20話 『ペンタグラム』
今回はテトラの『ペンタグラム』の説明を中心に見ていただけたらと思います。
クラス交流戦が終わった翌日………
『剣士養成五学校対抗戦』メンバー発表を3日後に控え、水星学園内は異様な熱を帯びていた。
昼休みの食堂でも、『ペンタグラム』のメンバー予想やら出場有力生徒による意気込みの語り合いが熱く交わされている。
「………『ペンタグラム』って何。」
「ぶふっ!……ぐっ…げほっげほっ。」
テーブル向かいに座っている場違いなマコモの一言に、思わず飲んでいた水が気管に入りかけた。
「あなたどういう理由でこの学園来たのよ……」
マコモの隣にかけていたテトラも箸を止めて、信じられないといった顔でマコモを見る。
「………ジンの監視。正直『剣士』を目指しているのかと聞かれたら、微妙。」
何の迷いもないいつもの表情でマコモは答えた。
凄まじい入学動機だが、それ以上にあの能力を持ってして『剣士』を目指していないという事実が驚きである。
「『剣士養成五学校対抗戦』通称ペンタグラム。名前の通り、この地域にある五つの剣士養成に特化した各学校の代表選手が、色々な競技で競い合う。街中から人が集まるし、大会主催側が録画して編集したダイジェストを放送するから、それなりに大規模な大会よ。」
仕方ない、と言った顔でテトラが詳しく説明を始めた。
ちょっと前のテトラだったら「自分で調べなさい」などと冷たい言葉を返していただろう。毎日見ていて初めて気づける成長があるのだなあ〜と少し感動した。
何気なく俺もテトラに聞いてみる。
「そういえば去年の優勝校どこだっけ?」
「自分で調べなさい。」
「ごめんなさい。」
……テトラはやっぱり、テトラであった。
黙らせた俺には目もくれず彼女は説明を続ける。
「1年から3年の部があって、各学年補欠含めて10人ずつが選出されるわ。」
「………ほうほう、学年140人中の10人。ヘクター、自信はいかほどに。」
「まあ……ほぼ100%選ばれる自信はあるわ。」
「………わあびっくり。」
二人の会話が弾んできたように見えたので、俺は再び話に入ろうと試みた。
「なあマコモ、そう言えばジンは…」
「まだ説明中。」
「……ごめんなさい。」
テトラが俺の言葉を遮るが、視線すら合わせてくれない。何故ここまで機嫌が悪いのか、まったく心当たりが…………あった。
昨日のクラス交流戦最終日、俺はディミトリに勝ったときの技で挑もうとしたのだが、あまり大振りせず小技を組み立ててくる相手には全く通用しなかったのだ。
勝ち負けはともかく、そのまま戦いきれば良かったのだが……
あろうことか、『振り逃げ』を使ってしまった。しかも、テトラが観客席で見守る中で。
その後の特訓で俺がどうなったかは言うまでもない。いや、むしろ凄惨過ぎて語る気にもならない。
だが、まさか今日まで怒りが続くとは………。
「……で、ここ5年の『ペンタグラム』では水星学園の3学年すべてが最下位、なんてことが3回あって、昨年も「水星には生徒会長位しかまともに戦える奴がいない」とか散々な評価で……」
「………ほうほう。」
テトラはまだマコモに説明を続けている。無関係な人物に八つ当たりしないあたりは、彼女の優しさなのだろう。
そんなこんなで昼休みはあっという間に終わり、俺たちは教室に向かっていた。テトラは相変わらず俺と視線を合わせない。
「なあテトラ……昨日は本当に悪かった。」
「怒ってないわよ。」
テトラはそう言い放つが、眉間に皺が寄っている。
逆に面と向かって怒られないのも怖いので、わざとしつこく謝ってみた。
「本当ごめん。『振り逃げ』絶対コントロールできるようにするからよ……」
「ああっ!いつ気づくのよあんた!」
「ひっ、ええ!?」
威嚇する猫のように瞳孔を開き、髪を逆立てんばかりの勢いでテトラが激昂した。
そして、俺の股間のあたりを指差した。
「言おうか言わまいかずっと迷ってたけど………」
「え………。」
俺はゆっくりと彼女の人差し指の先を目で辿ってみる。
そのたどり着いた場所を見た瞬間、俺の全てが凍りついた。
「………わお、ヒーローの社会の窓、オープン。」
マコモが表情一つ変えず、状況を簡単にまとめた。
なるほどな、「全開」の男なんてまともに直視できないよな。
しかも本人が全く気づかずに絡んでくるんだからそりゃイライラするわ。
俺は無言でチャックを上げた。見えないはずの心の壁が、より一層分厚くなったのを感じた。
ありがとうございました。