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図書館勉強会と椚原晃樹

放課後になり、佐藤さんの方はどうなっただろうかと考えていると、後ろから肩を叩かれる。

振り向くと、佐藤さんと椚原くんがいて。

「佐渡くん、椚原くんの勧誘は成功したよ!」

「いや、勧誘ってな…」

「勧誘は勧誘!

私と佐渡くんで勉強会するけど来る?って聞いたら来たじゃない?」

「そうだけどさ…」

「初めまして…じゃ、ないと思うけど話すのは初めてだよね?

佐渡優介です。よろしく」

「佐渡優介な、おっけー。

俺は椚原晃樹。

晃樹でもなんでも好きに呼んでいいし、仲良くしようぜ」

「じゃあ、晃樹で。

改めて、よろしくな」

「よし、じゃあ優介って呼ぶことにする!

優介、さっそくだけどさ、図書館ってどっちでやんの?」


気軽に名前を呼べる関係に少し嬉しくなりながら、そうだった、と思う。

この学校には、珍しく図書館が2つあり、それぞれに特徴があって、1つは専門的な本がたくさんあるのでS図書館。

もう1つは小説やCDなどが置いてある普通の図書館なのでL図書館と呼ばれている。

「今日はそこまで専門的にはやらないし、Lの方でいいんじゃないかな」

「了解!

あ、そうだ。

携帯持ってる?連絡先交換しよう」

「ああ、たしかに。

しておいた方がいいね。

ちょっと待ってて」

普段は使わないため、カバンの底の方にある携帯を取り出す。

連絡先を見ると、そこにあるのは兄と佐藤さんの文字だけだった。

「優介…。

俺が毎日メールするからな!」

「いや、大丈夫だから、心配しな……ちょっと、聞いてる?晃樹?」

「…こんな子だったんだね、晃樹くん…」


どんまい、と言うように肩を叩きながら言う佐藤さん。

暴走しがちというところは、俺と少しだけ似ているかもしれなかった。

…けれど、未だに携帯を持って喋り続けているのはさすがに周りの目線が痛いので、適当なところで肩を叩いて止める。

「…で、俺も……ん?」

「晃樹、わかったからとりあえず移動しないか?

勉強会の時間もあるし」

ちらり、と携帯で時間を確認しながら言うと、晃樹はそうだった、と頷く。

それと同時にやっと歩き出し始めた。

……少しだけ、今日の勉強会が不安になった瞬間だった。


そのまま晃樹に続いて歩いていると、何故か玄関から外に出ようとしていた。

「晃樹くん、そっちに行ったらS図書館の方じゃない?」

そう佐藤さんが声をかけると、晃樹は脳内地図を広げたようでピタリと動きが止まる。

それから30秒ほどした後、そうだった!とうっかりにしては壮大なミスに気づいたような声が聞こえた。

…なぜかというと、S図書館は学校の裏手にあり、大きさもかなり大きい。

靴を履き替えなければ行けないくらいの距離があるのに比べて、L図書館は校内にあって、一階に降りて廊下をいくつか渡ると着ける、行きやすい図書館だからだった。


「次は私が先頭に立つね」

と、佐藤さんが言う。

昨日は一度も行ったことがないなんて言っていたけれど、この学校に来てすぐに説明されるのが図書館だから道は覚えているだろう。

そう思ってついていくと、途中の道で迷っていた。

「佐渡くん…この後ってどっちだっけ…」

「右じゃないかな?」

「……佐渡くん…」

「ここをまっすぐ行ったらもうすぐだよ」

「…ここ、さっきも見た気が……」

そんな調子で全くたどり着けそうになかったので、俺が先頭に立つと5分もかからず図書館に着いた。

「…あれ、さっきの道からこんなに近かったんだ…」

そう呟いたのは、佐藤さんかと思ったら晃樹で。

さっき、方向音痴かもしれないと思ったのは、合っていたんだろう。

「良かったー、着いたよー…!

