亜咲の襲来(光付き)
※想定外に好評頂いているので作者名を元に戻しました。
今回は比較的軽いノリで書いたお話です。どっちかっていうとこういうふざけた文章の方が好きなんです。
そしてジャンル別日間2位になってました。総合も日間8位になってました。そろそろ禿げそうです。
これからも読んで貰えるように頑張ります……!!
「ねみぃ……」
結局あの後、要母さんによる旦那の愚痴大会が開催されてしまった。
てっきり異世界での話やナツやヒナとはどうするのか、とか聞かれるのかと思ったが。
「まあ結局は貴方達の問題だしね。もちろん私は小吾の味方ではあるけど、だからといって夏希だってヒナちゃんだってもうお子様って年齢じゃないんだし、好きにしたら良いんじゃない?」
とまあこういった有様である。
愚痴を聞く最中、ヒナからちょくちょくメッセージが届くのか、今週末に亜咲と光を家に招くという話も聞くには聞いたが、遅かれ早かれ光辺りから報告がありそうな気もした。
しかし冷静に考えてみると、光の俺に対する懐き様は異常だと思う。もちろん苦楽(主に苦が八割ほど)を共にした仲だし、普通の友人よりも仲間意識が強くなる、というのはまだ理解出来るのだが……
とは言え、それを本人に聞くのも無粋だろうし、もしかしたらこれからはその関係性も変わっていくのかもしれないしな。
まあそもそも、光のプライベートに関して「報告がありそうな気がする」なんて考える俺も俺かもしれない。
「というわけで土曜日に新しく友達になった日向ちゃんの家に遊びに行きます!!」
ほらね。
「早速友達が出来たのか。流石光だな」
「私だけじゃないよ!! 亜咲ちゃんも一緒にだよ!!」
はい知ってます。しかし遅かれ早かれ、とは思っていたが、まさか一時限目終了後すぐに来るとは思ってなかった。
「そうか。まあ仲良くやってくれ」
「むぅ、小兄がそっけないぃ……もっとどんな子なのかとか気にならないの?」
「はいはい。で、どんな子なんだ?」
「とっても良い子だよ!! 可愛くてクラスでも人気があるみたい!! 席が後ろだからプリント配る時とか少し話してみたら仲良く出来そうって思って話しかけてみたんだ!!」
ああ、確かに裏表のない光と大人しい性格のヒナはウマが合うのかもしれないな。主にヒナが聞き役として、なのは間違いないだろうが……
「あれ? でもちょっと日向ちゃんと小兄って似てるんだよね……なんでだろ?」
コイツはこういうところがあるから侮れない。以前からそうだが直感的に本質を見抜く力があるとでも言えば良いだろうか。
「まあそういう事もあるだろ。せっかく出来た友達なんだし、大事にしろよ」
「もちろん!! 昨日も日向ちゃんに誘われて剣道部を見学してきたんだよ!!」
「そうか、そりゃ良かった」
「むぅ……昨日も言ったけど小兄はホントそういうとこだからね!!?」
だからどういうところだよ……
「もっとどうだった? とか入部するのか? とか色々あるでしょ!!」
「聞かなくても答えは分かってるからな」
「ぐぬぬ……納得いかない。じゃあ当ててみなさい!!」
「物足りなかった、だろ?」
「……うん」
先ほどまでとは打って変わって、少し落ち込んだような反応が返ってくる。そりゃあそうだろう、少し前まで切った張ったの世界に居たんだから。部活を馬鹿にするわけでも下に見るわけでもないが、そもそも前提が違いすぎる。
光の場合、精神を鍛えるという意味では剣道部というのも良いかもしれないが、間違いなく部内で浮いてしまう事だろう。
仮に手を抜いてレベルを合わせたとしても、本気で取り組んでる奴等にとって良い影響があるとは思えない。
もちろん光が部活に入りたいというのであれば反対しようなんて思わない。大輝にしたって亜咲にしたってそうだ。応援するし、活躍するのは間違いないだろう。ただ--
ただ、俺には無理だろうな。と思っただけだ。
「まあ部活に入るかどうかは自分で決めればいいさ」
「はーい」
素直な返事をした光は休み時間が終わるから、と言って自分のクラスに帰っていく。
全く、自分で決めれば良いだなんてどの口が言うのか――
「ってあれ? 誰もいない?」
気が付いたら教室には俺一人がポツンと取り残されており、クラスメイト達がいなくなっていた。
慌てて壁に貼られた時間割に目をやると、"体育"の文字が目に付いた。つまり休み時間中に更衣室で体操服に着替え、チャイムが鳴る頃には運動場に出ていなければならない。
――キーンコーンカーンコーン……
ああ……やっちまった。
とにかく急いで更衣室に……更衣室?
