生徒会室にて~姉と妹~
というわけで二発目であります。
日跨いだから一発目? こまけえことはいいんだよ!!
先頭を歩いていた亜咲が不意に立ち止まり、すぐ近くにあった部屋の扉にノックする。恐らくここが生徒会室なのだろう。
あ、恐らくっていうか上に"生徒会室"って札付いてたわ。
特にノックに対する返事はなかったが、亜咲は気にせず扉を開けて部屋に入る。
「失礼します」
亜咲に続いて俺達も生徒会室へと入っていく。っていうか本当に良いのかなぁ。結局付いて来てしまったが、俺まで入ってしまっても。
そもそも生徒会室は一般生徒の立ち入りを禁止しているわけではないだろうから、入ってはいけないという事はないんだろうが……
「来たのね。どうぞ、そこに座ってちょうだい」
促された先には会議用とでも言えば良いのだろうか。長机が置いてあった。
その長机を隔てて生徒会役員用の机が置かれており、奥側が生徒会、手前側が一般生徒、という構図になるのだろう。
幸いにも椅子は六人分用意されていたので、生徒会長と面識のある亜咲を中心に、俺は一番右端へと腰かけた。
「ええと、ごめんなさい。そちらの方は?」
「あ、俺の事は気にしないでください。ただの付き添いなんで」
案の定というべきか。俺へと視線が向けられる。その視線はただ困惑した事を伝えてくるだけで、特に不快さを感じるようなものではなかった。
「亜咲?」
俺の扱いをどうしたものかと判断しかねたのか、生徒会長は亜咲へと問いかけた。
「生徒会長。小兄様の事は置物だと思って貰って結構です」
それはそれで酷くない?
と、抗議の視線を亜咲に向けたところ、何故か逆に微笑まれてしまった。どういう事?
亜咲の意図が分からず、視線を下に切った時だった。
――アレって机の上に乗るのか……
いやいや何を考えてるんだ俺は。確かにちょっと衝撃を受けたのは事実だけど、今はそういう事考える場所じゃないだろう。
「――兄様?」
兄という言葉に反応を示した生徒会長の声にハッと我に返る。
自分の事は生徒会長と呼んで、見も知らない赤の他人を兄呼ばわりしたのだから彼女の疑問も分からないでもない。
「ええ、そちらの地原先輩が小兄様。天翔先輩は大兄様と呼んでいます。どちらも私の兄のような存在ですから」
「……そう、あくまで愛称だと言うのであれば良いわ」
このまま口論しても話が進まないと判断したのか、生徒会長は不承不承ながらも俺達の呼称について承諾する。いや、別になんて呼ぼうが本人の勝手じゃないかとは思うのだが。
生徒会長の目に少し寂しげな色が浮かぶのが見えた俺は、おや? と不思議に思った。
先ほどまで何か企んでいそうな印象を受けていたが、今はそんな様子はない。それが逆に不自然にも思えた。
「こほん、失礼しました。わざわざ集まってくれて有難う。改めて紹介するけど私はこの九条学園の生徒会長を務めている九条美咲。別に生徒会長なんて呼ばなくても九条でも美咲でも、好きな呼び方をしてくれて構わないわ。それと――」」
自己紹介の後に少し間を置いて、俺の方へと視線を向ける生徒会長。
「そこまで内密な話、というわけではないのだけれど、部外者はいったん退室して貰えると有難いのだけれど」
「あ、俺ですね。分かりました失礼しま――」
「では私も退室しますね」
「小兄と亜咲ちゃんも居なくなるなら私もー!!」
生徒会長からのその言葉を待ってましたと言わんばかりに席を立とうとすると、皆まで言わさず亜咲が自分も退室すると言い出した。恐らくこうなる事を予想していたのだろう。
当然亜咲も居なくなるとなれば光も退室するだろうし、そうなればナツや大輝もこの場に留まる事はしないと思う。となるとこの場面は亜咲の一人勝ちというわけだ。
「えっ、え? ちょ、ちょっと待ちなさい!? その、地原君? はただの付き添いなんでしょう?」
「はい、付き添いですよ。人生の」
何その重すぎるフレーズ。人生の付き添いなんてパワーワード初めて聞いたわ。
「と、とりあえず座りなさい。さっきも言ったけどそこまで内密な話というわけではないから、彼も別に退室しなくても大丈夫です」
「なら良いです。良かったですね小兄様」
「ちょっと何が良かったのか分からない」
このまま退室しようとすれば亜咲達は言葉通り俺と合わせて退室しようとするだろう。そうなれば今度は生徒会長からも目を付けられるというわけだ。うーん、俺の高校生活わりかし詰んでない?
