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5話 学園の侵入者

今回はキリのいいところまで書いたので、今までの話より長めです。その分楽しんでいただけたらと思っています。

テトラを追って、急いで校舎を出た。


「女子寮に帰ってなければいいんだけど……」


既に退学を決めた俺が、誰かに親切にするメリットはほとんど無い。だが、最後に一度でいいから彼女としっかり会話をしてみたかった。


この薬瓶おとしものがそのきっかけを作ってくれるかもしれない――ちょっとワクワクしている。



校舎の前の大きな噴水には、結構な人だかりができていた。

大抵の生徒は友達と駄弁るためにここに集まっている。相も変わらず、俺には無縁の場所だ。


「ん……?」


ふと視界の隅で何かが動いた。その方向に首を回すと、誰かが校舎の影に入っていった。


顔までは見えなかったが、紅色の髪をなびかせている様子が一瞬目に映った。


テトラだ。間違いない。


「にしても何であんなところに……?」


疑問はあったが、とりあえず後を追って校舎の角から覗いてみる。


そこはすっかり日陰になっていて、夜のように暗かった。人が集まるような場所ではないのだが、草木はしっかり手入れされている。


彼女はしゃがみこんで、その茂みをかき分けていた。

表情は伺えなかったが、その動きからは焦りのようなものが伝わってくる。

どうやらこちらには気づいていないらしい。



(この薬瓶探してんだな……よし。)


深呼吸をして息を整えると、角から飛び出し彼女に話しかけた。


「あ、あのぉ、ヘクターさんっ!」


「!?」


凄まじい速さで彼女が振り返る。


イントネーションやら声の強弱やら色々ミスったがここまでは良いだろう……



……いや全然良くねぇ!


思い出せ、さっきこの少女にドン引きされてんだぞ。

何で何もなかったかのように話しかけんだ!?



「………」


「………」


沈黙が流れた。

何故だろう、10分くらい前にもこんな状況に陥ったような気がする。デジャヴュとか言うやつか。


ああ、臆病者がでしゃばるとただのバカになるんだなぁ……


自分を呪った。だが俺は退学を目前にし、もう失うものは何もない状況である。思いきって自分からこの沈黙を破ってみることにした。


「あのさ……これ」


俺が薬瓶を取り出そうとしたその刹那、少女は俺の横を通り抜け、風のように走っていった。


「え!?ちょっ、おい待ってくれテトラ!」


彼女を呼び捨てにするのは心の中だけと決めていたが、焦りと驚きのあまり声に出して彼女を呼び捨てにしてしまった。


だが今そんなことはどうでもいい。

俺は走って彼女を追った。




学園内はざわついていた。

無理もない。都市伝説にもなりそうな奇妙な事件がリアルタイムで発生しているのだから。


「ねぇ、これどういう状況?」

「どういうって……『振り逃げ王子』が理事長の娘を追っている……かな?」

「百歩譲って追いかけっこはともかく……普通逆じゃね?」

「とうとう発狂したか?」

「それ以外考えられないっしょ。」

「にしてもテトラさん、あいつ吹っ飛ばしちゃえばいいのに。」



俺に対する罵倒が聞こえた気がする。

しかし必死で彼女を追う俺に、群衆に状況を説明する暇は無い。


右へ左へと建物の影に入り込み、俺を撒こうとしている。彼女との距離は一向に縮まる様子はない。


「くそっ…」


「なんでっ…」


「そんなに逃げるんだっ!?」


冷静に考えたら、彼女の行動は当然である。走り出したら突然追いかけられるのだから。


ハタから見たら完全にストーカーだが、今の俺は「落とし物を届ける」という使命感に燃えていた。




数分後――


どれだけ走ったか分からないが、とうとう彼女を追い込んだ。


壁際に追い詰められた彼女は、表情に憤怒を滲ませながら言った。


「ハァッ、ハァッ……あんた何のつもり!?何が望み!?」


膝に手をつきながら、息を切らしながら、俺も必死に答えた。


「いやっ、そのっ、別に悪意があって追いかけた訳じゃないって!俺はただ………っ!?」


何か光るものが俺に向けられた。それは、彼女の剣だった。

怒りで紅潮する彼女の顔には、殺意も垣間見える。


気迫に負け、尻もちをついて倒れてしまった。


「正直に答えなさい……。安心して、返答次第じゃ三枚におろすけど殺しはしないわ。」


「三枚におろして生還した人っていんの!?」


「早く答えなさい!」


「はいいいぃっ!」


受け答えできるものの、完全に腰が抜けてしまっていた。全力で逃げたいが逃げられない。




「ッ!!」

突然彼女が目をカッと見開いた。剣にほのおが灯る。


まずい、炙り肉の刺身にされる。


「ちょっまだ答えてな」

「はぁぁぁぁッ!!」


彼女の凛々しい掛け声と同時に剣が振りかざされ、爆炎が俺に迫る。


俺はほぼ半泣きだった。


「あああああぁ〜!」


終わった、ホントに終わった、学校やめる前に人生終わるのか。


本能も理性も死を悟った。



しかし――焔は俺を迂回するような軌跡を描いた。

「へ………?」


すると目の前の煙の中からテトラの声が聞こえた。


「……何故こんな所に……『レムレース』がいるの!?」



驚愕する彼女の視線の先を振り返る。


するとそこには、俺の身の丈を遥かに超える怪物がいた。

次回もよろしくお願いします

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