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夏希を探して

ちょっと中途半端ですが投稿します。

すいません昨日今日と連続早番で、四時ちょいには起きなあかんのです。

「ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん……はぁっ、早すぎだよ!!」


 連絡の取れない夏希を捜索すべく、家を飛び出した俺達だったが妹のヒナが早々に遅れ始めてしまった。


「光、頼めるか?」

「はーい、日向ちゃんこっちこっち!!」


 俺の言いたい事を察してくれたのだろう。光はヒナを呼び寄せ、地面へとしゃがみ込む。


「え? え?」

「ヒナ、乗るんだ」

「ほらほら、おんぶおんぶ」


 余裕のない俺とは裏腹に、楽しそうにヒナへと声をかける光。

 彼女も俺の余裕の無さを見て、焦り過ぎないようにあえて緩くしてくれているのだろう。

 ……多分。


 ヒナは躊躇いながらも光の背におぶさる。不謹慎ながらも二人の少女が抱き合っている構図は微笑ましさがあると感じた。


「な、なんか恥ずかしいな……」

「ヒナ、それじゃ駄目だ」

「え?」


 やはり恥ずかしさがあるのだろう。けれど肩に手を乗せる程度じゃ駄目だ。


「光の首を絞めるくらいにしがみついとけ、あと舌を噛まないようにな」

「こ、こう?」

「特急ひかり号!! 出発しまーす!!」

「わっ!! きゃああああ!!」


 ヒナがしがみつくように力を入れたのを感じたのか、ふざけた事を言いながら光が走り出す。

 が、ふざけているのは態度だけではなかった。

 いくら背中に乗っているのが比較的小柄なヒナだとは言え、それでも十分な斤量となるだろう。それがしがみついているのであれば、身体の動きも阻害されるだろうし、尚更だ。


 だがまるで重さを感じさせないかのような速度で光が駆けていく。人を一人担いだ光にようやく追いつける程度の自分の体力が恨めしい。

 隣を見れば、大輝はまだ余裕があるのか涼しい顔で並走しているのが見えた。

 まったく化け物どもめ。頼りになるじゃないか。


 速度にしてみれば、ママチャリの全力疾走に近い速度を保ちながら、俺達はスマホが示す光点へと向かっていく。

 徐々に距離が近付いてはいるものの、電波が悪いのか、はたまたナツが移動しているのか分からないが、光点はまるで俺達から距離を取ろうとするかのように動いていた。


 確かにナツは道を覚えるのが苦手だったが、そのせいで幼い頃からスマホの地図アプリを使うクセがついていたはず。

 で、あればやはりそれすら出来ない状況なのか、もしくはスマホを落として誰かに拾われてしまったか、だ。


 前者であれば一刻も早く駆け付けなければいけないが、後者であればそもそも付近をしらみつぶしに探すしかなくなってしまう。

 どちらにしても状況は良くはない、か。


 その時大輝からスマホを手渡された。何故こんな時に? と疑問を覚えてしまう。


「小吾、亜咲からだ」


 その一言で、亜咲が何か手掛かりを掴んだのかと思い、走りながら大輝のスマホを受け取った。


「もしもし、小吾だ」

「小兄様、悪い情報です」


 前置きもなく、開口一番に悪い情報だと伝えて来る亜咲。それだけ悠長に話している暇はないという事だろう。


「続けてくれ」

「はい、学園の用務員が七海先輩が学園を出たところを目撃していました。どうやら女性と二人で校門を出たそうです」


 女性と? 剣道部の関係者だろうか。それならただの寄り道とも取れるが、何故悪い情報になるのだろうか。


「ですがその後、天野さんが校門の前を通ったそうです」


 天野、という名前を聞いてズキリ、と眼の奥に痛みが走る。


「さらに、どうやら天野さんは一人ではなく、あまり風体の良くない男性を数人伴っていたと言っていました」

「つまり、天野がナツを追って行った可能性が高いって事か」

「そうなります。ですので小兄様の懸念は当たっているかもしれません」


 天野はともかく、亜咲の言う風体の良くない男達というところが引っかかる。


 そうなればナツのスマホの位置が絶え間なく動いている事にも説明が付く。付いてしまう。

 どう考えてもゆっくり歩いている速度だとは思えない。時々止まって動かない事もあるが、動き出すとその位置が移動する速度は相当のものだった。


 だとすればナツが走っている事が伺える。


 一緒に学園を出たという女性については不明なままだが、家の方向に向かっていない事、また走る必要がある事、電話に出なかった事などを総合して考えると、ナツは追われている可能性が高いと思えた。


 彼女は大丈夫なのだろうか。ある意味ではナツの位置を指し示す点がまだ動いている事が救いだろう。仮に捕まったとしたら一か所に留まるか、あるいはゆっくりと移動するはずだと思った。


 で、あれば一刻も早くナツを見つける必要がある。ナツの居場所を示す点まであと僅かな距離だ。きっと間に合うはず、と自分に言い聞かせた。

 だがこの距離であればそろそろ姿が見えても良いのではないだろうか。もしかしたら電波の関係などで位置が微妙にズレている? だとしたら後はこの辺りを調べて回るしかないのかもしれない。