「どこだよ……更衣室」
大輝は上手くクラスメイトに混ざって更衣室に向かったのだろう。おのれ裏切り者め!!
結局制服のまま運動場に出て妙にガタイの良い体育教師に見学を申し出た。理由? 更衣室が分からないなんて恥ずかしすぎるし、足の古傷が痛むから見学させてくれって言ったよ? 嘘だけど。
疑惑の視線を向けられつつも、見事見学を勝ち取った俺は誰にも気付かれないように拾っておいた小石を大輝の背中に向けて投げ付ける。裏切者には制裁が世の常ってね。
まあ後ろを向いたまま小石はキャッチされたわけだけど、この超人め。アイツとっくに人間やめてやがる。
制裁に失敗した俺は大人しく隅っこの方で授業を見学する事にした。五月とは言え、日が照っている時間は暑さを感じるには十分で、時折吹く風が心地よい。正直このまま横になって寝てしまいたい。
流石にそれは目立ちすぎるので、眠気を誘う陽気の中、しっかりと目を開いて一生懸命見学する。まあ傍から見たら俺の目の部分なんて見えてないだろうけど。あれ? これって寝てもバレないんじゃない?
くだらない事を考えつつ授業の方に意識を移す。どうやら今日の授業はサッカーらしい。サッカー部であろう男子諸君が喜々として用具の準備をしているのが見て取れた。
で、我らがハイパーイケメン大輝様はと言えば、目立ち過ぎない程度にサッカーを楽しんでいる様子が見えた。
まあしばらくサッカーなんてやる事もなかっただろうしな。授業と言えど楽しくなる気持ちも分かる。
サッカー部らしき男子諸君は悔しそうな表情をしているし、それ以外の男子は「すげー」とか「アイツ経験者か?」などと大輝の動きに目を奪われている。
女子はと言えば当然の如く「カッコいい」だのなんだのキャーキャー言っていた。予想通り過ぎる光景だったので、またボーっと授業の様子を見る作業に戻る。決してこちらに刺さる視線から意識を逸らすわけではない。ないったらない。
時折意識を無にする修行に耐え、チャイムの音と共に立ち上がる。
ついでに更衣室の場所を覚えておこうと、着替える必要のない俺は大輝に話しかけた。
「この裏切者め」
「何の事かな? ああ、そういえばちょうど背中が痒いなと思って腕を伸ばしたら手の中に小石が入ってたんだけど、凄い偶然だと思わないか?」
「春だからな」
お互いとぼけた会話をしながら更衣室へと歩いて行く。なるほど、更衣室はここにあるのか。もう覚えたぞ。ついでなので大輝が着替え終わるのを待ち、またくだらない会話をしながら教室へと戻った。
三限目、四限目と授業を終え、昼食の時間となった。弁当派が友人と弁当を食べるために席を移動、あるいは机を動かして向かい合わせになる。学食派は人気メニューを確保するために教室から猛ダッシュしていく、などなど、騒がしくなるのは中学も高校も変わらないらしい。
ちなみに今日は俺も弁当だ。学食のメニューにも心惹かれるものがあるが、昨日買いこんでしまった大量の野菜達を消化しなくてはいけない。
というわけでこちらが野菜炒め定食(肉無し)となります。
さてさて、大輝でも誘って……おぉ……
隣を振り向くと既に女子達が机をガガガと移動させ、大輝包囲網を築いていた。若干恐怖を感じた俺はそこから距離を取るべく、通路側の端っこまで席を移動させる。
おや、大輝が何か言いたそうな顔をしているな。なになに……?
――この裏切者!!
とりあえずニコリと笑顔で返礼しておく。しかし大輝が駄目となると一人楽しくぼっち飯をするしかないか。
「小兄!! 来たよ!!」
「なんで来た」
まさかの光襲来であった。コイツなんで俺が教室に居るって分かったんだ?
