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エピソード1 第六話 「英雄ガーク対不届き者イラ」

「ここなら、とりあえずは落ち着けるか・・・」


やけに騒がしすぎる晩餐の間を抜け出し、ギルド本部のバルコニーに出ると落ち着いた

口調でそう言う。

ジジぃへの恨みもギルドに参加する羽目になったのもトーナメントに参加することになったのも

元はといえばあのガークっていうやつが悪いんだ。このやるせない怒りの矛先がついに自分に感謝していたガークに向いていたことに気づく


「流石に、それは人としてマズいか。にしても早く一人になるにはどうしたものか

女の子がやたらめったら俺のことを探してるみたいだから、直にここも騒がしくなるだろう」


街を明るく照らしつける満月を眺める。

トーナメント・・・ギルド内の強者が集う絶好の遊び場。戦うことにしかもう楽しみを感じない

イラはそのことを考えると、すこし体の中から込み上げてくるものがあった。


「ここにいたんだ」


「?」


突然の声に少し驚くと、声のした方向に顔を向ける、

声の主に興味をなくすとすぐバルコニーから下に広がる街の夜景に目を戻す。


「その反応ひどくない?この格好見て何か言うことないの?」


「何が?」


本当は気づいていた。青色の美しいドレスを身にまとい銀髪のきれいな髪を

頭の後ろで束ね、一国の王女と言っても信じられるくらいの美貌だった。それに相変わらず悪魔的なスタイルだ。昼間の冒険者の姿とはまた別の美しさを放っている。


「きれいなんじゃないか?」


いつも通り興味がなさそうに感想を述べる。

その変わらぬ姿勢に早歩きで近づきさらに近距離でイラの顔を見つめ

頬を膨らませている


「そんな他人行儀な感想じゃなくって・・・もっと・・・こう・・・

素直な感想を聞きたいのよ」


「?」


まだ理解できていないイラの表情を伺い、もうなんって言ったら良いかわからず

混乱するストレア。


「なるほど。そういうことか」


本当!?と言わんばかりに表情を浮かべ次の言葉を待つ。

なんて言ってくれるんだろう!とワクワクしているストレアに向けてゆっくりと

口を開き、そして。


「俺は帰る。今日は静かに眠りいたしな」


「え!?」


予想していたことが完全に外れ

突然の言葉に何を言われているのか全く理解ができない。


「明後日、闘技場で会おう!」


その声が聞こえたときにはすでに彼の姿はなく

その赤髪を風になびかせながら目下の街の住宅街に消えていった。


「こ、ここ、五十メートルはあるのよ?なんて恐ろしい人」


*******************************************************************************


――トーナメント当日


「結局、昨日も落ち着いて街の物見遊山もできなかったな」


過ぎた日のことを愚痴りながら、街の中心部に位置する巨大な闘技場

――コロッセオ――に向かってひたすら歩き続ける。

本来ならギルドメンバーは闘技場周辺の宿屋で宿泊できるのだが

一瞬で彼は悟った。ジジィの存在を。やつは必ず俺のもとに来る。

朝っぱらからあの腹立たしいやつを見るのは勘弁したい

そんな私怨を挟んだせいでこんな面倒なことになったのは事実だが。


「やっと到着か」


つぶやきコロッセオ内に足を踏み入れる


「おお!イラさん!よくぞお出でになられました」


自分の姿に気づいたガークが声をかけてくる。

お、おお。と気乗りしない返事を返し、そのまま今回のトーナメントについて尋ねる。

そこで聞いた話はだいたい予想できたことだった。


「つまりあのじ、、、ドワーフは俺をSSレート級の戦士と戦わせ

敗北させる。そして助けを懇願させ弱みを握るということか」


顎を指で擦りながらドワーフの真意を

再確認する。しかし一つ疑問があった。


「なぜそこまでして、ドワーフは俺を必要としているのだろうか理解できないんだ」


「それは単純に、強者をギルド内に引き込もうとしてるのかと、あなたという存在がこの先

ギルドの存在感を高めることになるので」


イラは顎を指で擦る仕草のまま、静かに視線をガークに向けその瞳を

紅色に光らせ「心眼」を発動する。

――理解。そして素直にガークに礼を言った。


「気にしないでください。それにあなたの戦闘能力を純粋に拝見したいので

これはその御礼です」


*******************************************************************************


トーナメントは本来ギルドメンバー同士で戦うことになっているのだが

イラは勝手にデモンストレーション用の道具とされているため、メンバーとは戦えない。

それどころかSSレート級の魔物と戦わされてしまう。

ただの人間ならそんな死んでくださいみたいな戦いには参加しないのだがイラは全く別だった。

むしろ失望を隠せない。


「たかがSSレート級の戦士で、助けを懇願ね・・・・」


退屈そうに待合室にて待機していると、闘技場の職員がやってくる

イラを確認すると近づいて声をかけてくる。


「イラ様。対戦相手の準備が整いましたので闘技場本館にお急ぎください」


その言葉を聞くと、椅子から立ち上がり待合室を後にする。 

――コツコツコツコツ

と乾いた足音が長い通路に響き渡り、少しずつ観客の声援が聞こえてくる。

強い光それとともに目前に広がる直径五十メートル以上にもなるステージ

それを円形に囲む形で観客席があり、まるで蛆虫のようにうごめいている。


「待ってたぜー!!」


「やっちまえー」


「まけんじゃねーぞ!」


