地原家にて~午後の部①~
すいません連日遅くなってしまいました。
今回の話で少なからず賛否両論あるところがあるため、どうしようか悩んではいたのですが、結局最初に考えた通りの内容にしています。
「そういえばお兄ちゃん。夏希お姉ちゃんとはまだお話出来てないんだよね?」
「ん? あ、ああ。ちょっとタイミングを逃してしまったというか、話しかけ辛くてな……」
昼食を終えて一息ついていた時、いきなりヒナから痛いところを突かれてしまった。
「私に会いに来てくれなかったのもそうだけど、お兄ちゃん気にしすぎだよ。こっちは物凄く心配してたんだからね!!」
「いや……はい。仰る通りです……」
本来なら真っ先に顔を見せ、無事を報告すべきだったのは分かっていたのだが……
「ただほら、事情が事情だから会ったとしてなんて言えばいいか分からないんだよ」
例えば開口一番に「ただいま。異世界行ってました」なんて言われても馬鹿にしているのかと思われてしまうだろう。
とは言え、別の理由をでっち上げたとしてもどこかで矛盾が出てきそうだし、足の話もある。
「うーん……確かに私もまだ異世界だなんて言われても信じ切れないのは確かだけど……」
「だろ? 俺だってみんなに心配かけた事は分かってるし、ちゃんと話はしたいと思ってるよ」
とは言っても要母さんとヒナの二人には話せたのだから、後はナツに説明するだけではあるのだが。
「でも夏希お姉ちゃんと同じクラスなんでしょ? 話す機会なんていくらでもあったと思うんだけど……」
「ああ、それはだな……」
休み時間毎に光か亜咲が俺を訪ねて来る事や、天野の話を伝えると、ヒナの表情が曇っていくのが分かった。
「天野先輩かぁ……私あの先輩苦手なんだよね」
「俺も仲良く出来そうにはないな。でもナツと天野はその、付き合ってるんだろ?」
「えーと、んー……そういう事にはなってる、けど」
なんとも歯切れが悪い答えが返って来た。付き合ってるわけじゃないのか? だとしても昼休みに特定の女子を訪ねて来るのってそういう事なんじゃないんだろうか?
尤も、周りから見れば光や亜咲を侍らせている俺が言うのも説得力はないが。
「それこそちゃんと夏希お姉ちゃんと話して欲しいんだけどね」
「うっ、結局そうなるよな」
そうなのだ。結局ちゃんと話をしろという結論に至るのは当然である。
「ねえねえ小兄」
「ん? なんだ光」
俺達兄妹の会話を邪魔すまいとしていたのだろう。今まで口を閉ざしていた光が服の裾をクイクイと引っ張る。
「小兄ってそんなにヘタレだったっけ?」
「は?」
何を言うのかと思えば唐突なヘタレ呼ばわりである。なんだコイツ喧嘩売ってんのか?
「光さん。小兄様がヘタレなのは今に始まった事じゃないと思いますよ?」
「亜咲、お前もか」
よろしい。ならば戦争だ。
と言いたいところだが、自覚はある上に戦争となれば一方的に蹂躙される未来しか見えないので黙っておく。
大輝や要母さんがくつくつと笑っているのが見えた。いつか仕返ししてやりたいと思う。
「それにその、夏希お姉ちゃんの事もそうだけど、お兄ちゃん、光ちゃんと亜咲ちゃんとはどういう関係なの?」
「どういうって、さっき話した通り俺達四人は--」
「そうじゃなくて!! どっちかと付き合ってたりするの? それともまさか二人とも……?」
あ……そういう事ね。妹よ。まだ何も言ってないのに勝手に想像して引いてるのはお兄ちゃん的にちょっとダメージ高いぞ。
「ん? 別に小兄とは付き合ってないよ?」
「私も小兄様とは付き合ってるわけではないですね」
ヒナの懸念をよそに、あっけらかんと答える二人。うん、まあ付き合ってるかと言えば付き合ってはいない。
「えぇ……? でもほら、大輝先輩に対する態度とお兄ちゃんに対する態度が違うっていうか……」
「大兄の事は好きだよ? でも面白くないんだもん!!」
「大兄様の事は私も好ましく思ってはいます。色々と秀でてはいますし、ですがそれだけですからね」
「小吾、俺泣いていい?」
散々な評価をされた大輝から泣きが入る。
まあこの二人の言い分も理解出来ないではない。大輝はもはや超人と言っていいスペックではあるが、それは俺達平均族から見た印象だ。
スペックで対等である光からすれば特別な印象はないのだろう。
「まあ将来手元に抱えておきたい人材ではありますが」
亜咲に至ってはコレである。とは言え、それは大輝に対する評価であって、二人が俺の傍にいるのかという疑問の答えにはなっていない。
「でもクラスの男子から言い寄られても煩わしそうというか、あんまり相手にしてないよね?」
「だって鬱陶しいんだもん!!」
「見た目だけで言い寄って来られても迷惑なだけですね」
などとバッサリである。哀れ男子諸君。気持ちは分かるぞ。
