地原家にて~午前の部~
すいません遅くなりました。
違うんです。夜勤明けで報告会があって家に着いたら14時過ぎてたんです。
そっから寝たら……ね?
すいませんでしたぁーーっ
「で、お前はなんで早速女の子を泣かせてるんだ?」
「言い方」
や、ヒナが泣いてるのは百パーセント俺のせいではあるが、人聞きの悪い言い方は止めて戴きたい。
「お兄ちゃん、この人は?」
「そういえばなし崩しで一緒に居たけどちゃんと紹介してなかったね。俺は天翔大輝、天翔でも大輝でも好きな方で呼んでくれていいよ」
「ええと、七海日向です」
「七海さんよろしく……ってあれ? うちのクラスにも七海っていなかったか?」
やっぱり気付くよね。それなりに珍しい苗字だし。
「そうなんですか?」
「大輝くんは小吾のお友達なのよね? だったら夏希の事じゃないかしら?」
「夏希お姉ちゃんと同じクラスなんですか?」
「お姉さんというと、七海さんの妹?」
「はい、七海夏希は私の姉です」
「さっき小吾の事をお兄ちゃんって呼んでた気がするんだが……」
「ヒナは俺の妹だぞ」
「ちょっと待て、よく分からなくなってきた」
こちらに右手を向け、左手でこめかみを押さえる大輝。まあこの説明じゃこうなってしまうのも無理はないだろう。
「私も小兄の妹だよ!!」
更に光が会話に混ざり、混乱に拍車をかける。
「ええと、つまり七海さんは……ややこしいな。日向さんって呼んでも大丈夫かな?」
「わ、私は別になんと呼んで貰っても……」
「じゃあ年下みたいだし、日向ちゃんって呼ばせてもらうよ……で、日向ちゃんは光や亜咲と同じで小吾の妹設定なのか?」
設定言うな。
「いえ、私はお兄ちゃんの実の妹です」
「そうだぞ。実の妹だぞ」
「審判、タイムを」
大輝が頭を抱えてしまった。ちょっとふざけ過ぎたか。
光は"設定"と呼ばれた事にご立腹なのか頬を膨らませているし、要母さんと亜咲はこっち見ながらニヤニヤしていた。そろそろ誰か収拾付けて欲しいんだが。
「小吾、お友達をいじめて面白がるのはその辺にしておきなさい」
「うん、この辺にしとこうと思ってた」
「ちなみにその、貴女は?」
「私? 私は七海要です。夏希と日向と、あとついでに小吾の母親よ。いつも小吾と仲良くしてくれてありがとう」
おお……その辺にしろと言ったクセに更に話をややこしくしてくれた。これ絶対わざとだよね?
「すまん小吾。よく分からなくなってきたから説明してくれ」
「はいよ。まあ簡単に話すとだな」
俺とヒナは紛れもなく実の兄妹であり、幼い頃に両親を失ってからは母同士親交の深かった七海家にお世話になっていた事。
元々はヒナも地原姓だったが、俺がいなくなってから七海家の養子となり、苗字が変わった事を伝えた。
「なるほど。って事はアレか。お前と七海さん……お姉さんの方だが。の二人は幼馴染だったって事か?」
「そういう事になるな。まあ今日お前を呼んだのはその辺りの相談もあったんだが……」
予想外の来客によって話がこんがらがってしまった。
もちろんヒナと再会出来た事はとても嬉しいし、良い意味で予想外だったと言っても良いかもしれない。
「光と亜咲は知ってたのか?」
「私は知らなかったよ? あ、でも確かに日向ちゃんと小兄はどこか似てるなーって思ってたけど!!」
「そういやそんな事言ってたな」
「なんでその時に教えてくれなかったの? 日向ちゃんの事だって分かってたんでしょ?」
「確信はなかったけどそうだろうな、とは思ってた。教えなかったのはアレだ。いったん俺の事は抜きにして仲良くなって欲しかったからだな」
「うーん、別に日向ちゃんが小兄の妹だからって私は気にしないけどなー」
「亜咲は知ってたのか?」
「もちろんです。小兄様の事で知らない事などありません」
「なるほど。ちなみに小吾の好きな色は?」
「濃紺色です」
え? なんでそんな事知ってるの? 流石に好きな色の話なんてしたことなかったよね?
