第二章 夜、壮介のアパートにて
〈こんばんは、九時のニュースです。今日午後三時、○○県藤野川市の△△大学付属病院で起きた爆破事件について、警察の記者会見が先程行われました。警察では目撃者の証言などから、爆弾は病院の二階トイレ倉庫で何らかが爆発したものとみて、現場検証を行ない、爆弾の破片等の調査を行っています。また病院に設置されている防犯カメラの映像から、不審な人物がいないかどうか捜査をすすめる方針です。尚、今回の爆破事件により、八人の方が怪我を負い、うち一人の方は顔や腕に火傷を負い、全治一ヶ月の重症です。また今回の爆破事件に関し、現時点で犯行声明は届いていないとのことです。続きまして……〉
夜、俺はTV、今日病院で起きた一件を知ることができた。
あの時、俺は事件の当事者であるはずなのに、全く訳が判らなかった。とにかくこの場から離れなければと思い、腰の抜けてしまった瑞希と広田を、まさに「火事場のクソ力」で抱えて走った。二人を抱えて走った身体は、今頃になってあちこちズキズキと痛み始めていた。
今回の一件、概要を知ったのはニュースであった。第一報は「病院で何らかの爆発事故」であったが、数時間後、それは「病院で何らかが爆破」に変わった。
つまり誰かが病院で、何らかの爆発物を発破させたということなのである。
「先輩、お皿これでいいですか?」
「うん、ありがとう藍ちゃん」
警察の発表によると、爆発物は一つの可能性が高いらしい。一つの爆発で、あのゴツい病院の建物が揺れ、二階の窓ガラスが割れる程の衝撃。相当の火薬量だったに違いない。これだけの被害が出て、死者がゼロだったのは、まさに不幸中の幸いだ。
「先輩って料理上手なんですね。すごーい」
「そんなことないよ。でもトンカツは壮介君が好きだから、作る回数は多いかな」
「あ〜っ、ノロケ〜!」
しかし犯行声明が出ていないってのも気になるな。テロ組織が絡んでいるなら必ず犯行声明は出してくるはず。それが無いというなら、一体誰がどういう目的のために?
「壮介君って、一見何でも食べられそうな顔しているけど、結構好き嫌いが多いの。梅干でしょ、それからレバーに椎茸」
「プッ、何か小っちゃい子みたいですね」
「うん、意外と可愛いところあるでしょ?」
「あ〜、またノロケ〜」
…………
「あの、すみません」
俺は静かに挙手した。ちゃぶ台を挟んで、お皿に料理を盛り付けている瑞希と広田は、きょとんとした顔でこちらを見ていた。
ちゃぶ台には、いつの間にか三人分の食事の用意がされていた。
「何ですか? これ?」
「へ? トンカツですけれど」
うん、それはみたら判るよ、広田藍ちゃん。
「んなこと聞いてんじゃねーよ! ヤダ何この人、これをトンカツと知らないで今まで食べていたの? チョー可愛そ〜って目で見てんじゃねーよ!」
「せ、先輩、それは言いがかりですよ」
「そうだよ壮介君。藍ちゃん、チョーとか言わないし」
一人だけ突っ込みどころがズレている瑞希であった。
ちゃぶ台の上を見直すと、トンカツの他、ご飯と味噌汁、そして真ん中にはキャベツが山盛りになったボウルが置かれており、準備万端である。ていうか、こいつらいつの間に俺の部屋に上がりこんで、用意をしていたのだろうか?
「フフッ。これはね、私たちからのお礼よ」
先程ズレた突っ込みをしていた瑞希が、俺の横に座った。
そして両手を、俺の肩においた。
「壮介君、私たちのこと必死に担いで、病院から出してくれたよね。あの時、私たち腰が抜けちゃってて、全然動けなかったの。だから、壮介君が助けてくれてなかったら、私たちもしかしたら怪我してたかもしれない。ありがとう」
そう言って、瑞希は俺の肩を揉んでくれた。その手つきはとても優しく、どんなマッサージよりも癒されるような気がした。
「瑞希……」
俺は瑞希の手を握り、笑顔を作ってみせた。
……何だがいいカンジになってきた。
「ああ、私何だかお邪魔虫みたいです……」
しかし、広田は少し居辛そうな感じであった。
「ああ邪魔だ。お前はもう帰れ。これから大人の時間だ」
「……ええっ!」
勿論俺は冗談のつもりだが、広田は俺の言葉にマジで驚き、そして俺と瑞希をまじまじを見つめ、顔は耳まで赤くなった。
お前は「大人の時間」と聞いて、一体何を想像しているんだ?
瑞希たち手作りの夕食を食べ終えた後、広田と瑞希は俺のアパートを後にした。瑞希はもう少しいたそうだったし、俺もいてほしかったが、後で広田にどんな想像(というか妄想)をされるかわからなかったので、一緒に出ることとなった。瑞希も俺と同じく独り暮らしをしているので、自転車で自分のアパートへ帰っていった。広田は夜も遅いということで、駅まで送ってやった。
駅からの帰り道、今日病院で起こったことを思い出していた。
これは一体何なんだ?
無差別テロか、それとも「誰か」を狙ったものなのか。
現時点では情報が少なすぎる。明日の朝になれば、新聞やワイドショーが一斉に今回の事件を報じる。そうなれば真偽はともかく、様々な情報が出てくるだろう。それを見て色々考えてみよう。今回のことを。
…………
ああ、俺の中にいる、好奇心の虫が蠢きだしてきちゃったよ……。