ありがとう、佐渡くん!」

抱きつかんばかりの勢いでお礼を言う佐藤さんに、迷いやすいから仕方ないとフォローを入れておく。

晃樹には…もう覚えてもらうしかないと思って放っておいた。


3人で図書館に入ると、涼しい風が横を抜けていった。

外は暑いというほどではない、と思っていたけれど、こうして冷房の涼しさを感じると、暑かったのかも、と思うから不思議だった。

「どこにする?」

「二階のが涼しいかな」

「一階のが、2人共迷わないんじゃない?」

コソコソとそんな会話をしながら、多数決で二階に決定する。

そんなに歩かないだろうし、二階でもいいのかな。

そう思い直すと、二階の階段近くに席を取った。

「さて、じゃあ始めようか」

机の上にテスト用課題と教科書を置いて、2人に声をかける。

「あ、俺、苦手教科英語なんだよね」

と、教科書を見て晃樹が声を上げる。

「晃樹くんも英語が苦手…!

お友達だ!」

と嬉しそうな声を上げて握手を求めるのは佐藤さん。

お友達だ、ということは、さっきまでは友達ではなかったという……深く考えるのはやめて、2人に英語を教えることにした。


「I am……あー、よし、やめよう」

「じゃあ、晃樹は新出単語をひたすら書いててもらえる?

書けば書いただけ覚えるから」

「…わかった…」

逃げ道を塞がれ、新しい課題が出たことに落ち込みながら課題を進める晃樹。

多分、英単語を覚えてから文法を覚えれば晃樹は解けるようになると思う。

…問題は…。

「ベリーナイス?

佐渡くん、この人は何でナイスって言ってるんだと思う?」

「佐藤さん、それ多分ナイスじゃないよ」

「……そうなの…?

通りで楽しそうな顔してないなって思った…!」

「佐藤さんは多分、何も記憶されてないまっさらなままなんだよね」

「ん?」

「だから、イチから詰めていけば覚えられると思うんだ」

「…つまり?」

「とりあえず晃樹と一緒で英単語を覚えよう」

「…はーい」


晃樹もそうだけど、佐藤さんも素直な性格なので、これをやろうと言えばやってくれる。

だから、一個ずつ覚えていけば今までより点は取れるはず。

これを習慣化すれば毎回テストで困ることはないだろう。

…おそらく。

「よし、終わった…!

優介、これで合ってる?」

綺麗な字で埋め尽くされたノートを見て、問題を作ることにする。

覚えていたなら全部書けるはずの、単語用小テスト。

これを2つ作って後で佐藤さんにも解いて貰えば身についたことがわかるだろう。


……そんな調子で勉強会は進んでいき、2人が英語を勉強し終わる頃には1時間が経っていた。

「これで、英語はまあまあな点が取れるはずだから次にいこうか」

「ちょっと、飲み物買って来ていい?

頭の使いすぎで疲れた…」

「あ、私も!

甘いものが飲みたいなー」

「優介の分も買うけど、何がいい?」

「んー、と、じゃあお茶系のなにかで。

200円渡しとくから、お願いします」

「はーい。

よし、図書館出たら自販機まで競争しよう、晃樹くん」

「よし乗った!

買ったらジュース奢りで!」

「いいとも!

絶対私が勝つからね!」

そんな会話がゆっくりと遠ざかっていく。

静かになって思うことは、もふもふやハムくん、そしてみゆちゃんのことだった。

みんなは元気かな、とか何してるのかな、とか想像をするけれど、もふもふたちが何をしているかは見当もつかなかった。

…そうやって考えると、自分がいない間のもふもふたちのことを何一つ知らないことに気がついた。

家に帰ったら、何をしたか聞いてみようかな。


ジュースを持って帰って来た2人は、何故かすごく疲れているように見えた。

理由を聞くと、晃樹は迷ってとりあえず走ったから。

佐藤さんは、その晃樹を探すために校内をぐるぐる回ったから、らしい。

どっちが先に着いたかの勝負はなしになったようで、2人はとりあえず図書館に戻ってくることを目標に協力しながら帰って来たんだとか。

おつりの数十円を受け取りながら、2人の話を笑って聞いた。

こんなにも楽しい、なんでもない会話は佐藤さんと出会ってからほぼ毎日行われていて、それが幸せだった。

前も思ったけれど、関わる人数が増えると余計にこの時間を大切にしたいと思えた。


その後、1時間ほど勉強をして解散となった。

今日出来たところの復習を家でしてもらいながら、次の予定を立てる。

「もふもふちゃんたちとも遊びたいし、佐渡くんのお家はダメですか!」

「…もふもふちゃん?」

初めて聞いた単語に、疑問を浮かべる晃樹。

「もふもふちゃんはね、佐渡くんのペット?で…」

「ものすごいもふもふした鳥っぽい生物だから、もふもふ。

単純な理由だよ」

「あー、なるほど。

阿由さんはその子に会いに行きたいってことか」

「そうなの!