「と、ところで!!」
ヒナが流れを切るように割って入って来た。何か少し焦っているようにも見えるがどうしたのだろうか。
「どうした? ヒナ」
「うん、あの、お兄ちゃんと天翔先輩がクラスメイトでお友達だって事は分かるんだけど……光ちゃんと亜咲ちゃんとはどういう関係なの?」
そうだった。ついいつものノリでやってしまったが、ヒナにはまだ何も話してなかったんだった。
「すまんヒナ。説明するのを忘れていたが、そこの二人は……」
「二人は……?」
ゴクリ、と喉を鳴らして俺に注目するヒナ。見てみれば光と亜咲まで俺が何を言うのだろうかと注視しているように見える。
「初対面です。はじめまして」
「……本当小兄って小兄だよね」
「分かってはいましたが……小兄様は小兄様だと言うことですね」
二人は半眼になりジトッとした目を俺に向ける。対してヒナはというと……
「お兄ちゃん?」
「ひぃっ!」
こちらに笑顔を向けていた。但しこめかみ辺りがヒクヒクと動いているが。
「……ごめんなさい。ちゃんと話します」
ふざけた事に謝罪し、俺はヒナにこれまでの事を話した。
あの日異世界に召喚された事。足が治った事、この世界に帰って来て亜咲のおかげで九条学園に通っている事。
足を治した具体的な方法や、魔神云々の話はあえて省いて話をした為か、説明は一時間もかからなかったと思う。
俺が話をする間、ヒナは驚いたり、悲しんだりと目まぐるしく表情を変化させていたが、最後にはホッとした表情で俺の顔を見ていた。
「流石にその、異世界とかってアニメの見過ぎじゃないかって思うけど……」
「まあ、正直信じろっていう方が無茶だとは思ってる」
要母さんのようにすんなりと受け入れてくれる方が稀だろう。普通だったら頭のおかしい奴扱いをされて終わりだ。
「でも足が治ったのは本当みたいだし、光ちゃんも亜咲ちゃんも、その……だ、大輝先輩も嘘を吐くとは思えないし……」
んん? 今なんか違和感を感じたんだが……
「そこまでして私を騙そうとする意味なんてないだろうし、私は信じるよ」
「そうか。ヒナ、ありがとうな」
まだ完全には信じられてはいないのかもしれないが、それでもヒナは信じると言ってくれた。なら今はそれで充分だろう。
「あっ!!」
「どうしたヒナ?」
「えっと、そういえば大輝先輩達って魔法使えたんですよね? 今でも使えるんですか?」
ヒナが目を輝かせながら大輝の方に向き直る。あれえ? なんかお兄ちゃん急に大輝の事が殴りたくなってきたぞう?
「あー……どうやらこっちに戻って来た時に使えなくなったみたいで、期待に添えなくてごめん」
光と亜咲にも目を向けるが、二人とも首を横に振った。
「そうなんですか……」
期待していたのか、少し残念そうにするヒナ。
「あ、でもでも!!」
そんなヒナを見かねてか、急に光が声を張り上げる。
「私達って大分鍛えられちゃったから、すっごい足とか速いよ!!」
「光さんと大兄様は元々では?」
うん、俺もそう思う。
「小兄だって私達とそんなに変わらないじゃん!!」
「お前らと一緒にすんな」
少なくとも光や大輝みたいに石を握り潰したり、二階くらいの高さまでジャンプしたりなんて出来ないし、そこまで人間を止めるつもりもない。
「そ、そんなに凄いんだ二人とも……」
半信半疑ながらも人間を止めている二人に引いている我が妹。大丈夫だ。それが普通の反応だから。
「みんな、そろそろお話はいったん中断して、お昼にしましょうか」
要母さんから声がかかった。
先ほどから話に入ってこないと思っていたら昼食を作ってくれていたらしい。
「言ってくれれば俺が準備したのに」
「良いのよ。こっちから押しかけて来たんだし、これくらい」
「俺達も良いんですか? その、せっかく家族が揃ったんですし……」
「もちろん、小吾がお世話になってるんだし気にしないで、ね?」
「わーい!! ごはんごはん!!」
光はもうちょっと大輝とか亜咲を見習ってほしい。
よく言えば天真爛漫だし、悪く言えば遠慮がない。好ましくはあるものの、無防備過ぎて時々心配になってしまう。
まあ仮に何かあったとしても、大体の事は物理的に解決出来るだろうから杞憂なのかもしれないが。
若干失礼な事を考えながら、食器を並べる手伝いくらいはしようと思い、俺はヒナを連れて台所へと向かった
次回は午後の部です。午前に避けられてた話題の諸々が出てきます。