佐藤さんのお料理教室 1
朝起きると、甘いようないい匂いがした。
それと共に、もふもふたちの声も聞こえるからもうみんな起きているんだろう。
のんびり起きてみんなのいる方へ向かうと、元気な声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん、みゆ、チーズ入ってるのがいい!」
「じゃあ、佐渡くんもチーズ入りがいいって言ったらそうしようかなー」
「!じゃあ、みゆさわたりくん起こしてくる!」
そう言って、くるっと後ろを向いたみゆちゃんと目が合った。
「あ、起きてきた!
おはよう、さわたりくん!」
「こら、おはようございます、でしょ?」
「大丈夫だよ、佐藤さん。
この年の子に敬語って難しいし…。
今は、さわたりくんでおはよう!でもいいよ」
「じゃあ、もう少し大きくなったらちゃんと注意してくれるんだよね?」
「…え、」
「冗談!
あ、そうだ。
未由が、朝ごはんのオムレツはチーズ入りがいいって言ってるんだけど、佐渡くんもそれでいい?」
「うん、いいよ。
みゆちゃんの好きなもので」
「了解」
「やったー!
あ、さわたりくん!
みゆね、お姉ちゃんに起こされなくても起きれたんだよ!」
「そうなの?
偉いね、みゆちゃん」
「えへへー、そうでしょ!
あ、あとね……」
みゆちゃんと楽しくお喋りをしている間、もふもふたちはそばでちょっと眠そうだった。
やっぱり、昨日から騒ぎっぱなしだと疲れるのかもしれない。
…まあ、いいことではあるんだけど…。
「ご飯、できたよ。
未由も手伝ってくれるよね?
…早くしないとーチーズ入りのオムレツが冷めちゃうよ?」
「!!…て、手伝う!」
ぱたぱたとお皿を出しに走るみゆちゃんに、慌てなくて大丈夫だよ、と伝えながら佐藤さんの手伝いをする。
主に、サラダを作ったりご飯をよそったりの簡単なことだけど。
「いただきまーす!」
「いただきます」
「いただきます」
<キュッ!>
<キュッキュー!>
5人それぞれの挨拶をして、食べ始める。
まずは、みゆちゃんが好きなオムレツから。
「うわ、卵ふわっふわだね…」
「そうでしょ?
お姉ちゃんのオムレツはね、世界で一番美味しいんだよ!」
えっへん、と胸を張ったみゆちゃんは自分の分をもきゅもきゅと楽しげに食べる。
たまに、もふもふの方を向いて美味しいねーと笑っているのが可愛い。
「さて、佐渡くんにクイズです。
この卵をふわふわにしているものはなんでしょうか?」
「…えっと…マヨネーズ?」
「残念、加えたのは水でしたー!」
「水で、こんなにふわふわになるんだ…」
ふわふわの秘密を知ってから、もう一口食べる。
水でふわふわになるなんて、考えもしなかった。
美味しく作るには知らないことばかりなんだな、と思った。
ふわふわオムレツをだいたい食べ終えた頃にはご飯も終わっていて。
お味噌汁でホッと一息をつく。
優しい味噌の味が安心出来て、とても好きな味だった。
「お味噌汁もオムレツも、みんな美味しかったよ…。
さすが師匠」
なんて茶化してみると、佐藤さんは楽しげに笑った。
「前も言ったかもしれないけど、師匠なんてすごいものじゃないよ。
美味しい料理を作りたいから色々調べて作るだけ。
それを人に教えて美味しい物が食べられたら、私もみんなも幸せでしょ?」
簡単なことのように言う彼女の言葉にはなるほど、と思わせるような説得力があった。
たしかに、みんなで美味しいものを作って食べられたら最高に幸せだと思う。
「佐藤さんはすごいね」
「うーん、そうかな?
みんな、このぐらいのことは考えてると思うよ?
