エピソード1 第四話 「a adventurer named Death」
「ヘルトだと!?」
驚愕の色を隠せないナイルは思わず叫ぶ
他の男達も当然なにか重要なことを知ったかのように驚いている
「昔、おおよそ二年前にイルザ村近くにあるダンジョンをたった一人で攻略した男がいた。
端麗な顔立ち。赤髪で、真っ黒の装備を身に纏う冒険者・・・」
「でもそいつはアイラって名前だったんだろ!?そんなわけ、ねーだろ!」
現実逃避するかのように目の前が違う存在であることを証明しようとするデイブ
当然なのだ。
――アイラ・ヘルト。その戦闘能力は一国の軍隊三十万に匹敵し、
生まれながらにして一つしか持てぬ人の”固有スキル”それをいくつも所持し
剣士でありながら、魔法を扱える。かつての王国ライドにその名を轟かせた伝説の存在
そしてそんなやつに闘いを挑むのはあまりにも馬鹿な話だ
今この場にいるテナント・デイブ・ナイル・オルドが軍隊三十万に匹敵するわけがない
そんなやつがこんな辺境の都市にあるダンジョンにいるわけがない
そう”三人”も信じたかった
「どうして?だってあなたは戦わないって・・・」
どうして助けに来たのかわからないストレアは必死にイラに尋ねる
「俺が戦わないって言ったのは、命令されてってことだよ。この行動は誰に言われたわけでもない
己の意思だよ。」
ストレアにはその意味が理解でなかったが、助太刀に来たのだと理解できただけでも十分
「さっき吹っ飛んでいったやつ、即応反射っていうスキルを持ってる。正面からの攻撃だと絶対に防がれるからやるなら不意打ちで・・・」
「心配ない。もう死んでる」
何を言ってるのか理解ができなかった。当然だ
自分のあれだけの猛攻を手とはいえ無傷でさばいた相手が
こんな大したことない冒険者たった一人の一撃で死ぬなど
「おい、いつまで寝てんだテナント!あいつをぶっ殺すぞ!」
ナイルが叫ぶ。応答はない。
「おい!」
ナイルが蹴る。応答はない
「テメぇ、いい加減に・・・」
そこで気付いた
テナントの”頭の中”が外に漏れていた、そして頭も皮一枚で首とつながっている
「ひっ」
動物の鳴き声のような声でデイブがその光景に恐怖する
「何やってんだオルド!早く治癒しろ!」
蘇生を試みさせようと怒号を上げるが
「俺の治癒は死んだやつには効果ねーよ!!」
逆キレにも似た声で返事をし、蘇生を諦めた三人はすぐさま武器出し臨戦態勢を取る。
「君たちと戦う。そのためにわざわざこんなパーティーに入ったんだ・・・どうもこの都市じゃ
君たちがかなり手練のようだからね。逃がすつもりもないし、手加減するつもりもない。決死の覚悟で
来い」
そう言い放つとイラは両足を軽く開き、三人を睨めつける
その視線を受けたデイブが攻撃を躊躇う
「なんだおい!リーダーどうすんだ!」
「殺してやる!殺してやりたいが・・・」
「何だ?」
「スキル”見極めの目”使ったら、体全体であいつと戦うのを拒否すんだ!
広場にいたときはあの広場で最弱クラスだったのになんで」
「どうでもいい!やることは一つだ」
ナイルは全力で駆け、一気にその距離を詰める。
イラの首を切り飛ばす勢いで放たれた斬撃。普通なら胴体と首は別れている
普通なら
バキーン!
耳に障る甲高い音とともに刃が欠けた
しかもその欠けた刃の先にあるのは肘から立てられたイラの右腕
そうただの”右腕”だ
それがナイルの剣に打ち勝ったのだ
「はあ!?」
「すごい・・・」
ストレアも息を呑んだ。
強すぎると。
目の前の事実を飲み込みきれず、阿呆のような声を漏らし後ろに飛び退く
が、イラはそれを逃がさない。即座に畳み掛ける
飛び退いたナイルめがけて左腕から空気を切り裂き轟音とともパンチを繰り出す
即座に剣を盾にしたのは冒険者として実績を重ねたナイルの感だったのかもしれない。剣を犠牲に原型を保つことができた右手をだらんと垂らし、着地する。
「治癒してくれねーかな。腕が逝った」
「あ、ああ」
「やっぱ強すぎんだよ!あいつ逃げるしか・・・」
”見極めの目”を使ってから完全に逃げ腰になったデイブに続けて魔の手が掛かる。
「ボチュ」
何かを突き抜けた音とともにようやく気づいた。
目の前に男が立ち尽くし突きで腹に手を突っ込んでいる
「え・・・」
イラはその手を引き抜き、噴水のように吹き出る血を浴びないように
デイブに手をかざし、吹っ飛ばす。
「な!」
「リーダー!」
目の前の光景に怒りの色を隠せず、ナイルはテナントの骸にあった剣を拾い上げ
左首筋から右脇腹に向けて斬りかかる。が、剣先がイラを捉える寸前で
イラは回転するようにしゃがみ込むと、足を突き出し・・・・
ナイルの足首を”刈り取る”まるで死神の鎌のごとく
「ぐあぁ」
足元に水溜まりを作りながらナイルの身長が”縮む”
そのままイラの踵が頭上から降ってきて・・・・
「まっ・・・・」
ドチャ
一仕事終えるとイラは
ゆっくりとオルドの方に向き直り近づき始める
「待ってくれ!なんでもする!金なら払う!そうだ下僕に!
下僕になります!だ、だから命だけはぁ!」
立膝をし、懇願するオルドは泣いていた。チーム最強の男”ナイル”の呆気ない死。
それが引き金となり、恐怖の感情が爆発した。
「慈悲を乞うのか?」
「はい。助けてください!!」
「悪いな。慈悲心は捨ててきた。
それに言ったはずだ。決して逃さないと」
次の瞬間、裏ビンタ。悪いことをした子供にお仕置きをするかのように
放たれた裏ビンタ。普通子供に放たれた裏ビンタは子供の頭をふっ飛ばしたりはしないだろう。
だがオルドは子供ではない。
その頭が中を舞い部屋の隅に飛んでいった
大きく息をつくとイラはストレアに向き直り声をかける。
「怪我はないかい?」
圧倒的な強さ。圧倒的な能力で戦い続ける男
かつてこの男と共に戦ったことのある人間は皆こう言った
「あいつは本当に、本気を出しているのだろうか」と
戦闘シーンを書くのってこんなにおもしろいんですね!!