エピソード1 第三話 「イラ・ヘルト」
「母さん!!!」
寝ていた状態を起こし叫ぶ青年。着ていた寝間着とベッドのシーツは背の部分がびしょびしょだった
肩で大きく呼吸をしながら今見ていた光景が夢だとわかると、深呼吸をして呼吸を整える
ベッドから立ち上がると青年は窓の扉を開き外を眺め
「いい天気だな・・・」
窓を後にするとたたんでおいた真っ黒の服一式に着替える。そしてチェストプレートを装着し
ブーツを履き、襟がたった黒いコートに袖を通す
「今日のノルマはボブゴブリン三十体に、ゴアサイクロプスかな」
誰もいない部屋でひとりでにそう呟くと、アイアンソードが収納された鞘を腰のベルトに装着しコートの
丈を手で払い、靡かせながら部屋を出ていった
*******************************************************************************
「パーティーを組みませんか!」
「報酬は均等性ですよ」
ここ都市オブシディアの広場では毎日あちこちでダンジョンに潜るためのメンバー募集をしていた
すると体格の良い筋肉質の男が青年に声をかける
「よう、兄ちゃん。パーティー組まねーかい?」
端麗な顔立ちですらっと身長の高い赤く燃えるような髪色をした青年は男を一瞥すると、興味をなくしたように
「やめとくよ」
と吐き捨て、去ろうとする
「つめてーな、おい。話だけでも聞いてくれよ」
何を言われたか理解できずに立ち尽くし、青年が通り過ぎた後にようやく断られたことを理解し
逃すまいと男は青年に食って掛かり青年の行先に立ち、話を続けようとする
青年はため息をつき、顎を前に一瞬突き出し続けろと
合図をする。
「ダンジョンにはシークレットルームってのがあんだろ?そこの場所を突き止めたんで
早速その場所に行こうってんだ。そこで俺の仲間以外にもう一人手が必要なんだよ」
腕を組みながら男は青年にチラと視線を向けると、青年の表情を伺う
青年は男の目をまっすぐ見ると閉じていた口を開く
「そのシークレットルームはどうやって見つけた?」
その質問に男は眉間に僅かに皺を寄せると
「そりゃ秘密だな。まあ兄ちゃんがパーティーに入るんなら教えてやらんこともないけどな」
当たり前の返事だなと思い、青年はパーティーの参加するとそう
男に告げた
*******************************************************************************
「つー事で、パーティーに入ってくれた・・・
えっと名前は?」
青年を紹介しようとしてまだ名前を聞いていなかったことを思い出し、
青年に尋ねる
「イラだ。よろしく」
青年イラは興味がなさそうにそう言うとあんたの名は?と尋ねるように男の方を向く
「紹介が遅れたな、デイブっていうんだ。家名はねーよ
パーティー長だろうデイブは仲間に自己紹介するように言う
最初はアンダーシャツに革のベストを着用し、細い枝を加えた男が自分に向かって声をかけてきた
「俺はテナントだ。みじけー間だがなよろしく頼むぜ」
次は俺だなと言わんばかりに黒の長髪を雑に後ろで縛り、七分丈のズボンを履き
上半身には乱暴に包帯を巻きその上に上着を着ている男がイラに声をかける
「オルドだ。一応こんななりでもパーティーの中ではヒーラーだよろしくな」
口調からはパーティー内では一番人当たりがいいだろう
最後の一人白いチェストプレートを、、、いかにも騎士らしい豪華な装備を身にまとった茶髪の男が言った
「ナイル。てかこんないかにもカスそうなやつパーティーに誘うとか、リーダーの目は節穴かよ。
言っとくけどな真っ黒ボーイ。足引っぱたらブ・・・」
言いかけようとして慌てて、デイブが止めに入る
「これでもナイルはうちの主戦力なんだ。すまねーな。ったくこれからダンジョンに潜るんだし、口に気をつけてくれよ。ナイル。じゃよろしくな!」
デイブはイラに向き直ると申し訳無さそうな態度から、楽しそうな満面の笑みで
イラに謝る
「・・・・。ああ」
イラは静かに返事を返し、彼らとともにダンジョンに向かって歩き出した。
*******************************************************************************
「それにしても、糞みて~に弱い魔物ばっかだな。やっぱもっと手応えがほしいぜ」
不満そうにナイルは愚痴をこぼしながら、一行の先頭と歩き続ける
ため息をつきナイルにデイブは視線を向ける
何かを察したナイルは下品な笑みを浮かべていきなり上機嫌になり鼻歌交じりで歩き始める
「よし。目的地はこのすぐ先だ。イラはこの廊下をここで見張っててくれ。すぐに済む」
横にいるデイブはイラにそう言うとパーティーの一行とダンジョン第二階層内の長く松明でうっすらの明るい廊下の先に進んでいってしまった
一行が見えなくなるとイラは廊下の壁に背を持たれ腕を組みながらぼーっとし始める
冒険者になって四年。ずっと一人だけで戦っていた彼にもはや戦闘や魔物に対する恐怖はなく
ただただ強くたいという一心で戦い続けてきた。故にパーティーの存在も不必要であり
逆にメンバーを守りながら戦わなくてはならないため、むしろ邪魔だった
しかしなんでこのパーティーに参加したかは薄々分かってはいた
