佐藤さんのお料理教室 3/勉強会の約束
「あ、そうだ。
佐藤さん、今日は何時頃に帰る予定?」
「明日は学校もあるし、早めに帰ろうかなって思ってるよ」
「えー、今日はお泊りしないの?」
「お母さんとお父さんも心配するだろうし、また夏休みになったら遊びに来ようね」
「夏休み!
じゃあ、みゆ毎日来るね!」
元気いっぱいにそう言ったみゆちゃんに、佐藤さんもそうだね、と続く。
…夏休みと言えば。
「佐藤さん、夏休みってことはもうすぐテストだけど大丈夫?」
「……そ、そうだった…。
どうしよう、佐渡くん…」
一瞬で涙目になる彼女は、相当テストが不安らしい…。
「まだテストまで時間あるし、勉強したりすれば大丈夫だと思うよ。
…ほら、分からないところがあったら俺もおしえられるし…」
と、そこまで言うと、佐藤さんの手が俺の肩を掴む。
「いいの?!」
「うん、いいけど…」
「ありがとう!!
じゃあ、明日から勉強会……」
「ストップ」
そのまま、勉強会の予定を決めようとする佐藤さんの言葉を遮ってから、提案をする。
「俺もうまく教えられるか分からないし、とりあえず明日図書館で勉強しない?」
「…図書館…。
初めて行くかもしれない…」
そんな不穏な言葉を漏らしつつも、とりあえずは了解を取れた。
もしかしたら、俺が教えるのが下手だということもあり得るし。
その時は、頭の良さそうなクラスメイトを連れて来るしかないかな、と考えながら佐藤さんたちを見送りに行く。
勉強会の話をしていたら、予想より時間が経っていたらしい。
「じゃあ、また明日学校で」
「うん、また明日。
あ、図書館で勉強の話はお昼にまた聞くからね」
「了解。
気をつけて帰ってね」
「ばいばい、もふもふとハムくんとさわたりくん!」
「ばいばい。
また、遊びに来るのを待ってるからね」
「うん!」
<キュッ!>
<キュッキュッ!>
もふもふとハムくんも彼らなりの挨拶を返す。
ドアが閉まる直前まで大きく手を振るみゆちゃんに手を振り返しながら、ドアが閉まる音を聞いた。
「寝るには少し早いけど、お風呂も入るし、明日も学校があるし…。
早めに寝ようかな」
そっと呟いて、ハムくんを抱える。
お風呂が好きになったもふもふは、もう自分でお風呂の方へ飛んで行っていた。
…この間の買い物で入浴剤を買ってみたし、入れてみてもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、もふもふの鳴き声がする方へ歩いていった。
お風呂に入浴剤を入れると、綺麗に染まっていく様子を見て、もふもふたちが大興奮していた。
キュー!キュッキュ!と、賑やかな声をBGMにしながら、ゆっくりとお湯につかる。
ふー…なんて声が思わず出てしまうくらい今日は疲れたようで。
寝てしまいそうな気持ちよさに、体を癒しながら伸びをした。
…ふと、静かになったもふもふたちが気になって周りを見ると、俺の隣でもふもふたちがお湯に浮かんでいた。
その目が閉じていたから、もしかしたら気持ちよすぎて寝てしまったのかもしれない。
ここで熟睡をして溺れたりしたら怖いので揺り起こすと、もふもふの口からキュアー…とあくびのような声が聞こえた。
眠そうではあるが起きたので、ザバッとお湯から出てもふもふたちを洗ってしまう。
これだけ眠くなってしまうなら、土日とかにだけ入浴剤を使うようにした方がいいかもしれない。
まだ何種類もあった入浴剤をどう使っていくかを考えつつ、もふもふたちとお風呂を出た。
相変わらず、ドライヤーを使うともふもふになる2人を見ながら、この2人の毛で枕を覆ったりしたら最高に安眠出来るのかもしれない、なんて思った。
次の日、いつものようにもふもふたちに留守番をさせて家を出ると、学校へ行く途中で佐藤さんに出会った。
今日は出る時間が早かったせいか、佐藤さんの登校時間に合わさったらしい。
「おはよう、佐藤さん」
「おはよう佐渡くん。
あ、今日のお弁当なんだけどね、肉巻きアスパラ入れてみたんだ」
「ああ、美味しそうだね」
「とても美味しかったです。
実はね、朝ごはんでもう先に食べたんだ」
「そんなにたくさん作ったの?」
「今日は未由のリクエストにする、って言ったらアスパラが食べたいって言われてね。
張り切って作ったら作りすぎちゃって…」
「なるほどね。
…あ、そうだ。
今度言おうと思ってたんだけど、」
「うん?」
「俺もお弁当を作ってきて、交換して食べるとかやりたいなって。
俺の料理を食べてもらうことにもなるし、なにより作ってもらうばっかじゃちょっと嫌だし」
「ああー、なるほど!