絶対晃樹くんも気にいるから!

もふもふしたくなるよ!」


全力で勧める佐藤さんにちょっと驚きつつ、晃樹もうちでの勉強会に賛成する。

「佐渡家って綺麗そうなイメージがあるし、行ってみたいな」

「私もそう思ってたんだよ、綺麗だった!」

「…じゃあ、また日付は明日決めるってことでいい?」

「うん!

あ、お昼一緒に食べようよ。

決めやすいし!」

「あ、それいいかも。

2人はお弁当から仲良くなったらしいじゃん?」

「なんでそれを…!」

「唯からの情報です」

「唯ちゃんかー、それなら仕方ない!」

「その噂の"唯ちゃん"にも参加してもらいたいし、2人に誘ってもらう役をお願いしていい?」

「了解しました!

明日のお昼から一緒するかもしれないけど驚かないでね!」

「話伝わるの早いな…。

とりあえず、明日のお昼に阿由と優介の席に行けばいいわけね?」

「うん、そうしよう」


少し長めの解散会話をしながら、それぞれの帰宅方向へ歩き出す。

…とは言っても、俺と佐藤さんは途中まで道が同じだけれど。

「晃樹くん、すごい子だったよね…。

なんていうか、全体が」

「うん、すごかったね…。

ああいう元気なタイプって話す機会がなかったからちょっと新鮮だったな」

「そうなの?

…あ、そうだ。今更なんだけど、佐渡くんのこと名前で呼んでもいい?」

「それは自由に呼んでもいいけど…どうして?」

「なんか、晃樹くんが優介って呼んでるの聞いて呼んでみたくなったと言いますか…」

「ああ、それはたしかに。

俺も、晃樹が佐藤さんを阿由って呼んでてちょっとびっくりしたし」


お互いの呼び名については、このまま佐藤さんと佐渡くんでも良いかもしれないと思っていたけれど、変わるなら変わるでも良いと思う。

多分、慣れなくて数日は佐藤さんと呼んでしまうかもしれないけれど、阿由と呼べたら何か変わるような気がした。

…親友のような気がする、とかの変化が。

「優介って、優しいって字が入ってるの良いよね」

「それ、小さい時俺も思ってた。

優しくて強い男になるんだぞ、って言われてたの思い出すな…」

「そうなの?」

「うん。

お友達には優しくしなさい、とか、なんでも食べなさい、とかさ。

小さい頃に言われたことって忘れているようで覚えてるものなんだよな」

「ああー、なるほど…。

私もあったなー、そんな時。

あゆの阿が難しくて、なんでこんなに難しい字なの!ってお母さんに怒ってたことがあったんだって」

「今考えると、そんなに難しくない、って思っちゃ…あ、ごめん」

難しくない、と言おうとすると、今でも難しいという顔をした佐藤さん…阿由が目に入る。

慌てて謝ると、別にいいけどね。とちょっと拗ねたように言われた。


やがて、口数が少なくなった後、分かれ道に着いた。

また明日、と声を交わして家に帰る。

遅くなってしまったから、もふもふたちが心配だった。

急いで家に入ると、いつもと変わらないもふもふに出迎えられてホッとした。

今日は時間がなかったので簡単に夕ご飯を済ませて、急いでお風呂に入る。

全部が終わって寝る頃には、もう23時を過ぎていた。

明日の朝、起きられるか不安に思いながら静かに目を閉じた。

椚原くんが登場しました。

それと、主人公の名前が本編に登場したので安心しました。

次はまた、唯との初対面かな、と思ってます。

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