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夕食会と過去の話

仕事? やってるやってる。

 必死で女性陣の誤解を解いたところで、要母さんから夕食の準備が出来た事を告げられる。

 どうやら大人数になったので焼肉に決めた、との事だったので、準備とは言っても野菜を切るだけで終わったらしい。


 俺は棚から大型のホットプレートを取り出し、テーブルに設置する。昔はよくナツ達七海家と、俺達地原家で一緒にテーブルを囲ったなぁ……と、両親の事を思い出し、少しの寂しさを覚えた。また同時に、またこれを使う事が出来るのは喜ばしい事だとも思った。


 その間、女性陣と大輝達は学園での話に華を咲かせていた。

 そういえば気になったのだが、今日の放課後の時点でナツは光と亜咲の事を"光ちゃん"、"亜咲ちゃん"と呼んでいたが、いつの間に仲良くなったのだろうか?


 そういえば光も"夏希おねーちゃん"と呼んでいた気がするが、そっちはヒナの事もあるからそこまで違和感はなかった。


「でも今日凄かったねぇ。夏姉(なつねえ)ってモテモテなんだー」


 ……っておい!! いきなり呼び方変わってんじゃねえか。

 いや、確かに俺達の呼び方を考えれば別に不自然ではないのだが。


「そうですね。私達もクラスではよく男子の方から声をかけられますが、夏姉様(なつねえさま)程ではないですね」


 亜咲よ、お前もか。


「あはは……私も一年生の最初はそれほどでもなかったんだけどね……きっと二人ともすっごく可愛いから、これから苦労すると思うよ」

「私は小兄以外の男の人なんて興味ないからなー」

「そうですね。将来モノになりそうな人がいるならともかく、異性としては小兄様で十分ですね」


 地味に亜咲が腹黒い。というかお前ら、その発言はどうなの?

 ほらナツがジーッとこっち見てるじゃないか。ちょっと怖いんでやめて貰えません?


「えっと、ところで二人はしょうちゃんとどういう関係——」

「はいはい、その話は後にしなさい。ご飯の準備が出来たわよ」

「おーっ!! 焼肉だー!!」


 要母さんの登場により、会話は中断される。結局は後で言及されるのだろうけど。

 まあ今日はちゃんと俺達の関係についても話そうと思っていたところだし、まずはご飯にありつくとしよう。


 ひたすら肉を食べ続け、ヒナに野菜を食べさせられる光や、まるで小動物のように野菜ばかり食べる亜咲。

 大輝はもっとがっつくかと思っていたが、意外にも肉と野菜をバランス良く食べていた。イケメンかよ。


 俺はと言えば肉と米、米と肉と米である。

 最近は野菜炒めばっかりだったので、ここぞとばかりに肉をおかずにご飯を食べ続けた。

 それを見かねたナツにしっかり野菜も押し付けられた。まるで先ほどのヒナと光のようだと思った。

 つまり俺は光と同レベルだった、という事実に内心ショックを受けてしまったのは秘密である。


 それにしても要母さんも奮発してくれたのか、肉が美味い。更にたれを付けた肉をご飯に乗せ、そのたれが沁み込んだ部分をかっ込むだけで十分美味い。焼肉のたれを開発した人は本当に天才だと思う。


 そんなこんなで各々舌鼓をうち、楽しかった夕食の時間も過ぎた頃、要母さんがみんなの分のコーヒーを入れてくれた。もちろん俺はカフェオレだが。


「さてと、遅くなっちゃったけどみんな昨日はありがとう。お礼は気に入って貰えたかしら?」

「すっごい美味しかった!!」

「堪能させて頂きました。それに困った時はお互い様です。気にしないでください」

「ご馳走様です。とても美味しかったです」


 と、表現の仕方はそれぞれだったが、三人とも満足して貰えたようだ。


「良かった。これからもうちの子達(・・・・・)をよろしくね」


 恐らくその中には俺も入ってるのだろう。なんとなく、そう感じた。


「さてと、それじゃお互い積もる話もあるでしょうし……小吾、ちゃんと貴方から話しなさい。包み隠さず全部、ね?」


 要母さんが俺に水を向けた。わざわざ隠さずに全部、と言ったのはヒナに言っていない事も含めて、という事だろう。


「分かったよ。ナツ、これから言う事は信じられないかもしれないけど聞いて欲しい。それと、ヒナ」

「え? 私?」

「この前は話してない事もあったから、改めて話すから聞いてて欲しい。俺が、俺達がどんな事をして来たのかを」

「うん……」


 改まってそんな事を言った物だから、ヒナが不安そうに頷く。

 さて、要母さんは半信半疑ながらも受け入れてくれたが、二人はどうだろうか——

 一抹の不安を胸に抱きながらも、俺は意を決して口を開いた。


「いきなり突拍子もない話になるんだが、一年半と少し前のあの日——俺達四人が同じ病室から消えた日だな」

「うん……急に居なくなったから大騒ぎになったし、ニュースにもなったんだよ?」

「それは要母さんにも聞いた。あの日、俺達は異世界に召喚されたんだ」

「しょうちゃん?」

「分かってる。まずは話を聞いてくれないか?」


 前置きはしたものの、真面目なトーンから急に異世界なんて言葉が出てくればナツのような反応になるのは理解出来る。けれど事実なのだから、信じるにしても信じないにしてもちゃんと話させて欲しいと思った。


