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58話 後半戦

液晶の上で、青い四人の戦士たちが一際輝いて見えた。


前半に試合を外から観ていなかった俺でさえ分かるほど、後半の水星学園は変わっていた。


一つの"チーム"になっていたのだ。


前半戦は作戦――俺の『振り逃げ』で点を稼ぐ――の性質上、比較的全員が自由に動いていたが……三人が交代した水星学園はまるで別のチームだ。



『再び勢いにのってきました水星学園!おおっと、真宮選手を四人の選手が囲いこみました!』


『いやー、なんか「水星学園vs四校」って感じになってますねえ。やはり台座ベースを攻撃されると点がマイナスされるルールがあるので、勢いのあるチームは何が何でも止めなければならない、って心理が働くんでしょうな〜。』


『なるほど!……しかし新競技ということもあるので、視聴者の方には申し訳ありませんが、我々も推測による解説しかできませんね〜。』


『まあここは、選手も我々もトライ&エラーを繰り返すのみでしょう!』


実況の言う通り、波に乗る水星学園は、全チームから目をつけられていた。そしてマコモは四人の選手にぐるりと四方を囲まれている。

彼女の能力は1対1ならば限りなく無敵だが、対多数となるとその分時間あたりの消耗が大きくなり、すぐに動けなくなってしまう。


しかし俺の中に、焦りなどといった感情はなかった。


瞬間、画面から飛び出さんばかりの勢いで真っ黒な火柱が立った。囲んでいた選手たちが一斉にその場から飛び退く。


(登場のタイミングといい流石だぜ……ジン。)


その黒炎の跡から、案の定彼は姿を現した。


カメラが切り替わり、ジンを大きく映し出した。ジンはゆっくりと顔を上げ、長い前髪の間から切れ長な瞳を覗かせた。彼の素性を知らない他校の女子生徒が、黄色い歓声をあげている。(個人的な意見を言わせてもらうと、ジンの内面を好きになる女子がいない水星学園は異常だと思う)


俺たちの見ている映像が見えているのではないか、と疑ってしまう程、彼の映り方は完璧だった。中二病も究めれば神通力をなすのか。


ジンとマコモはすぐに、背中を合わせて立った。そして寸分違わぬ、全く同じタイミングで剣を構える。お互いに「頼むぞ相棒」とでも言っているようだった。


先に動き出したのはマコモだった。彼女は数歩で正面の選手の間合いに入ると、身の丈ほどもある大剣で斬りかかった。

しかし相手も学校の代表になるほどの強者。一撃を受け止め、素早く体を反すと下段蹴りを繰り出す。


マコモも負けてはいない。その蹴りを右足で押さえると、くるりと一回転し再び袈裟懸けに剣を振りおろす。


相手が後ろにステップを踏むその瞬間、


「"地這獄炎グランド・ヘルブレイズ"ッ!!」


ジンの掛け声が聞こえたかと思うと、漆黒の炎が地面を走ってマコモの背後に迫っているところだった。

しかしマコモは振り向きもせず――まるで最初からそれが来ると分かっていたかのようにジャンプして、それを回避した。


マコモの影から迫っていた攻撃に気づかず、相手選手がもろに炎をくらって吹き飛んだ。


「すげえ……」


「まるでテレパシーで通じ合っているかのようですね……」


映像越しながら、俺と生徒会長も感嘆せずにはいられなかった。


「お二人が幼馴染みだということは聞きましたが、ここまで息を合わせられるなんて信じられません。」


生徒会長に全く同感だった。集団スポーツのように、声を掛けながらでも連携をとるのは凄いことのはずなのに……


マコモはジンが仕掛けるタイミングを分かっていた。


ジンはマコモが避けてくれると分かっていた。


お互いに言葉も交わさずに相手のやりたいことが分かるなんて、もはや家族の域だ。

きっと、幼馴染みどうしとして、家族のように長年過ごしてきたのだろう。

俺は二人がこうなるまでの過程を知りたくも思った。しかし何となく、二人の間にある独特な空間が聖域のようなものに思え、実際に入り込むのはちょっと躊躇われる。



「マコモ、ジン!」


歓声に消されないほどの強い声に、俺ははっとして画面を見直す。

映ってこそいないが、間違いなくテトラの声だ。


「白の台座ベースの守備が空いてる!二人で向かって!チャンはもう少し台座ベースの左寄りに位置ポジション修正っ!」


ああ、これだ。と俺は思った。


テトラ自身も数人からマークを受けている。

しかし、敵を薙ぎ倒し台座ベースを狙う最中にも、彼女はこの舞台の「すべて」が見えている。


だから、周囲の人間さえも自分の体の一部のように自在に動かすことができる。

一癖も二癖もある水星学園メンバーが、こうして一つの形になれているのは、間違いなく彼女のお陰だった。


『"ペンタグラムのやられ役"の異名を誇った水星学園が、更に二位以下と点差をつけております!』


"ペンタグラムのやられ役"というワードに、ベッドの端に肘をついて観ていた生徒会長が何か言いたげな表情で口を尖らせる。


『最も近くで追いかける皇陽高校は、いまいち歯車が噛み合っていないような印象を受けますが……解説の古田さんはこれをどう見ますか?』


『個人の能力や判断レベルは、今年も皇陽が圧倒的なはずなのですがねぇ……いや、これは皇陽の不調ではありませんね。水星学園が凄すぎるんですよ!こんな言い方をするのはあんまり良くないんですけど、それ以外に説明が付きません!』



やられ役をものの数ヶ月で建て直した天才テトラと、振り逃げ王子の俺。



……俺たちはどうして出会ったんだろう?



ありがとうございました!お知らせになりますが、61話あたりから改行一文字空けが施されております。

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