 そう判断した俺は、当初の予定通り二手に分かれる事にした。


「大輝、光。予定通り二手に分かれよう」

「分かった」

「ヒナを頼むぞ」

「任せとけ。指一本触れさせないさ」


 普段なら爆発しろと言っているところだが、こういう非常時には頼もしい。

 それに亜咲の情報から察するに、ナツを見つけても荒事になる可能性は非常に高いと思われる。

 であれば、あの地獄のような日々に少しだけ感謝せざるを得ないのかもしれない。


 俺と光、ヒナと大輝に分かれ、お互いスマホを頼りに左右から回り込むようにナツを捜索する。


 それにしても天野という男は何を考えているのだろうか。そもそも本当にナツと天野は付き合っているのか? 俺の中でそんな疑念が生まれていた。


 仮にナツが俺に引け目を感じているとしたら、それは分からないでもない。実際に俺がナツに対して引け目を感じているところはある。

 本来ナツと話をするよりも光や亜咲を優先している事自体がそう。

 もちろんそれに関して言えば、あの日見た光景が原因ではあるのだが……


 ズキリ、と先ほどよりも鋭い痛みが眼の奥に走った。


 だがこの数日間、天野がナツに対して何かしら声をかけているところは見かけたものの、ナツから天野に対して声をかけているところは見た事がない。

 むしろそれより俺達の方に歩み寄って来ようとしたくらいだ。

 まあそれも奴に邪魔されてしまい、俺自身ナツに声をかけなかった負い目はあるのだが……

 もしかして俺は勘違いをしてるんじゃないのか?


 だとしたら奴はナツの都合も考えずに付き纏っていた事になる。

 そしてあまつさえこんなところにナツを追い込んでいる事を想像すると、俺は言いようのない怒りを覚えてしまう。

 その時、ズグン、と左眼が鈍く疼き、視界にブレが生じた。


「くそっ、こんな時に……っ!!」

「小兄?」


 いつもの、いや、それ以上の痛みが襲い掛かって来る。出来るだけ光に気取られまいとするが、痛みは激しさを増す一方で、世界に色が付いていく。赤く、赤く。

 俺は咄嗟に左手で目を覆うが、光の動体視力には敵わなかったらしい。光は俺の左目に視線を向け、苦虫を噛み潰したような表情をした。


「小兄……その眼」

「言うな光。今はそれどころじゃない」


 いつもの快活さを失い、ただ俺を心配そうに見つめる光。

 恐らく彼女は理解しているのだろう。何故この眼が赤く光るのか、その理由を。


「……なら後で。絶対話して貰うからね」

「あ…あ、それでいい。今はとにかくナツを……」


 痛みに耐えながらナツを探す。もはや左半分の視界は赤一色に染まっており、左側は光に任せるしかなかった。


 ――どこだ。ナツ、どこにいる。


 必死で周囲を見渡すが、注意力も散漫になっているためか、ナツを見つける事が出来ない。

 俺は焦燥に駆られ、徐々に冷静さを失っていく。


「――やっ!!」

「っ!!」


 今、僅かに人の声が聞こえた。若い女性の声だったように思える。

 きっとナツに違いないと、俺は半ば確信していた。


「光!! 聞こえたか!?」

「うん、あっ!! 小兄あそこ!!」


 光が指を差す方向に右目を向ける。

 まだはっきりとは見えなかったが、誰かが誰かを後ろから拘束している姿が見えた。

 そして拘束されている相手に向かって正面の人間が手を伸ばしていく。


 ――そう認識した頃には既に走り出していた。


「小兄!?」


 急に走り出した俺を見た光が声を上げる。すまない光。今は声を返す余裕がない。


「やめて!! しょうちゃん!! 助けて!!」


 今度ははっきりと聞こえた。

 ナツが俺に助けを求めている。だとしたらコイツらは――敵だ!!


「アァアアアア!!」


 左眼の痛みを振り払うかのように雄叫びを上げながらナツを拘束する男へと向かう。

 幸いにも瞬発力だけは重点的に鍛えられたおかげか、相手は俺に反応する暇もなく、俺の接近を許してしまう。


 俺はそのまま相手の顔を鷲掴みにし、地面へと押し倒した。

 何が起こったのか理解出来ないといった様子の男の表情が見えたが、俺はそれに構わず男の頭を少し引き寄せ、後頭部を地面へと叩きつけた。


 男が意識を失った手応えを感じた俺は、男から手を離し、ナツの正面に居た男へと向かっていく。

 男はそれに気付いたのか、両手を前に突き出して俺を止めようとする。

 が、ただ前に出された手など何の意味もない。俺はそのまま男の腕を振り払い、右手で相手の喉を掴んだ。

 未だ左眼の疼きは消える事無く、今にも叫び出したい程ではあったが、俺に喉を掴まれている相手の顔を見た瞬間、俺の感情は憤怒へと変わり、続いて脳を焼くような痛みが俺を襲った。


 何故なら俺の目の前に居た男こそが、あの天野だったのだから。

いつも感想や評価、ブクマなどの応援ありがとうございます。

最初気付いてなかったんですが、またジャンル別の日間ランキングに戻って来ることが出来たようです。

正直最初は事故のようなものかな、と思っていたのですが、戻って来れたという事はひとえに皆さんのご愛読あってのものだと思っています。


感想で拙い描写を指摘してくれる人や、誤字、脱字報告をくれる人達に応えられるような作品を一緒に作れればなぁと思いますので、今後ともよろしくお願いします。


PS:今週中に感想300件行きそうです。基本的に感想は削除しませんし、返信は出来る限り早く返すつもりなので、ネタバレ等はちょっと遠慮してほしいですが、気軽にどんどこ来てくださいね。


長文すまんね!!

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