「異世界って言ったら多分想像がつくだろうけど、いわゆる剣と魔法の世界だったよ。そんなところに四人一緒に召喚されたんだけどさ。俺だけ足も動かないまま、しかも魔法の世界ったって魔力がなかったから本当役立たずで——」


 光は勇者、亜咲は後の聖女、大輝は聖騎士、と立派な役割があるにもかかわらず、だ。


「でも大輝達のおかげで俺は生かされていた。まあある意味人質みたいなもので、最初は牢に入れられてたんだけどな」

「そんな!!」

「まあでもそのおかげで足も治ったって考えれば悪くはなかったのかもってな」

「その、足はやっぱり魔法で?」

「ああ、亜咲のおかげだな」

「そう……亜咲ちゃんが……」


 と、俺の足が治った事に対する喜びと、自分がその場に居られなかった事の寂しさが同居したような表情でナツが俯く。ナツが俺の足を治す為に医者を目指して猛勉強した事はヒナに聞いて知っている。

 だから彼女に対しての申し訳なさはあったが、ちゃんと事実は事実として話す事にした。


「夏姉様、小兄様はこのように言ってますが、事実は少し違います」

「亜咲?」


 足が治った事実だけを告げた俺に、亜咲から訂正が入る。


「確かに私が治癒した、という事実自体には間違いはありませんが、その方法が問題でした」

「方法? 魔法があったって言うんならそれで治ったんじゃ……?」

「治るには治りましたが、足を潰しては治す事を繰り返す事はとてもではないですが治った、というのは少し……」

「しょうちゃん、潰したってどういう事?」

「えっとだな……」


 言葉にすれば簡単な事ではあるが、文字通り囚人用の鉄球で足を押し潰す。騎士の持つ剣で足を切り落とすなど、何度も何度も繰り返したのが事実である。

 それを告げるとナツとヒナは顔を真っ青にし、しばらくしてからその顔は真っ赤になる。


「しょうちゃん何考えてるの!?」

「そうだよ!! お兄ちゃん絶対おかしいよ!!」

「いや俺だって好きでやってたわけじゃ……」

「とは言っても最終的にやると決めたのは小兄様ですよね? あの頃ならいざ知らず、今はやれと言われても絶対に嫌ですからね?」

 と、取りつく島もない始末である。


「ま、まあほら、結果的に治ったんだから結果オーライって事で……」

「結果オーライじゃないよ……そりゃあ動かないって言われてた足が治ったのは事実だから嬉しいのは確かだけど……もう絶対こんな事やらないでね?」

「大丈夫、頼まれてもやらない」


 べ、別に好きでやったんじゃないんだからね。と誰も得しない言い訳を一人心の中で呟いた。


「で、足が治ったとは言っても、俺が戦力外なのは変わらなかったから、とりあえずやれる事をやろうと思って……」


 この世界の料理を少しでも再現しようと、下手なりに料理に手を出したり、せめて自衛の手段を得ようとあのクソ女騎士に頼んで鍛えて貰ったりと、自分なりに色々やってきた事を思い出す。


「そうそう、小兄が話を聞いてくれたのは嬉しかったなぁ。私と大兄はちょっと特殊(・・)だから」

「まあな、俺も面と向かって何度もバカ呼ばわりされたのは生まれて初めてだった」


 光と大輝がそんな事を零す。というか大輝、お前はそれで良いのか?


「それに小兄様はその……いつも影から私達を守ってくれていましたから」

「え?」


 もしかして亜咲は知っているのだろうか。


「なんだ小吾? お前バレてないとでも思ったのか?」


 大輝まで……? となるとまさか。


「え? もしかして小兄隠してたつもりだったの?」

「どういうこと? しょうちゃん何やったの?」

「あー、なんだ。その……」


 どうしよう、これ絶対言わなきゃいけないやつだよな。いや、全部隠さず言うって言ったんだからそりゃ言わなきゃいけないんだろうけどさ。


「小兄様は魔物が倒せない代わりに、私達の害となる人物(・・)を排除してくれていました」

「排除……ってもしかして……」

「多分、想像の通りだと思う」


 周囲の空気が重くなっていくのが分かる。


「俺は何度か人を殺めた。この手で、剣を握って」


 その行為に今更後悔などはしていない。けれど自分の兄が、幼馴染が殺人者だと知ればどう思うだろうか。

 軽蔑するだろうか、恐怖するだろうか。もしかしたら離れていってしまうのだろうか。


 ——ああそうか。だから俺は二人と会うのが、話すのが怖かったんだ。


 あんなにも再会したいと願っていた幼馴染(ナツ)(ヒナ)

