恋人勝手にラブストーリー〜喫茶店
情けない女メメ
# 喫茶店
マスターは気が小さい男だった
もともと気がきくほうでなく、ウェートレスの仕事も初め
てだったメメは、一生懸命やろうとすればするほど空回り
で、マスターは、カンカン、メメは、すっかり弱ってしま
っていた
店は、ごく普通の喫茶店ではあったが、名の知れた常連客
がいたり、知ってる人は知ってるという、大きくもなけれ
ば小さくもない規模だった
4人のウェートレスと、3人の調理のアルバイトに、時折、
マスターが入った
# 店内
勤務して数日過ぎたが、メメは、全く要領を得ず、手も足
もすくんでいた
営業中の、案内板を貼る位置、コップの水の量、どれもこ
れもマスターの勘に触るのか、「田舎もんだなぁー」と大
きい声で言う
メメに、(お前は大した都会的だよな!)と心の中で言え
る程の図太さがあったら別だが、全てまともに受けてしま
って、もうどうにも身動きが取れない
店内で、そんな態度をとるマスターもマスターだが、赤い
顔をして、固まっているメメは、もはや、店内では邪魔物
でしかなかった
# 涙顔
「あーダメだダメだ! いいから、レジに入って!」
店の他の子は、薄笑いしたり、呆れたり、無関心だったり
している
レジに入ってからも、自分が情けなく、しっかりしようと
思っても、自然と涙が出てきて、そんな自分がまた情けな
く、涙顔で立っているしか無かった
「あーそんな顔でレジにいてどうすんだよ!
もういいから上がって!」
メメは休憩室に逃げていった
# 休憩室
休憩室でも、泣き続けていたが、さてこれからどうしたも
のか、早く泣き止んで店に戻ったほうがいいのか、それと
もこのまま仕事をやめて家へ帰った方がいいのか、それさ
えも判断がつかない子供のメメだった
学生の頃は、言われた事をきちんとこなしていればそれで
良かったが、社会に出たら、そうはいかない
メメは中々泣き止まない自分にも、呆れるやら、情けない
やらで、休憩室に座り込んでいた
# スィーツ
そこへ、中の仕事をするアルバイトの、大学生のトオル
が、ガサガサ言いながら入って来た
こっちを、見ないようにしているような、気にしないよう
にしているような、気遣っているようなそんな感じで、狭
い休憩室の少し離れた所に座っている
「すみません、休憩なんですね
ごめんなさい 私、自分でも泣き止もうと思っても中々、泣
き止めなくて、本当にすみません 休憩なのに……」としゃ
くりあげながらメメは言った
トオルは、なぜか喉が枯れていて、ガーガーと音を立てて
「あれでマスターもそんなに悪い人じゃないんだょね」と
言いながら、商品じゃないようなプリンを「はい」と言っ
て手渡してくれた
# 魔法
プリンを渡されて、メメは、ありがとうございますとお礼
を言って側に置いた
「あっ 食べて」とトオルは喉がガサガサなので思わず、い
つもより高音になってしまった声で言った
「エ…ゲ…エ…それ、僕らが作ったんだよね…」
メメは、言われるままに、素直にしゃくりあげながら、一
口、口に入れた
すると、なぜか、一口食べた途端に、ピタっと泣き止んで
しまったのだ
自分でも本当に、不思議な現象だった
嘘のように…
あ……
「ありがとうございます…」
メメは自分がまるで小さい子供と同じことに頭の中で呆れ
ながらも、一瞬で、いつもの自分に戻ったのだ
トオルは「良かった」と言って笑った
# 出会い
「本当にすみません せっかくの休憩時間なのに
それに私プリンで泣き止んで、自分でもよくわからない 、
恥ずかしいです」
と、心から謝った
トオルは、「いや…後から休憩に入る者の、役目だか
ら…」
と、よくわからない事を言った
相変わらず声は枯れてガサガサで、照れ屋で、無愛想ない
つものトオルに戻っていた
# なんか好き
まだまだぎこちないが、メメも仕事に少しづつ慣れてきた
注文を受けて、カウンターに通しに行くと、トオルが、ど
うした?!と言う風な心配そうな顔でこっちを見てくる
「アイスコーヒー1つお願いします」
「そうか…ハイよ!」と笑っている
同僚のアルバイトのすらりとしたマコト君が、「トオル、
〇〇ちゃんが好きなんだって!」と、人の少なくなった閉
店間際の店のカウンターの中から大きな声で言ってくる
トオルは、照れもせず、真っ直ぐこっちを見ながら、笑っ
ている
これからデートの約束かな