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キャンプに焚き火は憑き物でしょう。

 キャンプ地に到着、エンジンを切る。

時間は5時を少し過ぎた所だ、対岸にある水汲み場で水筒に湧き水を汲んで、近くの売店の自販機でコーヒーを2本ほど買って来たので、予定時間を過ぎてしまった。


 よし、焚き火の準備をしよう。

タープの中から薪を取り出しウッドストーブに折り入れる。8分目まで溜まったらOKだ。


 次にウエストポーチから火口とファイヤースチールを取り出し、火口をストーブの中にバラして入れる。

この火口は乾燥したススキの穂とファットウッドと呼ばれる樹脂を多く含んだ松の木を削った物を、ティッシュペーパーで包み、その上から新聞紙、牛乳パックと順番に包んで、最後にガムテープで止めて作ってある。

こんな物を作る時間は、海が荒れる冬になればいくらでもあるのだ。

ただ、天候の良い日は漁に出るので、使う機会はほとんど無い。


 ファイヤースチールをこすり、マグネシウムの粉を火口にのせて、あとは火口に向けてバシュッと火花を当てると、着火出来るのである。


 火種に息を吹きかけて炎になったら、小さな枝をのせて少しずつ大きな炎にしていく。

鉛筆ほどの太さの枝に火が着いたら、後はしばらく放置して炎が安定するのを待つ。


 このウッドストーブは正式にはウッドガスストーブと呼ばれる物で、上から火を着けると、中の燃料から出た可燃性のガスに火がつき大きな炎になる。

燃料はストーブの中で、炭になり、灰になって受け皿に溜まる。 

完全燃焼するので煙もあまり出ないし、長時間焚き火をしても僅かな灰しか出ないのだ。

薪が湿っていた時用にガスストーブも持って来ているのだが、今回出番はなさそうだ。



 焚き火の前で吸うタバコは旨い。

俺が吸うタバコは10本入りの短い奴だ。

夜しか吸わないので2つ買うと1週間は持つ。

短いのでストーブから火をつける時は注意しないと火傷をする事がある。気を付けよう。


 薄暗くなってきたので、カップ麺を食べよう。

温泉に入って帰って来ただけだが、時間が経つと腹も減るのである。それに真っ暗になってから食事をするのは色々と危ない。


 水筒のキャンティーンカップに水を500cc位入れて、ストーブの上に置く。

この火力なら10分ほどで沸騰するだろう。


 


 ごちそうさま! ラーメンを食べ終わり、カップを潰してストーブの中へ。最近のカップは紙で出来ているので燃やせばゴミも減るのだ。


 辺りは真っ暗になったが、ストーブの炎で近くは明るい。

タープに潜り込みリュックからコーヒーとヘッドライトを取り出す。

ラーメンを作った残りのお湯の入ったキャンティーンカップの中に缶のまま入れて湯煎して暖める。

季節は秋、朝晩は冷えるのである。

ただドリップコーヒーを持って来なかったのは残念だった。


 明日はここを片付けて、S山を越えてH県まで南下しよう。

モンベ〇に行って買い物をしよう。

着替えもモン〇ルで買えば良い、大丈夫、お金は

いっぱい持ってきたのだ。

それに買い物をすれば気も晴れるだろう。


 コーヒーを飲み終え、本日2本目のタバコに火をつける。

焚き火の明かりに誘われたバッタを捕まえてみた。辺りを見回すと結構寄って来ている。

リュックからメスティンを取り出し次々バッタを捕獲していく。

明日の朝食だ。大きめのバッタを20匹ほど確保

した所で、先ほどのラーメンの割り箸を削って串を作り、一匹焼いて味見する。

うん、美味い。やはりバッタは美味いのだ。

小学生の頃、お正月のおせち料理の中に入っていたイナゴの佃煮を食べてから、虫を食べるのには抵抗が無くなった。母ちゃんはもう二度とあの店でおせちを買う事は無かったが、俺は1人でキャンプに行く度に食料の候補に入れている。

魚が釣れなければ他の物を食べれば良いのだ。




 ぼーっと焚き火を眺めていたら、仕事の事を考えてしまった。


 日が変わって出航の時間になったら、船長から電話があるだろう、しかし電源が入っていない。

となると、次は家を見に行く、張り紙を見る、船長怒る… 



 いかんいかん!

怖い事は考えてはいけない!

今日は楽しいキャンプなのです。

さっさと寝てしまおう。

そして明日は夜が明けたら県外に脱出しよう。



 焚き火に薪をくべるのを止めて、残り火で2本のコーヒーを暖める。

ついでにタバコも吸い納めだ。

火が残っている間に見える範囲の片付けをしておこう。


 火が消えるのを確認して、暖かくなったコーヒーを懐に入れてタープに入る。

ジャケットを脱いで寝袋に潜り込む。

さあ、寝よう。






 眠れない。

俺は遠足の前日にはテンション上がり過ぎて眠れない子だったのだが、今回はちょっと違う。


 

寝床の頭側の林の中が騒がしいのだ。

ガサガサと足音を立てて歩き回る奴がいる。

しかもこの感覚はアレだ、この世の者じゃ無い奴。

 俺は子供の頃から年に数回は見る人だ。

上半身だけでジョギングしている青い服や、電気の傘の上から俺を持ち上げようとする正体不明の存在。

最近ではアパートの部屋に以前住んでいたと思われるお婆さん。

俺の部屋には近くの神社で買ってきた結界が四隅に張ってあるもんだから、腕やら足やらグニョーって引き伸ばしながら必死にジリジリ入って来るのだ!

滅多な事では怒らない俺が何故だか頭にきて怒鳴りつけてしまった。

そしたら一瞬で引っ込んで元の姿に戻って消えてしまったよ。

 後から考えると8月の13日だった。

迎え盆だ。 お盆に帰ってきたら、知らない奴が寝てたんだろうな、どんな奴なのか見たかったんだろう。

悪い事をした。 

もう怒って無いから、今度は自分の家族の所に顔を出してやりなよ。



 1時間ほどたっても足音は止まない、こっちに気が付いているんだろう。

こういう時は自分から近寄ってはダメだ。

無視するのが最良なのだ。


 あれからしばらくして、足音は聞こえなくなった。

寝袋から出てジャケットを持って外に出る。

タバコを吸うべきだ。

こういう不思議な事があったらタバコを吸う事にしているのだ。

ファイヤースチールで火口に火を付けようとして固まった。

何かいる。




 それは人のようであり、人ではなかった。



 ボロボロのマントを頭から被り、猫の目でこちらを見ている。



 動けない俺をジッと見つめて、


 こちらに近寄って来る。 




 「お前、水を1杯くれないか?」


それが俺とコイツとのファーストコンタクトだった。



 








 

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