それいいかも!
佐渡くんの卵焼きとか食べてみたい!」
目を輝かせてそう言った佐藤さんに、明日のお弁当は俺の担当で、と伝える。
それを聞いた佐藤さんは、楽しみだなー、と繰り返し言っていた。
「あんまり、期待しすぎないでね?」
「カレーも美味しかったし、大丈夫だよ!
佐渡くんの料理は私が保証する!
絶対美味しいから!」
力強くそう宣言されると、大丈夫なような気がしてくるから不思議だった。
くすくすと2人で笑い合いながら、賑やかな登校時間を過ごした。
キーンコーンカーンカーン…とチャイムの音が聞こえる。
今日も騒がしくなり始めた教室で、佐藤さんとお弁当を食べる。
お弁当箱をもらって蓋を開けると、まず目に入ったのはアスパラだった。
たくさん作ったと言っていた通り、お弁当箱の3分の1ほどをアスパラの肉巻きが占めていた。
「作りすぎたとは言ったけど、こうして見てみると本当に多いね…。
味は美味しいんだけど、量が多かった…!」
「他のおかずがカラフルだから、見た目も茶色すぎてなくていいと思うよ。
大丈夫大丈夫」
不安そう、というよりはショックを受けていそうな佐藤さんを励ましながらお弁当を食べる。
アスパラの肉巻きは、ご飯が進むちょうどいい甘辛さだった。
「これなら未由ちゃんが食べたくなるのも分かるかも。
佐藤さんが作りすぎちゃうのもね」
「そうでしょ?
どう見てもお腹いっぱいそうなのに、まだ食べる!ってご飯をおかわりする未由を止めるの、大変だったな…」
そう遠い目をしながら言う佐藤さんに、その場面が簡単に想像できた。
昨日も一昨日も、あれだけ元気に飛んだり跳ねたりしていれば2杯や3杯は食べられるのだろう。
そう思って佐藤さんに聞いてみると、予想以上の答えが返ってきた。
「2杯とか3杯ならまだいい方だよ…。
未由はね、4杯目だったんだよ、おかわりしたとき」
「…それは…すごいね」
予想の上をいくみゆちゃんに驚きながらも、賑やかそうでいいな、と思った。
それが毎日の光景なら、ご飯の時間は楽しいだろう。
「…あ、それで、勉強会の話なんだけどね」
「そういえば、その話をしようとしてたよね」
「図書館でやるって言ってたけど、他に誰か一緒に行く?」
「一緒に行きたい人がいたら、その方が良いね。
2人より3人のが教えやすそうだし、教わることもありそうだから」
「そうだよねー…。
誰が良いか…あ、椚原くんは?」
「椚原…あー、あの子か」
「確か、テストの成績がすっごい良いって聞いたことあるし、唯の友達だし」
「唯っていうのは、うちのクラスの畑野さんで合ってる?」
「うん、正解。
私の友達でね、椚原くんと仲がいいんだって」
「その畑野さんは呼ばなくて良いの?」
「…うーん、呼んでもいいんだけど、あの子図書館とか静かなところが一番向いてない子だから……」
その一言で、なんとなく察する。
たしかに、クラスでの様子を見ていると賑やかな子、というイメージが強かった。
「だから、誘えたら椚原くんも参加で、3人の予定かな。
あとで椚原くんに声をかけてみるね」
「ありがとう。
じゃあ、俺は佐藤さんが苦手な部分を教えられるようにノートを見返したりしておくよ」
「…お願いします…」
「ちなみに、どの辺が苦手なの?」
「英語と数学と…国語」
「……ああ、なるほど…」
微妙に偏ったような苦手科目は、俺も昔苦手だった科目だった。
対策を考えながらお昼を終えると、また放課後に、と約束をして椅子を戻した。
やっと学校らしい回になってきた気がします…。
2人新キャラが出てきたので、フルネームを書いておきます。
○畑野 唯
佐藤さんの友人。
○椚原 晃樹
頭が良いクラスメイト。




