第1話『過去、そして再開』 part1
「千晶遅いよ! 20分も遅刻、何やってたの?」
「ごめん春菜、着替えに手間取っちゃってさ」
今日は高野春菜と遊園地。
春菜とは中学の時からの大親友。
背は高いし綺麗だしスポーツ万能だし、私が唯一勝てるのは学力くらい。
小走りで来たせいで、呼吸が荒い。
ずっと文化部だった私に体力などあるわけもなく、足がガクガクする。
「大げさだって、この距離で」
「春菜は中学も高校もバスケやってたから、そんなこと言えるんだよ」
私達は今年の春、見事同じ大学に進学した。
この遊園地に来るのは久しぶり。5年前に一度来ただけ。
「……もう5年になるんだよね? 瀬戸が引っ越して」
「うん、そだね。……もう5年も経つんだよね」
私は遊園地の改札口の横にあるひとつのベンチを見て呟いた。
今でもふとした時に思い出すよ、あの5年前の事が鮮明に。
―5年前―
中学2年のこと。
新しくできた遊園地に行くとこになった私と春菜は、いつもより大人っぽい服装をしていた。
春菜なんてブランドものばかり揃えて、とても中学生には見えない。
私は普段が地味だから、いつもより気合を入れたところで、やっぱり中学生だ。
ただひとつ自慢できるのはこのイヤリング。
中学校の入学祝に親からもらった宝石の付いた本物である。
「よっしゃー、今日は全部の乗り物制覇するよ、千晶!」
「うん、そんな感じで行こ!」
朝10時からスタートして、最後の観覧車を制覇したのは午後6時。
途中、一番人気のジェットコースターにハマってしまい、3回も乗ってしまった。
2人とも満足しまくりで改札口を出る。
「すっごい楽しかったよねー。また来ようよ」
「そだね、次はジェットコースター5回くらい乗っとく?」
冗談交じりな会話をしながら歩く帰り道。
ふと春菜が気づいた。
「あれ千晶、右耳のイヤリングどうしたの?」
「……え?」
右耳にイヤリングが付いてない。
まさかと思い3回ほど再確認してみたけど、やっぱりない。
私は急いで遊園地まで逆走する。
春菜が叫ぶ。
「私はここから遊園地まで探しながら行くから!」
「ありがと! お願いするよ!」
もし遊園地の中で落としたんなら、きっと見つからないだろうな。
そんなことを思いながら走ること10分、着いた。
こんなに走るのは体育の授業でもなかなかない。呼吸が乱れる。
どうしよ、見つかりっこないよ。
人の出入りは少なくなっていて、あの賑やかだった雰囲気が嘘のよう。
半分泣きかけな顔で遊園地に足を踏み入れようとしたその時。
「……もしかしてこのイヤリング、あんたの?」
改札口の横に寂しくあるベンチ、そこに私と同い年くらいの男子が一人座っていた。
彼の手のひらにあるイヤリングはまさしく私のだ。
「そうです! きっと……じゃなくて間違いないです!」
「そっか」
イヤリングを渡し終えると、彼は早々に立ち去ろうとした。
もちろん私は引き止める。まだ感謝の言葉ひとつも言ってない。
「ほんとにありがとうございました。 ……あの、どれくらい待っててくれてたんですか?」
「忘れた。けどそのせいで昼飯抜きになったよ」
ということは、12時前から約6時間もの間、ずっと座ってたの?
私の心は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんさない! ほんとにほんとにごめんなさい!」
「いいよ、別に。今日中に来てくれただけマシだよ。来なかったら野宿だったかもね、俺」
冗談っぽく微笑んだ。
さっきからずっとクールな表情だったから、少しホッとした。
怒ってるわけじゃなかったんだ?
「じゃあ今度お礼させてください! 私、松原中学校の吉田千晶っていいます」
「……」
彼は何も言わないまままた歩きだす。
もう会うこともないんだろうな。そんなことを考えていた。