直後一行が進んでいた方向とは逆の廊下から一人の女性が走ってきた。
銀髪で年齢は十七から十八といったところだろうか
スタイルが良く属に言う美少女というやつだ
「あなた?なんでこんなところに・・・」
やけに息が荒く、どうもよほど全速力で走ってきたらしい
イラに向けてやけに敵対的な視線を送る少女は腰にかけている剣の柄に手を添えている
「パーティーのメンバーにここで見張れって言われたからここに立っているだけのただの冒険者だよ。
あの連中一体何のために俺をパーティーに誘ったのか理解に苦しむよ」
「パーティー?」
少女は怪訝そうに尋ねる
それに答えるように閉じていた目を開け、もたれていた壁から離れ少女を見る
その目は少し切れ長で、顔は整い、視線は心を見透かされているようだった
少女は少し頬を赤らめ、首を左右に振ると我に返り青年の返事
を待つ
「そう。乱暴に部外者を説明なしにパーテイーに引きずり込んで、人殺しの罪を擦り付けようとするパーティー」
その言葉を聞くと少女は恐怖を感じたように背筋を震えさせて、急いでこの先に行かねばと駆け出そうするが
青年のほうに顔を向け剣を抜こうとする
しかしあからさまな敵意を向けられても青年は抜刀することなく落ち着いた口調で
少女に話しかける
「心配しなくてもいいよ。俺が頼まれたのは見張ってろということ。冒険者を殺せとは言われてないし
殺すつもりもない。そもそも命令を受ける義理なんてない」
「なら一緒にきて、あいつらと戦ってよ。お礼なら・・・」
言いかけたところで声をかぶせる
「断る。少なくてもパーティーのメンバーだ。それに俺は傭兵じゃない。誰かに命令されて戦うのは
ごめんだ」
冷たく吐き捨てるように言うとそれきり興味をなくしたように少女から目を離す
交渉の余地なしと判断すると少女は残念そうな表情を浮かべ、一行の元へ走り去っていった
イラは後ろの・・・一行の進んだ道に目をやり一言呟いた
「あくまでも、誰かに命令されて戦うのはだけど・・・」
そう言うと後ろに向き直りゆっくりと歩き始めた
*******************************************************************************
「!!!」
絶句した。自分の大切な仲間が、戦友が、無残にも四人の男たちにによって四肢をもがれ
装備を剥がれ、弄ばれている
そのうちの一人、プレート装備を身にまとった茶髪の男が少女に気づく
「あれぇー?なんでここに冒険者がいんの?」
その周囲にいる男たちも呼応するように少女に視線を向けると言葉を発した
「あのガキ死んだんだろ」
「つかえねーの」
「この女の子俺がもらっていいかな?」
周りの男達が肩をすくめる。それの反応を見ると男は下品な笑みを浮かべて
少女に向き直り一歩、また一歩と歩を進めてくる。
「俺はテナントつんだ。楽しもーぜ」
少女はその言葉を理解し、後ろに飛び退き鞘から剣を抜き
臨戦態勢に入る
「戦友の敵!ここでストレア・ゲッティンが取る」
力強く宣戦布告する少女ストレアをあざ笑うようになおも蹂躙を続けるテナント
「くっ!」
顔をしかめ細長い独特の刀身を持った剣・・・レイピアの剣先をテナントに向け一気に間合いを詰め
一閃突きを決める。心臓を突き確実に死んだ
そう確信したストレアだったがすぐにその表情が凍りつく
剣先が胸に当たる寸前にテナントの手ががっちりとその刀身を掴んでいた
「なっ!」
「わりーな。俺には固有スキル”即応反射”てのがあるんでそんな見え見えの突きなんか効かねーんだよ」
ストレアは跳び、空中で遠心力をつけ後ろ蹴りをする
もちろん効かないのは分かっていたがとにかく攻撃の手を休めずに
蹴る。殴る。蹴る。殴る。猛攻。
しかし全て直前で猛烈な攻撃をテナントが片手で受け止める
ついには掴まれ、そのままストレアを鞭のようにしならせ地面に叩きつける。
「がはぁ」
声にならぬ声を漏らし苦痛のあまり、顔をを歪める
片手で受け止めていたレイピアを後ろにほうり投げてこの時を待っていたと言わんばかりに
近寄ってくるテナント
「やめろ!近寄るな!」
必死に拒絶するも男はストレアにまたがり上半身のベストを脱ぐ
「――――――――してやるよ」
これから起こることが恐ろしく、もはやテナントがなんと言ったのかすら聞こえず
ひたすら抵抗した。そして最後の力を振り絞り声を上げる
「助けて!!!」
「こんなとこに誰も来ねーよ。あのガキ、、、イラだってお前が殺し・・・」
刹那
「!?」
「な!」
「!」
他の三人も思わず声を漏らす
目の前にいたテナントが消えた。いや吹っ飛んだ。何かの衝撃を受け鈍い音を立てて
ストレアの足元、それよりももっと後ろに吹き飛び壁に激突した
何が起きたか理解できず、ストレアは体を起こし振り返る
黒ずくめの男が室内のはずなのになぜか来ているコートを靡かせながら立っていた
「あなたは・・・・」
もはや涙で霞んだ目を無理やりこすり、男を視認する
「イラ・ヘルトだ。以後お見知りおきを」
*******************************************************************************
次回、ついに己の信念に基づき
地上最強の男”イラ・ヘルト”が牙を剥く
厨二by・・・・