エピソード1 第二話 「幸せよさらば」
「!!!!」
まるで突然覚醒したかのように、目を見開き
ベッドから飛び上がる。そして起きたと思うと即座に洗面所に向かい、鼻歌交じりで歯を磨き始める。
「集合場所は村の広場だし、まだまだ時間あるんだよなー。」
そう呟き、洗面所をあとにする。
「アイラー!朝ごはん作ったけど・・・ってどうしたの?今日は早いじゃない」
アイラの母テレスがまるですごいものを見たように
驚くと、何か企んだようにニヤッと笑う
「な、なんだよ。朝ごはんはいいや。俺買い出しに行くついでになんか食べてくるよ」
「青春だねー」
テレスはそう言うと、ほんの少し悲しい表情を見せた
「父さん・・・いないと寂しい?」
まるでテレスの心境を察したように物静かな口調で
テレスに質問する
「最初はね。でも私にはアイラがいるし、アイラにもリアがいる。もう大丈夫よ」
「これから楽しみなことがあるのに、ごめんなさい。楽しんできなさいよ」
急にニコッと満面の笑みでそうアイラに告げる
「うん!行ってくるね」
その笑みに答えるかのようにニコッと笑い返し、そのまま家をあとにする。
母テレスは静かに、アイラの背中を見つめ
悲しげな表情に戻ると
「行ってらしゃい」
彼にも聞こえない声量で、そういったのだった。
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「ぬおおおおおおおおおお!!!」
外にいる無数のセミの鳴き声すらかき消すほど大声で叫びながら一目散に
村の広場に向かう
村は大した広さではないのだが、アイラの家は村の端にあるためアイラが全速力で走っても
広場までは4分ほどかかる
広場につくと血迷ったように左右前後を見渡す
「アイラ!」
少女の声が聞こえると、アイラは背筋をピシッと伸ばし声のする方向に向き直る
そこにはきれいな赤髪で、15歳とは思えぬスタイルの美少女が立っていた
「おはよう!リア」
アイラは大きな声で挨拶をする
緊張のあまり脇汗が出てきた
「うん。おはよう!」
そんな様子には触れずに女神にも似た笑顔でアイラに挨拶をし返すと、
じゃあ行こうかと言い二人で村からおおよそ10分程度離れた城壁都市
フォートサイト向かった
イルザ村とフォートサイトを含んだ半径5km以上に広がる野原は見晴らしがよく
街道はフォートサイトの冒険者や騎士が見回りに来ているため、魔物はおろか
盗賊すらいない
治安がいいため人通りも多くライド王国の中では王都デ・ナントに続く安全な地域でもある
「今日買わなくちゃいけないのは、木こり用の斧と羊皮紙とそれから・・・」
リアと並行し歩きながら、つぶやいていると
「あ、危ない」
リアがそう言った
「え?わっぷっ」
突然何かとぶつかり変な声を出してしまう
一瞬何が起こったかわからなかったがすぐ人とぶつかったのだと理解した
「あ、えと。すいません」
正面に立っている黒いローブを身にまとっている男に慌てるように謝罪した
男は手を上げて気にするなと示すと、そのまま村の方向に歩いていき次第に姿が
見えなくなっていく
「不思議な格好。でも騎士の格好じゃないね」
男の背を見送ったあとにリアが不思議そうに言う
「多分冒険者じゃないかな?向こうにはダンジョンもあるし、フォートサイトには冒険者のギルドが
いくつかあるしね」
ダンジョン・・・それは自分が生まれるよりもずっと昔から幾つか存在している建造物だ
一見ただの墳墓や宮殿に見えるが建物は第1から第7階層まである
階層を進むに連れて出現する魔物が強くなり、第3階層を超えると魔獣と呼ばれる
別格の強さを誇る魔物が出現するになる。だがその分敵が落とす素材や金が増えるため
冒険者は躍起になって狩りをしている
街道からアイラはリアと歩きながら話をしている間にあっという間にフォートサイトに着いた
買い物をするために街の最も繁盛している商店街に向かった
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「いやーほんと今日は楽しかった」
