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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

紫陽花シリーズ

銀糸に映るは紫陽花色 ステファン視点

作者: 立川梨里杏

銀糸に映るは紫陽花色をお読みになってないと分かりにくいかもしれません。

「ステフ!」

屈託無く笑って僕の愛称を呼ぶ君。

金色に輝く神に、紫の瞳。

君は僕の女神だった。


僕の婚約者、アマーリエの生家であるクラッツェ侯爵家が取り潰しにあったのはアマーリエが8歳の時だった。

何者かの陰謀によるもので、クラッツェ侯爵家は謀反の罪を着せられたのだ。

アマーリエの両親は殺され、アマーリエは娼館に売られたのだと父から聞かされた時は、怒りで目の前が真っ黒に染まった。

僕は父親に掴みかかってどうして助けなかったのかと叫んだ。

「俺だって……っ!

あいつらを助けてあげられたなら……っ!」

僕はその時始めて父の涙を見た。

父の隣では母も咽び泣いている。

僕はその時始めて世の中は不条理なものだと思い知った。


「アマーリエを取り戻すのは相当難しいだろう。それでも、お前が見つけ出したいのなら力をつけろ」

父から言われた言葉を胸に、僕は10歳で貴族が通う名門学園の騎士科に入ると同時に、騎士団に所属することになった。12,3歳での入学が普通な中、最年少で入学した上、騎士団にも所属することは異例なことだったらしい。周りからやっかまれたが、その度に正々堂々と叩き潰してやった。


「おい、お前、すげえ奴だな」

そう言って近づいてきたのはロイド・ウィーズリー。伯爵家の三男だ。

僕は面倒だったので目線だけやって無視をした。

「って、おい、無視かよ!?

感じ悪いやつだな!?」

その真っ直ぐな物言いはアマーリエを思い出して何だか好感が持てた。


14歳になると、ロイドから娼館へ行こうと誘われた。あいつのにやにやした顔は気に食わなかったが、アマーリエはどこかの娼館にいるはずなのでロイドについて行くことにした。

淫靡な香りが漂う中、女がしなだれかかってきた。鬱陶しくて少し乱暴に突き放す。

「おい、やめろ。

僕は聞きたい事があってここへ来ただけだ」

そう言うと、娼婦は目を潤ませ、甘えた声を出した。

「旦那様ァ。

ここに来てそのようなことを仰られては私

悲しくて泣いてしまいますわ」

甘い匂いが鼻をつき、吐き気がした。


アマーリエもこのように男の相手をするのだろうか。

俺の知らないところで知らない男と身体を重ねているのだろうか。

想像しただけでカッとなり、嫉妬の渦でこの身を焼き切ってしまいそうだった。

早く、早く彼女を助けださなければーー。


それから俺は16歳で正式に王国騎士団に入団することが決まった。王国騎士団は騎士団の精鋭部隊で、あらゆる権限が許されている。

アマーリエ探しに少しでも有利に立てるように使えるものは何でも使う。

何故かロイドも付いて来た。

「お前、

根はいい奴なのに素っ気ないからなぁ。

しょうがねえから俺がフォローしてやるよ」

ありがたく思え!と大声で笑う姿が鬱陶しかった。


ついに、アマーリエの家を嵌めた黒幕を突き止めた。

グラジオス侯爵。

人身売買や麻薬密売、他にも調べれば色々と余罪が出て来そうだ。

僕はその娘に接触した。

「ああ……っ!

ステファン様が私の目の前にいらっしゃるだなんて本当に夢のよう……」

うっとりとした目で見つめる姿には身の毛がよだつ。

自白剤を飲ませているから、何でもペラペラと姦しく喋る。

「私、あなたを一目見た時からお慕いしておりましたの。

それでも、あなたには婚約者がいらしたでしょう?

私、悲しくて悲しくて……。

お父様に相談致しましたの。

そしたら今日まさかこうやってお会いできるだなんて」

目の前が真っ赤に染まる。

こいつか。こいうのせいなのか。

「あの子、今頃どうしているんでしょうね」

そう言ってせせら笑うその瞳を今すぐ抉り取ってやりたい。

僕は衝動的にこの女の首を掴んでいた。

女が苦しそうに身をよじる。

殺してやる。ころしてやる。コロシテヤル。

「おいっ!ステファン落ち着け!

ここで殺したら今までの努力が全部水の泡だぞ!」

待機していたロイドが慌てて僕を止める。

「離せっ!

こいつがアマーリエを……っ!」

アマーリエ。僕の愛しいアマーリエ。

「ステフ……」

アマーリエの声が聞こえた気がして正気に戻る。

「……僕は帰って騎士団長に報告する」

ようやく……ようやくだ。

君を手に入れることができる。


訪れたのは国一番の娼館。

銀色の長い髪を垂らし低頭する娼婦。

顔を上げるよう促すと、紫と目があった。

息を呑む。

嗚呼、嗚呼。

やっとみつけた。

金色だった髪は心労からか銀色に変わっていたが、紫の瞳と相まって、まるで月の女神のようだった。

昔の面影を残しながらもアマーリエは想像以上に美しく成長していた。

「アマーリエ……」

僕が名を呼んだ途端、アマーリエは弾かれたようにシーツにくるまった。

その身体は小刻みに震えている。

「来ないで!!」

アマーリエは激しい声で拒絶する。

アマーリエから拒まれたことに深い絶望を感じ、目の前が真っ暗になる。

しかし、それはどうやら自分が以前の様な身分ではないことを気にしてのことのようだった。

「いや……私を見ないで。こんなに穢れてしまって惨めな私を貴方にだけは見て欲しくなかった……!」

そういって声を震わせるアマーリエはこの世の誰よりも美しかった。

愛しさが溢れてシーツごと君を抱きしめる。

やっと手に入ったんだ。

もう二度と離してはやれないよ、

アマーリエ。




「父上!母上から離れて下さい!

母上は僕のものです!」

そういって僕を威嚇するのは息子。

腹立たしいほどに僕によく似ている。

そして腹立たしいことに僕とアマーリエの時間を邪魔してくる。

「まあまあ、マリウス。

寂しかったの?可愛いわね」

アマーリエの胸に顔を埋めた後に、アマーリエには分からないように得意げに笑う息子。

このっ……!

「マリウス。お母様から離れなさい。

お母様はお父様のものだ!」

「まあまあ、ステフ。

ヤキモチかしら?」

おっとりと笑うアマーリエが愛しく、息子がいるのも構わず口づけを交わす。

「あーーーーーーーー!!

父上!!」

「うるさい。アマーリエに甘えるのは僕に一度でも勝ってからいいなさい」

ぎゃあぎゃあ喚く息子と、楽しそうにクスクスと笑う愛しい妻。

「次はアマーリエに似た女の子が欲しいな」

そう耳元で呟くと、君は顔を真っ赤にした。



紫陽花が庭いっぱいに咲き誇っていた。

読んでいただき、ありがとうございました!

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