でも、階段から落ちかけるほどなんて。

気を取り直して、今度は慎重に階段を降りる。

さっき驚いたおかげで目は覚めたけれど、二階にいるとまた寝そうになるかもしれないし、降りてしまうことにした。


無事に一階へ降りると、すでに机の上にいたもふもふが<キュッ!>と鳴いた。

もふもふ的には、おはよう!と言っているのかもしれない。

挨拶がわりに頭を撫でて、朝ごはんのメニューを考え始めた。

確か、トマトとベーコンがあった気がするから、卵と炒めてパンにのせても美味しいかな。

パッとメニューを決めて、材料をそれぞれの大きさに切り始める。

トマトは大きいものを使うから輪切りにした後4つに切ればいいだろう。

ベーコンも4つくらいに切って、炒める。

ベーコンの油が出たところでベーコンを皿に取ってトマトを入れる。

ジュワッと音がして、トマトの水気でパチパチと油が跳ねる。

来ないとは思うけれど、危ないから近づかないようにもふもふに伝える。

わかった!と聞こえそうな返事をして、もふもふは俺から少し離れる。

あれだけ離れれば、多分油が飛んだりしないだろう。


材料が全部炒め終わると、少し前に焼き始めておいたパンが焼けた。

そこにさっきの具を乗せて、半分に切る。

もふもふたちの分は4つに切って皿に盛ると、ちょこちょこともふもふたちが寄ってくる。

手を合わせて食べ始めると、嬉しそうなもふもふの声が聞こえた。

今日のサンドイッチも成功だったらしい。

時間を確認しながら口に入れると、トマトの程よい酸味とベーコンの塩気、卵の優しい味が合わさってとても美味しかった。

焼いたトマトもアリだな、と頷きながら食べていると、食べ終わったらしいもふもふたちが時計の前で遊び始めた。

…その時計がかなりギリギリの時間を示しているのは何かの偶然だと思いたい。

美味しく出来た朝食を詰め込みながら、急いで用意を終えた。


玄関の前、もふもふたちが見つめる中、行ってきます、と声をかける。

昨日よりも楽しそうに、行ってらっしゃいと挨拶をしてくれたような気がした。

手を振りながら歩いていくが、途中で時間がギリギリだということを思い出して走る。

学校近くの道を通っても、俺と同じような学生の姿は見えなかった。


教室に着くと、まだチャイムはなっておらず、本当にギリギリで間に合ったらしいことにホッとする。

席にカバンを置くと、後ろから声をかけられた。

なんとなく声の主が分かっていながら振り向くと、そこにいたのは予想の通りの人物で。

「優介くん、おはよう」と、のんびり挨拶をしていた。

「ああ、おはよう。

阿由」

「お、すごい。

名前で呼べるようになってる…!」

「呼んじゃダメだった?」

「そうじゃないよ。

喜んでたの。

今日は遅刻ギリギリだったみたいだし、忘れてるかなーって思ってたんだ」

そう言いながら笑う阿由に、昨日も会ってたんだし、呼べるようにはなってるよ、と返す。

「それはそうだけど、昨日は結局名前呼びしてなかった気がしてさ。

…まあ、時間も時間だったから仕方ないけど」

「ああ、それはそうだね。

また今度、みゆちゃんとうちで遊ぼうよ。

夏の間ってうちは涼しいらしいし」

「そうなの?」

「うん。

あそこに住む前にどんなところですかって聞いたら、夏は涼しくて冬は寒いところだって言ってた」

「それって、前にあの家に住んでたって言うおばあちゃんから?」

「いや、管理人さんみたいな人かな。

鍵もその人から貰ったんだけど、優しそうな人だったよ」


と、そんな会話をしていると先生が入ってきて、会話は一旦終了になった。

またお昼に、と言ってそれぞれ席に着く。

相変わらず、クラス担任である城田先生はだるそうな話し方をしていた。

朝の連絡事項で言われたのは、最近、学校の近くで不審者が目撃されているということだった。

誰が狙われるかも分からないから、あまり外出は控えるようにしろ、とだるそうに言って城田先生は教室を出て行った。

今日は少し早めに終わったからか、いつもはあまり大きくない喋り声が、今回はそこかしこから聞こえてきた。

それと同時に、俺と阿由との会話も再開される。

「それでね、優介くん。

さっきの話の続きなんだけど、管理人さんって男の人?女の人?」

「男の人…だと思う。

声も顔も中性的な人で、雰囲気だけで言うなら不思議な人って表現が一番かな…」


そう言いながら、俺は管理人さん…ユキさんと出会った日のことを思い出していた。

ユキさんと出会ったのは、まだ俺が前の家に住んでいた時だった。

