プロローグ
俺の名は丸山清盛、S県で漁師をやっている。
年は36歳、オジサンだ、同い年の嫁さんと子供が二人、
6歳の息子と、2歳になったばかりの娘の4人で暮らしている。
俺が今何をしているかと言うと、恩人に礼を言うために、S湖キャンプ場跡地に向かって車を走らせている所だ。
薄暗くなったキャンプ予定地に着くと、ヘッドライトを付け、車からリュックを出して背負う。
サイトまで歩き、薪を拾い集める。
適当な長さの棒も拾って来てタープを張る。
先週、売店のおばさん兼管理人のおばさんに「火の始末だけは気を付けるようにね。」と言われているので、厳重に周囲を囲った折りたたみ式ウッドストーブに薪を折り入れて、家から持参した火口にむけてファイヤースチールで火花を飛ばす。
「クソっ、なかなか火がつかん!」
俺はウエストポーチからライターとタバコを取り出して、タバコに火をつけて一服する。
何?、ライターで火をつけろとな?しかし今回の焚き火はコレで着火しなければならんのです。
時間ならまだある、ゆっくりやりましょう。
無事に火をつけ夕食のカップ麺を食べ、コーヒーも飲んだ。
嫁さんに電話をかけて子供たちにもおやすみの挨拶をする。
あと2時間ほどしたら彼がやって来るだろう。
トイレを済ませ、ステルスに張ったタープに入り、ジャケットを着たままシェラフに潜り込む。
今日はこのまま寝る訳にはいかない、いままで記憶と違った事はなかった。
もうすぐ始まるだろう。
頭元の林の中から足音が聞こえる、始まった!
正直に言うと怖くない訳じゃ無い、ただ、見えない物は手の出しようも無い、無視するだけだ。
いつもなら寝てしまえば問題ないのだが、今日は眠ってはいけない、なに、しばらくの我慢だ。
足音がピタリと止んだ。
彼が来る時間なのだ。
タープから出て林の方を見る、そこにはもう彼が立っていた。
ボロボロのマントを着た猫の妖怪、一言で言えばそうなるだろう。
俺が初めて会話した人外、そして恩人だ。
そっと近くまで行き、話かける。
「わたくし、以前貴方様にお世話になった者です。
貴方様には大変感謝しております、こちらは御礼の品です、どうぞお納め下さい。」
一気にそこまで言い切ると、あらかじめリュックから出しておいたサバの干物を取り出し、捧げ持つ。
「汝、迷いし者、我が技を持って今1度…」
「え!ちょっと待て!違う!」
「戻るが良い。」
「だから聞けっ…
俺が覚えているのはここまでだった。