「さっき話した時かばんの隙間からお弁当の包みっぽいのが見えたから今日お弁当なのかなって!!」
やだこの子怖い。そんなとこ見てるのかよ……
「小兄様、ご迷惑でしたか?」
「いや、迷惑じゃないけど普通一年が二年の教室に来るか……って亜咲?」
「はい、貴方の可愛い亜咲ですが、何か?」
この亜咲の発言により、教室の空気がピシリと固まるのが分かった。コイツ絶対狙ってやっただろ……
「おいあの子ってもしかして……」
「だよな。なんであの子といい、アイツのところに」
「権力の匂いがする」
光に続けて亜咲まで押しかけて来た。というか光もそうだし、亜咲も十分に目立つ容姿をしているので、先の発言も相まって殊更注目を浴びてしまう。しかも亜咲に至っては理事長の孫というネームバリューもあるし、そろそろおかしいと思われても仕方ない。
ついでに最後に発言した奴、お前は一体何を知っている。
「はぁ……流石にここだと居心地悪いし、一緒に食べるのはいいから場所を変えよう」
「あら、小兄様は人気のないところがお好みですか?」
「だからお前、本当お前そういうところがな?」
もうなんと返していいのかも分からず、光みたいな言い方をしてしまう。なるほど、こういう気持ちの時に出る言葉なのか。勉強になった。嬉しくないけど。
「まあ私はどこでも良いのですけど、ところでそちらの方は小兄様に何か御用ですか?」
「え?」
誰だろう。亜咲がこの物言いをするって事は大輝と光以外の誰かなんだろうけど。
そう思い、亜咲の視線の先に目を向けてみれば、そこには弁当であろう包みを手にしたまま、迷うような素振りを見せる幼馴染の姿があった。
「えっと、あの」
「――ああ居た居た!! 夏希、一緒にお昼にしないか?」
と、何を言おうか迷っていたのだろうところに、爽やかと言っていいだろう。男の声が幼馴染を呼んだ。恐らくそうだろう、と思って声のした方を振り向く。
――間違いない。あの時の……
男子生徒の声は俺の耳にも十二分に届いていたので、正面に居る彼女が聞こえていないはずはないだろう。にもかかわらず、そちらの方向を見ようとせず、グッと唇を噛むような表情をしていた。
「おーい夏希ー。天野君が呼んでるよー」
「わ、分かってるから」
はぁ、と何かを諦めたかのような息を吐き、彼女は天野と呼ばれた男子生徒の元へ向かっていく。そんな表情を見せられてしまっては何か声をかけなければ、という焦燥に駆られたが、そこで動きが止まってしまった。
――なんて声をかければいいんだ……?
完全に機会を逸したというやつだろう。もう少し早く彼女の存在に気付いていれば、あるいは弁当の包みを持っていたのだから、一緒に食べないかと誘っていれば。
そのつもりであったのなら承諾するだろうし、違う用だったのなら断られるだけだった。なのに何故俺は何も言葉を発しなかったのか。
「うーん、なんだったんでしょうか?」
「きっと小兄と一緒にお弁当が食べたかったんだよ!!」
そうなんだろうか? 光の言う事だし、もしかしたらそれが正解なのかもしれない。
だが久しぶりに再会した俺に一声かけたかっただけかもしれないし、何より彼氏持ちの女子が特定の男子と一緒に弁当を食べるか? という思いもある。
我ながらヒネた考えだなぁと思うが、そう考えてしまう事は許して欲しい。だって例え相手が幼馴染だったとしても恋人を差し置いて、というのは違うだろう。と思ってしまう事くらい。
「でもあの男の人、なんていうか……」
そんな言い訳がましい思考は光の声で遮られる。
「ん? 大輝ほどじゃないかもしれないが十分にイケメンだったと思うが。パッと見た感じ嫌な奴ってわけでもなさそうだし」
なんで俺はよく知りもしない奴の擁護をしているんだろうか?
「なんて言っていいか分からないんだけどね。私は好きになれそうにないなって」
「私もですね。別に理由があるわけでもなく、こうなんとなく、ですが」
「……そうか」
この二人が言うのなら彼には何かがあるのかもしれない。だけど確信があるわけでもないし、色眼鏡で見てしまっては彼にも、幼馴染に対しても失礼だろう。
「まあいいや!! とりあえずごはんごはん!!」
「そうですね。昼休みが終わってしまわない内に食べてしまいましょう」
「そうだな、とっとと食べるか」
弁当の包みを解き、二段にした弁当箱を開く。
「小兄……育ち盛りの高校男子がそれはないよ……」
「見事に野菜だけ……ですね」
「うるさいよ!?」
だって一家族が一週間は持ちそうなくらい家に野菜があるんだぞ!? 捨てるのももったいないし仕方ないじゃないか……
――あ、そうか。要母さんに分ければ良かったんだった。
「私唐揚げ上げるね!!」
「では私はこのフライを」
「じゃあ俺はこの――」
「「あ、それはいい」です」
酷くない?
要母さんはヒロインではありません(重要)
いつもブクマ、評価ありがとうございます。
もっとしてくれてもいいのよ?