 けれど再会してしまえば、いつかはこの話をしなければいけないと、頭の片隅では理解していたから。だから俺はこの世界に戻って来てからも、何か言い訳を見つけて二人を避けていたのかもしれない。


「だから……あの時も」


 天野の首をへし折ろうとした、その時の感情を思い出す。


 ——ずきりと、少しだけ左眼が疼くのを感じた。


「お兄ちゃん……」


 二人の顔を見る事が出来ずに俯いている俺を、未だ幼さを残した身体が包んでいく。


「辛かったよね。でも、しょうがなかったんだよね……」


 涙ぐんだ声でそう告げるヒナ。そして——


「しょうちゃん」


 俺の頭を自らの胸元へと掻き抱くナツ。やはりその声は涙で濡れているのが分かった。


「ごめんね。傍に居て上げられなくてごめんね……っ」


 何故彼女が謝っているのだろうか。理不尽とは言え、離れたのは自分だし、過ちを犯したのも自分だと確信している。例えそれがどんな理由であったとしても。

 けれど身体で感じた二人の温かさに、俺は無意識とは言え、二人を遠ざけるような真似をしていた事を恥じる。

 なんの事はない。結局は俺が二人を信じ切れていなかったのだと。同時に先ほど感じた左眼の疼きは、いつの間にか消えていた。


「ありがとう。ナツ、ヒナ」


 二人に礼を告げ、そっと二人を自分から離す。


「いいなぁ二人とも」


 そこに空気の読めない奴の声が混ざるが、とりあえず無視を決め込んでおく。


「んんっ、後は帰還時の事くらいだけど」


 微妙な空気になってしまったので、軽く咳払いして居住まいを正す。


「俺達四人……と言っても、俺は本当に何も出来なかったんだが、光達が魔神を倒したら次元の穴って言えば良いのか? が開いて、俺達はこの世界に帰ってくる事が出来たと。ただ——」


 俺はそっと、左眼に手を添えた。


「最後の最後で魔力が不足してしまって俺達は穴を潜る事が出来なかった。どうにか穴を広げる方法がないかと考えて、その魔神の眼を使った代償が、この眼だ」

「でもそれならなんでしょうちゃんの眼になってるの?」

「それは……」


 ごもっともな疑問である。そりゃ最初は俺も眼をかざせば穴が広がるかと思ってそうしたんだが……


「眼を穴にかざすだけじゃ駄目だったんだよ。だからって自分の眼と入れ替えて上手くいく保証もなかったけどさ……」

「入れ替えたってそれじゃ……」

「これも想像通りだと思う。俺は自分で自分の眼を抉り取って、魔神の眼を埋め込んだ」


 流石に足の話に続いて二度目ともなると、若干視線に呆れの色が混ざるのが分かった。気持ちは分かるが、俺だってやりたくてやったわけじゃないのだから、その辺は斟酌して勘弁して欲しいと思った。


「じゃああの時に眼が赤く光ってたのはそのせい?」

「俺もなんでそうなるのかはよく分かってないけど……」


 が、まあ先日の事で何がトリガーとなっているのかはなんとなく把握出来たと思う。

 実際、いつもなら既にあの痛みが襲ってくる時間だが、今の時点でその兆候もない。だとすれば俺の予想はあながち間違いでもないのだろう。


「まあ、特にコレに関しては特別な事はないよ。魔力が残ってるってわけでもなさそうだし、時々ちょっと痛むくらいで。——とまあそういう事情でようやく俺達は帰還出来たんだ」

「そうだったんだね……うん、ちょっと混乱してるけど、私はしょうちゃんの事を信じるよ」

「私もこの前全部話してくれなかったのは少し寂しかったけど、事情も分かったし許してあげる」

「ありがとうな、二人とも」


 例え言葉だけでも良い。今は信じてくれるというのであればそれだけで十分だ。

 俺はすっかり冷めてしまったカフェオレを飲み干し、話題を変える。


「で、俺達の話は以上なわけだが、二人はどうだったんだ?」

「私? 私はそんな特別な事は……」

「夏希お姉ちゃんはねえ、お兄ちゃんがいなくなってからもう毎日誰かに告白されてたよ?」

「ヒ、ヒナちゃん!?」

「詳しく」


 妹による突然の裏切りに狼狽するナツを見て、帰ってきたんだな。という実感が湧いてくる。

 同時に思う。願わくば変わらない毎日を送る事が出来ますように、と。


 ——そして、その日は眼の痛みが俺を襲う事はなかった。


エピローグで評価とかお願いしたらすっごいポイント増えてまたジャンル別ランキングに帰ってきました……いつもありがとうございます。

なんかもうテンション上がって書く意欲がTOMARANAI。

しかも何気に2万ポイント見えてきた……

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