俺はそんな事を考え、少し遠い目をしながら椅子に座り直した。
「ごほんっ、あまり長く話をするつもりもないから率直に聞くわ。貴方達、生徒会に興味はないかしら?」
生徒会長は先ほどまでの態度を誤魔化すかのように咳払いをしながら、こちらに問いかけて来た。
当然この問いは俺以外に向けてのものだろう。さっき部外者って言われたし。
「特に天翔君と七海さん。貴方達は急遽退学となった天野君の代わりとして、どちらかには副会長をお願いしたいのだけれど」
「うーん、俺はまだこの学園に来たばかりですし、生徒会にはもっと学園に愛着のある入学当時から居る生徒に任せるべきでは?」
うん、大輝のこれは天野が勧誘してきた時も同じ事を言ってたな。というか生徒会長が大輝を勧誘するって事は天野の奴、生徒会長に相談もなしに勝手に勧誘してたって事か?
「そう……残念だわ。七海さんはどうかしら?」
「えっと、私はその……」
チラチラとこちらを伺うナツ。自惚れだと言われると辛いが、恐らく俺と一緒に帰る事が出来ないから断りたいのだろう。それくらいは昔から、特に最近の態度を見ていれば分かる。
「あまり乗り気ではないようね……」
「すいません……」
大輝とナツの返事が芳しくないものだったため、残念そうな表情を見せる生徒会長。
「元木さんと亜咲はどう? 貴方達は編入生と言っても他の一年生達と一か月くらい程度しか変わらないのだし、在学期間は気にする必要もないでしょう?」
「うーん、小兄は入らないんでしょ?」
「いや、そもそも俺は誘われてすらいないんだが」
「じゃあ私も入らない!!」
「なら申し訳ありませんが、私もですね」
光と亜咲も同様に生徒会入りを断った。というか俺を理由に断るの止めてくれないかなぁ。
「そう、元木さんもなのね。けれど亜咲、貴女には断るという選択肢はないはずよ?」
生徒会長は光の回答は受け入れたものの、亜咲の回答には不服のようだった。
「九条の家の者が、この九条学園で生徒会長を務めるのは伝統であり周知の事実。それを忘れたわけじゃないわよね?」
「ええ、覚えてますよ」
「なら――」
「ですが私には必要ありませんので」
そんな伝統は知らなかったが、これって部外者が聞いて良い事なんだろうか?
「必要ない? いくら家を継がないからってそんな責任の放棄が許されると思っているの!?」
「美咲姉さん。ここは家ではありませんよ?」
憤慨した様子の生徒会長を窘める亜咲。予想はしていたが、やはり生徒会長は亜咲の姉だったようだ。
にしても俺と大輝は"兄様"なのに実の姉には"姉さん"なのか。単に呼び方が違うだけだと言ってしまえばそれまでなのだろうが……
気になって亜咲を見れば、手が服の裾を握っては離しているのが見えた。
「大体貴方は急に帰って来たと思えば勝手に行動して!! 最近なんて天野家との縁談も勝手に――」
「姉さん?」
天野家との縁談? そんな話は聞いた事なかったが……
「それ以上お喋りするのであれば、いくら私でも黙っていませんよ?」
「くっ……」
亜咲から発せられた圧を感じてか、生徒会長が押し黙った。
普段の亜咲は温厚だが、怒った時はその分物凄く怖い。喚き散らすとか暴れるとかではなく、その静かなプレッシャーが物凄く恐怖心を煽るのだ。
「話は以上でよろしいでしょうか。それでは失礼しますね。九条先輩」
亜咲は席を立ち、生徒会室から退室しようとする。それに合わせて俺達も席を立った。
「それが貴女の選択というわけね。亜咲、後悔しても――」
「あ、生徒会長。一つ良いですか?」
生徒会長の声を遮り、俺は彼女に伝えるべき事を告げる。
「今回の話では部外者でしたけど。亜咲に何かしようっていうなら部外者じゃなくなりますんで、その時はよろしくお願いします」
「……何を言ってるの?」
お前に何が出来るというのか、と言った風な視線を受け止め、俺は彼女に宣戦布告する。
「ほら俺仮にも兄様って呼ばれてるんで。だったら妹は守ってあげないと」
「だったら俺もだな」
「じゃあそういうわけで、失礼します」
「なんなの……? 貴方達」
困惑する生徒会長を放置して生徒会室を後にする俺達。まあ本当に彼女が亜咲に対して何か仕掛けるのかは分からないが、その時は遠慮なく敵対させて貰うとしよう。
「小兄様、大兄様」
「ん?」
帰宅しようと廊下を歩く最中、亜咲が声をかけて来た。既に手は服の裾から離れている。
「大兄様は良いのですが……小兄様にはちょっと似合わない台詞かと」
「やっぱお前酷くない?」
あんまりと言えばあんまりである。
亜咲は俺の返事にクスリと微笑み、生徒会室に来た時よりもどこか軽い足取りで廊下を歩いて行くのだった。
そうそうブクマは上にあるよ? うんそう上。あ、それ違う。多分ブラウザのブックマークバー、それよりもうちょい下、そうそれそれ。
あ、下にもある? ごっめーん☆
なんだこの茶番。