何しろ光は性格も明るく、見た目も可愛いのは事実だ。平均よりもちょっと身長が低いのもポイントだろう。
対して亜咲は話した印象では冷たい人間だと思われがちだが、実際には優しい子だ。その上容姿にしてみても、これまた光とは逆の方向で男ウケするのは間違いない。
やや垂れ目気味の柔和な瞳にゆるふわ系? とでも言えばいいのだろうか。艶のある髪と楚々とした立ち振る舞いは、大半の人が上品なお嬢様と表現する事だろう。
そして何より目が行ってしまうのは当然その胸部だろう。女子の平均値などは分からないが、制服を押し上げて存在を主張するそれはもはや装甲、あるいは兵器と言っても過言ではないのかもしれない。
なのであまりくっつかれると困る。何がってその感触及び周囲の視線的な意味で。
「じゃあお兄ちゃんは?」
「小兄はねー、面白いし安心するから大好き!!」
「好きか嫌いかで言えば愛してますね」
「えぇ……どういう事なの……?」
そこまで好意を前面に出されると恥ずかしくなってしまうが、元々二人の好意については俺自身認識している。かといって別に付き合っているわけでもない。とくればヒナの混乱も理解出来なくはない。
「まあ、色々あったんだよ……」
「うぅ……いつの間にかお兄ちゃんがハーレムクソ野郎になっちゃった」
「ハーレムクソ野郎」
実の兄に向かって随分な言い草である。否定出来るかと言えば出来ないけど。
「だったら夏希お姉ちゃんの事はどうするの?」
「どうもこうも……とりあえず話をしてみない事には」
「私が言うのもなんだけど、絶対お姉ちゃんはお兄ちゃんと二人の関係の事気にしてると思うよ?」
「それはそうなんだろうが、お互い様というか……」
言い訳がましくなってしまうが、向こうが俺達の事を気にしているというのなら、俺も同様に彼女達の事を気にしている。
それでも向こうは何度か話しかけようとしてくれていたし、この場合俺の方が悪いのだろう。分かっちゃいるんだけど、な。
「それにもしお兄ちゃんとお姉ちゃんが元通りになったとして、光ちゃんと亜咲ちゃんはそれでいいの?」
「私達?」
「それで良いのか、とは?」
「だからお兄ちゃんに彼女が出来たとしたらそれでも良いのかって事!!」
元通りになる=ナツと恋人になるというのはいささか飛躍し過ぎな気もするが、妹の鬼気迫る態度に口出しを控えた。ヒナにとってはせっかく出来た友人だし、二人の事を心配しての事なんだろうが。
「え? 別に私は気にしないよ? それで小兄が変わっちゃうなら嫌だなぁとは思うけど」
「私もですね。今までと変わらず私の事も見てくれるのであればそれはそれで」
「想いが強すぎる!? お兄ちゃんはそれでいいの!?」
ヒナが混乱の極みに達した模様。心中お察しします。
「落ち着けヒナ。二人は俺の事を兄として慕ってくれてるんだ」
「え? あ、そういう……そうだよね、だったらまだ――」
「あ、でも小兄様との子供なら欲しいですよ?」
「こどっ!?」
亜咲ィ……お前狙いやがったな……?
「あ、私も!!」
加えて燃料が投下される。ヒナはと言えば顔を真っ赤にして口をパクパクとさせていた。
「光、亜咲。前から言ってるが俺は--」
「あくまで妹として見ている。でしょう? まあ私はそれでも十分ですしね」
とは言えここまで好意を示されて、ただ馴れ合う関係で良いのかと思う事もある。何度もきちんと折り合いをつけるべきだと考えた。
でもだからといってこの二人と疎遠になるような事もしたくはない。
だからヘタレと言われるんだろうが……
「えっと……私からかわれたのかな?」
「キリがないからそういう事にしとけ」
これが問題の先送りだと言われてしまえばそうなんだろう。けれど俺はこの関係を心地よいとすら思っており、自ら手放すには遅すぎたのだと自覚している。
「ところで小吾、何か相談があるって言ってなかったか?」
「ああ、とは言っても今の会話がほとんどそうだったんだが……」
改めて大輝にナツにどう切り出せば良いか相談したところ。
「とりあえず放課後にどっかで話す場を作れば良いんじゃないか?」
なんなら俺も同席するぞ、と言ってくれた。
いくらヘタレの俺でも流石に二人で話した方が良いだろうと思い、礼を言ってその申し出は断らせて貰った。
その後はヒナが今までどうしていたとか、俺達がどんな生活を送っていたとか、クラスではどうなのかとお互いの情報交換をしながら会話を楽しんだ。
多分批判等あるとは思うのですが、一点だけお願いがあります。
まだ全部読んでなくて感想欄に先に目を通す人もいると思うので、あまりネタバレに繋がりそうな内容は控えて貰えると嬉しいです。
こちらから感想を抑止するような事は言いたくないのですが、よろしくお願いします……