どこからともなく聞こえる絶え間ない声援。


そして反対側、対戦相手がいるであろう入口の門が開き相手が姿をあらわす。

「獲物を横取りする、不届き者に鉄槌を!!」

「その不届き者の対戦相手はー!英雄ガーク!!」


*******************************************************************************


「ちょっとどういうこと!?なんでガークがイラと?」


ストレアが驚きを隠せない表情でドワーフに怒鳴りつける。


「これはあいつが言い始めたんじゃ。身の程をあのガキに教えてやると。

お前があのガキに好意を寄せているのはわかっている。ここで醜態を晒し

すぐお前の考えを根本から変えてやる。お前はガークと結ばれるべきなのじゃ。」


「父親でもないくせに!」


そんな怒りの怒号を無視し、当たり前のように吐き捨てたドワーフはニヤニヤしながらイラを

見つめていた。


*******************************************************************************


「驚かないんだな。もっと絶望に顔を歪めてほしかったんだが・・・」


イラの反応を見て、残念そうにそう言うとこれから起こることが楽しみで仕方がないという

表情で、イラを見つめる。


「お前が俺の邪魔をした償いだ。わざわざ野放しにしておいた赤獅子をお前が倒したせいだ。

本来あいつらは俺が名声を高めるための道具だったのに。お前がその役割を奪ったのだ。

謝罪しても許さぬ。マッパにしてお前の醜態を公にしてやる。ストレア様は俺のものだ」


剣先をイラに向け戦闘態勢を取る。


「下品なやつだ。そんなだから彼女はお前に振り向かないのではないか?まぁいい。

今更知っても手遅れだ」


「ほざけっ!!」


剣を後ろに回し、前かがみで間合いを詰めるべく駆けてくるガーク。

その姿は獰猛なミノタウロスの如く力強く、好きがない突進だった。

一瞬で間合いを詰め、後ろに回していた大剣を前方に突き出し串刺しにする

つもりだった。

確実に仕留められたはずだった。手応えがあったのに。何か違う。

剣先に視線を向けると青年が何食わぬ顔で立っていた。


「なっ!」


会場がざわめく。

そしてその理由がわかった。剣先が青年に届かぬ理由が。


ガークの持つ剣の間合いのわずか外に黒くうごめくものがあった。

まるで水面のようなそれはガークの大剣をしっかり受け止めている


「貴様!戦士ではないのか!なぜ魔法を使っているのだ!!それに俺のヘラクレスを受け止められる

魔法など聞いたことがない!」


「当然だ。この際だから良いことを教えてあげよう。かつて地上に君臨していた戦いの神「七神」のうち一人が扱っていた大神剣ヘラクレスには貫くことができない一つの属性が存在したんだ。」


「馬鹿な!ヘラクレスは全属性に特攻スキルを宿している!苦手属性など・・・」


「黙って聞け。この世界には光、風、水、火、雷この五属性の他にもう一つだけ属性がある。

七神はのうちの一人「憤怒」の二つ名を背負った神があまりにも強力すぎるその属性を消し去ったことで

存在した証拠すら消された力」


「そ、それは?」


思わず剣の柄に力が入る。


「神黒だ。この属性はあらゆる特攻耐性をもった武器や魔法の威力をかき消すことができるんだ。

故にこの魔法で防ぎきれないものなど存在しない。そしてもう一つ、欠点とも利点とも呼べる能力がある。それは使用者の制御の有無関係なくその力を相手に返してしまうんだ」


「!!」


瞬間ガークは押し続けていた、剣先の力を緩めた。緩めてしまった。

恐ろしいほどの衝撃、剣闘動物に無防備な状態から突進されたような威力だった。

吹っ飛ぶ、転がる、激突する。

闘技場の壁に激突しようやく止まり、吐血。


自分がこんな相手に血を流す。

プライドが大きく傷つく


「おのれぇー!!!俺が!この世界最強の英雄ガークがたかが18歳ののガキ相手に奮闘だと!?」


激昂するガークなど気にも留めず、ガークの揚げ足を取る。


「俺は18歳ではなく、19歳だ。お前が世界最強なら俺は何なんだろうな」


更に頭に血が上り、ただの魔物のように雄叫びを上げ大神剣ヘラクレスを木の枝のように

振り回すと声にならぬ声で突進してくる。


「死ねー!!!」


「君には失望した。英雄。そんな二つ名があるくらいだから絶対的な力を前に

打開策を練り、戦うことができると思っていたんだけど。その神剣は君には似合わないな」


そう告げると、静かに魔法の詠唱を始める。


「フォーアラードゥング/得物召喚」


そしてゆっくりと正面に浮かんだ小さな魔法陣から刀が出てくる。

刀の鞘を腰のベルトに装着し抜刀する。黒く輝き、光に反射した箇所が薄っすらと赤色に

輝くその刀を突進してくる男、ガークへと向ける。周囲に赤黒い稲妻が走った

瞬間、その人知を超えたスピードで真っ黒の残像を残し、一直線上にガークの横を

通り過ぎて止まる。


ガチャン


剣が腕ごと地面に落ちる。


「ぐああああああああ!!!!!」


必死に肘から先の断面を抑えるが、そこから漏れる血液が止まらない

そんなガークに手のひらを向け詠唱する。


「エウロン/回復」


止血するものの、ガークがショックで倒れ込む

不届き者イラと英雄ガークの戦闘。

そのあまりにも次元が違いすぎる戦いにあれだけ騒がしかった闘技場は

ほんの五分程度で静まり返る。


「困ったな・・・強くなりすぎてしまった」




戦闘シーンよりも人間関係のゴタゴタを書くのが難しい!

頑張ります!

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