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運がДの幻獣使い  作者: 電音
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第1話 転移した

 

 ―――そうだな。彼等がいいかもしれない。


 ―――うん、そうしよう。


 全てが白い世界に、その音は響いた。

 まるで、子供がサンタに願うものを決めるかのように。

 浅い思慮のもと、それでも強い意思を持って。







 気持ちのいい昼下がりだった。

 五月らしい春の陽気と穏やかな風、その上窓際の席。

 昼放課を過ごすことにおいては、完璧と言っていい状況だ。

 うざったく絡んでくる奴らが居る僕にとっては、そんな席に座っていても昼放課は、苦痛以外の何者でもないのだが。


「ねぇねぇ˹も˼何か飲むもの買ってきてよ」

 西条(さいじょう)が声をかけてくる。

 小悪党という表現が似合いそうな彼は、ニヤニヤしながらなおも続ける。

「ねぇ、聞いてる?˹も˼」


 勿論、彼は友好的にお金を出して頼んでいるわけでもなければ、僕が奢ろうと思う程仲がいいわけでもない。

 要するにイジメの一環パシリというやつだ。


 そろそろ無視出来なくなってきたので、いい加減僕も反応する。

 すると、西条の周りでニヤニヤしてた奴らが嬉々とした表情で飲みたいものを言い出す。

「˹も˼俺、コーラ」

「俺もコーラでいいや」

「俺は、最近でたサワーヨーグルトがいい。よろしく˹も˼」

 ・・・いや、誰も買ってくるだなんて言ってないんですが。

「サワーヨーグルト自販機にないんじゃね?まぁコンビニ行けばいいか。じゃあ、俺もそれで」

 西条がこちらを見ながら注文して、彼等は雑談に戻る。

 僕は、聞かれないようにため息をつきながら財布を手に席を立った。


 さっきから彼らが発する˹も˼というのは僕のあだ名ではない。

 なんと名字だ。

 漢字は˹牟˼となかなかにカッコいいが、読み方が読み方だ。

 何やら朝鮮系の苗字で、普通日本では˹む˼と読むらしい。

 ただ、朝鮮人が親戚にいるわけでもない僕にとってこの名字は藻を連想させるだけであり、嫌なことに変わりない。


 もはやからかわれても何も感じなくなった名字を想いながら僕は教室を出た。





 何故いじめられるようになったのか。

 そんなことを廊下を歩きながら考える。

 いや、確認すると言った方が近いかもしれない。

 僕を取り巻くこの環境は、高校生活3日目からなのだから。


 大体の人間関係は一日で決まる。

 入学式の後、クラスの中では大体のグループが出来上がっていて、リーダー格の奴がいるグループに入れた奴は一年安泰。そこまででなくとも、共通の趣味などを持つ奴らと固まることが出来れば充分だ。

 僕もゲームの話ができる奴等といた。

 ただ、西条のグループに目をつけられたのが運の尽きだった。

 西条達は、クラスの中心とまでは行かなくとも、誰かを標的とすることで上位を保っている感じの奴等だ。

 最初はこちらを見て笑ったり椅子を蹴ったりだったのが、すぐにエスカレートして完全に僕を自分達より下の存在とした。


 運動神経はいい方で顔も中の上くらいの僕は、中学まではいじめられる事など全くなかった。

 だから、いじめられ出した僕はすぐにメンタルをやられ喋らない根暗な人間になっていった。

 いじめられていて、趣味がゲームのくらい奴を庇う奴などいなく、3日目には、完全に孤立していた。





 やがて自販機の前に着く。

 不幸中の幸いと言うべきか、サワーヨーグルトは販売されていた。

 缶の落ちる重低音が、今の気持ちと似ているなんて馬鹿らしいことを考えながら取り出していたら、やけに爽やかな声が上から降ってくる。

 顔を上げるといかにもイケメンな男子がなにか話し掛けて来ていた。

「4本もってことは、西条達のか?あいつらパシリなんて、、、」

 天風(あまかぜ)なんていういかにもな名字のこいつは、同じクラスだからかすぐに西条の名前を出し、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 こいつは、所謂中心グループの中心って奴で例によっていい奴だ。

 それでも僕と普通に接する程度でイジメの改善とまではしない。

 流石にそこまですると自分の地位が危ういからなのか、実は改善しようとしているが僕が知らないだけなのかは分からないが。


 そんな彼の爽やかな声を適当に流して、僕は缶を抱え教室へと戻った。





 午後の授業が終わり、早々に帰宅しようとした僕をまた西条が呼び止めた時だった。

 教室が揺れた。地震のような揺れでなく、ガタッというまるで何かずれたかのような揺れだった。

 既に担任は出て行き生徒しか残っていない教室で、軽いパニックが起こる。

 その直後、教室が溶け僕達は白い光に包まれた。

 今度はものすごいパニックになる。何せ机や椅子、壁や天井まですべてが消え、真っ白な世界に放り出されたのだ。


 ゲームだけでなくアニメも好きだった僕は内心、夢見た異世界転移か?いや、夢か?などと、思っていた。直後唐突に声が響いた。


『 驚かせちゃってごめんね?僕は神様だよっ!』


 元気な少女のような声に、テンプレ過ぎだろと僕は内心ツッコミを入れてしまう。


『 信じてないね?じゃあ僕の力を見せてあげよう』


 そんな声とともに教室が一瞬で静かになる。いや、正しくは誰も声を発することが出来なくなる。


『 ふふっ♪ちょっと僕の許可なしに喋ったり動いたりできなくさせてもらったよ』


 彼女は、無邪気にとんでもないことを言う。

 恐らく彼女はやろうと思えば僕達をすぐに殺せるのだろう。

 そんなことに気づいて、僕は悪寒を覚える。


 そこからの彼女の説明は、分かりやすく、信じ難いものだった。

 何やら、別の世界で勇者が欲しい所があって、ここら辺から強く異世界に行きたいという思いが伝わってきたから転送するよ!みたいな事らしい。

 いじめにあってすぐの頃すべてが嫌になった僕は、明日起きたら異世界にいないかなぁなどと言う事を本気で思っていたから、内心嬉しい様なこの原因が自分である可能性が怖いような気分だった。


 ただそんな事を深く考える間もなく、天風が質問をし出す。

 完璧な彼のことだ。すぐ落ち着いて神様に発言を認められたのだろう。

「神様、僕達は、その世界で勇者として戦えるのですか?少なくとも僕達にそんな力があるとは思えません」


 神様だなんて照れるなぁと、自分から言っておいて恥じらいながら彼女は爆弾発言をした。


『 君たちはもう、バケモノの如き力を持ってるよ』


 いや、バケモノはないでしょと思いながら僕はジャンプしてみた。

 だが、特に変化はない。周りの奴等も特に変化はないようだ。


『 その力は、あっちの世界に行ってから昇華するんだ。今はまだ普通のままだよ』


 ぴょんぴょん跳んでる僕達を見てコロコロ笑いながら、彼女はいいものをあげようと言った。


 唐突に僕の前に紙のようなものが現れる。

 もうこれくらいでは、そう驚かないがこと紙に書いてあることを見てちょっとピックりした。


    () 仁也(じんや)


    生物を従えしもの


     体力 100

     筋力 100

     魔力 100

     運  Д


    スキル 半身契約

        魅了




 これはなんだと思う前に、周りの景色が一転する。

 そこは、見なれた日本とは、かけ離れた森の中だった。


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