嬉しそうにアイラがリアにそう言い、リアも
「私も!あっという間だったね」
と、少し残念そうに返した
街の商店街で買い物をし、広場でご飯を食べ終えた二人はベンチに腰掛け何気なく話していた
「あーあ。こんな平和で幸せな日常が続いてくれればいいのにな」
「そうだね。こんな平和な毎日も悪くないね。リアと一緒なら・・・」
そしてそれに続けるように最後の言葉は本人にしか聞こえない小さな声で呟く
「ん?何か言った?」
リアがアイラに顔を向けそう聞き返すと、アイラは頬を赤らめ頭を左右に振り
何でもないと返す。
リアは怪訝そうな表情を浮かべ、正面に向き直り
「帰ろうか」
「そうだな。もう夕方だし」
街に到着したのは11時頃だったがすでに15時を過ぎていた
黄色に輝く太陽は今はオレンジ色に街をこの世界を照りつけていた。
突如耳触りなサイレンが街に響き渡る
「!!」
アイラはすぐさま街を走り回る冒険者を呼び止めては事情を説明してもらう
このサイレンには聞き覚えがあった。
「なにこれ。アイラ?」
何が起こったのか把握できていないリアの横でアイラは呟いた
「魔物が攻めてきたんだ」
まるで目の前に魔物がいるかのように緊張し、汗を流すアイラ
「でも、魔物ならこの街の冒険者たちでやっつけられるんじゃ・・・」
リアの言葉にかぶせるようにアイラが言う
「確かにそうだ。普通の魔物なら。今回のは訳が違う」
「?」
どうしてと表情に出してアイラに尋ねる
「レートSSの魔物。ボブゴブリンとサイクロプスが攻めてきてるんだ」
この世界では魔物と冒険者を含む戦闘員にはランクがつけられている。
EーDーCーBーAーSーSSーSSSとつけられ通常のゴブリンならDランクと大したものではないのだが
今回攻めてきたのはその亜種、ボブゴブリンだ
ボブゴブリンは体型こそ変わらないもの通常のゴブリンの数十倍も筋力が有り、その腕力は騎士が装着するアイアンプレートをも引き裂き、知能は仲間同士で会話し連携を取る。
叶わない相手には騙し討ちを仕掛け、複数のボブゴブリンでタコ殴りにするなど
極めて冷酷かつ厄介な魔物である。さらに一つ目の悪魔サイクロプスも複数一緒となると都市すら陥落しかねない
そしていまこの街にSSレート級の魔物に対抗できる冒険者はたまた騎士などいない。そもそもSSレート級の魔物などダンジョンにしか存在せず、そんな魔物がダンジョンから出て来るなど聞いたことがない
「もう前線に出た冒険者と騎士は壊滅。あわよくば街を放棄って・・・」
「そんなでも・・・まってその魔物たちはどこから」
「!!!!」
リアの言葉で何かに気くと一人で街の北側にある監視塔に向かった。
「アイラ!!」
アイラが一人で走っていく中そのあとを続き、リアもアイラを追う。
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広場を抜け、商店街を抜け、ひたすら街内を駆け、監視塔の階段を登り切ると外に飛び出す
「はぁはぁはぁはぁ」
息を荒げ、膝を手で持ち上半身を支える。疲れきった体起こし外を見る
絶句。絶望。恐怖。
アイラが最も恐れていた事態が起こる。魔物の軍勢――おおよそ千はいるであろう――街の北側、
村の奥のダンジョン方面からきていた。
ようやくリアが到着し同じく絶望する
「そ、そんな。村が」
恐怖に怯えるように震えている
ところどころ騎士たちが攻撃しているがすぐさま赤いものを撒き散らして消える
よくは見えないがそれが何を意味するのかぐらいは理解できていた
「母さん!」
ひたすら蹂躙を繰り返す魔物の軍勢の奥、イルザ村に向けて届かぬとわかっていても
叫びというよりも、悲鳴に似た声でアイラはその名前を。母の名を呼ぶのであった
この日全てが変わる。だがまだ世界の人々は知らない。この日、後に
歴代最強冒険者にして地上最強と呼ばれるこの世界における特異点の誕生を・・・・
ハッピーバースデイ地上最強の少年よ