桜を見ようと外に出ると、木の下に不思議な人が立っていた。

この人も桜を見に来たのかな、なんて思っていると、その人が急に話しかけてきた。

「この桜、とても綺麗ですよね」

そう静かに呟かれた声は、男の人の声とも女の人の声ともとれた。

どちらかが分からずに曖昧に言葉を返す俺に、その人は笑って手を差し出した。

「はじめましてなのに挨拶もしないですみません。

ユキと言います。

これからよろしくお願いしますね」

不思議と嫌な感じのしなかったその人…ユキさんの手を握ると、にこっと笑ってユキさんは去って行った。

「……ちょっと待ってね」

「ん?

どこか変なところとかあった?」

阿由のその言葉に、出会いをもう一度思い返してみてもおかしなところはなかった。

「まずさ、なんでその…ユキさんはその桜を見に来てたの?

確か、優介くんの家の近くに咲いてる桜なんでしょ?」

「うん、そうだよ。

そんなに大きくもない、普通の桜の木」


あの桜は、自分の部屋の窓から見えるから、毎年欠かさず見ていた。

まあ、外に出てみようと思ったことやそれで人に出会うなんて、今までは考えもしなかったけれど。

…外に出てみたら、ユキさんと出会うことができた。

桜が咲いている時期は一緒に桜を見て、桜が散ればまた次の春を待つ。

そんな生活を1年か2年ほど繰り返した後、俺に引っ越しの話がやってきた。

「…引っ越し、ですか?」

「はい。

私の管理している家なんですけど、前に住んでいたおばあさんが引っ越してから、誰も住んでくれなくてですね…。

どうですか?住んでみませんか?」

そう問いかけられて、すぐには答えが出せなかった。

返答に困っていると、ユキさんは笑って言った。

「大丈夫ですよ。

すぐにじゃなくていいんです。

気が向いたら、また連絡をください」

その言葉とともに渡されたのは、シンプルに名前と電話番号だけが書かれた紙。

それをポケットにしまった後、気になっていた質問をしてみた。

「ユキさんはなんでうちの近くの桜を見に来たんですか?

…そんなに大きくないし、ちょっと歩けば綺麗な桜並木があるのに」


俺の言葉に、ユキさんは少し悩んだ後こう答えた。

「桜が、私を呼んでいる気がしたんです。

ほら、よく言うじゃないですか。

桜の下には」

「死体が埋まっている…?」

「まあ、ちょっと怖い話ですけどね。

私がここに来る理由はそれです。

また次の桜の季節に会いましょう」

そう言葉を残して、ユキさんはまた歩いて行った。

「…と、まあこんな感じだったんだよ」

阿由の反応を見ながら話を終えると、阿由はなるほどね、と呟いた。

「なるほどって?」

「ユキさんは相当不思議な人なのが分かったってことかな。

あ、それで、連絡した後はどうなったの?」

「連絡した後は、普通にじゃあ引っ越しの準備をしてきてくださいねって」

「暑い寒いっていうのは?」

「ああ、それは、さっきの話の後、引っ越しの話なんですけどって連絡したときに聞いたんだ」

「ふむふむ…。

ほかに何か情報はあった?

もふもふちゃんがいる、とか!」


楽しそうな阿由の質問に、もふもふと出会った頃を思い出して苦笑する。

「それがね、その辺は何も聞いてなかったんだ。

聞いてたら、もう少し驚かなくて済んだんだけど…」

「サプライズかな?

いいなー、うちにももふもふちゃん来ないかな……」

「阿由のところはペットはいないの?」

「えっとね、ふわふわしてるインコみたいな子はいるよー。

…インコ、なのかなあの子…」

「そこで悩むんだね」

「なんか普通の子と違う感じがするっていうか…。

あ、そうだ。

夏休みになったら会わせるね!

サブロウって名前なんだけど」

「サブロウ…」

「お父さんがね、この子はサブロウだ!って言って、他の候補が出なくてサブロウになっちゃったんだ」

「…よく考えたら、うちのもふもふよりはマシかもしれない…」

「もふもふだって可愛いと思うよ?

名前のままの姿が想像できるし!」


励ますように言ってくれた阿由にお礼を言って、お昼にまた話そうと前を向いた。

今日の最初の授業は…英語だ。

元々は予定がなかった新キャラ、ユキさんの登場回です。

まだキャラをきちんと考えていないのですが、また何話かしたら出そうかな、と思っています。

もふもふたちとも会話をさせたい…。

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