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1話 俺の能力

気がつくと俺は、廊下のような場所に立ち尽くしていた。とりあえず目に映った教室の番号を確認してみる。

『1-B』。どうやら自分の教室前の廊下らしい。


「また……やってしまった。抜刀しちまった……。」


後悔の念がが自分の心を満たしていく。後悔が廊下に溢れてしまわないようにするのが精一杯だった。


すると、廊下の先から誰かが歩いてきた。黒いスーツを着こなし、頭頂部に強い光をたたえているその人物は、俺に気づくなり話しかけてきた。


「おや?君、1-Bの生徒ですよね?」


「……教頭先生。」


「おかしいですねぇ、1-Bは確か剣術実習の授業で教室にはいないはずですが……。」


そう言って教頭はまじまじと俺の顔を見つめる。

(何がとは言わないが)反射した光が眩しいので、正直さっさと立ち去って欲しい。


「あの、僕は別にエスケープとかした訳じゃないわけでありまして…」

「ん?…ああ、武藤君ですか。剣術担当の先生から事情は聞いていますよ……大変ですね、君も。」


教頭は一息おくと、憐れむような目でこちらを見て淡々と続けた。


「ただ、意図的なエスケープではないにしろ校則は校則ですからね。放課後、理事長室まで来て下さい。では。」


去っていく教頭と入れ替わるようにして、同じクラスの生徒が戻ってきた。立ち尽くす俺を見てクスクス笑いながら、あるいは俺と目を合わせないように顔を伏せながら、次々と教室の中へ入っていく。


「おいおい、またかよアイツ」

「もし俺が武藤と同じ立場ならとっくに自主退学してるぜ」

「やめてあげてよ、可哀想よ」


何故なんだ、何故俺だけこんな目に遭うんだ。

込み上げてくる何かを必死に抑えている俺の肩にふと大きなものがポンと置かれた。


それは、ディミトリの手だった。


「よお『振り逃げ王子』エイユウくん…おいおいそんな顔すんなよ。」


「………。」


感情が溢れ出さないように、俺は黙って耐えた。

面白くないと判断したのか、奴は天井に頭が当たりそうな程の巨体を屈めて教室に入っていった。そして呟くように、奴は言った。


「……いい加減諦めたらどうだ。お前は『剣士』になれねえよ。」


……なんつーストレートな悪口だ。

しかし俺は何も言い返さなかった。いや、


言い返すことができなかった―――


ここ水星学園には、学を中心とした「普通科」と、『剣士』の養成に特化した「剣術特進科」が存在する。


『剣士』――それは、この世界に突如として現れた怪物『レムレース』に対抗するため生まれた職業である。

ぶっちぎり人気の花形職業だが、もちろん誰でもなれるという訳ではない。

『剣士』になれるのは、ある特殊な金属を使用した剣を持つことで、何か特別な能力を発動できる人間のみである。


ざっくり言えば、「剣を持つと凄い人」が『剣士』になれる。


その『剣士』の卵を育てるのが、ここ「水星学園 剣術特進科」だ。


幸運なことに、俺には能力があることが入学前の検査で分かり、剣術特進科に編入された。

その時の喜びといったら、全身で表現しきれる程のものではなかった。

そこまでは良かった。

「そこまでは」良かったのだ。


剣には「その所持者の本質を、能力として所持者に発動させる」という性質がある。

例えばディミトリの場合、尊大な性格と大艦巨砲主義な考え方が「剣を巨大化させる」という能力として現れている。


俺は入学前の検査では「瞬間移動」が能力だと判断された。

どちらかと言えばボーッとした性格の自分だったので、当時は「俺って実は機転のきく性格だったり?」と調子に乗ったりしたものだ。


しかし実習訓練を重ねるうちに俺は……いや、クラスの全員が気づいてしまった。


高速で「移動」しているんじゃない。

高速で………「逃げて」いる。


そしてその気付きは、2つの事実を俺の胸に突き刺した。


一つは、自分はとんでもない臆病者だという事実。

そして、俺の発動できる能力は「剣を振った瞬間逃げる」ことだという事実――



俺だけ先に教室に戻れた……正確に言うと「逃げることができた」のは、この能力のおかげである。



『振り逃げ王子』こと俺は、剣を振って逃げた先でもあるこの廊下に未だ立ち尽くしている。教室では既に、クラスメイトが次の授業の準備を始めていた。


「お前は『剣士』になれねえよ。」


怒りを通り越して萎えてしまいそうな程、この言葉は俺の耳の奥で鳴り響いていた。















説明多めですが次回からはテンポを上げていく予定です。

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