未由だって美味しいもの食べたいからお姉ちゃん料理教えて!ってよく言ってるし」
「…みゆちゃんが?」
「うん、そう。
まだ簡単なことしか教えられないけど、高校生とかになったらちゃんとした料理が作れる子になると思うよ。
…あの子、美味しいものを食べるためだったら料理くらい普通にこなすからね…」
…言われてみると、たしかにみゆちゃんは率先して手伝いをするし、将来は料理が出来る子になる可能性もあるかもしれない。
「いつか、みゆちゃんが作った料理を食べてみたいな。
…あ、でもその頃になったらみゆちゃんじゃなくなってるかもしれないな…」
「どういうこと?」
「ああ、えっとね。
今はまだ幼いからみゆちゃんって呼んでるけど、大きくなってからもみゆちゃんって呼んでたら嫌がらないかな、って思って」
「それはそれは…。
まだまだ先の話ですよ、お兄さん」
茶化して言われた言葉に笑いを漏らすと、それにつられたのか佐藤さんも笑う。
みゆちゃんやもふもふ、ハムくんもつられて笑い出すから賑やかな場所になった。
…さっき話したみたいに、 もし があったら。
この先もずっとこの空間が作れたら。
それは、ものすごく幸せで、宝物になるんじゃないかと思った。
いつか来るだろうそんな日を待ちながら、みんなと過ごしていけたらいいな。
「…さて。
朝ごはんも食べ終わったし、2人はどうする?」
佐藤さんとみゆちゃんにそう問いかけると、2人は顔を見合わせてから言った。
「ここで遊びたい!」
「…一旦、家に帰ろうかな」
顔を見合わせてアイコンタクトを取ったはずなのに、全く違う言葉が出てきたことに驚く2人。
「えー、なんで帰っちゃうの!
みゆ、ここで遊んでる!」
「…あのね、未由。
元々は今日来る予定だったんだよ?
それに、お母さん達だって2日も帰らなかったら不安になっちゃうと思うよ。
もし、未由が2日もお母さんとお父さんに会えなかったら悲しくなるでしょ?」
「……うん」
「だから、一旦お家に帰って、それからまたここに来よう?
もふもふちゃんたちも、佐渡くんもここにいるから」
「………わかった」
「よし、いい子いい子。
…と、いうことなので佐渡くん」
「ああ、また来るときに連絡……って連絡先を交換してなかったんだっけ」
「…あ、そういえば。
ちょっと待ってね」
カバンから携帯を出し、2人でふるふるっとする。
その後、お互いにメッセージを送りあってしっかり確認を取る。
「よし、大丈夫だね」
「うん、そうみたい。
ごめんね、連絡先教えてなくて…」
「いやいや、私の方こそごめんね。
日曜日行くっていうのは決まってたのに駅で待ち合わせだから大丈夫だと思っちゃってて…」
今度からはきちんと連絡を取ろう、ということにした。
それから、少しむすっとしたような、寂しそうなみゆちゃんとそれをなだめる佐藤さんを見送って。
元の3人になった俺たちは、静かになった部屋で少しの寂しさを感じていた。
まあ、今日またこの後来るんだけれど、さっきまで賑やかだった反動が来ているんだと思う。
少しだけ落ちこんだ様子のもふもふを撫でながら、みゆちゃんと佐藤さんに想いを馳せる。
昨日、公園でみゆちゃんと出会ったのは偶然だった。
でも、それが繋がってさっきまで佐藤さんとみゆちゃんがいた。
そう考えると、みゆちゃんと出会ったのも偶然じゃなくて仕組まれたものじゃないかと思えてくる。
佐藤さんたちがまた来るまでにやることはあまりないので、何をしようかと思っていると畑のことを思い出した。
あそこの土をきちんと耕して、トマトとかなすとかを植えたら楽しいかもしれない。
時間を確認して、まだ大丈夫なことを知ると買い物用のトートを手に取った。
もふもふたちには留守番をしてもらい、急いで近くのスーパーに行く。
…そういえば、もふもふたちに留守番をさせられると分かったのも最近だったな…。
そう考えると、ここ数日がとても濃くて楽しい生活だったんだということを実感した。
スーパーに着くと、種の売り場へ直行する。
もふもふが食べられるトマトと、食べさせてみたいオクラを手に取った。
あとは、ナスとトウモロコシ。
ニラももしかしたら大丈夫かもしれない。
そんな風に悩みながらカゴに入れていると、思ったよりもたくさん買ってしまった。
また、帰ってから今の時期に育てられそうなものを植えてみようと思った。
家に着くと、ピコン、とメッセージの着信音が鳴る。
通知を開くと、送り主は佐藤さんで、『もうすぐ出れそう。お昼前には行けます』というメッセージだった。
素早く返信を打って家の中に入る。
トートに物が入っていることに気づいたもふもふがキューキュー鳴いていたけど、袋を見せると悲しそうにリビングへ戻っていった。
…多分、甘いものだと思ったんだろう。
もふもふのその反応を見て、今種の話をするのはやめておくことにして、もふもふたちと佐藤さん姉妹が来るのを待つことにした。
まだ佐藤さんたち来てないんですけど、続くのでタイトルはこれにしておきます。
キーワードにもありますが、料理と言えるほどのことは書かないのでなんちゃって料理に近いです。
手順などがまるっきり違う可能性もあるので、なんとなくくらいで捉えておいてください…。




